5月4日には北とぴあのつつじホールで開催された「第11回東京マジカルフェスティバル」に行ってきました。
遠方なこともあり、今まで東京マジカル倶楽部の発表会には行ったことがなく、今回初めだったのですが、他のアマチュア・クラブの発表会と異なる点が2つありました。ひとつは、アマチュアの発表会にしては珍しく有料なことです(¥1,000)。会員は13名と少なく、開催費を捻出するためもあるのでしょう。世の中で観客数が減っている昨今、402席の会場は8~9割の入りと、他クラブの発表会と比べても少なくなかったです。3部はゲスト・ショーとし、司会はプロ・マジシャンを雇い、裏方も外部に頼むことで、進行をスムーズにし、有料の価値を出す工夫がされています。発表会1部と2部の13演目中、8演目は会員の方で、残りの5演目は賛助出演の方でした。会員数が少ないところは、他クラブやプロを呼ぶことで演目数を確保していますが、ここのクラブが他と違うのは、発表会の場で、次回の賛助出演者を広く募っていることです。まあ、それを聞いていきなり知らない人が出させてほしいと言ってくることはなく、実際には会員と知り合いの人が出演することになるとは思いますが、間口が広いことは色々な可能性が生まれます。先月、同様に人数の少ないクラブの発表会を見に行きました。そこも賛助出演が多く、ゲストとしてプロ・マジシャンを呼んでいたので、似た形でしたが、司会や進行が悪かったので、残念な内容でした。千円でも取るとケチな人は行かないでしょうが、それに見合う見合わないということではなく、応援(カンパ)という観点から行くことが文化を育てることだと思います。ゲストのミリオン・カード(山下隆之)はよどみがなく、これぞスライハンドと言える素晴らしい演技で(スライハンドでゴソゴソする演技をよく見ますが、それはスライハンドではありません)、花火に見立てたというカード・シューティング、「大きな古時計」のオルゴールの曲に合わせてカードを回転させながら出すところなど表現面でも工夫がされていました。
それよりも今回の発表会で驚くべきことがありました。賛助出演の方がヒンズー・バスケットをやったのですが、使ったBGMはAIに作らせたそうです。マジック用BGM集では、当たり障りの無い凡庸なメロディがよく見られ、予算の関係で、演奏者の頭数を揃えられないためか、音が薄っぺらで詰まらない曲があります(私のマジックのBGMに関する考えは「Four of a Kind Vol.20 No.3, No.4」を読んでください)。こういった点がAIだとどうなるか興味津々で見ました。結果、AI革命がマジック界にも入ってきて、この1年で大きく変わるだろうというのが印象です。マジックのテクニックや手順は演者が練習したり覚えたりしなければならないので、今と変わりませんが、手順構成などはAIにアドバイスが得られるようになり、ディーラー・ショーのような、“ひとつ見せて次の手品”と言ったような演技は減っていくでしょう。パソコンの計算によりルービック・キューブのマジックが爆発的に流行ったように、この1~2年で多くの新しい数理トリックが発明されると思います。今までは人がひとつひとつ検証して、トリックが成り立つ条件を探していましたが、これからは、AIの方でやってくれます。AIによるマジック用BGMの作曲に話を戻しますと、既に今の時点で十分に使えるものを作らせることができます。使われた曲はメリハリがあるので、イリュージョンの曲として問題無く、更に歌入りで、出演者の名前が歌詞に入っていることは、今までは簡単にはできなかったことです。こだわる人は沢山の曲を聴いて、自分の演技に合いそうなものを探していましたが、これからはAIにジャンル、雰囲気、長さを指定したり、歌詞を出せばそれに合わせてオリジナルの曲を作ってくれます。又、曲のテンポに合わせて動きを作り込んでいったのも、先に動きを決めてしまい、盛り上がりに合わせて、例えば3分35秒のところに曲のサビを持ってきてといった指定をすれば、そういう曲が出てきます。以前、マジック・マーケットでオーダーで作曲するところが出店していましたが、今後は、よほど顧客のニーズに対応できるところでなければ、そういった業種はやっていけなくなるでしょう。なぜなら、AIは今のところ“只”ですし、作曲依頼で色々とやりとりして完成に近づけていかずとも、短時間で沢山の案を作ってくれて、その中から選べば良いわけで、質も悪くないとなると人間が勝てっこないですよね。当然、マジック用BGM集といった商品は間違いなく消えます。もしマジック・ショップで在庫になっていたら、CDマニピュレーションの道具として手順を付けて今の内に叩き売ってしまいましょう。音楽だけでなく、画家、写真家、イラストレーター、デザイナーなどの様々なクリエイターはAIに職を奪われるでしょう。新しいマジックを考案させることは直ぐには無理ですが、いずれはできるようになります。苦労して組み立てたオイル&ウォーターの手順を友人に見せたら、「あっ、それと同じものをAIが先週公開し、その後、300ものバリエーションが出されているよ」と言われる日が来るでしょう。20~30代の方には、生きていく上で役に立つか分からない新しいメモライズド・デックのシステムを覚えるより、AIを活用したトリックの開発に今日から着手することをお勧めします。全く恐ろしい世の中です。
予告編からどうぞ。
原題:Fairy Tale: A True Story
監督:Charles Sturridge
製作:Bruce Davey, Wendy Finerman
出演:Florence Hoath(Elsie Wright), Elizabeth Earl(Frances Griffiths), Peter O'Toole(Arthur Conan Doyle), Harvey Keitel(Harry Houdini), Mel Gibson (Sergeant Major Griffiths)
マジックアドバイザー:Simon Drake
配給:アイコン・エンターテイメント・インターナショナル
公開:1997年
上映時間:98分
製作国:アメリカ、イギリス
1917年にイギリスの田舎町で起きたコティングリー妖精事件を描いた作品です。2人の少女が妖精の存在を示す写真を撮影し、村中の騒動に発展しました。下記写真はオリジナル。
背景として、この時代の電灯や写真といった科学の進歩は、初めて見る人々にとっては魔法のように見え、又、1911年に発表された「ピーターパン」のヒットや心霊術のブーム(第一次世界大戦により亡くなった多くの人に会いたいという気持ちの現れ)により、そういったものを信じたい風潮が世の中にあったのでしょう。1983年におばあさんになった2人は、5枚の妖精の写真の内、4枚は作り物だと告白しました。しかし、この映画は捏造したことを中心に描いたものでも、どうやって妖精の写真を偽造したかと言った謎解き的なものでもありません(物語終盤、工作したと思われる証拠が家の引き出しから出て来ますが、少女たちは本当に妖精を目撃しており、写真が偽造されたものなのか、その妖精たちを本当に写したものなのかはっきりと描かれていません)。従って、妖精たちが登場するファンタジー映画と言えます。
第一次世界大戦も終盤、戦場からは負傷兵が続々と帰還してきます。町では「ピーターパン」の舞台が大人気です。コナン・ドイルは心霊術に傾倒し、ハリー・フーディーニは、悲しみに暮れる家族を食い物にする霊媒師を非難していました。ドイルはピーター・オトゥール、フーディーニはハーベイ・カイテルという2人の名優が演じています。因みに、私が選ぶハーベイ・カイテルのベスト作品は「ピアノレッスン」でも「レザボアドッグス」でもなく、「マッド・フィンガーズ」(1978)です。この頃からロバート・デニーロに匹敵する凄い役者だと思っていました。日本ではDVD化されていませんが、機会があったら一見を。 冒頭、フーディーニがビルから吊り下げられた状態で、拘束着から脱出します。
その後、フーディーニはドイルと会い、連れて来ていた女の子にダウンズ・パームから1枚のコインを取り出して示します。女の子は袖を使っていると言い、それならとフーディーニは袖を捲った状態で両手を合わせてリンゴを出します。リンゴを出すところは編集で繋いでいます。
戦争で父親が行方不明になった8歳の少女、フランシス・グリフィスは、列車でヨークシャーに住む親戚の家を尋ねて来ます。そこには12歳の従妹、エルシー・ライトがいました。父親が帰ってくるまでやっかいになることにしたのです。エルシーの父アーサーはアマチュア写真家で、カメラを持っていました。ある日、2人の少女はカメラを勝手に持ち出し、森へと出かけます。撮ってきた写真をアーサーが現像してみると、妖精が写っており、本物か偽物かを専門家が鑑定することになります。その結果、暗室で偽造したものではないが、本物とも偽物とも言えないという結論で、それなら本物だろうと、ドイルはストランド・マガジン誌に記事を掲載させます。名前や場所は伏せることにしましたが、まもなく記者がコッティングリーの小川を特定し、少女たちを追いかけ回し、何百人もの人々が捕虫網を持って、車や徒歩で森に押し寄せます。
20分、舞台でのフーディーニの演技。アシスタントがボックスからボックスへ移動する現象ですが、双子を使っているようです。
36分、食事の席で、チョークが自動的に黒板に文字を書きますが、フーディーニは自分がやったトリックで、霊魂が書いたのではないと言います。74分、今回の件でフランシスとエルシーはロンドンに招かれ、ドイルの本「妖精の到来」の出版パーティに行きます。そこでフーディーニはエルシーにマジックを見せます。リンゴと梨のどっちがいい?と聞き、エルシーが梨と答えると即座に空中から取り出し、更には皿、そしてナイフも出します。梨と皿は隠し持っていたものをサッと出すだけで、ナイフの出し方はちょっと面白いです。エルシーはフーディーニに、どうやっているか誰かに教えるかを聞きますが、絶対に、例え死んでも教えない。本当に知りたい人なんていない、と答えます。そしてフランシスとエルシーをショーに招待します。ショーでは水槽脱出のシーンが出てきます。
その頃、村ではアーサーが地元のチェスのチャンピオンと試合をしており、家には誰もいませんでした。その隙に記者は彼らの家に忍び込み、書類の中に妖精の形をした紙人形を見つけます。果たして、写真は偽造したものだったのでしょうか?
アーサーの10歳で亡くなった息子やフランシスの父の消息の話も出て来ますが、中心となるストーリーとうまく噛み合っていない感じです。メル・ギブソンがカメオ出演していますが、殆ど顔が映っていないので、そのつもりで見ていないと見落とすでしょう。テレビドラマ「相棒」シーズン20第7話「かわおとこ」は妖怪の話ですが、水谷豊演じる杉下右京が、「コティングリー妖精事件」について話す場面がありました。
次回は、「刑事スタスキー&ハッチ」のポール・マイケル・グレイザーがフーディーニ役をする「The Great Houdini」を紹介します。
1) 井村 君江、浜野 志保:『コティングリー妖精事件 イギリス妖精写真の新事実』(青弓社, 2021)