世界的に有名なマジシャンのエリック・ジョーンズ氏が興奮しながら撮影された映像が2010年にネットにアップされました。藤井明氏が演じられているリンキングシガレットです。藤井氏の後方から撮影したにもかかわらず、シガレットが別のシガレットを貫通する瞬間がワープしているかのように見えます。それが数回にわたり繰り返されます。マッチで行う昔からの方法はマジシャンの間ではよく知られています。それを知っているからこそ、あまりの不思議さに興奮する言葉を発してしまったようです。このマジックは100年以上も前から存在しているのですが、大きな変化がありませんでした。ところが、最近の日本では進化した方法が次々と発表されています。藤井明氏のシガレットはかなり以前から有名でしたが、最近では野島伸幸氏の3個ずつのダイスを使った方法が話題になっています。また、藤原邦恭氏のマーブルチョコケースのフタと本体を使った方法も、太い円柱ケースが貫通するのでかなり不思議な現象です。これらは新しい考え方が加わり、これまでのマッチを使った現象とは違った不思議さと面白さがあります。このマジックの歴史を徹底的に調べることにしました。 |
海外ではマッチ棒を使用するのが基本です。マッチの両端に親指と人差し指を当てて持つと、指とマッチにより一つの輪ができます。この両手の輪をつなげたり外したりするマジックです。そのことからリンキングの名前がつけられています。または、一方が他方を貫通するのでペネトレーションの名前もつけられています。 |
1910年の方法は左手のマッチを垂直にして、タネがある右手のマッチは水平の状態で貫通させていました。この方法であれば、タネの部分を隠すことができます。その後、しばらくの期間は発表文献が見当たらず、1930年代に入ってから解説を見つけることができました。1930年代後半には、二つのマッチの位置関係がこれまでとは違った状態になります。左手のマッチが水平で、右手のマッチを垂直に近い状態にして、右手を上方から振り下ろしながら貫通させています。その後はこの方法が多くなりますが、これまでの横からの方法や別の方法も行われています。興味深いのは1993年のThe Magic誌17号に発表された安田明生氏の方法です。左手はシガレットを垂直に持ち、上側になっている左中指を右手のシガレットが貫通します。左中指が横方向に水平で、右手のシガレットが縦方向に水平な状態で上方より振り下ろして貫通させていました。この方法はその後の日本のマジシャンに影響を与えています。 |
藤井明氏のリンキングシガレットは、かなり以前から演じられていた記憶があります。マッチであれば押し付ければ指にくっつくことがありますが、シガレットでは押し付けてもつけることができません。もちろん、指もシガレットも仕掛けがないことをあらためてから行えます。親指と人差し指で挟み、他の3本を広げているので不可能性が高くなります。この点が安田明生氏のシガレットと大きく違うところで、不思議さが大幅にアップされています。日本だけでなく、世界中のマジシャンやマニアをも不思議がらせてきたのが素晴らしい点です。ただし、少し練習が必要です。
2016年発売の野島伸幸氏のリンキングダイスは、これまでとは違った不思議さがあります。左右のそれぞれの親指と中指で3個ずつのダイスを重ねて挟んで持っています。指の力を緩めたり、指を離すと3個のダイスが落下します。その説得力があることにより、リンキング現象がかなり不思議です。そうであるのに、予想以上に少しの練習で行えます。もちろん、指にもダイスにも仕掛けがありません。
2017年には藤原邦恭氏の「リンキング&アピアリング・マーブル」が商品として発売されています。円筒型のマーブルチョコのケースの本体とフタによるリンキング現象です。かなり太い物体であるのに抵抗感なくリンクしたり外れます。これまでになかった面白い発想です。太いことを逆にうまく利用した点が優れています。この現象だけでなく、マーブルチョコが多数出現したり、その他の現象もDVDでは解説されています。 |
最近ではマッチの使用が極端に減り、マッチを使ったパズルやマジックが演じにくい状況です。海外でのマッチの使用状況は分かりませんが、本来のこのマッチによるマジックも行われなくなる恐れがあります。タバコも吸う人が減っていますが、タバコはまだまだなくなることはないと考えられます。その意味では藤井明氏のシガレットは大きな意味を持っています。 |