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コラム



第41回 2009年 I.B.M. 大会報告(2009.7.21up)

はじめに

今回は音楽の町でもあるテネシー州ナッシュビルで、6月30日から7月4日まで開催されました。空港もホテルの中もカントリーミュージックであふれていました。昨年は I.B.M. と S.A.M. の合同大会のため2000人近くの大きな大会となりました。それに比べますと、今年の参加者は、昨年の半分より少ない状態ですが、本来の I.B.M. 大会に戻った感じがしました。しかも、私にとっては、欲しい資料がたくさん手に入り、充実した大会となりました。それでは、いつものように、最初にコンテストの結果報告から始めます。

アダルト部門、コンテスト結果

■クロースアップ・コンテスト
1位 Ryu Hyun Min  韓国
2位 Ray Adams USA
ピープルチョイス賞 Atsusi Ono カナダ(日本人、現在はカナダ在住)

■ステージ・コンテスト
1位 Richard Forget カナダ
2位 Peter Pitchford USA
ピープルチョイス賞 Jei Min & Hanna 韓国

なお、ステージ・コンテストには、日本から加藤陽氏が出場され、決勝戦のファイナル6に勝ち進みました。しかし、残念ながら、入賞は逃しました。

クロースアップ・コンテスト

1位の Ryu Hyun Min は、昨年のUGM大会でのクロースアップ・コンテストで1位を獲得しています。カードを中心に使っている点は同じですが、今回の内容は大幅に変わっています。立てた棒の上部に、手紙が入っていた小さな封筒が付けられます。サインされた客のカードやシールが貼られたスペードのAを使って、かなり不思議でビジュアルな現象が起こります。既成のカードマジックの概念とは違っているためか、方法の解明の手掛かりすらつかめませんでした。実演を見て、不思議さをあじわって頂くのが一番のようです。幸運にも、今年の8月に開催されますUGM大会のゲストとして出演が決まっています。私ももう一度見れるのが楽しみです。彼の演技で問題点を挙げるとすれば、最初に手紙を読み上げる場面があるのですが、少し長く感じたことぐらいでした。

2位の Ray Adams は、1位の演技者とは対称的です。既成のマジックに少し工夫を加えた程度で、新鮮さは感じられませんでした。そして、堂々とした演技態度は、プロ・マジシャンらしさを感じました。ただし、技術面で1カ所だけ問題を感じる部分がありました。サインさせた紙幣が消失して、客が持っていたキュウイの中から取り出されるマジックです。最も視線が集まって注目されているところで、キュウイのチェンジが行われたからです。キュウイを持っていた観客には成立しているのでしょうが、観客席からはチェンジしている状況がよく分かりました。これがクライマックスとしての現象でしたので残念です。多数の観客が前面にいるコンテストとしての工夫の必要性を感じました。

ピープルチョイス賞のAtsusi Ono は、この賞を獲得したのが納得出来る程うけていました。マジックペンとコインを使ったマジックです。左右の手にペンとコインを持って開始しようとしますが、一方が消失したり、両方が消えたりして、先に進めることが出来ません。また、先に進んでも、奇妙な出来事が起こってしまいます。その都度、両手にペンとコインを持った状態にリセットされ、「サムライ・コイン・トリック」と言って、再チャレンジが繰り返されます。この繰り返し時のフレーズが、耳に焼きついています。このフレーズを言う時の堂々とした態度と、その後のとまどってしまう情けない表情が、彼の良い味を出しています。二枚目なのに三枚目の役がこなせるユニークさがあります。実は、彼は数年前に、このフレンチドロップに出演していたレニー・チャンです。現在はカナダに住んでいます。

私は彼とは初対面で、演技を見たのは初めてです。技術的な完成度が高く、不思議さがあるだけでなく、何よりも面白さがあります。ピープルチョイス賞を獲得したぐらいですから、多くの観客から、何故、彼が2位になれなかったのか不思議に思われている可能性があります。

問題点をあげるとすれば、リック・メリルの存在です。メリルは2004年の I.B.M. 大会で1位を獲得しています。また、2006年の FISM でグランプリを獲得しています。マジックペンとコインを使って、スピーディーに次々と奇妙な現象を起こしていました。しかも、クライマックスでの、これでもかと言わんばかりのすごさには、圧倒されてしまいました。今回の場合には、メリルの演技と、どうしても比較されてしまいます。それだけでなく、審査員には、まねしていると受け取られそうです。マジックペンの消失と再現が、リック・メリルの名前と結びついて、強烈な印象で焼きついているからです。二人の内容や演出には違いがあるのですが、現段階ではしかたがないのかもしれません。そのような意味からも、コンテストでは絶対に行うべきでなかった現象があります。リック・メリルが演じていたことと全く同じ現象を行っていた箇所があったからです。マジックペンを太ももに打ちつけて、ペンが消失し、コインが太ももより跳ね上がってくる現象です。大いにうけますし、拍手も取りやすいところです。しかし、リック・メリルの演技の印象の強いところでもあるからです。もっと、リック・メリルとの違いをアピール出来る要素を加えるべきだと思いました。また、クライマックスはスッキリした終わり方になっており、私は好きですが、これも、リック・メリルと比較されると弱いと取られそうです。今後の活躍が大いに期待出来るマジシャンですので楽しみです。

ステージ・コンテスト

1位のRichard Forget は、アメリカでも活躍中のカナダ出身プロ・マジシャンです。全体の構成と安定した内容で魅了していました。新聞を開いた記事の内容から、様々な出来事が起こります。サッカーの記事のページからサッカーボールが落下します。傷害事件の記事では、大きなナイフが取り出され、演者の指が切り落とされます。もちろん、その後で指を復元させています。また、別の記事により、バラの花が取り出され、花とシルクとボールが組み合わされた演技がなされます。恐ろしいのは戦争の記事です。新聞を広げている内側から、激戦の紛争状況が表現されます。その後、1枚の新聞紙からハトが作られ、羽を羽ばたかせ、クライマックスにつなげています。ロベール・ウーダンのオートマタ(自動装置)を思い出す演出で終わります。ナイフで指を切り落とすシーンには問題を感じましたが、最後の平和を表現する演出は気に入りました。

2位のPeter Pitchford は、カーディー二にあこがれたさえない掃除夫が、次第にカーディー二に変化してゆくマジックです。全体はコミカルな演出ですが、技術が安定しており、うまさが感じられます。そして、カーディー二・タッチのカードやボールの演技が行われました。軽快なテンポの子犬のワルツの曲に会わせて、ボールを指間でローリングさせたり、奇妙な動きを見せるフラリッシュは、行ってみたい思いにさせられました。ステージの中央には、カーディー二と奥さんの有名なツーショットの大きな写真のつい立てがあります。この前で、次々と演技が行われるわけですが、最終的には、その写真と全く同様に、モノクロメガネをかけ、マントを羽織った状態に変身します。そして、いつの間にか現れた写真と同様のコスチュームの女性とのツーショットとなって終わります。

ピープルチョイス賞の Jei Min & Hanna は、コスチュームチェンジと人体浮揚を演じました。ディズニーのシンデレラと白雪姫をミックスさせたストーリーの演出で、コミカルに演じられました。その点がピープルチョイス賞獲得の要因となったのかもしれません。今回のステージ決勝戦の6人は、全員がアダルトでした。予選では29名が出場しており、高い得点の6名が決勝戦へ出場出来ます。毎年、1~2名のジュニアが決勝戦にも出場していましたが、今回は6名の中にジュニアが含まれていませんでした。

決勝戦へ勝ち進んだ加藤陽氏は、日本からの一人だけのステージ・コンテスト出場者でした。惜しくも入賞を逃しましたが、賞を獲得してもおかしくない演技でした。ウォンドとシンブルの演目ですが、いずれも、ここまで進化したのかと驚かされる内容でした。ジャグリング要素も取り入れて、リズミカルでミスがなく、オリジナル性と不思議さが満載でした。賞を逃した要因として考えられることが一つだけあります。アメリカでは、もう少し、重厚さがあった方が良いのかもしれません。クライマックスでは、少し長いウォンドを使った分裂と色変わりが行われましたが、さらに、もう一工夫必要なように思いました。その部分だけが、少し物足りなく感じましたが、全体的には、感動的な演技でした。

今回の特徴的なことは、ステージ・コンテストに韓国から4名が出場されていたことです。決勝戦の6名には、上記で紹介しましたJey Min & Hanna 以外に Min Soo Choi が勝ち進みました。光り輝くボールを使って星をイメージさせ、クライマックスにはステージ上に北斗七星を作り出していました。決勝戦には残りませんでしたが、印象的な演技をされたのが Ryu Hyun Min です。彼はクロースアップにも出場しており、そちらでは1位を獲得しています。棒を取り出し、その先に四角の紙を付けると、自動的に折れ曲がり、カザグルマになります。このカザグルマを中心とした演技で郷愁を感じさせられました。オリジナル性は強いのですが、やはり、重厚さに物足りなさを感じました。

ゲスト・ステージショー

今回のメインゲストは、最終日に演じられました島田晴夫氏です。ハトとカードの演技とドラゴン・イリュージョンを演じられました。昔と変わらずすばらしい演技に、もちろん、スタンディング・オベーションとなり、惜しまない拍手がおくられました。別の日のスターショーには、山本勇次氏がゲスト出演され、シルクの演技に観客を魅了していました。次々と繰り返される不思議さの強いシルクの分裂や、後半のテンポアップした曲にもピッタリと一致されたシルク・プロダクションは圧巻でした。さらに、この日の最後を飾った韓国のアン・ハリムによるカード・マニピュレーションは、何度見ても圧倒される内容で、勢いは衰えず、もちろん、スタンディング・オベーションとなりました。そして、この後、その日の出演者全員が舞台へ登場すると、スタンディング・オベーションで拍手が鳴り止みませんでした。

おわりに

今年も韓国の勢いが印象的でした。ステージ・コンテストでは、1位や2位を獲得出来ませんでしたが、二人が決勝戦に進み、残り二人も印象的なマジックを演じられました。そして、クロースアップでは1位を獲得しています。日本も負けてはおられません。ステージとクロースアップに、それぞれ1名が出場され、決勝戦のファイナル6に残る結果となりました。今年は、FISM が中国で開催されますが、これをきっかけに、アジア全体が盛り上がってくれることを期待しています。


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