映画「ブラック・ショーマン」を初日に見てきました。予想通りと言うか、演劇とマジックの組み合わせはやはり難しいと思えるものでした。
ガリレオ・シリーズのようにトリックに重点が置かれ、主人公が痛快に謎を解いていくものと、新参者シリーズのように、その事件が何故起きたのかと言う、動機や人間ドラマをメインに描いたものに分けると、前者はコメディ要素が比較的強く、後者はシリアスな展開が基本です。本作は謎解きメインではないので後者になるのですが、マジック・シーンが入ることでストーリーが軽くなってしまい、「新参者」劇場版2作に見られるような感動的なシーンは弱くなったと思います。
マジック・シーンは沢山出てきますが、マジックをする人から見て、面白い使い方と思えるところは、冒頭のショーのシーンくらいでしょうか(Lance Burtonのパクリ?)。因みに、この手の現象で驚いたのは、FISM’97で見たアルゼンチンのCarlos Barraganの演技です。イリュージョン部門で1位でした。
マジックが事件解決に役立っているところは少なく、別に主人公はマジシャンでなくとも、例えば、スリでもいいと思えました。破った紙を復活させるところも、別に復活させなくてもストーリーとしては成り立ちます(復活する前からいかにも復活しそうに見えます)。例えば、今回紹介する「刑事コロンボ」では、証拠となる手紙を犯人がフラッシュ・ペーパーのように燃やしてしまいますが、同じものをコロンボたちは次々と、パッと取り出します。つまり、行動とマジックが合っているのです。「ブラック...」では復活させる必要はなく、復活することでそれを書いた人の思いを表現できればいいのですが、全体にシリアスさは弱いので、そうは感じられませんでした。犯人を見つけるところでの変装や、教室の大がかりな幕のセットがやりすぎで、現実味が無くなってしまったのでしょう。マジックを入れるのであれば、コメディにおもいきり振ったドラマ「Trick」のようなものの方が、成功するでしょう。因みに、「Trick」は、「マジックがうまくストーリーに取り入れられているけど、どうやっているのか?」とマジック指導者に聞いたことがありますが、色々なマジックを提示し、脚本家が上手く話の中に組み込んでくれたそうです。
主人公がセコいというのは原作にもあった設定ですが、その理由が説明されていないので、単に周りの人たちとトラブルを起こすためにキャラクター設定したようにしか思えないです(リアリティが無い)。2作目以降で明かされているのでしょうか?
監督は、マジックはCGなどを使わずに本当にやっていると試写会挨拶で言っていましたが、冒頭のマジック・シーンは編集で繋いでいました。空撮や移動撮影が多く、目が疲れます。興行収入は15億円は行かないでしょう。もし到達したら、福山ファンのおかげですかね。原作者や役者のファンでなければ、無理に見なくてもいいというのが、私の意見です。
私が翻訳したJoshua Jayの「マジックアトラス」日本語版は、原書と比べても装丁は劣らず、原書よりもトリック数が多く、それなのに原書よりも安いです。おかげさまでかなりはけました(再版はしません)。気がついた人も少なくなさそうですが、今回のものには仕掛けをしてあります。よ~く読んでみると、あれ、おかしい?と思うところが出てきます。暇な方は、探してみて下さい。
では本題に。オープニング・テーマからどうぞ。
原題:Colombo (Now You see him)
監督:Harvey Hart
出演:Peter Falk(Colombo) , Jack Cassidy (The Great Santini)
放送:NBC
時間:88分
日本放送:1977年12月31日
製作国:アメリカ
「刑事コロンボ」の第36話「魔術師の幻想」の犯人はジャック・キャシディ演じるマジシャンですので、手品シーンが盛り沢山です。
魔術師サンティーニは、ナチ親衛隊員だった過去をクラブのオーナーに知られ、金を支払わなければ証拠の手紙を移民局に送ると強請られます。サンティーニは鍵をかけて水槽の中に沈められた箱から脱出するというマジックの最中に抜け出してオーナーを殺害し、箱が開けられるところでステージへ戻ります(犯罪者が手品師のドラマだと、この種のトリックが出てきます)。開始10分、サンティーニはキャバレー・ショーでテーブルを回りながら前座のマジックを行います。シルク・ハットを取って助手に渡すと、中から火が昇ります。客のテーブルにあったナプキンを取り、中から沢山のコインを出します。ここはナプキンを一旦、テーブルに置くところと、コインを出すところでカメラが切り替わっています。客の椅子の後ろからシルクを出し、それでテーブルを覆うと花瓶が出ます。ここはワンショットですが、おそらく、テーブルの下に隠れている人がシルクの後ろから花瓶をテーブルに置いたのでしょう。実際には囲まれているので、後ろから見ている客には種が見えているはずです。ステージに上がって、箱から兎を出します。自分がトランクに入り、トランクを水槽に入れさせます。トランクの底から抜け、ウェイターの服に着替え、殺人を犯しに行きます。
その間、ステージでは女性の助手がのべシルクから鳩を出す、2枚のトレーに置かれた風船が鳩になるなど、繋ぎのマジックを行います。サンティーニは楽屋へブランデーを持ってきた給仕にドア越しで予言のトリックを行うことでアリバイを作ります(実際にはサンティーニはそこにおらず、別のところからマイクで話し、そこにいるかのように見せかけます)。これは相手に1~4の中から数字を言わせ、言われた数字に合わせて、用意しておいた予言を示すというもので、「ドミノの予言」と言えばお分かりいただけるでしょう(劇中ではドクロの裏側に「4を選ぶ」と書かれています)。水槽から箱を出して開けてみると、中からは女性の助手が出てきて、脇に立っていた覆面を被っている助手がサンティーニです。34分、サンティーニがステージでファン・プロダクションの練習をしています。ここは手のアップなので、スタンドインでしょう。テーブルにシルクを掛けて、シルクを持ち上げるとカード・キャッスルが出現します。
そこへ来たコロンボを相手にコイン・バニッシュを見せます。43分、再びショーのシーン。シルク・ハットからシルクを取り出し、そのシルクをぐるぐる回しているとケーンになります。鳩のベア出し、コロンボの座っていた椅子の後ろからシルクを取り出し、そこから火炎皿を出します。ステージに上がり、マントの後ろから女性の助手を出します。シンブルの手から手への飛行の後、両手に4本ずつ現れます。フローティング・ボール。コロンボを舞台に上げて、懐などから3枚のAを取り出し、最後にはジャンボ・カードのファンを取り出します。コロンボからの挑戦で手錠抜けをし、客席に戻るコロンボにスリ取ったバッジを返します。
水槽脱出では前の時と同様、助手がのべシルクから鳩を出すなどで場を繋ぎます。楽屋でコロンボの胸ポケットからのべシルクを取り出します。61分、マジック・ショップに行ったコロンボは腕をギロチンにかけられます。
73分、コロンボは同僚にマジック・ショップで仕入れた4択の予言を披露し、種を明かします。85分、コロンボに追い詰められたサンティーニは証拠の手紙をフラッシュ・ペーパーのように燃やします。
ラストには映画「シャレード」の曲が流れますが、音楽はヘンリー・マンシーニなので一応納得。久々に見直しましたが、話の展開が細かく、トリックが凝っていて脚本がよく書けていると思います。お勧めの1本です。ディアゴスティーニで売り出されたので、中古のDVDなら千円程度で手に入るでしょう。
YouTubeの「米粒写経 談話室 2020.06.23 ~奉納コロンボと古書探訪~」の43分のところで、居島一平がぶち切れるコロンボの物真似をしています。
次回は、「刑事コロンボ 第46話 汚れた超能力」です。超能力ってクリーンなイメージは無いから、この題名は疑問ですが...?
文献紹介
1) 栗田研:「刑事コロンボ」『Four of a Kind Vol.9 No.3』(チェシャ猫商会, 2005) p.294
9月4日 23時50分~ 「漢字ふむふむ」 NHK Eテレ
9月6日 11時~ 「チャンハウス」 フジ
9月10日 0時15分~ 「映画「ブラック・ショーマン」公開記念SP」 フジ
9月12日 0時15分~ 「映画「ブラック・ショーマン」公開記念SP」 フジ
9月12日 21時~ 「タビフクヤマ」 フジ
9月14日 12時55分~ 「新婚さんいらっしゃい!」 テレビ朝日