2006年1月末に、二川滋夫氏によるコイン・マジックの本が発行されました。日本では、2004年5月から2年もたたない内に、190ページ以上のコイン・マジックの本が4冊も発行されたことになります。2004年からのテレビを中心とするマジック・ブームの影響があるとは思いますが、それにしても、すごい勢いです。英語の本で調べてみましたところ、190ページ以上のコイン・マジックの本は、今日までに、たった5冊しか発行されていませんでした。 |
コイン・マジックの歴史に興味を持つようになったそもそものきっかけは、「コイン・アセンブリー」の歴史を知りたくなった事が最初でした。有名なアル・シュナイダーの「マトリックス」と、それまでの「コイン・アセンブリー」とは、何が違うのか。また、これが発表される以前と以後の作品についてや、ピック・アップ・ムーブの考案者についても調べました。 |
もっとも古いコイン・マジックや技法の記載は、1584年のレジナルド・スコットの "Discuverie of Witchcraft"であることはご存知の方も多いと思われます。1952年のBoboの「モダン・コイン・マジック」にも、その事が記載されています。 |
上記の本が発行された1938年や39年の段階では、レジナルド・スコットの本がほとんど知られていなかったのでしょうか。そのようなことはありません。スコットの本が1930年には再版されているからです。そして、「グレーター・マジック」のカード・マジックの多くの章の冒頭や、カップ・アンド・ボール、シルク・マジック、ボール・マジックの冒頭にも、それぞれレジナルド・スコットの本から引用された文章が1〜2行紹介されているのです。 |
この本は300ページ近くもありますが、マジックに関する解説は22ページしかありません。その中でも、コイン・マジックに関しては4ページもさかれており、大きなウエイトを占めています。ところで、ボール(カップ・アンド・ボール)は1ページ半、カード・マジックは2ページ半だけです。 |
冒頭には、クラシック・パームとフィンガー・ピンチのことが少し説明されています。その後、15のマジックが解説されています。最初の6作品はテクニックの使用を中心としており、大きいコインであるテストン・コインが使われています。 |
ここには9作品のコイン・マジックが解説されています。そして、冒頭には、クラシック・パームについてのことだけの簡単な説明がされています。9作品のうち6作品は、レジナルド・スコットの本からほとんどそのまま再録されています。上記で紹介しました番号では、1番、8番、9番、10番、14番、15番の作品です。 |
1914年のフランスのGaultierの本には、19世紀までのフランスの文献でのマジックの内容が簡単に紹介されています。それによりますと、1693年のOzanamの本には、いくつかのコイン・マジックが解説されています。右親指と人差し指の間に、何枚かのカウンター・コインを隠しておき、客の手の中でカウンターを増加させる方法。カウンター・コインを消失させるためのボトムのないボックスを使うもの。カウンター・コインを客の手の中で銀貨にチェンジする方法。そして、ハンカチを通り抜ける2枚のコインのマジックです。なお、コインのパームが使われていても、その為の説明がなかったそうです。 |
この時期には、数冊の本でコイン・マジックが発表されています。1764年の「放下セン」の「握りたる玉を手の甲より打ち込み、又抜き取る事」は、玉といっても小さなお手玉のようなもので、現代では、コインで同様の方法が行われています。 |
今回と前回(ダブル・リフト)は、Hugardの歴史記載の問題部分を指摘する報告となってしまいました。しかし、Hugardは1930年代から40年代にかけて精力的に質の高いマジックの文献を多数発行されており、マジック界への貢献が非常に高いといえます。私も彼の本のおかげで、いろいろな調査時にお世話になっていますことを一言申し添えておきます。 |