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コラム



第87回 シガレット、マッチ等のリンキング(ペネトレーション)の歴史と日本での発展(2018.11.23up)

はじめに

世界的に有名なマジシャンのエリック・ジョーンズ氏が興奮しながら撮影された映像が2010年にネットにアップされました。藤井明氏が演じられているリンキングシガレットです。藤井氏の後方から撮影したにもかかわらず、シガレットが別のシガレットを貫通する瞬間がワープしているかのように見えます。それが数回にわたり繰り返されます。マッチで行う昔からの方法はマジシャンの間ではよく知られています。それを知っているからこそ、あまりの不思議さに興奮する言葉を発してしまったようです。このマジックは100年以上も前から存在しているのですが、大きな変化がありませんでした。ところが、最近の日本では進化した方法が次々と発表されています。藤井明氏のシガレットはかなり以前から有名でしたが、最近では野島伸幸氏の3個ずつのダイスを使った方法が話題になっています。また、藤原邦恭氏のマーブルチョコケースのフタと本体を使った方法も、太い円柱ケースが貫通するのでかなり不思議な現象です。これらは新しい考え方が加わり、これまでのマッチを使った現象とは違った不思議さと面白さがあります。このマジックの歴史を徹底的に調べることにしました。

このマジックについて

海外ではマッチ棒を使用するのが基本です。マッチの両端に親指と人差し指を当てて持つと、指とマッチにより一つの輪ができます。この両手の輪をつなげたり外したりするマジックです。そのことからリンキングの名前がつけられています。または、一方が他方を貫通するのでペネトレーションの名前もつけられています。

もしもマッチを使用せずに、左右ともに親指と人差し指の先をくっつけただけで輪を作り、つながった状態から左右に引き離すと輪が外れます。これを素早く行うと指がくっついたままのように見えます。しかし、誰もこれをマジックとして行おうとはしません。2~3才の子供以外は、瞬間的に指が離れているからであるとの考えになります。目には見えていなくても常識として分かります。ところが、親指と人差し指の間にマッチを挟んで持つと、一気に不思議なマジックとなります。指を離せばマッチが落ちると考えてしまうからです。

外すだけの方法は、19世紀中頃の文献に解説されています。コルクを使ったパズル的な方法です。これがいつ頃から存在していたのかは分かりません。コルクを親指の股に挟んで、コルクの両端を他手の親指と人差し指に挟んで持たせます。これを両手で同時に行うと二つの輪がリンクした状態になり、輪を外すことができません。しかし、パズル的な考えで外すことができるようになります。うまく行うと、外れる瞬間がわからず、マジックを見ている不思議さがあります。最近の日本の文献では、1999年の二川滋夫著「マジックハウス10号」に解説されています。

マッチを使ってつないだり外したりする方法の最初は、私の調査で確認が取れたのが1910年のStanyonのMAGIC誌9月号です。右人差し指の指紋部を湿らせて、マッチの一端を押し付けてくっつけているのがタネとなります。誰の作品かの記載がありません。また、この解説が最初か違うのかも分かりませんでした。マッチの両端を親指と人差し指で挟んで押しつけた場合に、その後で指を開いてもマッチの一方の端がくっついたままになったことから考案されたマジックと考えられます。さらに、指が乾燥しているとくっつきませんが、湿らせるとくっつきやすいことも利用したようです。ただし、うまく付かないこともあり、その後、別な方法も考えられるようになります。

その後の発展

1910年の方法は左手のマッチを垂直にして、タネがある右手のマッチは水平の状態で貫通させていました。この方法であれば、タネの部分を隠すことができます。その後、しばらくの期間は発表文献が見当たらず、1930年代に入ってから解説を見つけることができました。1930年代後半には、二つのマッチの位置関係がこれまでとは違った状態になります。左手のマッチが水平で、右手のマッチを垂直に近い状態にして、右手を上方から振り下ろしながら貫通させています。その後はこの方法が多くなりますが、これまでの横からの方法や別の方法も行われています。興味深いのは1993年のThe Magic誌17号に発表された安田明生氏の方法です。左手はシガレットを垂直に持ち、上側になっている左中指を右手のシガレットが貫通します。左中指が横方向に水平で、右手のシガレットが縦方向に水平な状態で上方より振り下ろして貫通させていました。この方法はその後の日本のマジシャンに影響を与えています。

使用する物品に関してですが、海外ではほとんどが木製マッチです。1950年頃からは紙マッチも使われるようになります。また、爪楊枝も使われています。意外に思ったのは、1937年のヒューガード編集の本に書かれていたシガレットの使用です。親指と人差し指でシガレットを挟み、他の3本の指を広げて演じていたことです。まるで、藤井明氏のリンキングシガレットの解説かと思えるほどです。残念ながら、大まかな解説だけで分からない部分が多く、この解説を読んで演じた人がいないのではないかと思ってしまいます。この解説にも誰が演じていた方法かの記載がありません。その後、海外の文献でシガレットを使用したこのマジックの解説がありません。日本では上記の安田明生氏のシガレットを使う方法が、親指と中指で挟む演じやすい方法で解説されています。

ほとんどの解説が一つの方法の紹介だけですが、面白いと思ったのが1933年のAbrahamの本です。パズルや簡単なマジックを解説した本です。コルクを使う古くから知られていた方法をマッチを使用して解説されています。さらに、そのバリエーションとして、本当にリンクした状態から外す今回のテーマのマジックが解説されていました。ただし、独自の方法が使われています。左手のマッチを垂直にして、マッチの一端を人差し指の先の方の関節に当てて落ちないようにしていました。そして、右手のマッチを水平状態で左へ動かして貫通させる方法でした。それでも大丈夫なのかと不安を感じる方法ですが、この二つを続けて行うのも面白いと思いました。また、1949年のマーチン・ガードナーの冊子には、このテーマのマジックの方法だけでなく、2本のマッチをクロス状態でぶつけ合うのを繰り返して、マッチがマッチを貫通している錯覚を見せる方法も解説されます。この二つを続けるのも面白いと思います。1999年の二川滋夫氏の「マジックハウス10号」には、コルクを使ったいくつかの方法が解説されています。昔からあるコルクのパズル的な方法や、コルクでのマジック的な貫通、そして、嘘の種明かしの方法が藤井明氏の方法も含めて三つ解説されています。また、指だけを使って効果的に見せる方法もありました。これらを手順にして演じられており、このマジックを研究する上で重要な文献と言えます。

最近の日本の進化

藤井明氏のリンキングシガレットは、かなり以前から演じられていた記憶があります。マッチであれば押し付ければ指にくっつくことがありますが、シガレットでは押し付けてもつけることができません。もちろん、指もシガレットも仕掛けがないことをあらためてから行えます。親指と人差し指で挟み、他の3本を広げているので不可能性が高くなります。この点が安田明生氏のシガレットと大きく違うところで、不思議さが大幅にアップされています。日本だけでなく、世界中のマジシャンやマニアをも不思議がらせてきたのが素晴らしい点です。ただし、少し練習が必要です。 2016年発売の野島伸幸氏のリンキングダイスは、これまでとは違った不思議さがあります。左右のそれぞれの親指と中指で3個ずつのダイスを重ねて挟んで持っています。指の力を緩めたり、指を離すと3個のダイスが落下します。その説得力があることにより、リンキング現象がかなり不思議です。そうであるのに、予想以上に少しの練習で行えます。もちろん、指にもダイスにも仕掛けがありません。 2017年には藤原邦恭氏の「リンキング&アピアリング・マーブル」が商品として発売されています。円筒型のマーブルチョコのケースの本体とフタによるリンキング現象です。かなり太い物体であるのに抵抗感なくリンクしたり外れます。これまでになかった面白い発想です。太いことを逆にうまく利用した点が優れています。この現象だけでなく、マーブルチョコが多数出現したり、その他の現象もDVDでは解説されています。

2018年にはツイッター仲間による作品集「つぶやきぷろだくしょん」が発行されました。その中でRal(らる)氏はコインを使った方法を発表されています。マッチやシガレットの代わりにコインを親指と人差し指に挟んで演じられています。コインの左右の側面を挟んで持つことになります。これまでの方法とは全く違っているだけでなく、別々の三つの方法が使われています。新しい発想に面白さを感じます。さらに、2枚のコインであればいつでも持っていることが多く、即席で行える利点があります。ただし、上記のシガレットやダイスやマーブルチョコケースに比べると、現象の弱さを感じてしまうのが残念です。いずれにしても、日本人によりこのマジックが大きく発展していることに興味がひきつけられました。

おわりに

最近ではマッチの使用が極端に減り、マッチを使ったパズルやマジックが演じにくい状況です。海外でのマッチの使用状況は分かりませんが、本来のこのマッチによるマジックも行われなくなる恐れがあります。タバコも吸う人が減っていますが、タバコはまだまだなくなることはないと考えられます。その意味では藤井明氏のシガレットは大きな意味を持っています。

ところで、今回のテーマに興味を持ったのは野島氏の三つのダイスを使用する方法からです。この方法とシガレットやマッチの方法との違いに興味を持ちました。さらに、藤原氏のマーブルチョコケースを使う方法が違った試みであることが分かり、これら全体の歴史も徹底的に調べてみたくなりました。その結果、海外のマッチによる方法がほとんど進化してこなかったのに対し、日本だけがマッチ以外の品物による様々な面白い試みがなされていたことが分かりました。今回も可能な限りの文献を調べましたが、思っていたより数が多くありませんでした。参考文献とDVDの一覧を下記にて報告します。


【参考文献、DVD一覧】

1859 Dick & Fitzgerald Secret Out The Separated Corks
     コルクを使った貫通パズル 両手ともに親指の股にコルク
1902 Lang Neil The Modern Conjurer The Two Corks
     コルクを使った上記と同じ貫通パズル
1910 Ellis Stanyon MAGIC Vol.10 No.9 The Penetrable Match
     マッチ端を湿らせた右親指の先の腹に押し付ける
     左手マッチは垂直、右手マッチは水平にして親指を手前側に
1927 Walter B.Gibson The Great Houdini’s Book of Magic
     A Clever Cork Trick コルクを使った貫通パズル
1933 R.M.Abraham Easy-to-do Entertainments
     Thumbs And Fingers マッチを使ってコルクのパズルと同様に行う
     A Variation 左手のマッチ端を人差し指の第1関節に挟み垂直状態に
1937 Jean Hugard Hugard’s Annual of Magic 1937 Impromptu Linking Ring
     シガレット両端を親指と人差し指で持ち、他の指は広げて示す
1938 J.N.Hilliard Greater Magic The Linking Matches
     方法1 マッチを親指と人差し指&中指で持つ
     方法2 人差し指の先の腹に湿気を与えてマッチ端を圧迫
1947 Jules Dhotel M.D. Magic with Small Apparatus Vol.1
     1930年代後半からフランスで発行された本の一部分の英訳版
     The Penetrable Matches マッチ端を人差し指にくっつける
1949 Martin Gardner Over The Coffee Cups
     Match Penetration 1 右人差し指を湿らせてマッチの頭を圧迫
     Match Penetration 2 紙マッチの頭を持ち2本をぶつけ合う錯覚現象
1951 柴田直光 奇術種あかし マッチをつかむ
     マッチを使って行う親指の股に挟んだコルクのパズル
1952 宮入清四郎 奇術大鑑
     徳川義親氏による方法 右手マッチは垂直で人差し指&中指で
1954 Jean Hugard編集 Hugard’s Magic Monthly 5月 Penetrating Matches
     Martin Gardner Encyclopedia of Impromptu Tricksで解説
      紙マッチ  頭を平らにしておく 右親指の先を湿らせる
      木製マッチ 人差し指&中指で挟む 効果弱まると記載
1956 安倍元章 手品 出入自在のマッチ棒
     左手マッチは垂直 右手は水平でマッチ端を人差し指に押しつける
1959 Bruce Elliott Professional Magic Made Easy
     1959年に日本語訳版「あなたも魔術師になれる」
      透入1 マッチか爪楊枝を半分に割って 人差し指&中指で挟む
      透入2(別現象) 2本をぶつけ合って貫通している錯覚に
1976 Karl Fulves編集 The Pallbearers Review Vol.10 Close-up Folio 5
     Martin Gardner Penetrating Matches 1954年の木製マッチの方法
1978 Martin Gardner Encyclopedia of Impromptu Magic
     Penetrating Matches 1954年の記載の再録
1980 Leo Behnke Party Magic from the Magic Castle Penetrating Matches
     マッチを使用してコルクの古いパズルと同じ方法で抜く
     上記の抜いた後で入れる 人差し指を下にしたままでくっつけて行う
1980 Walter B.Gibson The Complete Illustrated Book of Close-up Magic
     Penetrating Matches 貫通時に中指を人差し指につける
     Alternate Penetration 貫通時に親指の爪へ
     Half-Match Penetration 長マッチを半分に 右人差し指の先を湿らす
1981 Karl Fulves Self-Working Table Magic The Penetrating Matches
     右手のマッチを親指と人差し指&中指で
1990 松田道弘 クロースアップマジック事典 貫通するマッチ
     左手マッチは垂直 右手は水平で親指と人差し指&中指で
1990 児玉恭治 ハテナ?手品BOOK すり抜けマッチ
     親指と人差し指に挟む マッチ頭が人差し指につくことによる方法
1993 安田明生 The Magic Vol.17 タバコの貫通
     タバコを使用し両手ともに親指と中指で持つ
1993 Martin Gardner Martin Gardner Presents Penetrating Matches
     1999年に日本語訳版「マーチン・ガードナー・マジックの全て」
     貫通する紙マッチ 1954年の紙マッチ使用の方法と同じ
1999 二川滋夫 マジックハウス10 コルク栓の貫通 噓の方法も含む
     コルク栓の抜き差し 抜き差し部分の詳しい解説
     コルク栓のパズル  昔からのパズルによる方法
     コルク栓のマジックについて
2005 横木ジョージ 誰でもできる手品 あっという間のすり抜けマッチ棒
     マッチと両面テープの使用
2007 東京大学奇術愛好会監修 東大式タネなし手品 すり抜ける爪楊枝
     両手の爪楊枝とも先端部を人差し指と中指に挟む
2010 藤井明 Linking Cigarette DVD
     シガレットを使用し両手ともに親指と人差し指で持つ
2016 野島伸幸 リンキングダイス 商品&DVD
     3個ずつのダイスを挟んだ状態で貫通現象
2017 藤原邦恭 Linking & Appearing Marble 商品&DVD
     マーブルチョコケースの本体とフタによる貫通現象
2018 らる(Ral) つぶやきぷろだくしょん Slip Through Coin
     コインを使用し親指と人差し指で持つ 違った三つの方法を使用


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