スロップシャフルは表裏をバラバラにしても同じ向きにそろい、客のカードだけが逆向きで発見される現象です。文章からでは、まるでトライアンフのことを言っているようです。しかし、トライアンフの最初の発表は1946年で、スロップシャフルは1937年です。つまり、このような現象の最初がスロップシャフルとなるわけです。その点から、トライアンフの原案をスロップシャフルとする考えもありそうです。その反対に、トライアンフ現象の強烈さと知名度の高さから、スロップシャフルをトライアンフの中へ分類されてしまうことも考えられます。You Tubeを見ますと、スロップシャフルのタイトルであるのにトライアンフとすべき映像があったり、トライアンフのタイトルであるのにスロップシャフルだけの映像がありました。頭が混乱してしまいます。この二つには見た目の大きな違いがあるだけでなく、スロップシャフルの場合は一つの技法としての要素があります。 |
ここでは最初に発表されたシド・ロレインの方法の特徴的な点のみ報告します。スロップシャフルの様々な方法の特徴は、最後の部分でのデックの半分のひっくり返し方にあると言えます。ロレインの方法では、シンプルに上半分をひっくり返しているだけです。最初の段階で、スプリングをすることによりブリッジがつけられおり、ひっくり返すために分割して持ち上げる位置は、そのブリッジによるデック中央の反発部分で行われています。なお、彼の方法では、右手に取る時に親指と人差し指と中指だけを使って摘まみ取っているのが意外に思った点です。その後の方法では、親指と残りの4本の指を使ってつかんでいます。 |
スロップシャフルが1937年に発表されますが、その後の50年間は考案者名が書かれることがありませんでした。奇妙としか言いようがありません。最初に発表された本は、1937年のJohn Braun & Stewart Judah 共著による “Subtle Problems You Will Do” の冊子です。そこにはシド・ロレインの作品としてはっきり書かれ、数年前より演じられていたことも報告されています。その3年後の1940年には3作品が発表されますが、いずれにもこのシャフルの考案者名が書かれていませんでした。その3作品の中には、きっちりとクレジットされそうなマーチン・ガードナーも発表されているのですがクレジットされていません。1937年の冊子を読まれて新作を発表されたのではなく、人から人へ伝わって広まったからでしょうか。ところが、約50年後の1988年を境にして、スロップシャフルが使用される場合には、シド・ロレインのスロップシャフルと書かれるようになります。これは、その頃よりクレジットする風潮が高まっていたことと、1988年発行のT.A.Waters著 “The Encyclopedia of Magic and Magicians” でスロップシャフルの考案者が書かれていたからかもしれません。 |
表裏を混ぜて同じ向きにそろうのはスロップシャフルが最初ではありません。1914年にDeLandが “Inverto”を発売しています。テーブルへ1枚ずつ表裏交互に配ることをデック全てで行なっています。配ったカードをそろえてひっくり返しスプレッドすると、全てが裏向きになります。マニアであればすぐにタネが分かると思います。しかし、素晴らしいのは、カードをそろえてエンドをリフルすると表側を示すことができる点です。1919年にはジョーダンがさらに手を加えて “Ultimo” を発売しています。さらにジョーダンは、レギュラーカードで行える方法を1919年の “Thirty Card Mysteries” に発表しています。問題は演じる気が全くしない方法であることです。左手のデックから1枚ずつ右手のカードの上へ重ねるのですが、左手を返す操作を繰り返して表裏交互に重ねています。両手を左右にスイングしながらその操作を行うのですが、途中から実用的とは思えない秘密の操作が繰り返されます。1937年のヒューガード編集 “Encyclopedia of Card Tricks” にジョーダンの “Reversed Cards” として改案が発表されます。秘密の操作部分の改良ですが、やはり実用的とは言えません。 |
1937年にシド・ロレインの方法が発表された後、1940年代には次々と改案が発表されます。そのほとんどにデックの半分のひっくり返し方に違いがあったのが興味深い点です。また、1970年代以降は、トライアンフに使われている混ざっていることを示しつつ半分をひっくり返す操作が取り入れられるようになります。意外であったのは、下半分をハーフパスでひっくり返す方法の記載がなかったことです。マニアならハーフパスで処理してしまいそうです。初心者にも使えるスロップシャフルが少し難しくなることと、別の技法が加わることを避けたかったからでしょうか。 |
スロップシャフルは方法がシンプルで、マニアにはよく知られているためにマニア向きとは言えません。しかし、マニアにも通用する面白いと思った3作品があります。 |
第1期(1937年~1949年 発展期) |
2002年頃の私は、マニアにも通用するスロップシャフル作品を2作品書き上げていました。さらに、それまでのスロップシャフル作品についてもまとめていました。残念ながら掲載予定であったRRMCの冊子が第6号で休刊し、次回がいつ発行になるかわからない状態となったままでした。2017年に入って、Toy Box 15号の原稿依頼があり、テーマを限定しないとのことでした。そこで、このスロップシャフル2作品とスロップシャフル全作品の現象や特徴の説明も加えて掲載することにしました。Toy Box 15号は今年の秋には発行予定とのことです。今回、スロップシャフル全体を調べ直して、3期に分類できることや、スロップシャフル考案者のクレジットの問題などの興味深いことがわかりました。そこで、このコラムではToy Box 15号とは違った内容でまとめることにしました。参考文献として全ての作品を掲載したつもりですが、抜け落ちた作品があるかもしれません。それぞれの作品には簡単な特徴点だけを書き加えました。 |