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コラム



第37回 3本ロープ、パート2(2008.9.12up)

はじめに

I.B.M.(国際マジシャン協会)の機関誌「リンキングリング」の2008年2月号に、注目すべき記事が掲載されていました。3本ロープの原理が盗作される原因を作ってしまった人物による、8ページにわたる報告があったからです。また、2005年5月号には、他の人物により、別の観点からの最初の頃の3本ロープの話が報告されています。そして、最近のレクチャーDVDで、感激させられた3本ロープがありました。2007年のUGM大会で、レベントが演じた「チャーリー・ミラーの3本ロープ」です。10人の講師によるリレーレクチャーのDVDで演じられています。こんなに不思議で面白い方法があったのかと感激してしまいました。

2003年の私のコラムで、3本ロープを取り上げたことがありました。しかし、その後、新たにいろいろなことが分かり、修正したり、追加する必要性が生じました。そして、今回、3本ロープに関する参考文献も可能なかぎり紹介することにしました。これにより、全体的な傾向を知る手がかりになることを期待しました。

チャ-リー・ミラーのスリーロープ・トリック

2007年のUGM大会でのリレーレクチャーで、レベントが演じられたチャーリー・ミラーの3本ロープには驚きました。同じ長さになった3本ロープを結ぶのですが、一つずつ結び目が消えて、1本のロープになります。一つ目の結び目の消失もあざやかですが、思わず声を出しそうになったのが二つ目の方です。ロープを振るだけで、一瞬にして結び目が消えて、つながったように見えます。これは、ロープを振ることにより結び目がほどけ、ロープが長く垂れ下がり、結び目が消えてつながったように錯覚してしまうからです。レクチャーDVDにおいても、この部分は、何回見てもほれぼれします。

Genii誌にその方法が解説されていますが、これを演じているマジシャンを見たことがないとレベントは言っています。そこで、その方法が解説されています1965年5月号のGenii誌を読みました。私の印象でも、これを読んで、実演してみようと思った人は、まずいないだろうと思ってしまいました。見せ場となる部分の重要な解説がシンプルすぎて、すばらしさが伝わってきません。イラストも省略した部分があり、現象がイメージしにくくなっています。特に、見せ場となる二つ目の結び目が消える現象のイラストは、手を抜かずに描いてほしかったところです。現象が起こる前の、ロープに結び目がついている状態のイラストはありますが、長いはずのロープを簡略化して短く描いているために、実際の状態がイメージしにくくなっています。さらに、ロープを振って結び目がほどけると、どのようになるのかのイラストがないために、このマジックのすばらしさが分かりにくくなっています。適切なイラストや写真があれば、もっと分かりやすく、興味をひく作品になったと思います。

ところで、このマジックには「スリーロープ・トリック」のタイトルがつけられています。アメリカでは、3本ロープの名前はないものと思っていましたが、よく似た名前があったことが印象的です。さらに、この作品が、3本ロープのクライマックスとして、1本につながってしまう現象の、最も早い時期に発表された可能性もありそうです。ただし、同じ長さの3本のロープが1本につながる現象は、Tom Osborneにより、すでに1938年には発表されていました。そのような点から考えますと、「3本ロープ」の現象から1本のロープにする作品は、「プロフェッサーズ・ナイトメア」の発売後、割合早い時期より誰かに演じられていた可能性も考えられます。

3本を同じ長さにするレベントの方法

Genii誌でのチャーリー・ミラーの3本ロープの解説には、本来の同じ長さにする現象の解説が省略されています。この部分が、数年前に商品(プロフェッサーズ・ナイトメア)として販売されたものであることを考慮してのことと思います。これに続く、つながった1本のロープにする部分を、チャーリー・ミラーの方法として解説されていました。

今回のレクチャーにおいても、3本を同じ長さにする部分は演じられていたのですが、解説は省略されていました。レベントはなにげなく行っていますが、DVDでよく見ますと、レベントらしい独特でユニークな発想であることが分かりました。考えられない程にシンプルでスピーディーな方法となっています。注意深く見れば、間違っていると指摘されかねない操作を行うのですが、実際面での動きの中では、そのまま通用してしまうのが不思議です。私もDVDを見ていて、最初は気がつきませんでした。そこには、最も進化した方法ともいえる、左手にセットしていない3本を持って、右手で下端を取り上げて引っ張るだけで、3本が同じ長さになる方法がとられています。しかし、レベントの場合、実際には全ての下端を取っていません。長いロープと中のロープの下端を右手に取りますが、短いロープの下端は取らずに別の端を取っています。このおかげで、一つの操作を省くことが出来て、スピーディーに行えるわけです。堂々と行えば、この方法も面白いと思ってしまいました。

(コーヒーブレイク)レベントについて

レベントのすごさは、2007年のUGM大会に参加された方は実感されたことと思います。まず、ゲストショーにおいて、笑いが止まらないコメディー・マジックに圧倒されてしまいました。さらに、それだけでなく、20年程前まで演じていたステージでのマニピュレーション・マジックの全手順をレクチャーされた時には、感激の連続でした。

1983年のI.B.M.大会にはコンテスタントとして出場しており、彼のマニピュレーションの一部がNHKで放映されました。私はその時に撮ったビデオを、何回も繰り返し見た記憶があります。その後、このマニピュレーションでFISMやその他に出てくると思っていましたが、全く名前を聞かなくなりました。コメディー・マジシャンとして、完全な方向転換をしていたからであったことが、最近になって分かりました。

なお、NHKで放映された時のBGMが、軽快なテンポであったため、当時、誰の曲かを調べたくなりました。結局、最初の部分が、ソニーのウォークマンのデモテープとして付けられていた、日本のザ・スクェアの"Jungle Strut"であることが分かりました。現在ではT-スクェアとして多数のCDを出されていますが、いずれのアルバムにも収録されていないのが残念です。後半のヴァイオリンが使用された部分は、Jean Luc PontyのLPアルバム"Mystical Adventures"に収録された"Rhythms of Hope"と"Final Truth"からでした。いずれも1982年の発行です。BGMに日本の曲が使用されていたことに意外な思いがしたと同時に、親近感がわいたことも思い出します。また、いずれの曲のテンポも少し速く感じられます。マジックには少し使いにくいと思われますが、これが彼のテンポのようです。そして、彼のマニピュレーションでは、なぜ、スムーズに次々と現象が起こるのかが疑問でした。今回のレクチャーにより、次々と取り出す品物が、どのような考え方で準備されている のかが分かり、頭の良さと感心させられることばかりでした。

"Magic"誌の2002年3月号には、彼の特集記事が4ページにわたり掲載されています。それによりますと、彼のマジックの特徴は、マニピュレーションだけでなくコメディーにおいても、次々とスピーディーに現象を起こしていることです。一般のコメディー・マジシャンは、一つのマジックにかなりの時間をもたせています。レベントの場合、2分間に一つのマジックを行っており、50作品以上あるといわれています。さらに、いくつものギャグやジョークが加えられており、まさに、マシンガンのようだと書かれていました。しかも、いずれにも手を抜かず、アイデアとテクニックとコメディーのセンスがすばらしいのです。

彼は13才で、すでに、ニューヨークのマジックショップにおいて実演を行い、小遣い稼ぎをしていたようです。1983年の18才の時には、リチャルディーのショーのマニピュレーション・マジシャンとしてのオーディションにパスして、2週間の契約を結びます。そして、それが延長されて、2年間続けることになります。それにより、マニピュレーションには燃え尽きたと書かれています。1986年の21才の頃より、コメディー・マジックの方へ方向転換してゆきます。ニューヨークのコメディークラブを中心に活躍した後、フロリダへ移りクルージングでのショーを中心に行っています。1988年のI.B.M.大会においては、ゲストとして出演され、マニピュレーションだけでなく、コメディー・マジックも演じられていたことが分かりました。テクニックのすばらしさとコメディーを融合させたジョニー・トンプソンに大きな影響を受け、数年前には、マニピュレーターでコメディー・マジシャンでもあるロイ・ベンソンの800ページもある本をTodd Karrと共著で書き上げています。研究熱心な一面を見せられた思いがします。

2003年の3本ロープのコラム記事における年数記載の修正

前回の3本ロープの報告後、いくつかの点で、年数を修正すべき点があることが分かりました。なお、前回の報告での年数は、2002年8月号の"Magic"誌に掲載された報告を元にしていました。

ボブ・カーバーの3本ロープは、ヘン・フェッチの"Quadropelets"を元にして考案されたことは、本人が数名の人に告げています。そして、この"Quadropelets"の発売年を、2002年8月号の"Magic"誌には、1943年と書かれていました。しかし、それが大きく間違っていたことが分かりました。2007年に、ヘン・フェッチの生涯と発表作品を1冊の本にまとめた"Fetsching Magic"が発行されて、詳しいことが分かったからです。1943年ではなく、1955年が正しいようです。

この正しい年数が分かったことは、非常に重大な意味を持っています。ボブ・カーバーが3本ロープを考え出した年数を、ほぼ特定出来るようになったからです。1955年か、1956年の前半であると、範囲を狭めることが出来るようになりました。2008年2月号の「リンキングリング」誌のBill Spoonerの報告によりますと、ボブ・カーバーから3本ロープの秘密を教わったのが、1956年のマジック大会とありますので、これよりも以前の考案となります。また、1955年のヘン・フェッチの"Quadropelets"の発売よりも後になるからです。前回の報告では"Magic"誌の記載から、1950年代中頃と報告しました。漠然としか書けなかった点は問題がありましたが、間違ってはいなかったわけです。

それでは、間違っていた1943年とは、何があった年なのかが気になります。その年には、ヘン・フェッチの「ロープ・エピック」という商品が発売されています。2種類あったようです。4本のロープが、一気に、つながった1本になる現象の商品と、3色の3本のロープが、同様に、つながった1本になる現象の商品です。

もう一つの修正すべき点は、前回の報告では、Gene Gordonのマジック・ショップより「ポール・ヤングのプロフェッサーズ・ナイトメア」として売り出されたのは1959年としました。ところが、今回のBill Spoonerの報告により、「プロフェッサーズ・ナイトメア」の広告が最初に載せられたのは、「リンキングリング」誌の1958年9月号からであったことが分かりました。つまり、前回の報告より、数か月早い発売となるわけです。前回の報告では、1959年に「プロフェッサーズ・ナイトメア」が発売され、同年の5月にハーラン・ターベルがイギリスにおいて3本ロープを無断でレクチャーしたと報告しましたが、短期間の出来事に違和感を感じていました。しかし、実際には、もう少し期間があいていたわけです。

ところで、2002年の"Magic"誌の3本ロープの歴史に関する記事の情報提供者でもあるJ.C.Dotyは、ボブ・カーバーの学生時代からの友人であるとだけ紹介されていました。その後、Dotyについて調べて分かったことは、10代の時にボブ・カーバーとマジックのコンビを組んで活躍していたことが分かりました。その後もアマチュアとしてマジックを続けており、ボブ・カーバーとは交流があったものと思われます。つまり、当時の記事を書くにあたっての適任者でもあったわけです。そして、このDoty以上にふさわしい人物が、次に紹介しますBill Spoonerとなります。

2008年2月号のI.B.M.「リンキングリング」誌のBill Spoonerの記事より

いくつかの興味深い報告がなされていますが、その中でも印象的な記事は、盗作した人物(ポール・ヤング)との関わりについてです。Bill
Spoonerが20才の大学生であった1957年8月の初め頃、面識のないポール・ヤングに、電話で面談を申し込まれ、マジックのセッションをする中で、3本ロープの秘密を教えてしまいます。ボブ・カバーの作品であることは言ったそうですが、57年9月末頃のMAESマジック大会のコンテストに、このマジックで出場して1位を獲得してしまいます。

さらに、それだけでなく、その後、Gene Gordonのマジック・ショップに、このマジックの販売権利を売りわたします。Gene Gordonが、自分のショップより売り出したヘン・フェッチの"Quadropelets"と重なる現象であることを知った上で、ポール・ヤングの作品が他から販売されるのを阻止する目的で、権利を買ったようです。Gordonは、そのマジックに手をつけずにいたのですが、半年後、ストーリーとセリフをつけて、それにふさわしい「プロフェッサーズ・ナイトメア」のタイトルもつけて売り出しました。「ポール・ヤングのプロフェッサーズ・ナイトメア」として商品が販売された時には、Bill Spoonerはショックを受けたそうです。

そして、今回の報告には、自分の作品ではない物を、その人の許可を得ずに、勝手に秘密をばらしてはいけないことを、特に強調して書かれていました。これ以外の記事では、Gene Gordonは1年間で、考えてもみなかったほどの驚異的な売り上げがあったそうです。そして、困ったことは、偽物の氾濫です。最初の頃は、Gordonもそれを阻止していたようですが、あまりにも氾濫しすぎてコントロール不能となったそうです。特にこのことに関しては、1959年5月に、ハーラン・ターベルがイギリスで、このマジックを無断でレクチャーし、6月にはイギリスで商品が販売され、その後、アメリカでもその商品が売り出されたことも、その一例となります。

2005年5月号のI.B.M.「リンキングリング」誌のBev Bergeronの記事より

1957年のI.B.M.大会において、ボブ・カーバーに3本ロープを見せられ、開いた口が閉じなかったと書いています。何度か、他のマジシャンにも見せるように依頼し、実演してもらったそうです。数年後にボブ・カーバーと再会した時、いろいろ話をする中で、Gene Gordonからの商品「プロフェッサーズ・ナイトメア」との関係についての話を聞いたそうです。すると、ボブ・カーバーはにっこりと笑い、自分が考案者であるとの手紙を書いた後に、Gordonより謝罪の連絡が入り、ポール・ヤングと契約した時と同様の金額を支払うので、契約してほしいと話されたそうです。それに対してボブ・カーバーは、ヘン・フェッチの"Quadropelets"を含めれば、すでに2回も契約金を支払っているのではないかと問い返されたそうです。自分の作品は、基本的な部分は、ヘン・フェッチより影響を受けていることも述べたうえで、契約金の受け取りを辞退したようです。

これ以降、商品にはボブ・カーバーの名前も加えられています。当時の商品を見ていませんのではっきりしませんが、二人の名前を連名にしていた可能性があります。当時としては、ポール・ヤングが盗作したとは思われておらず、同時期に同様な作品が二つ考案されたとGordonは考えたようです。

1980年に発行されたGene Gordonの"Magical Legacy"の本には、ボブ・カーバーから手紙が来た後、すぐにポール・ヤングへ、その事についてのコメントを求めたことが書かれています。ポール・ヤングからの手紙には、驚くべきことが書かれていました。ボブ・カーバーはよく知っており、5年程前には、自分の家に住んでいたと報告していたからです。その頃、ロープ・マジックをしているのを見たことがないし、なぜ、私に連絡してこないのか理解出来ないと書いています。私は二人の意外な関係にはびっくりさせられました。二人の関係がどのような状態になっていたのかは分かりませんが、ボブ・カーバーの考案だと知って、かえって、ポール・ヤングが盗用したのではないかと考えたくなりました。いずれにしましても、Gordonはボブ・カーバーについていろいろ聞く中で、彼は誠実な人で、他人のマジックを自分のものとして主張する人物ではないと分かったため、彼の名前を加えることにしたようです。

3本ロープは同じ長さの状態で終わった方が良いのか

上記のBergeronの報告には、ボブ・カーバーの良い点は、ヘン・フェッチの"Quadropelets"をシンプルにしたことと、セットしていない状態から始めれるようにした点であると書かれています。そして、現象においても、3本が同じ長さになって終わっている点が、シンプルで良いとほめています。1960年代に、ダニンジャーがテレビ番組で3本ロープを演じた時の話が紹介されています。二人に長さの異なる3本ロープを調べさせ、その後、同じ長さにして終わっていました。この時の観客の反応が、特別にすごかったようです。

それでは、長さの違うロープに戻さない方が良いと言うことでしょうか。現在までに発表された作品や演じられている方法の主流は、やはり、「プロフェッサーズ・ナイトメア」として解説された元へ戻す方法です。ボブ・カーバーから教わったというCharles J.Pecorが、1979年に「クラフト・オブ・マジック」を発行し、「カーバー・ロープ」のタイトルで3本ロープを解説しています。しかし、残念ながら、カーバーの原案のままではなく、元の違った長さへ戻し、客へ渡す方法に変えています。最初によく調べさせた場合には、3本が同じ長さになって終わるのもインパクトがあるので、試してみるのも面白いといった程度に、私はこの記事を受けとめました。

3本ロープの参考文献一覧から

全体の傾向を知るために、3本ロープが解説された文献を可能な範囲で探して、年代順に記載しました。なお、同じ長さにする本来の3本ロープのマジックではなくても、3本ロープが1本になる現象の作品も含めました。掲載がもれた作品がいくつかありますが、この文献一覧により、一定度の傾向が分かりました。

まず第一に、「プロフェッサーズ・ナイトメア」や"Equally Unequal Ropes"の商品として販売されて5年程は、文献上に、同様の原理の解説が発表されていないことです。1960年には、ピーター・ワーロックの方法が発表されますが、全く違った原理によるものです。中と短のロープが、長いロープと同じ長さになります。

1964年になって、イギリスのマジック誌"GEN"に、原案となる商品の方法を改案した作品が次々と発表されます。ところで、これらの解説の共通点は、原案者名の記載が一切ないことです。アメリカでは、1965年にチャーリー・ミラーの方法が発表されていますが、同じ長さにする部分の解説は意図的に省略されています。そして、やはり、原案者名の記載がありませんでした。1966年には、スライディーニの作品集"Slydini Encores"の中で、"Long and Short of it"が発表されています。1本のロープを同じ長さに3分割した後、長・中・短のロープに変化させていますが、同じ長さにする方法の解説はありませんでした。なお、この本では、原案をヘン・フェッチの「プロフェッサーズ・ナイトメア」としており、奇妙な記載となっていました。

アメリカにおいて、同じ長さにする方法が文献上で解説されるのは、1970年の作品が最初と思われます。これはかなり斬新な改良が加えられています。つまり、一定度の年数が経過したことと、新しいタイプの方法であるために、発表してもクレームがつけられないと判断されたのかもしれません。

私の調査の範囲では、2000年以前で、ボブ・カーバーを原案者として解説していた文献は少ししかありません。何故か、2作品が1979年の発行となっています。Cherles J Pecorとダン・ガレットの文献です。その後は、原案者名の記載のない解説が続き、1999年9月号のGenii誌での解説まで見つけることが出来ませんでした。2002年のMAGIC誌に、3本ロープの最初の頃の話が掲載されてから、原案者としてのボブ・カーバーの名前が、一気に広まったように思えます。2003年のマジック誌"The Penumbra 2"での解説においても、さっそく、ボブ・カーバーが原案者と書かれていました。日本においては、高木重朗氏がいち早く次々と日本語訳され発表されています。ヘン・フェッチの作品が元になっていることは書かれていますが、ボブ・カーバーの名前が書かれることはありませんでした。

原案者についての私の考えと混乱者について

最近では、ボブ・カーバーの名前が3本ロープ(プロフェッサーズ・ナイトメア)の原案者として定着しつつあります。私としては、このことに反対はしません。しかし、もっとふさわしい原案者名は、ボブ・カーバーとヘン・フェッチの名前を連名にすることであると考えています。3本ロープが同じ長さになる現象は、ヘン・フェッチが発表したものであり、ボブ・カーバーがそれを改良して発表したものであるからです。このことは、ボブ・カーバー自身が認めていることです。ヘン・フェッチの作品と現象がなければ、ボブ・カーバーの作品も生まれてこなかったわけです。つまり、現象の原案者はヘン・フェッチで、この現象を一つの作品として独立させ、今日の操作方法の基本を作った原案者として、ボブ・カーバーの名前があげられるわけです。二人により、今日の3本ロープがあるといえます。

2005年のリンキングリング誌のBev Bergeronの報告の中で、ヘン・フェッチがこの現象を作り出したきっかけは、1930年代のトム・オズボーンの"3 to 1 Rope Trick"(3分割して行うロープ切りマジック)をヒントにしたのだろうと書かれています。1本のロープを3分割に切った状態が、「3本ロープ」のマジックで同じ長さになった状態と同様になっています。長さをずらして3種の長さにすれば、ヘン・フェッチのマジックの開始状態となります。ヘン・フェッチのひらめきのきっかけがトム・オズボーンであったとしても、新しい現象を作り出した彼の作品の価値が下がるものではありません。

ポール・ヤングは3本ロープが創作された頃、誰が原案者であるのかを分かりにくくして、その後に、大きな混乱を作り出してしまった張本人です。しかし、一つだけ認めてもよい功績があります。彼がGene Gordonへ売り込む前に作成していた解説書は、"Stretching and Restoring Three Ropes"となっていたそうです。つまり、伸ばして同じ長さにした後、元のバラバラ状態に戻す考え方を取り入れていたのは、ポール・ヤングであった可能性が高そうです。しかし、部分的に手を加えたものを、全て自分が考案したかのように発表して、商品化する権利を売却することは問題です。

もう一人、混乱を作り出した人物がハーラン・ターベルです。イギリスにおいて、無断でレクチャーして、その後すぐに、広告にターベルの名前を前面に出した商品が売り出されたからです。Bill Spoonerの報告には、ターベルに関しての興味深い記事が掲載されていました。ターベルはボブ・カーバーに頼んで、彼の演技を8ミリフィルムに撮らせてもらっていたことです。また、Gene Gordonがターベルへ、この商品を販売した時に、3回も繰り返し実演させられたそうです。ターベルは、特にロープ・マジックに関しての興味が強く、ヘン・フェッチの"Quadropelets"も知っていたはずです。イギリスのレクチャーでは、このマジックのクレジットや経過を、どのように説明されたかは分かりません。元となるヘン・フェッチの現象を、ボブ・カーバーが改案しているのに、ポール・ヤングの名前で商品が売り出されていると、奇妙な思いがしていた可能性もあります。しかし、いずれにしても、ターベルの名前を前面に出して、偽物が多数出回るきっかけを作ってしまったことは問題です。ターベルが死亡する1年前に、このようなことで、汚点を残してしまったことが残念でなりません。

おわりに

今回は、2003年の「3本ロープ」の報告の補足と修正、そして、最近気に入ったチャーリー・ミラーの方法と、それを演じたレベントの話が中心となりました。新しく開発された考え方や現象、そして、面白い演出については、含めることが出来ませんでした。3本ロープは、これからも新しい考え方や作品が発表される可能性があり、目のはなせない分野といえるでしょう。

■3本ロープ誕生に関連した年代一覧
1938 (3本のロープが1本に復元する現象の原案?)
    KanterよりTom Osborneの"3 to 1 Rope Trick"が販売
    3本ロープのトリックではなく、3分割のロープ切りトリック
    1本のロープを同じ長さに3分割して始め、1本に復元する
    その後の3本ロープのマジックに、いろいろと影響を与えた可能性が大
1955 (3本ロープの現象としての原案)
    ヘン・フェッチの"Quadropelets"がGene Gordonのマジック・ショップより販売
    4段構成のロープ・トリックで、第1段が長さの違う3本のロープを同じ長さに
    最初からセットされた状態で、引っ張るだけで同じ長さになる
1955(56) (3本ロープの操作方法の原案、そして、独立した作品とした)
    ボブ・カーバーはヘン・フェッチの第1段の現象を改良し、単一現象の作品とした
    セットされていない長さの違う3本のロープを同じ長さにした
1956 Bill Spoonerがボブ・カーバーから方法を教わる
1957 8月初旬、Bill Spoonerの自宅へ面識のないポール・ヤングが訪れる
    ポール・ヤングにボブ・カーバーの方法を教えてしまう
1957 9月に開催されたM.A.E.S.のコンテストにおいて、ポール・ヤングが出場
    彼は3本ロープを演じ1位を獲得
1958春 ポール・ヤングはGene Gordonへこのロープ・マジックを売り込む
    ヘン・フェッチの作品と重なる部分があるが、Gordonは販売権利を購入
    よく似た作品が他から販売されるのを阻止するため
1958 ボブ・カーバーはバッファローで開催されたI.B.M.大会コンテストで2位を獲得
1958秋 (プロフェッサーズ・ナイトメアを商品として販売開始)
    Gene Gordonはポール・ヤングから購入したマジックにストーリーとセリフを加える
    「ポール・ヤングのプロフェッサーズ・ナイトメア」として販売
    「リンキングリング」誌9月号に最初の広告を載せる
1959 5月にハーラン・ターベルは、無断でイギリスにおいて3本ロープをレクチャー
    6月にはイギリスにおいて、「ターベルのEqually Unequal Ropes」として販売
    その後、アメリカにおいても、無断で各ショップより売り出される

この後、Gene Gordonはボブ・カーバーから、ポール・ヤングの作品は自分のものであることを主張される。調査の結果、カーバーの主張が正しいことを認め、商品にボブ・カーバーの名前を入れる。

1960 ハーラン・ターベル死亡
1961 ヘン・フェッチ死亡
1963 ポール・ヤング死亡
1988 ボブ・カーバー死亡
1994 Gene Gordon死亡
2002 MAGIC誌8月号に、Dotyにより、初期の頃の歴史が報告
2005 リンキングリング誌5月号に、Bev Bergeronによる初期の頃の歴史が報告
2008 リンキングリング誌2月号に、Bill Spoonerによるナイトメアの年代記が報告

■3本ロープ参考文献一覧
1958 「プロフェッサーズ・ナイトメア」として商品が販売
1960 Peter Warlock 3 Equally Ropes Gen Vol.15,No.11
    3本とも、長いロープと同じ長さになる
1964 Lewis Ganson More Equally Unequal Ropes Gen Vol.20,No.3
1964 Lewis Ganson Variations on More Equally Unequal Ropes Gen Vol.20,No.4
1965 トップマジック No.46 Gansonの上記2作品の日本語訳
1965 Charlie Miller Miller Three Rope Trick Genii Vol.29,No.7
    同じ長さにした後、3本を結んでつなぐと、結び目が消失して1本に
1965 C.F.Germelman  Equally Unequal Patter Gen Vol.21,No.6
1966 Bill Shewan More Variations Gen Vol.21,No.9
1966 Slydini Long and Short of It Slydini Encores
    1本のロープを同じ長さに3分割した後、長・中・短の長さに変化する
1968 高木重朗訳 教授の悪夢 奇術界報 324
    商品「プロフェッサーズ・ナイトメア」の解説の日本語訳
1970 Roger Sylwester The Professor's Incubus The Hierophant 3
    ( 1973 Close-Up Cavalcadeに再録)
    各指の間へロープを挟んだ持ち方により演じる方法
1971*高木重朗訳 新しい3本ロープの扱い方 奇術界報 354
    3本を1本にするパット・コンウェイの方法(一部分は高木氏案)
1971 Pavel Tri Colour Ropes The Magic of Pavel
    色が違う3色の3本のロープにより行う
1972 Sam Schwartz Three Way Ropes Pallbearers Review Vol.7,No.5
    同じ長さにした後、1本につながったロープになって終わる
1972 高木重朗訳 ピーター・ワーロックの3本ロープ 奇術界報 367
1972 高木重朗訳 サム・シュオルツの3本ロープ 奇術界報 375
1972 加藤英夫 加藤式3本ロープ ふしぎなあ~と No.14
    端の入れ替えがスムーズに行えるように改案された方法
1972 友美けん コメディー3本ロープ ふしぎなあ~と No.14
    面白い演出で、客は長いロープを取ることが出来ない
    長と短の2本のロープを片手だけでの端の入れ替え
1974 Amedeo Vacca End of a Nightmare Amedeo's Continental Magic
    同じ長さにして、各ロープをそれぞれ輪にすると、結ばれた大きな輪になる
1975 Jose DeLa Torre New Professor's Nightmare  Magicana of Havana in New York
    同じ長さに3分割した後、長・中・短の長さに変化する
    その後、同じ長さに戻し、最後は1本につながる
1976 Karrell Fox Fox's Unequal Nightmare Ropes Clever Like a Fox
    長と短の2本のロープを持った時に、片手だけでの端の入れ替え
1976 高木重朗著「ロープ奇術入門」(日本文芸社)3本のロープ奇術集
    上記の奇術界報に日本語訳された3本ロープの作品を全て収録
    セシル・キーチのホックを使用して1本にする方法も解説
    東京堂出版より1987年に「ロープマジック」として再版(一部分内容変更)
1979 Charles J.Pecor The Carver Ropes The Craft of Magic
1979 Dan Garrett Professor's Daydream Teasers and Ticklers
    同じ長さにした3本を結んで、結び目を移動させ、ほどくと3種の長さに戻る
1979 Slydini The Equally Unequal Ropes The Magical World of Slydini
    Encoresの本(1966年)の現象の後、3本ロープの現象を続ける
1981*荒井晋一 Monte-Pee Ropes Second Lecture Note Affections
    同じ長さの3本が同じ長さの2本に、そして、1本の長いロープに
1984 高木重朗 3本ロープの新技法 不思議9
    Roger Sylwester(1970年発表)の方法の改案
1986*高木重朗訳 ライル・ローリンの3本ロープ こいわきじゅつ No.21
    マジック・ハウスより、1987年に商品として販売
1986 Fabian ( Aldo Colombini ) The Three Ropes Fabian's Magic Notes
    3本ロープの現象の後、最後に1本にしたロープを客に調べさせる
1987 近藤博 ナイトメアー・イン・カラー 第19回石田天海賞受賞記念近藤博作品集
    1978年にテンヨー社から販売  色が異なる3色の3本のロープで演じる
    ルイス・タネン社ではProfessor's Daydreamとして販売されていた
    Pavelの3色のロープの方法とは全く異なる原理を使用
1987 Daryl Daryl's Rope Routine
    Dera Torreの作品を参考にしたDarylの方法で、最後はDan Garrettの方法
1988 沢浩 A Nightmare for Experts Library of Magic
    違った原理と方法で行われ、最後は1本になる
1988 Timothy Wenk Insomnia ( The Impossible Nightmare )
    違った原理により、同じ長さの3本が3種の長さになった後、同じ長さに戻る
1988 Bill Okal Professor's Nightmare A New Look at Some Classic Close-Up
1990 Mac King The Professor Wakes Up 日本語版レクチャーノート
    トム・オグデンの「3-2-1ナイトメア」の改案
1991 Jim Kahlert End of The Nigetmare Apocalypse Vol.14,No.12
1992 加藤英夫 カトウズ・ナイトメア 第24回石田天海賞受賞記念「マジック100」
    3本ロープの現象を、3本を同時ではなく段階的に変化させて行う
1992*Chris Kenner 3-D Ropes Out of Control
    特別なロープを使用し、同じ長さに3分割したロープを元の1本へ戻す
1992 Bob Rees Cut-&-Restored Nightmare Apocalypse Vol.15,No.10
1994 ヒロ坂井 Dream Come True 第26回石田天海賞受賞記念Hiro Sakai 作品集
    同じ長さになった時、3本を独立して示すことが出来、最後は1本になる
1994 藤原邦恭 突然のっと 作品集壱 立ちあがれ
    3本ロープのオープニングとして使用する方法
    1本のロープに二つの結び目が現れ、ほどくと同じ長さの3本となる
1996*高橋知之 スリー・ツー・ワン ラビリンス2
    2本のロープが、一瞬で結び目により結ばれる
    3本目も結ぶと、二つの結び目が落下し、1本のロープに
1996 Torkova Presentation for "The Professor's Nightmare" Torkova's Magic
1997 栗田研 The Nightmare Before Christmas Four of a Kind 3
    1本のロープに二つの結び目が出現し、解くと長・中・短のロープ
    その後、3本ロープの現象につなげ、最後は1本に戻る
1999 Guy Hollingworth Hollingworth's Nightmare Genii Vol.62,No.9
    3本を持った片手だけで端の入れ替えを行う
    同じ長さにする途中、手の中を開いて示すことが可能な方法
2001 庄司敬 仁&ゆうきとも 3本ロープの新オープナー モダクラセブン
    同じ長さの3本をあらためている途中で、違う長さの3本に変化
2001 庄司敬 仁 3本ロープのワンハンド・スイッチ モダクラセブン
    3本を持った片手だけでの端の入れ替えをスムーズに行う方法
2003 Scott Steelfyre Centrifugal Nightmare The Penumbra 2
    Dan Garrettの終わり方に面白いアイデアを加えた方法
2004 Francis Tabary The Award Winning Rope Magic(2001年にフランス語版)
    同じ長さの2本が長・短となり、同じ長さの3本となった後、3種の長さに
    長と短の2本を同じ長さにした後、1本となり、中を加えて長い1本に
2006 カズ・カタヤマ 図解マジックパフォーマンス入門
    ステージ、パーラー、クロースアップの三通りの方法を解説
2008 藤山新太郎 プロが教えるロープマジック 
    三通りの方法を解説

年数の後の「*」は、最後が1本のロープになりますが、3本ロープの現象がない作品


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