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コラム

第89回 Religious Racketeers(2025.4/18 up)

引く続き、旅行の話。コロナ前は月に1回は飛行機に乗っていましたが、コロナ後は出不精になり、このままだと浦島太郎になるので、旅費が上がっていますが、思い切って行くことにしました。行かなかった間に、アメリカも中国並みにセキュリティ・チェックが厳しくなっており、手荷物検査で胸ポケットにシャープペンとのど飴を入れていたら引っかかってしまい(スパイダーペンではありません)、それらだけをX線チェックに通すはめになり、時間がかかってしまいました。入国審査もうるさくなったので、行きのトランジットでは乗り継ぎ時間にかなり余裕を持たないと危ないです(帰りは出て行くから関係ないのでスイスイ)。成田に着いたら、成田EXの切符売り場に長い列ができており、こんなことは記憶に無かったのですが、海外からの旅行者が増えたからですかね。


今回は石田隆信氏のコラムっぽい、調査レポートになりました。映画の版権は切れており、YouTubeに上がっていました。日本語字幕はありませんが、自動翻訳すれば大凡のストーリーは分かると思います。

『Religious Racketeers』

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原題:Religious Racketeers(1940年にリバイバル時の題名:Mystic Circle Murder)
監督:Frank O'Conner
製作:Fanchon Royer
出演:Robert Fiske(3役。The Great LaGagge、Louis LaGagge、The Great Garno), Martha Morgan(Helene Le Berthon), Arthur Gardner(Elliot Cole), Betty Compson(Ada Bernard), David Kerman(Harvey Wilson), Robert Frazer(Police Inspector Burke), Mrs. Harry Houdini(Mme. Harry Houdini)
公開:1938年7月7日
上映時間:90分?
製作国:アメリカ


題名のReligious Racketeersは“宗教的詐欺師たち”といった意味で、1900年代初期に流行っていた心霊ブームを題材に、霊媒師が降霊術で人を騙して金を獲ろうとする話です。手品は出てきませんが、霊媒師がカモに信じ込ませるために、火渡りをするシーンがあります(43分)。又、フーディーニが亡くなって10年後の話で、妻であるベス・フーディーニが本人役で出てきて、心霊術で死んだ人とコミュニケーションを取ることはできないと、劇中で明確に主張しています(企画当初は「Madame Houdini Speaks」(フーディーニ夫人は語る)という題で、長編映画で心霊術についての彼女自身の見解を表明するという触れ込みでした)。

金持ちのマーサは、母親が亡くなった時に自分がその場にいなかったために罪悪感に苛まれ、母親と交信したいあまり、心霊術に頼るようになります。霊媒師のグレイト・ラガージは彼女の金を騙し取ろうと、あの手この手のトリックをしかけます。何役にも変装して出てきて、信じ込ませようとする辺りは多羅尾伴内を思い出させます(多羅尾伴内に関しては、連載の第35~41回参照)。マーサに恋する新聞記者は、霊媒師がペテン師であることを暴露しようと試みます。最後に降霊術でマーサの母親が降臨してくるのですが、霊媒師も気がつかなかった落とし穴でトリックがバレてしまうのでした。

この映画が公開されると、心霊主義者たちは抗議したそうで、ベスがフーディーニからメッセージを受け取ったと書いた直筆の手紙を公開し、ちゃんと交信しているじゃないかと映画を非難したそうです。マジシャンたちからは賞賛されたそうです。2006年にAlpha VideoでDVD化されましたが、上映時間はYouTubeに上がっているものと同じ68分で、当初発表されていた上映時間の90分とは大きく異なります。

ベスはフーディーニが死んで10年後の命日であるハロウィーンの日に“Final Houdini Séance”(最後のフーディーニの降霊会)をハリウッドで開きました。しかし、フーディーニは語りかけてこず、降霊会は失敗に終わり、10年間、燃やし続けたという蝋燭の火を吹き消したそうです。映画でベスは冒頭7分のところで出てきますが、これはその降霊会から帰ってきたところの再現です。そして、もう降霊会は行わない。死後の世界があるならこの10年で夫から何か言ってきたはずだ、と言って、蝋燭の火を吹き消します。フーディーニの生前、ベスはThe Houdinisとして一緒に舞台に立って人体交換などをやっており、元々、歌や踊りの舞台経験もあり、しっかり演技をしていました。

ベスは映画の最後でも出ており、事件の顛末が報道された新聞を見ながらみんなと話していますが、何も言わないうちに直ぐにエンドマークが出てしまいます。ここに短くなった部分があるのでしょうか?心霊主義者たちがフィルムを破棄してしまったのかもしれません。当時のThe JinxやGeniiに記事が載ったそうで、実際にベスがどういう主張をしたかを知るヒントがここにありました。The Jinxのレビューには、エピローグでベスが心霊主義者を“あいつら蛭”(those leeches)と呼んでいると書かれていたそうで、こういったところからも、ベスがフーディーニとコンタクトをしたいと願いつつも、心霊主義者たちを嫌っていたことがうかがえます(The Jinxの原文を探しましたが見つけられませんでしたので、ここは石田氏の調査力に期待しましょう)。

監督のフランク・オコナーは、フーディーニの伝記映画の脚本を書いていましたが、実現しませんでした。

イギリスのシンガーソングライター、Kate Bush による"Houdini"という歌があり、アルバム「The Dreaming」に収録されています。この歌手の「嵐が丘」という曲は、さんまが司会をしていた日本テレビのバラエティー番組「恋のから騒ぎ」のオープニング曲で覚えている人もいるでしょう。

"Houdini"はベスのフーディーニへの思いを歌ったもので、マジックに関する歌詞が出てきます。

ネットにいくつか訳が上がっていましたが、その中で良いものを紹介します。

「フーディーニ」

 私はテーブルに着き、涙に暮れた見知らぬ人たちの手を取りながら
あなたがここに降りて来るのを待っている
霊媒師がそこらをうろつき回り、タンバリンをやかましく鳴り響かせる...
「騙されないわ!」私は降霊術を止めさせ、こう言った
「お願い!その男を追い出して..」

キスに見せかけて口移しであなたにカギを渡す
じらしながらカギを受け取るあなたの舌を感じたの
そしてあなたは水槽に消えていった
私のくちびるにうるおいを残しながら...

部屋の中に彼と私
彼はあなたと私だけしか知らないあの言葉を使い
あなたがこの世界に戻ってきたことを証明する
これは彼のトリックじゃない、あなたの魔術ね!
私はあなたの脱出を見物している人々が、
何か悪いことが起きるのを期待しながら
待っている事に気が付いていたの
みんな決して成功なんかしないと思っていたのに
あなたはいつも脱出して見せた
「ロザベル・ビリーブ」永遠の死の世界ですら
魔術師フーディーニを捕まえておくことなんてできないわ!

「ロザベル・ビリーブ」

水槽のガラス越しに鎖に縛られたまま、もがき苦しむあなたが見えた
今まで見たこともないくらい青ざめた顔のあなた
私の頭にはあなたの命のことしかなかった
私たちはあなたを水から引き上げた

 「フーディーニ!!」

あなたとわたしそして「ロザベル・ビリーブ」

歌詞に出てくる“Rosabelle, believe!”(ロザベルは信じる!)とは、フーディーニが死後の世界から連絡した際の暗号の言葉です。霊媒師の唇を借りてフーディーニがベスにメッセージを送ってきたとしても、その暗号が入っていなければ、偽物ということになります。“Rosabelle”は、ベスがフーディーニと初めて出会った時に公演で歌った曲の名前で、その言葉は彼女の結婚指輪の内側にも刻まれていました。

因みに、ベスは1930年代にハリウッドへ移り、フーディーニの功績を残す活動を色々としました。映画公開時、フーディーニの死後12年経っていましたが、マジック界での記憶は薄れておらず、ベスが提供した写真や記事がGeniiにも時々、載っていました。以下の記事は、Genii Vol.3 No.2からのものです。

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この映画の出来は、この時代のものとしては普通ですが、動いているベス・フーディーニが見られる、貴重な映像です。因みに、彼女はそれから5年後の1943年に67歳で、旅行中に心臓発作で亡くなっています。

フーディーニ関係はまだまだ続きます。全部読めば、あなたもその日からフーディーニ博士になれるでしょう!


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