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コラム



第33回 2007年I.B.M.大会報告 (2007.7.18up)

はじめに

今年のIBM大会は、ネバダ州リノにおいて6月26日(火)から30日(土)まで開催されました。2年前もリノで開催され、ホテルも同じホテルですが、 リノ・ヒルトン・ホテルから別の名前に変わっていました。今回も、まず、印象に残りましたキーポイントから報告したいと思います。

キーポイント

1. ステージ・コンテスト予選は、31組出場されました。その内、ジュニアは7組です。日本からは、5組が出場しています。決勝戦でもあるファイナル6 に選ばれたのは、シニア5名、ジュニア1名です。そして、興味深いことは、東洋系の顔の4名が選出されたことです。日本からは亜空亜シン、中国から2 名、中国系アメリカ人1名です。

2. ステージ・コンテストの結果は、シニア1位が中国のShen Juan、2位はアメリカ・オハイオ州のShayna Readで、惜しくも日本の亜空亜シン氏は賞を逃しましたが、大いに会場をわかせていました。ピープル・チョイス賞は、ジュニア部門1位も獲得した Sterling Dietzが選ばれました。

3. クロースアップ・コンテスト予選は、24人が出場しています。その内、ジュニアは3人だけです。日本からの出場者はありません。ファイナル6に残っ たのはシニアばかりで、ホンコン1名、マカオ1名、日系ドイツ人1名、中国系カナダ人1名、そして、アメリカ人2名です。つまり、クロースアップにおい ても、東洋系の顔の4人が選出されたことになります。

4. クロースアップ・コンテストのシニア部門の結果は、1位がカルフォルニアのDavid Minkin、2位もカルフォルニアのNathan Gibson(2004年にジュニア部門で1位)が獲得しました。ピープル・チョイス賞は、日系ドイツ人Hayashiが獲得しています。

5. 今年も、ステージ・コンテストのゴールドメダル、クロースアップ・コンテストのゴールドカップの受賞者がありませんでした。どちらも、数年に一人し か受賞していません。

6. 今年もコスチューム・チェンジのステージショーがありました。3年連続です。今回は日本の安田悠二氏が演じられ、大喝采をうけていました。ただし、 レクチャーはされませんでした。

7. 日本からのステージショーのゲストは、上記の安田悠二氏と古山光さんが出演されました。お二人とも、ステージショーを大いに盛り上げていました。

8. 今年も、2年前と同様の大きすぎるステージで、スタンディング・オベーションはないといってもよい状況と思われました。しかし、最終日のトニー・ チャベックの新しいタイプのマジックと、ドイツの女性ジャグラーのショーで、やっと客席の半数近くのスタンディング・オベーションがありました。これ は、他の会場の場合と違い、誇るべきすごいことです。

9. クロースアップ・コンテストにおいて、仲間からの声援で、マナーの悪いグループがあり、気になりました。 以上の項目について、もう少し詳しく報告してゆきたいと思います。

ステージ・コンテスト1位受賞者の演技

中国のShen Juanが1位を獲得しました。中国の特別な民族の舞踏衣装で、独特の踊りと音楽により、まず、観客を魅了していました。マジックはクス玉の出現と、そ れが美しく分裂して飛び散ることの繰り返しが中心となります。あるいは、カラの手からの多数のバネ花が飛び散ったりもします。これらが舞踏にピッタリ あっており、完成度の高い状態で繰り返し行われました。

また、クス玉のカラーチェンジや、クス玉によるゾンビボールも演じられました。このゾンビ・クス 玉も、バラバラに飛び散ったり、色違いのクス玉が出現したりもします。

恐るべきはクライマックスの内容です。背景としていた緑の葉の群集の壁の前に立ち、両手を横に伸ばして、葉の一部分を持ちます。すると、彼女が1メートル程上昇してゆきます。そして、両手より多数のバネ花が、次々とあふれるように 飛び出してきて圧倒されます。それだけでもすごいのですが、これで終わりと思っていると、葉の壁に大輪の花が多数現れて、それと同時に、洪水のごとく、莫大な量のバネ花があふれ出てきます。このバネ花のセットと、後かたづけを考えると、どれだけの時間と人員を必要とするのかを想像して、恐ろしさを感じ てしまいます。

日本人ステージ・コンテスト出場者の演技

日本人では、大阪の亜空亜シン氏だけがファイナル6に選ばれました。バックがメタル色のカードとメタル色の投げテープとボールをメインにしたテクニカル な演技を、ミスのない安定感のある技術力で演じられました。昨年もチャレンジされていましたが、昨年よりも、数カ所で拍手の取れる要素が加えられてお り、かなり、パワーアップしていました。

同じく大阪からの参加のリバー氏は、ジャグリングとマジックをミックスさせた内容で演じられました。ジャグリング用のボールやディアボロが、ジャグリン グと共に不思議な現象も起こり、観客を魅了していました。技術力とオリジナル性で、今後が期待出来そうです。得意とするディアボロのジャグリングの要素 を少なくして、クライマックスにマジック的要素が加われば、かなりの高得点が得られそうです。

関東からはマジック千秋氏が出場されています。途中で演じられた、アシスタント女性のコスチューム・チェンジのユニークさには脱帽させられました。それ だけでなく、クライマックスでのさらなるコスチューム・チェンジの派手さにより、観客は大いに盛り上がっていました。

現在、アメリカに住まわれています、セオ・ダイスケ氏によるステージアクトのユニークさと独創性には、今後のオリジナル作品開発者としての片鱗をうかが わさせられました。また、彼による投げテープは、理想的な放物線を描いて、大きな拍手がまきおこり、他の日本人マジシャンからも絶賛されていました。

ジュニア部門に出場された原大樹氏は、カサ、コスチューム・チェンジ、シャボン玉とカード、ウォンドをまじえた内容で演じられました。カードにおいて は、難しいテクニックも意欲的に取り入れられ、ジュニアの中では、最も難易度の高い内容であったといえます。ただ、残念なことは、ハイテクニックのカー ド・マニピュレーションといえども、期待している程の点数はもらえていないのではないでしょうか。考案者がはっきりしていて、そのマジシャンの印象の強 いテクニックの場合には、まねをしているととられてしまいます。かなり、うまくこなしていましたが、少しでもスムーズさを欠いていたり、美しくなけれ ば、減点の対象になりかねないので大変です。割が合いません。カード・シューティングも、全てが美しく飛ばなければ、減点される可能性が考えられます。 しかし、いずれにしても、これだけのことが出来るのは、今後が大いに期待出来そうです。

日本人ゲストのステージショーと予想外の出来事

安田悠二氏のコスチューム・チェンジは、昨年、一昨年の別のゲストによる方法とは、かなり違った内容で、次々と、みごとなほどにスムーズに演じられまし た。すばらしい内容のコスチューム・チェンジでしたが、それだけでなく、演技の途中より、印象深いことが起こりました。爆音とともに舞い上がった煙が、 コスチューム・チェンジする瞬間を隠すための、最もふさわしい量が舞い上がり、そのまま上昇して、演者の上空のライトがあたっている部分に、きれいな雲 が出来上がっていました。はるか上空の天井から、演者に向けて、逆三角形状にライトが照らされており、この天井と演者との、ちょうど中間部分で雲が出来 上がっていたのです。それが、すぐに消えるのではなく、数分間、雲の形を保った状態が続いていました。この雲の下で演じられたマジックショーが幻想的 で、今でも、その光景が印象深く焼きついています。

古山光さんのゲストショーもすばらしい内容でした。広くて天井の高いステージですが、演技に引きつけられる魅力があり、それほど大きくない演者ですが、 大きな存在に見えるほどでした。エレガントな魅力を見せてもらえた彼女ですが、演技が終わって、もう一度、ステージ中央に呼び戻された時に、予想外のこ とが起こりました。観客全員がびっくりさせられるハプニングが起こったからです。そうであるにもかかわらず、にっこり笑って、チャーミングなポーズをと り、ステージ中央へ歩き出すと、一段と大きな拍手がわき起こりました。この光景も、今回の大会の中で忘れられないものとなりました。

スタンディング・オベーションが起こったゲストショー

2年前の同じステージのショーでは、大きすぎるステージのために、スタンディング・オベーションがほとんどなかったと報告しました。演技に迫力が感じに くくなっていることや、ステージと客席との一体感が感じにくくなっていることが理由としてあげられます。そして、もう一つ、ほとんどがU字型のテーブル 席となっているために、立ち上がりにくくなっていることも、大きく関係していそうです。立ち上がろうとすると、テーブルがおなかにあたりそうです。こん な悪条件の中で、誰がスタンディング・オベーションをとるのかも、今回の大会の中での楽しみの一つでした。 ゲストショー初日、ドイツのジャグリングの女性は、高さのあるステージの天井から太い一本のロープをたらして、それを登って、高さを生かした力わざの ショーを見せてくれました。特にクライマックスでは、天井近くまで登って、垂れ下がっているロープのほとんどを身体に巻き付けて、身体を回転させながら 床近くまで、ロープがほどけながら落下するシーンでは、どよめきが起こりました。多くの人がスタンディング・オベーションするだろうと思っていました が、少数だけでした。

ゲストショー2日目の安田悠二氏のコスチューム・チェンジも大歓声がおこりましたが、スタンディング・オベーションは少数だけでした。今年も多くの観客 のスタンディング・オベーションは無理かと思ってしまいました。

最終日になって、予想もしていなかった楽しいマジックを見せてくれたのが、トニー・チャベックです。大きなテレビ画面の中に映っている怠け者の寝起き姿 のマジシャンの分身と、テレビの外のマジシャン本人とのやり取りです。絶妙のタイミングでうまく構成されています。途中より、テレビの中の分身が、テレ ビのリモコンを持って主導権をにぎります。巻き戻しボタンを押されると、少し前まで、テレビの外のマジシャンにより演じられていたマジックや動作が、ス ピード巻き戻しされ、大歓声が起こります。その後、ステージのそでに入っていったマジシャンが、テレビ画面の中へ閉じ込められてしまい、ステージのそで より、寝起き姿のマジシャンの分身が登場してきます。そして、毛布をかぶって寝ようとした時に、テレビの中のマジシャンが、リモコン・スイッチを操作す ると、二人の位置が入れ替わってしまいます。つまり、かぶりかけた毛布を取るとマジシャン本人になり、テレビ画面には寝起き姿の分身が戻っています。 観客席は立ちにくいにもかかわらず、半数以上の人がスタンディング・オベーションしていました。彼については、2007年1月号のGenii誌で、15 ページにわたり、特集記事が組まれていました。なお、彼は1991年のI.B.M.大会において、ステージ部門1位を獲得されています。

この後、初日にも演じられたドイツのジャグリングの女性が、今回は見事な足芸を見せてくれました。初日の内容は手と腹筋を中心とする力わざであったのに 対して、今回は、両足がメインですが、クライマックスでは手足全てを総動員しての絶妙のコントロールわざを見せてもらえました。この演技に対しても、初 日とは異なり、客席の半数近くがスタンディング・オベーションしていました。

クロースアップ・コンテスト1位受賞者の演技

カルフォルニアのDavid Minkinが1位を獲得されました。1枚ずつハーフダラーが4枚出現し、両手を上向けて開いた状態のままで、左手から右手へ1枚ずつコインが移動しま す。次はガラス玉に息を吹き込むと、シガレットの大きさの筒状となり、その後、いろいろ操作を加えることにより、両端が少し球状に膨らんだ砂時計が完成 します。

この砂時計が消失すると、最初からテーブルに置いてあったはずの腕時計が消失し、そでをまくり上げていた右腕には、いつの間にか、腕時計が戻っ ています。この後、ワンダラーが1枚ずつ3枚が出現し、これが1枚ずつ消失して、最後には両手が完全にカラになります。

特に、この最後のコインの演技の時は、常に両手がカラな状態を何気なく示しながら行っていたので、非常に不思議でした。特に感心させられたのは、技術のうまさとスムーズさですが、全体 的には地味な印象をうけました。

クロースアップ・コンテスト2位受賞者の演技

2位はカルフォルニアのNathan Gibsonが獲得しています。指をボキボキと音を鳴らし、両指を組み合わせた後、1本の指が逆方向へ軽々と曲がってしまいます。次にカードを客によく シャフルさせた後、1枚のカード名を言ってもらいます。この後、4枚のJがフラリッシュ的に取り出され、3枚のJを裏向けて、1枚を表向きのまま広げて 示していますと、ビジュアルに表向きJが客のカードに変化します。そして、残りの裏向きの3枚が、客のカードと同じ数の残り3枚に変わっています。6枚 のカードによるオイル・アンド・ウォーター現象の後、デックをファン状に広げると赤黒に分離しています。フェロウ・シャフルの後、ファンに広げて赤黒混 ざっていることを示し、ファンを閉じて、すぐに広げると、赤黒分離しています。デックを4分割して、トップカードを表向けると、全てがエースとなり、残 りのパケットをそれぞれスプレッドすると、同じマークの2~Kが順番に並んでいます。

この後、カードを使わずに、両手でコインをカバーして演じるコイン・アセンブリーとリバース・アセンブリーが演じられ、さらに、20枚近くの多数のコイ ンがテーブル上へ現れて終わります。

コンテスト予選で不思議であったのは、客がよくシャフルしたデックであるのに、全てのカードの順がそろってしまう部分です。ところが、ファイナル6の決 勝戦で、もう一度、そのマジックを見ていますと、その謎が解決出来ました。2回見ることは、種が分かってしまうことが多く、演者にとっては演じづらいこ とだろうと思います。

ピープル・チョイス賞の受賞者の演技

この賞はドイツの日系人Hayashiが獲得しました。日系人であることを前面に押し出したコミカルな演出で、エンターテイメントに富んだ内容でした。 日本語を英語に変換するCDプレイヤーの設定で、あいさつが始まります。CDプレイヤーの方が先に話し出したり、トラブルが生じた後、いつの間にか演者 が英語を話し、CDプレイヤーが日本語に翻訳してしゃべり出します。CDプレイヤーの電源を切って、演者の英語によりマジックが開始されます。

客に自由に言わせたカードを、すばやくビジュアルに、デックから表向きに突き出した状態で取り出します。これを別のカードでも繰り返されます。この後、 別の選ばれたカードが、デックのトップ、中央、ボトムから繰り返し出現し、テーブルへ取り出されてゆきますが、これらを表向けると、同じマークのA~ 10までそろっています。そして、最終的には、デックをスプレッドすると、各マークがA~Kまで順に並んでおり、客のカードが消失しています。CDプレ イヤーのリモコン・スイッチを押すと、CDプレイヤー本体から客のカードが1枚だけ乗ったCDの受け皿が突き出されてきます。

他のファイナル6の3名の演技について

一人目は、2年連続ピープル・チョイスの賞を獲得しているにもかかわらず、昨年、やっと2位となったホンコンの出場者です。毎回、問題点を私のコラムで 紹介した人ですが、今年は、準備段階が改善されていました。テーブルの前方のカバーをなくし、すばやくスッキリした状態で演技が可能となっており、気持 ちよい印象を受けました。しかし、昨年より改善されているにもかかわらず、今年は2位すらとれませんでした。問題は、演技の中身がほとんど改善されてい ないことです。全体のイメージであるバラリノの印象をなくし、特別なカード・テクニックであるレナート・グリーンの技法の部分を取り去り、テーブルの手 前からのロードとラッピングをもっと減らさない限りは、この I.B.M.大会における1位はないのではないかと思ってしまいました。また、しゃべらずにBGMだけで終わるよりは、少しでも、客とのやり取りで英語 を話した方が、好印象を与えられるはずです。中国なまりのカタコトの英語は、減点にならないばかりか、個性的として受けとめられるのではないでしょう か。

2人目も、昨年、問題点を書きましたマカオからの出場者ですが、シガレットに火をつけて煙を出すシーンがなくなった点だけは改善されています。しかし、 それ以外は昨年のままです。準備段階に時間がかかるだけでなく、テーブルの前面をアシスタントに黒布でカバーさせているのは、良い印象を与えません。マ ジック全体はオリジナル的な要素があり、ストーリー性があるのですが、上記の人同様に、テーブルの手前でのロードとラッピングがあまりにも多く、気に なってしまいます。

3人目は、2002年に2位を獲得された後も、お札をメインにした内容で、毎年、出場されている中国系カナダの人です。パーラー風のマジックで、ファイ ナル6に残るオリジナル性と面白さはあるのですが、最近の数年間はほぼ同じ内容で、毎回見ている私にとっては、新鮮さがなくなってきました。1位を獲得 するまで、今後も、チャレンジを続けるつもりでしょうか。ところで、S.A.M.大会では、昨年、優勝されています。

気になった身内の過剰声援

上記のマカオからの出場者の場合、演者が部屋に入場すると、3人の仲間が、部屋の両サイドと後方に一人ずつ配置し、現象が起こるたびに、いち早く大きく 拍手しています。これは悪いことではありません。問題は、拍手だけでなく「ワォー」「ウォーウォー」と大声を出して声援していることです。最も盛り上 がっている数カ所で、そのように声援するのは気になりませんが、少しでも現象が起こるたびに、毎回、大声を出されるとしらけてしまいます。作戦としてさ れているのでしょうが、程度というものがあります。審査員の印象にも、マイナスの影響を与えている可能性すら考えられました。

おわりに

昨年の大会では、日本人がステージで活躍しましたが、今年も、その傾向が続いています。そこで、今回は、日本人の活躍をメインに、ステージでの報告が中 心となってしまいました。クロースアップ・コンテストの方は、3年前のRick Merrill以降、なかなか注目すべき人物が登場しません。 来年は、I.B.M.とS.A.M.の合同の大規模な大会になります。来年も、日本人が、どのように活躍されるのかが楽しみです。そして、クロースアッ プの新しいスターの登場も期待しているところです。


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