2000年代に入って、驚くべきフォールスシャフルが登場します。Karl Hein のヘインシュタインシャフル(ハインシュタインシャフル)やDerek DelGaudioによるデルガゥディオシャフルです。空中でのリフルシャフルの後、フラリッシュ的にそろえる操作のウォーターフォールを行う中で全体を元に戻しています。これらの方法は、何の知識もなければ繰り返し見ても混ざっているとしか思えません。恐ろしいシャフルが発表されたものです。今回はこのようなフォールスシャフルが出来上がるまでの歴史を調べてみました。ところで、ウォーターフォールを使ったフォールスシャフルは、これが最初ではありません。80年ほど前には別の発想によるフォールスシャフルが発表され、10数年前にはGuy Hollingworthも使用されています。さらに、元となるリフルシャフルやウォーターフォールについての歴史を調べますと意外なことが次々と分かってきました。そこで、これらについても興味深い点を中心に報告することにしました。 |
空中で行うリフルシャフルの後で、必ずと言ってもよいほど行われているウォーターフォールを、効果的に使ったフォールスシャフルです。実際には、本来のウォーターフォールが行われていません。スプリングにより飛ばしているだけです。しかし、これをうまく行うと、ウォーターフォールしているのと同様に見えるのが驚くべき点です。このようなフォールスシャフルが最初に解説されたのは、2001年4月号のGenii誌です。Karl HeinによるThe Heinstein Shuffleです。多数のイラストも使って解説されているのですが、これを見た時の私の印象は、空中で行うザローシャフルかと思った程度です。その後で行うウォーターフォール(スプリング)により、混ざっていることを印象づけている重要性には気づいていませんでした。 |
上記の元になるフォールスシャフルを、レナート・グリーンは1990年代には既に行っています。1988年のFISMや、同じ内容で再チャレンジされた1991年のFISMにも使われていた可能性が高そうです。しかし、ハッキリしたことは分かりません。1997年FISMのゲスト出演の映像では明らかに使用されています。2004年発行のレナート・グリーンの6巻セットのDVDが、2009年にはスクリプト・マヌーヴァ社から日本語字幕版で発行され、その第4巻で彼の各種フォールスシャフルが解説されています。その中のリアル・グリーンシャフルがここで取り上げていますシャフルです。空中で逆ハの字型にしてリフルシャフルを行い、一直線に近い状態にしつつ絡んだ状態を外し、ウォーターフォール(スプリング)に続けています。その解説の中で、アンドラスのサタンシャフルの名前が登場します。それは数年前に発行されたアンドラスの3巻セットのDVDの1巻目に解説されています。しかし、本では1976年の「アンドラス・カードコントロール」に既に登場していました。さらに、これの元になるフラリッシュ的なシャフルが、1956年の彼の本「アンドラス・ディールス・ユー・イン」に解説されていることも分かりました。スプリングシャフルの名前がつけられており、これをフォールスシャフルに応用したのがサタンシャフルとなるわけです。 |
レナート・グリーンは1990年代に大阪のRRMCに2回参加されています。1回目は1994年の横浜FISMの後、タマリッツ、トパーズ、シーレン、マイケル・ウェーバーと共にRRMCに参加されました。この時にマジックを披露されましたが、今回取り上げたフォールスシャフルを行っていたかは覚えていません。2回目は1999年11月で、時間をかけて各種テクニックを目の前で見せてもらえました。この時には、このフォールスシャフルを含めた各種の方法を実演されました。私の印象では、彼独特のタッチのシャフルであり、私向きではないと思いながら見ていました。ところで、大阪では鎌苅吉良氏が早い時期から同様なシャフルを行っています。それは独自で考案されたのか、レナート・グリーンの影響を受けたものなのか分かりません。今回の報告までにお聞きする機会がありませんでした。鎌苅氏の方法は、普通の空中でのリフルシャフルとウォーターフォールに近い状態で行っており、その後の進化した方法の先駆けと言えそうです。 |
ウォーターフォールを使った古いタイプのフォールスシャフルが、1933年のイギリスのVictor Farelliにより解説されています。"Farelli Card Magic"の本の中の「ウォーターフォール・ブラインドシャフル」です。ウォーターフォールを行うのですが、一方のパケットをエンドから1センチほど突き出した状態で残しています。この突出部分を引き抜いてカットしたように見せています。これは実際に行うと分かりますが、うまく出来ません。完全に重なってしまったり、逆に、うまく突出させようとすると、サラサラと落下せずに、ウォーターフォールしたように見えない状態になります。これを改良した方法が、戦後に集中的に発表されます。シャフル時はデックが横向き状態になりますが、デックのサイドの演者側に突出させようとしたのが、1947年のMax Katzと1950年のHenry Hayです。1949年のル・ポールの本では斜めに突出させるようにしています。さらに、これらの改良された方法が、1990年代後半に集中的に発表されます。1997年のEric Andersonの方法や1999年のGuy Hollingworthの本の方法では演者側サイドに突出させています。また、1998年11月号のMAGIC誌のDanny Archerの方法では、一方がわずかに斜めになりように工夫されています。なお、この頃のレナート・グリーンは、同様な方法のフォールス・アングルシャフルを既に使われていたと思いますが、まだ解説はされていませんでした。 |
Guy Hollingworthは1996年にマジックランド主催の箱根クロースアップ祭にゲスト出演され、その時に彼のフォールスシャフルが実演されました。その後のフリータイムの時に、その方法に関連して、Yuji村上氏がご自身の方法を披露されて彼を驚かせています。村上氏の方法は2009年発行の作品集 "Starting Members" の中で "Try-Out Shuffle" として発表されています。シャフルで一端を絡ませた状態で、右手で上方から鷲づかみにして左手へスプリングしながらそろえる方法を採用されています。二つのパケットが驚くべき状態になります。解説や映像では理解できても、実際に行うと、なかなか出来るものではないことが分かります。最近では、この作品集のDVDが発行されていますので、是非、映像でも見て下さい。なお、前回のRRMCの例会で川島友希氏は、本来のウォーターフォールをしているように見せながら村上氏と同様な状態にして、直ちにデックを元の配列に戻してしまうフォールスシャフルを実演されていました。 |
リフルシャフルは1894年のイギリスのJohn Nevil Maskelyne著「シャープ&フラット」の本に既に登場しています。この本により最初に解説されたと思うのですが確信は持てません。この本にはリフルとだけしか書かれていません。リフルがリフルシャフルを意味しています。1902年のアードネス著「エキスパート・アット・ザ・カードテーブル」の本でも同様でリフルだけの記載です。日本語版のアードネスの本では、分かりやすいようにリフルシャフルと書かれています。しかし、原書の再版では現在でもリフルのままです。リフルシャフルの用語が一般的になるのがいつ頃からかを調べましたが、今回は分かりませんでした。なお、リフルシャフルはギャンブルでの使用で、表を見せないシャフルとして登場しています。つまり、テーブル上で行うリフルシャフルです。 |
マジックの世界ではザローシャフルが有名ですが、これが文献上に登場するのは1957年で比較的新しい技法です。それ以前では、プッシュスルーとストリップアウトの技法が知られていました。特にプッシュスルーの歴史は古く、1865年や1894年の本に既に登場しています。1865年の本の時代には、まだ、リフルシャフルが使われていませんが、フェロウシャフルのような方法の中で、プッシュスルーさせることを記載していました。 |