「ラジオ番組でマジックを演じることになりました」
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2003年から約1年間、毎週、スペインのラジオ番組でタマリッツが演じたマジックを、1冊の本にまとめたものです。35のマジックと、ちょっとした軽いタッチのトリックやジョーク的なものも紹介されています。そして、最後には、ラジオで演じるためのいくつかのアイデアや原理も紹介されています。読んでいて、すばらしい刺激ばかりを受けてしまいました。既成の原理であっても、タマリッツによる頭の良い改良が加えられていたからです。それだけでなく、ほとんどの作品には面白い演出が加えられていました。
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この本には35作品が解説されていますが、全てがそのまま日本で使えるわけではありません。英語の文字を使った作品や、かなり大変な操作を強いられる作品があるからです。また、私の判断でふさわしくないと思った作品もあります。しかし、それらについても、十分に楽しく読ませてもらえました。面白いアイデアが使われていたり、無謀なことにチャレンジしたりしていたからです。結局、約半数の作品だけが、そのままか少しの改良で日本のラジオで使えると判断しました。その中でもベスト3をあげるとすれば、次の3作品となります。
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もしかしますと "The Horoscope " をベスト1の作品として選ぶべきであったのかもしれません。Magic 誌でのこの本の書評欄では、その評者の好きな作品ベスト3のトップに紹介されていました。ポケットに入れたカードが、その日の新聞の広告に予言されている現象です。よく混ぜた中から選ばれた3枚のカードの1枚を、表を見ないでポケットへ入れています。残りの2枚は、新聞の2桁のページ数です。そして、別の2枚のカードの数を加えた値が、上からの広告の番号になります。客により、広告の予言がコメントと共に読み上げられ、ポケットの中のカード名が当てられます。
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バーバルマジックの本で私が気に入っている点は、各作品の最後に、使用された原理の歴史について、きっちりと書かれていたことです。この本を英語版にする時に、マックス・メイビンやスティーブン・ミンチが関わっていたことが、より正確性を高めていたものと思われます。
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上記の "Happiness" のところでも触れました原理です。マジックとは関係なく、一人でこの操作をして遊ぶだけでも、不思議で楽しい思いにさせられます。タマリッツはこの本の中で、数作品にそれぞれ違った方法を取り入れています。
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ほとんど全ての作品に、タマリッツの楽しい演出が加えられています。約 1/3 の作品では、ラッキー(ハッピー)な結末になるか、恋愛をテーマにしてハッピーエンドとなる演出です。M A G I C の文字を魔法の言葉として使ったり、結末でこの文字が現れる作品もありました。特殊なものとして、セックスや性欲に関連した言葉が現れて笑いを取ろうとするものもあります。また、このラジオ番組が始まった2003年がイラク戦争と大きく関わっていた年であり、反戦のメッセージが結末に現れる作品もありました。タマリッツの演出のすばらしさをあげればきりがありませんが、ここでは二つだけ紹介することにします。
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シャフルが可能な部分では、出来るだけシャフルさせています。そして、現象が起こる前には、よくシャフルしたことを告げて、その事を再認識させています。シャフルさせる時には、「シャフル、シャフル、シャフル」と3回続けて言い、客の記憶にシャフルの言葉が残りやすいようにしています。客がデックを取り出したり、数枚のカードを取り出させた最初の段階でシャフルさせているだけです。しかし、シャフルした記憶だけが残り、演技後には、シャフルしたのに不思議な現象が起こったと思わすようにしています。2005年に、マジックランド主催の箱根クロースアップ祭でタマリッツがゲスト出演しました。その時のことで、「シャフル、シャフル、シャフル」と繰り返し言っていたことが、今でも私の頭に焼きついています。
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この本の第3章のパート2は、計算を使ったトリックとなっています。3作品が解説されていますが、3作品共に問題を感じてしまいました。3桁~6桁の数字をいくつか使って、加算や引き算をさせています。これにより、数桁の数字を導き出して、その数に該当するアルファベットを当てはめると、興味ある単語が現れる現象です。リスナーの誕生年の4桁を使ったり、自由に書かせた3桁の数を使ったりもしています。そうであるにも関わらず、最終的には、全てのリスナーが同じ数になるのが面白いところです。そのために、頭の良い発想が使われています。めんどうな計算がありますが、そのことは大きな問題としていません。私が問題と感じたのは、リスナーに計算させるいくつかの数字の一部は、タマリッツにより指定された数であったことです。この数は、ラジオスタジオの客にフォースして選び出されていました。5枚や6枚のカードをフォースして、5桁や6桁の数として使っています。あるいは、5枚の紙に1~5を書いた紙から3をフォースして、1245の数と3333の数を加算させたりしていました。スタジオの客を参加させて、うまく利用した試みと言えます。しかし、少し抵抗を感じます。この本には、他の作品でも、デックのトップかボトムかをスタジオの客に指摘させて、リスナーにも、そちらのカードを使ってもらう場面があります。本を読み始めた時には、このことにも違和感がありましたが、今回の三つの作品では、それ以上に強い抵抗を感じます。ただし、これもタマリッツの新しい試みの一つとすれば、受け入れるべきなのかもしれません。
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この本には、すばらしいアイデアや作品が満載です。しかし、これを普段のマジックにそのまま取り入れても、うけるとは限りません。バーバルマジックは、ラジオ番組や多人数の前で、客自身に操作させるマジックです。このような状況は、ほとんどないといってもよさそうです。実際面では、セルフワーキングマジックとして演じることになります。しかし、この二つの間には、いくつかの点で違いがあります。セルフワーキング用に変更する必要があります。
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今回のテーマの最初の予定では、セルフワーキングの各原理の歴史変遷や、それに関わるマジシャンについても取り上げるつもりでした。しかし、かなり長くなりそうですので割愛しました。バーバルマジックは、最近の海外の文献の中で、最も楽しめた本で、タマリッツの違った面を知った思いがします。そして、セルフワーキングマジックの新たな方向性の開拓者として、タマリッツの名前は忘れてはならない存在となりました。
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前回のコラムでは、パチンと弾いて、たて方向にひっくり返すダブルリフトのことを報告しました。ラリー・ジェニングスが良くない方法と指摘していたのに、1986年のジェニングスの本のオープン・トラベラーの作品の中で、何故か使われていました。しかし、今回、それ以上にびっくりすることが分かりました。
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