1970年代中頃から80年代中頃までがパケットトリックの黄金期と言われています。この時期に50万個売り上げた商品があることを知って驚いています。ジム・テンプルの「カラーモンテ」ですが、ほとんどの日本のマニアには知られていません。パケットトリックが次々と商品化されたのはこの頃が最初と思っていますと、1905年から1909年にかけても次々と商品として販売されていた時期があったのも意外でした。このことにより、パケットトリックの歴史は古いと感心していますと、実は1612年には既にパケットトリックが発表されていたことが分かり驚きました。これが英語の文献では初めてのパケットトリックのようです。しかも、これが現在でも非常に一般受けする人気の高い商品として販売されています。
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1.パケットトリックとは。結構多い境界ラインの作品 |
1988年発行のT. A. Watersのマジック百科事典でパケットトリックを調べますと、少数枚によるカードトリックで、通常は12枚以下のことが多いとされています。そして、マジック店で販売されている特別に印刷されたカードや準備されたカードを必要とすることが多いとも書き加えられています。ネットでのMagicpediaの記載も同様な内容ですが、さらに、1970年代中頃から80年代中頃にかけてが黄金期であったことが加えられていました。ところで、少し意外であった記載が2007年度のBart Whaleyのマジック百科事典です。まず、パケットとは2枚から51枚のことと書かれていたのには驚きました。しかし、6枚以上で使われることが少ないとも記載されていました。そして、パケットトリックとはフルデックより少ない枚数を使ったトリックで、2から6枚の使用時はスモール・パケットトリックと呼ばれているとも書かれています。少し考え方が変化してきているのでしょうか。さらに、今回の調査により、境界ラインの作品が結構多いことが分かりました。
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私が初めて買った商品のパケットトリックは、二川滋夫氏の「チュクチュクトレイン」だったと思います。楽しいイラストのマジックであっただけでなく、最後の意外な結末に驚いてしまいました。その後、たくさんのパケットトリックを購入しましたが、現在でも演じ続けているのはマジックランド社製のジャンボカードサイズの「ニンジンとウサギ」ぐらいになりました。一般客の前ではクロースアップマジックとしてよりもパーラーマジックとして演じる機会の方が多くなっていたからです。この「ニンジンとウサギ」の元になるマジックについてマジックランドで伺ったことがありました。タマリッツのウサギとリンゴのイラストを使ったパケットトリックとのことです。私もリンゴよりもニンジンであるべきだと思いました。このマジックのすばらしさは、現象の楽しさと意外性があるクライマックスです。さらに、4枚だけで演じることが出来て、終わった後は全てのカードを調べさせることが出来る点も気に入っています。
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私の場合、1990年代前半に小学生の前で演じる機会が増えました。もちろん、この「ニンジンとウサギ」も演じていました。ところで、何故かその頃だけ「ニンジンが好きな動物でマジシャンの帽子から出てくる動物は何でしょうか」と尋ねると、へそ曲がりな「ウマ」といった回答がかえってきました。一人がウマと言うと、数名が一緒になって「ウマ」「ウマ」と「ウマ」コールとなったことがあります。他の場所で演じた場合でも、「ウマ」コールとはなりませんでしたが、2カ所で「ウマ」と答えた子供がいました。その頃だけの現象で、その後は全くありません。このことをきっかけに、マニアに演じる場合には、帽子から大きなウマが出てくるイラストにすれば面白いだろうと考えました。最初は5枚の両面ブランクカードにイラストを描いて作ったり、4枚だけで可能なように作りかえたりしました。しかし、最終的には本来のマジックランド社製「ニンジンとウサギ」のイラストに、そのままウマを描き加えても可能なように作りかえることが出来ました。この作品は1995年の厚川賞パーティーのゲスト出演時に演じさせて頂きました。何がきっかけになるか分かりません。 |
今回の調査で、パケットトリックの日本での考案者の実力が、海外と比べても負けていないことが分かりました。パケットトリックの黄金期の新しい特徴点は、イラストを使った作品が多数発表されるようになったことです。楽しいストーリーやクライマックスがあって、私もこの点でパケットトリックの虜になりました。特にエマーソン&ウエスト社から多数のパケットトリックが発売され、その中にイラストを使った作品が多く含まれていました。ラリー・ウエストの作品が多いのですが、他の作者の作品も多く製作されています。今回、手持ちのパケットトリックを調べてみて意外であったのは、イラストを使った作品の海外のものがほとんどなかったことです。購入していたのはニック・トロストの "Horsin' Around" とマーティン・ルイスの "Rabbit Test" 、そして、コロンビニの "Fly Cards" ぐらいでした。いずれもエマーソン&ウエスト社以外の製品です。
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2005年に英国のポール・ハラス(ポール・ハリスではありません)により "Small But Deadly" が米国のH&R社から発行されました。パケットトリック愛好家のハンドブックとして書かれた170ページほどの本です。その最後にベスト10が掲載されていました。著者が発行の雑誌 "Alchemy" の読者や彼のマジック仲間やウェブのフォーラムから、ベスト・パケットトリックについて尋ねた結果とのことです。集計に至る詳細は分かりません。結果として1位が「ツイスティング・ジ・エーセス」、2位が「ワイルドカード」、3位は「カラーモンテ」と "B' Wave" 、5位が "Twisted Sister" と "Gypsy Curse" 、7位が「カード・ワープ」と「カスケード」と「Dr デイリーのラスト・トリック」、10位が " NFW " と "Tipsy Cards" となっていました。聞いたことがない作品が入っていたり、意外に思ったのがイラストを使った作品がほとんどなかったことです。"Tipsy Cards" の最後にイラストのカードが登場していただけです。また、「6カード・リピート」や「オイル&ウォーター」や「オイル&クイーン」や「サイドウォーク・シャフル」が入っていなかったことも意外でした。これらは11位の後で続いて登場するそうです。
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驚異の売上数となったのがエマーソン&ウエスト社の「カラーモンテ)(ジム・テンプル作)です。前記のポール・ハラスの本に50万個の売上げと記載されていたのですが、間違っているのではないかと疑いたくなるほどです。3枚のカードだけで演じる3カードモンテですが、3枚ともバックはレギュラーのバックです。表には中央に大きな赤ダイヤのマークのカードが2枚と、青ダイヤのカードの1枚が示されます。青ダイヤをボトムに置いた状態で、1ドルを賭けて青ダイヤの位置を当てることになるのですが、下上中の3枚ともに赤ダイヤになっています。3ドル損をしたことになります。もう一度青ダイヤが示され、今度は赤ダイヤを当てる賭けとなりますが、3カ所ともに青ダイヤで合計6ドルの損です。さらに負けて7ドルとなり、赤と青ダイヤの1枚ずつが表向けられた状態で、残りの1枚のカードの色を当てる賭けとなります。今回は7ドルを賭けた大勝負ですが、意外なクライマックスになります。
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彼の最初のパケットトリックは、1973年の "Full Circle" といわれています。翌年には "Rapid Transit" が発表され、その後、ちょっと変わった商品として"Pointer" があります。商品化されていないパケットトリックも多数あり、1990年発行の "Focus" では60作品も解説されていました。2005年にはトン・小野坂氏により日本語訳され、東京堂出版より「パケット・トリック」の名前で発行されています。この本の中で私に大きな影響をあたえた作品が "Bodkin" で日本語版では「奇数偶数」となっていました。私の好きなテーマの現象ですが、ダブルリフトの繰り返しが多く、なんとか減らせないかと考えていると、全く使用せずに行える方法が考案でき、私のマニア相手のレパートリーとなりました。この本の発行後もパケットトリックの考案は続けられており、商品化もされています。その中でも1番の代表作が "B' Wave" でしょう。そして、その後発売された「選ばれた色」の面白さと不思議さが強烈で、パケットトリックを買うことがなくなっていた私が購入し、頭の良さに感心させられました。 |
テンヨー社から三つのカードトリックをセットにした「ニューカードマジック」が販売されています。この3作品ともにパケットトリックとして歴史のある名作ばかりであることが分かりました。特に4枚のキングが4枚のエースになり、そして、4枚のブランクになるトリックが、英語で解説された最初のパケットトリックであったことに驚いています。1612年発行の英国のサミュエル・リッドによる "The Art of Lugling or Legerdemaine" (奇術と手品の技術)に解説されていました。これを日本では「三面相カード」や「ショッキングカード」等の名前で販売されていたことがあります。この記載より古いパケットトリックの解説は、イタリア語で書かれた1593年のHoratio Galasso著による "Giochi De Carte" の4枚のカードが別のカードに変わるトリックだけです。その後、19世紀のモダンマジックの本にも、同じ原理を形を変えて発表されていますが、やはり、私が気に入っているのはサミュエル・リッドの2回変化する方法です。
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1593 Horatio Galasso Giochi De Carte 4枚が他の4枚に |