最も不思議なシルク(ハンカチ)による消える結び目は、ジョー・バーグ原案による方法です。これを一度見たマジシャンをとりこにしてしまいます。日本では、石田天海氏が改良して演じられ、多くのマジシャンやマニアを魅了されました。そのためか、これは天海ノットとも呼ばれています。
|
シルクの中央に結び目を作って、両端を引っ張ると、結び目がどんどん小さくなります。これ以上引っ張れば、結び目がほどけなくなると思った瞬間に、ポロッとほどけます。
|
ジョー・バーグの方法は、1937年に彼の作品集"Here's New Magic"の中で発表されました。"An Odd Handkerchief Knot"(奇妙なハンカチ結び)のタイトルがつけられています。A5版で20ページしかない小冊子に多数のマジックが解説されています。そして、このマジックに関しては2/3ページしかスペースが取られておらず、その狭い中に五つの図も描かれていました。つまり、複雑な結び目であるのに、解説文も図も少なすぎます。何の知識もない人には、とうてい理解出来そうにありません。レクチャーで指導を受けた人が、思い出すための解説といった方がよいのかもしれません。
|
シルクの中央に結び目を作るためには、対角線上の2端を使う必要があります。隣り合った2端で結び目を作ろうとしても、シルクの中央には結び目が出来ません。その場合、シルクの上側の中央に結び目が出来ますが、その下側の多くの部分が幕状に広がったまま残ってしまいます。
|
バーノンの方法が解説されたのは、1977年のカール・ファルブス著による"Pallbearers Review"誌のダイ・バーノン特集号パート1においてです。図も豊富で、分かりやすく解説されています。これは、1950年のガードナーの解説のような、最初の部分を省略した方法ではなく、ジョー・バーグの本来の解説に近い方法となっています。もちろん、ハンドリングで各所に違いがみられますが、全体的には大きな違いがありません。タイトル名も「バーグ・ノット・バリエーション」となっています。結局、この解説では、バーノンの改案の大きな特徴点を見つけることが出来ませんでした。
|
1977年の"Pallbearers Review"誌には、ビデオで演じているようなバーノンの方法の特徴点が、なぜ記載されなかったのでしょうか。そこに解説された作品は、バーノンがチェックした内容ではなかったからのようです。また、この解説を書いたカール・ファルブスは、バーノンが演じているのを直接見ていない可能性がありそうです。バーグ・ノットだけでなく、いくつかのバーノンの作品は、Harvey Rosenthalがカール・ファルブスヘ提供したものでした。Rosenthalがバーノンからバーグ・ノットを教わった時の興味深い記事が、2001年11月のGenii Forumに投稿されていました。
|
改案作品が発表された歴史経過を調べて、面白いことに気がつきました。改案を発表しているマジシャンは、ジョー・バーグと直接会って見せられたことにより、影響を受けたとしか考えられない点です。
|
本来の結び方とは異なり、秘密の操作や状況は隠す必要があります。このことで思いうかぶのが、次の三つの部分です。一つは最初の端の入れ替え操作です。二つ目は、最後の部分で一端を放して、この端が中央へ移動する動きです。そして、三つ目は、結び始めの段階で、シルクの多くの部分が幕状に広がっていることです。この三番目の問題は、これまでに何回も言ってきましたように、私が最も気にしている問題点でもあります。
|
天海の方法の大きな特徴は、シングル・ノットを作るためにシルクを右手に巻き付けるように操作して、それにより出来たループから、右手を抜き出すことにより結び目を作っていることです。他の方法では、結び始めの段階が、左右の手に端を持って横に開いた状態であり、横にシルクを広げることの原因になっています。ところが、天海の方法では、両端が前後方向にある状態から、客側のシルクを右手背を通って、手前側に持ってきています。そして、この端を右指に挟ませています。つまり、シルクを左右に広げることがない方法となっているため、シルクの幕状の広がりを見せずにすむわけです。
|
結び目がほどけなくなるのは、最後の部分で、二端の内の一端を放すタイミングが遅かった場合です。練習を繰り返せば、いつ放せば良いのかの大まかな見当がついてきます。それでも、10回に1~2回は失敗してしまいます。そこで、100%失敗しない方法はないかと、研究を始めたのが次の方法です。
|
1975年頃、私がジョニー広瀬氏より、天海の方法として初めて教わった時には、結び目を作り始めるまで、左右の手に端を持ったままでした。わざわざ片手に両端を持たせることはしていませんでした。ところが、本来のバーグ・ノットや天海ノット、そして、バーノンの方法も、解説に使用された図を見ますと、何故かシルクを二つ折りにして、両端を片手で持っている図が描かれており、変な持ち方をしていると思っていました。
|
ここで、かなり無謀とも言える試みを紹介させて頂きます。バーグ・ノット(天海ノット)により、結び目がほどけない状態にする方法です。これは、間違って書いているのではありません。両端をかなり強く引っ張っているにもかかわらず、結び目をほどけない状態で残す方法です。この後、演者が息を吹きかけるか、客に息を吹きかけさせて、両端を引っ張ると、楽々とほどけてしまいます。
|
今回は、いつも以上に、マニアックな内容となってしまいました。最近では、これを演じているマジシャンをほとんど見かけませんので、かえって価値があると思います。
|