セルフワーキングは好きではありません。なかでも、ダウンアンダーは大嫌いです。このように、2004年の「掌・パーム22号」の記事の中で書きました。この考えは、今日でも基本的には変わりません。ところが、嫌いと書きつつも、セルフワーキングの作品やダウンアンダーを使った作品を多数発表してきました。また、セルフワーキングに関連した文献を出来るだけ購入しています。私の場合、セルフワーキングマジックは嫌いでも、その中で使われた原理の魅力にはまっていたからです。セルフワーキングが何故嫌いになったかの理由は後で報告します。
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セットを必要とせず、シンプルな操作だけで効果的な現象が起こるのであれば、セルフワーキングはもっと好きになっていたはずです。しかし、私が見たり読んだ多くのセルフワーキングが、それとは全く逆でした。ダラダラとした繰り返し操作が多く、時間をかけている割に、現象の弱いものがほとんどでした。しかも、セットを必要とするものも多数ありました。ダウンアンダーも15枚以上で繰り返されると、ダラダラした印象の作品となります。そして、単なるカード当てで終わっている作品が多く、インパクトも意外性もありませんでした。
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はっきりとした規定をどのようにすべきかよく分かりません。私の考えでは、特別な技法を必要とせず、誰でもが自動的に現象が起こせるマジックといった印象があるだけです。今年に入って発行された2冊の本ですが、実を言えば、どこにもセルフワーキングの本とは書かれていません。私が勝手にセルフワーキング関連の本と紹介しただけです。加藤英夫氏の本では、マセマティカル原理を中心とした作品集として書かれています。また、ロベルト・ジョビーの本は、技法を必要としない作品の本として書かれています。このような記載の方が、内容の規定がはっきりしています。
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2010年3月発行で、この第5巻には、第15章から20章までが解説されています。そして、全ての章がマセマティカル原理を元にした作品となっています。それぞれがすばらしいのですが、その中でも、私の印象が強かった部分を中心に報告します。
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2006年に「カードカレッジ・ライト」(ドイツ語版1988年)、2008年に「カードカレッジ・ライター」(ドイツ語版1992年)、2010年に「カードカレッジ・ライティスト」(ドイツ語版1995年)の3冊が英訳され発行されています。3冊共に技法を使用しないカードマジックの作品集です。
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27枚のカードで三つの山を作ることを繰り返し、客のカードを当てるトリックです。もしかしますと、このトリックが私のセルフワーキング嫌いの原因の一つになった可能性があります。27枚を3回も配ることを繰り返せば、カードが当たるのもあたりまえのように思います。そして、時間がかかりすぎです。このトリックの改案で、すばらしいと思ったことが一度だけありました。1969年の奇術研究53号に厚川昌男氏が「邂逅」と「透視」の2作品を発表されたことがあったからです。2作品ともすばらしい改案で、演じてみたい気にさせられました。しかし、手間のかかることには違いがありませんので、演じることにはなりませんでした。
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この本のセルフワーキングに関する奇妙な点は既に報告しました。しかし、それだけではなく、いくつかの問題点があります。この中で解説された「26th ロケーション」ですが、作者名の記載がありません。これは、2年前の1938年のマジック誌 "Genii" 7月号に解説されたオスカー・ウェイグルの「オートマチック・ロケーション」が原案です。26枚目のキーカードを使って、デックを3分割させ、シャフルさせたトップパケットのトップカードを覚えさせて、三つのパケットを重ねあわせてカットしたにもかかわらず、客のカードを当てるマジックです。(原案ではボトムパケットのボトムカードも覚えさせていました) この作品が少し変更されて、「ロイヤルロード・トゥー・カードマジック」や多くの文献に登場することになります。しかし、原案者名の記載はないままです。
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1983年に高木重朗氏の編集で東京堂出版より発行され、今日でも人気のある事典です。多数の技法や作品がコンパクトに解説され、調べたい時に重宝する本です。技法を使用するマジックは、すばらしい作品がそろっています。それに比べますと、セルフワーキングに関しては、掲載しているのが疑問に思える作品が多数ありました。不思議に思い、詳しく調べますと、1976年発行のカール・ファルブス著「セルフワーキング・カードトリック」に解説された全ての72作品が、そのまま掲載されていました。何故、この本をまるごと含めてしまったのか疑問です。この本以外に、テンプル・C・パットン著「カードトリック・エニーボディー・キャン・ズー」の37作品中22作品が掲載されていました。そして、この2冊の本以外からもセルフワーキングの作品が掲載されていますが、それらは各種の本から選ばれた名作がそろっていました。
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今回のテーマのセルフワーキングに関しては、どうしてもきびしい記載になってしまいました。操作にもう少し工夫を加えたり、演出面で面白さを加えてほしい期待が強いからです。私は不思議さの強いマジックだけでなく、インパクトや意外性のあるマジックが好きです。そういった点で、それよりも大幅にかけ離れたセルフワーキングが多かったことも嫌いになった理由の一つのようです。スピードアップや不思議さを強めるために、技法を加えることも考えています。
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