このマジックの特徴は、ダブルフェイスカード(DFカード)を使った4Aアセンブリーです。原案者は19世紀に活躍したホフジンサー(1875年死亡)で、1857年1月には演じられていた記録が残っています。そうであるのに、現在ではマクドナルドが原案者のようなタイトルで、マクドナルドの名前が一人歩きしています。もちろん、マクドナルドの方法には優れた発想が加えられています。しかし、そのことよりも話題性が大きく、多くのマニアの関心を引きつけたのだと考えられます。1960年にマクドナルドのマジックが発表されていますが、その発表者がバーノンであったことと、その時のタイトルが「マクドナルド $100 ルーティーン」となっていたことに興味が引き付けられます。片手しかなかったマクドナルドがこのマジックを演じ、多くの人を煙に巻いていたそうです。秘密を知りたければ、 当時では高額な$100 を必要としたストーリーの話題性が注目をあびました。 |
表向きに4枚のエースを並べ、それぞれの上へ3枚のカードを裏向きに置きますが、下のエースが見える様に半分ほどずらして乗せます。三つの山からは鮮やかにエースが消失し4番目の山に集まります。3枚のDFカードを使っているために鮮やかなエースの消失が可能となっています。マクドナルドの方法が解説されるのは1960年のルイス・ギャンソン著によるバーノンの本です。そして、マクドナルドエーセスの名前を不動のものにしたのは、1972年のニュー・スターズ・オブ・マジックのガルシアの「マクドナルド・100ドル・4エーストリック」です。その後、DFカードを使った4エーストリックをマクドナルドエーセスと呼ばれるようになります。マクドナルドが原案者ではありませんし、マクドナルド以前にも多数の作品が発表されています。それにも関わらず、このタイトルが一人歩きを始めます。この原案者は19世紀中頃のオーストリアのホフジンサーです。このことが記載されるようになるのは、1980年代後半になってからです。ホフジンサーの方法では、既に、片手でカードを1枚ずつ表向きにテーブルへ投げ出して、エースの消失が行なわれていました。歴史経過全体をみますと、その発展状況がよく分かります。ガルシアの作品以降、三つの山とも違ったエースの消失法を使うことが主流になっています。 |
最後の参考文献一覧と重複する部分もありますが、最初からの主な歴史経過を報告します。 |
1959年にテンヨー社から「天海のフォーエース」が発売されています。この商品には1958年に帰国された天海師の記念として、任天堂と提携してこの作品のためのカードが制作されたことも報告されています。天海師の作品であったことと、シンプルで上手く構成された手順であったことから話題となり、日本ではDFを使ったエースアセンブリーの代表作となりました。最近の文献でも年数に関しては数冊に記載されています。1996年発行の「天海IGP MagicシリーズVol.1」には、1959年4月21日にリンディー夫妻送別会で実演されたことが報告されています。松田道弘著「現代カードマジックのテクニック」のマクドナルドエーセスの参考文献では、1959年頃に天洋から市販と書かれていました。また、カウフマン著 "Tenyoism" の本では1962年以前とだけ書かれています。この方法の特徴は各山のエースの消し方にあります。二つの山を左右の手に持ち、それぞれ交互に1枚ずつ表向きにテーブルへ投げ出し、最後のエースであるべき1枚ずつを裏向きのまま残します。3番目の山を4枚とも表向きにして、上から4枚目にエースがある状態にします。先ほど残した裏向きのエースを裏向きのまま2枚目と4枚目になるように差し込みます。1回カットして、パケットをひっくり返し、1枚ずつテーブルへ表向きになるように配るとエースが消失しています。同じ消失法の繰り返しにならないように工夫されている点でもすばらしいと思いました。 |
1998年にオーストリアのマジック・クリスチャンによるホフジンサーの研究書が発行されています。米国のIBM大会参加時にディーラーショップの古書店でこの本が販売されていました。かなり分厚い本ですが100ドル程度ですので購入しようとしましたが、ドイツ語であったためにあきらめざるを得ませんでした。この本の英訳版が2013年にやっと発行されることになります。2冊組で価格がかなり高くなっていますが、860ページもあるので仕方ないのかもしれません。この本によりますと、1857年1月には実演された記録が残っています。ホフジンサーのカードマジックの本では、今回のテーマに関わるものとして "The Power of Faith" (クリスチャンの本では "The Power of Belief" のタイトル)と "The Four Kings" の2作品が解説されています。前者は4枚のJで後者は4枚のKが使われています。2作品共に現在の方法との大きな違いは、DFカードの枚数が3枚ではなく4枚であったことです。さらに、単独の現象ではなく、選び出されたカードが4枚ともJやKになる現象の後で続けられています。デックから1枚のカードが選ばれ(フォースを使用)、それ以外に3枚が選び出され、その3枚をチェンジして4枚ともJやKにしています。その後、DFの4枚がパームによりデックへ加えられ、アセンブリー現象へ続けています。2作品の違いは、最初の1枚のフォースの方法が違うことと、後の3枚の選ばせ方に違いがある程度です。その後のアセンブリー現象の方法は同じです。いずれもマジシャンズチョイスを使わないかわりに、指定された山とデックのトップの4枚とのチェンジが必要となります。意外であったのは、片手によるカードの投げ出しが行われていたことです。これがホフジンサーの時代から既に行われていたことに驚きました。 |
マクドナルドエーセスのすばらしさは、直前まで確かにあったはずのAの鮮やかな消失です。1972年にガルシアが3回とも違った消失法で発表されるまで、片手によるカードの投げ出しが最も基本でした。ホフジンサーが既に行っていましたが、その後は少しずつ方法が変化しています。そのことに興味がわき報告することにしました。 |
1920年の "Modern Card Effects" のDFカードを使った4Aトリックは、明らかにホフジンサーの影響を受けています。しかし、そのことには何も触れられていません。その次に登場する同様な作品が、1928年のジャック・マーリンの方法です。この作品のまえがきには、数年前に英国のWill Goldstonにこのトリックを提供し、商品化の許可を与えて、既に商品化もされていたようような記載となっています。マーリンの方法には各山からAを消失させる方法だけでなく、最後のカードをAとして1枚ずつ残す方法も解説されています。天海師の作品と比べますと、カードの投げ出し方が同じであるだけでなく、カードを残す方法が書かれていたことも天海師の発想に近いものが感じられます。 |
原案のホフジンサーの作品は、単独の現象ではありません。客により選ばれたカードが4枚ともジャックやキングになります。この4枚を表向きデックの上へ戻す時に、4枚のDFカードをパームにより加えて、次のアセンブリー現象に続けていました。1947年に発売されたLeo Horowitz & Dr Daleyの "Aces High" の小冊子は3段構成の作品ですが、その第2段でDFカードを使うアセンブリー現象に続けています。デックのボトムに3枚のDFカードがセットされており、4A以外の第1段で使ったカードをデックのトップへ処理して、第2段では必要枚数のカードをボトムより取り出されています。人気があった小冊子で、日本でも1963年の「トップマジック34号」に日本語訳されています。1956年のドン・アランの "It Can't Be" も3段構成で、第2段がDFカードのアセンブリー現象です。最も印象的であったのがTV放映で話題となったリッキー・ジェイの方法です。デックをカットする度に1枚ずつ4枚のカードが裏向きで前方へ飛び出し、それを表向けると4枚ともQです。この4Qをデックへ戻した後、ピエット・フォートンのムーブにより1枚ずつ表向きにQが出現します。この段階で、3枚のQがDFカードと入れ替わっているわけです。そして、マクドナルドエーセスの現象へと続けられます。 |
1972年に発行された "New Stars of Magic" シリーズの2冊目がフランク・ガルシアの "McDonalds $100 Four Ace Trick" です。毎回違った方法でAを消失させる考えは、1961年8月のMUM誌のKen Krenzelのコラムで触れられていたそうですが、有名にしたのはガルシアで間違いありません。バーノンによるマクドナルドエーセスが発表された頃までのAの消失法は、片手で投げ出す方法が基本でした。これも優れているのですが、毎回こればかりでは面白くありません。また、何故、片手なのかの疑問も感じさせていまう恐れがあります。ところで、1960年にツイスティングエーセスが発表された以降は、エルムズリーカウントがなくてはならない存在の時代となります。マクドナルドエーセスのAの消失法のためにも、最も重要な技法と言っても過言ではありません。L&L社から2007年にマクドナルドエーセスの7作品を集めたDVDが発行されています。最後の1作品はDFカードを使っていませんので、厳密にはマクドナルドエーセスとは言えません。それ以外の6作品の全てにエルムズリーカウントが使われていました。特に1枚だけが表向きのAが、カウントにより全てが裏向きとなり、パケットを表向けるとAが消失している現象はビジュアルです。この後、2枚ずつ持ってオーラムサトルティーやフラシュトレーションムーブにより裏を示しながらテーブルへ表向きに置かれると、4枚の普通のカードの裏表を見たと確信してしまいます。また、1枚だけの表向きのAが、エルムズリーカウントによってA以外のカードにチェンジし、その後、全ての裏を見せたようにテーブルへ置いてゆく方法も魅了されます。このようなビジュアルで不思議な現象により、これまで以上にマクドナルドエーセスの人気が高まります。上記でも報告しました2010年の加藤英夫著「Card Magic Librery 第6巻」には、マクドナルドエーセスの消失法が11も解説されていました。たいへん参考になりました。 |
スリーフライのコラムでも触れましたように、90年代頃よりクロースアップを演者が立って、遠方の観客にも見やすい現象の作品が登場するようになります。ギャリー・カーツが先駆者の一人ですが、1995年のワールド・マジックサミットでマクドナルドエーセスを立った状態で演じられました。クロースアップのレクチャー会場は広くなく、100人ほどで入れなくなる状況でした。後方から立って見ていたのですが、テーブルの上が全く見えません。ギャリー・カーツは立ったままの演技ばかりでしたので現象がよく分かりました。レクチャー後は拍手が鳴り止まず、レクチャーノートを購入する人が殺到して、レクチャーノートがすぐに完売してしまいました。今後のクロースアップの方向性を感じさせられるレクチャーでした。 |
今回の調査により、天海師が1920年頃に演じられていても不思議ではないことが分かりました。また、「天海のフォーエース」でのAの消失法は単調にならない工夫がされており、優れた作品であることを再認識させられました。そして、原案者のホフジンサーのすばらしさをよりいっそう知ることが出来ました。 |