コラム | マジック用品グッズショップ（手品ショップ）フレンチドロップ

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第97回　Ｘファイルシーズン７エピソード８偉大なるマリーニ(2025.6/12 up)

コラムの閲覧数が上がらないと掲載を打ち切られてしまうので、今回は石田隆信氏ばりのマニアックな話を。手品とは観客を驚かせることが目的ですが、たまに自分が驚かされることがあります。カップ＆ボールを練習した後で道具をそのままにしていて、暫くたってから片付けようと思ってカップを持ち上げたら芽の出たジャガイモが出てきてビックリしたことがあります。こんな話もあります。40年ぐらい前に、トリックスの商品で100円玉用のボストン･ボックスがありました。５枚の100円玉が入ったボックスを手の甲に置き、コインが手を貫通するなど、３手順(「貫通するコイン」「手の中を通り抜けるコイン」「ジャンピング･コイン」)が解説されています。練習し、そのトリックを暫く人に見せていたのですが、ある時、八重洲のトリックスに行った際に、赤沼敏夫社長とその商品の話をして教えてくれたことには、ボックスには10円玉のスタックが隠されているとのことでした。その話を聞いて、家へ帰って直ぐに調べてみたら、確かに、眠っていたスタックが出てきました。永い間、知らずに使っており、驚かされたというわけです。写真は１枚目が通常の状態、次がひっくり返した状態で、ボストンとして使うためには100円玉を乗せます。１枚目の写真で存在が見受けられますが、３枚目は発掘されたスタック(10円玉を乗せています)です。最後は10円玉を乗せた状態で元に戻したものですが、これだと浮いてしまい、実際には使えません。では何故、こんな役に立たない機能を付けて売ったのでしょうか？

正解は、次週！因みに、設計ミスで使えない部分になってしまったという回答は間違いではないかもしれませんが、社長に聞いたところによると、別の意図があったのです。

では、昔の予告編から。

『Ｘファイルシーズン７エピソード８偉大なるマリーニ』

題：The X-Files
監督：Thomas J.Wright
製作：Chris Carter
出演：David William Duchovny(Fox Mulder), Gillian Anderson(Dana Scully), Ricky Jay(Malini), Jonathan Levit(Billy LaBonge)
シーズン数：11
話数：218
製作：フォックス放送
放送：2000年
時間：45分
製作国：アメリカ

1990年代に大ヒットしたアメリカのテレビ･ドラマで、劇場版も作られました。不気味なテーマ曲は、心霊現象や宇宙人を検証する番組で必ずと言っていいほど使われているので、誰しも聞いたことがあるでしょう。X-ファイルとは説明不可能な事件ファイルのことで、FBIの捜査官、モルダーとスカリーが協力して、X-ファイルの事件を調査するというのが基本的なストーリーで、冒頭に「この作品は事実をもとに製作されています」と表示されます(日本のドラマで未解決事件を取り扱うということで言えば中谷美紀主演の「ケイゾク」に近いです)。超常現象や怪奇現象だけを扱うのではなく、ちゃんと犯人のいることもあります。因みに、毎回最後に少し謎を残した終わり方をすることが多いです。

サンタモニカの遊園地に出演している売れないマジシャン、マリーニ。マリーニを演じるのは、「プレステージ」「007トモロー･ネバー･ダイ」にも出演したリッキー･ジェイで、今回は台詞もあり、重要な役です。冒頭、３カップ＆ボールを演じます。マジックの歴史についてしゃべりながらダイ･バーノンの手順の第１段を行い、その後、最後の段階で、２個のボールをポケットにしまい、３個目を消し、カップの下からオレンジやライムを出します。客から茶々を入れられ、それに言い返し、一世一代の大マジックを見せると宣言。何と、自分の首を360度グルリと回して見せます(CGです)。お陰でステージは大盛況になり、ショーの後で大喜びしたスタッフがギャラを持ってきますが、マリーニの首が目の前でポロリと落ちてしまいます(落ちた首は良くできており、リッキー･ジェイにそっくりです)。モルダーとスカリーは早速、調査に乗り出します。マジック･ショーを撮影していた人がおり、映像から、ヤジを飛ばしていた男の身元を調べたところ、スリで投獄された前科のあるマジシャンのビリー･ラバンジと分かります(演じるはマジシャンでもあるジョナサン･レビットで、マジック･キャッスルにも出演しており、「Ahead of the Game」という２枚組のレクチャーDVDを出しています)。

ラバンジはノース･ハリウッドのバーに出演しており、２人が会いに行くと店は開店前で、トライアンフを練習しています。ザロー･シャッフルで裏表を混ぜ、ダローのディスプレイをします(上記のDVDで自身のトライアンフを解説していますが、ドラマの中では部分的なので残念。でもフル手順じゃないなら、無理にそこでザロー･シャッフルをする必要は無いですよね)。その後、コイン･ロールをします。ヤジを飛ばしたのは、マックス･マリーニの名を汚す奴だからだと言い、首を回すくらいなら自分にもできると床に手を置き、シンコー渚のツイスティング･アーム･イリュージョンをやります。「マリーニが特別劣っているとは思わないが．．．、」とモルダーが問いかけると、「モーツァルトもサリエリも素人には同じに聞こえる」と答えます。そして１枚のコインを消し、「見みずらかったか？」と言ってジャンボ･コインにします。４枚のコインをテーブルに置き、デビッド･ロスばりのチンカ･チンクを行い、１カ所に集めます。そして１枚のコインを消して両手を改めます(カメラのフレームから切れたところで処理しています)。話が終わって２人が帰ろうとすると、スリ取った２人の財布を返します。スカリーが司法解剖をし、マリーニの首はノコギリで切られた跡があり、落ちないように糊で付けられていたことが分かります。又、死因は心臓発作で、死後１ヶ月くらい経過しており、冷蔵保存されていたのです。ラバンジはムショ仲間のアルバレスに会いに行き、ひと仕事しないかと持ちかけ、アルバレスが何をすればいいんだ？と聞くと、ラバンジは「マジック」とだけ言って、自分の右手を振ると火が着き、火の中から相手のスリ取った財布を出して返します。モルダーたちはマリーニに双子の兄、アルバート･ピンチベックがいることを知り、勤めている銀行へ会いに行きます。アルバートは70年代には弟と一緒に舞台に立っていたということから、マリーニの代わりを演じていたと思ったのですが、数週間前にメキシコで交通事故に遭い、足を失ったため、不可能だということになります。アルバートはまだ引退していないと言い、デックを取り出し、モルダーに１枚引かせ、覚えさせてからデックに戻して、シャッフルした後、ワンハンド･ファロー･シャッフルで噛み合わせ、左手から右手へカスケードのように落とすと、最後に左手に残った１枚が選ばれたカードです。マリーニのバンに積まれた遺品を調べようとすると、シルク･ハットから鳩が２羽飛び立ちます。そして見つけたピストルの引き金を引くと「BANG！」と書かれた旗が出ます。「魔術の基本は人の注意をよそに向けることだ」とモルダーは言い、コインを１枚取り出し、どちらの手に握ったかスカリーに当てさせますが、両手は空で、コインはスカリーの鼻から出てきます。そして、自分たちは操られているのかもしれないと言います。２人は銀行へ戻り、モルダーはアルバートが乗っている車椅子をひっくり返すと、足はちゃんとあり、マリーニであることが分かります。マリーニは話ながらデックでプレッシャー･ファンをしたり、デックから４枚のAを取り出したりします。アルバレスに２万ドルの借金があり、逃げるために、心臓発作で死んだ兄の死体を利用し、首を落としたのは、「マリーニの名が永遠に語り継がれるよう、最後に一世一代の魔術を披露したかった」と言います。モルダーがマリーニに手錠を掛けますが、直ぐに外してしまいます。そして連れて行かれ、留置所に入れられますが、マリーニの行動には更なる裏があったのです。ドラマの最後にスカリーも廊下でツイスティング･アーム･イリュージョンをやります。

謎解き部分はかなり雑な作りで、脚本は穴だらけですが、このドラマはお勧めです。何たって、今は亡きリッキー･ジェイが出ており、他の出演映画のように台詞の無い役ではありませんし、色々とテクニックも披露しています。最初のカップ＆ボールもそつなくやっており、これでマリーニが何故売れないのか？と思ってしまいます。まあ、彼の実際のワンマン･ショーではマジックの歴史について話ながらマジックを見せていましたが、それを遊園地の屋外でダラダラとやっても退屈に見え、歩いている人たちは足を止めてくれないとは思います。

リッキー･ジェイについてはコラムの第４回と第５回で書きましたので、そちらをどうぞ。次回は、ランス･バートンが準主役で登場する「ナイト･ライダー」を紹介します。

参考文献

1) Mark Yeager:「Card to Mouth」『Simply Magic Lecture』(マジックマガジン社, 1992) p.4
2) Shinkoh Nagisa :『Shinkoh Nagisa’s Twisting Arm Illusion』(Meir Yedid Magic, 1989)