2002年のダブル・リフトについてのコラムで、当時の考えを報告させて頂きました。その冒頭で、ジョシュア・ジェイが、このフレンチ・ドロップにおいて、レクチャー後に実演されたダブル・プッシュ・オフやマルティプル・プッシュ・オフについて触れました。事前にブレークをつくらないで、ダイレクトに左親指で押し出して行う方法です。続けて2枚ずつ、3枚ずつ、そして、それ以上の枚数でも、重ねた状態でテーブルに配っていました。しかも、親指はトップ・カードの上に置いたままで、普通にカードを右へ押し出す時と同じ状態で行われました。 |
ダブル・リフトについては、調査すべきこと、まとめたいことが多数あります。今回は、歴史上の初期の段階でのことを中心に報告したいと思います。1910年頃までは、どのような使われ方をしていたのか。そして、1910年代から1920年代にかけて、現代的なダブル・リフトの誕生期と言われていますが、それはどういったことであるのか。さらに、ダブル・リフトの技法名で解説され始めた1930年代前半では、どのように解説されていたのかを報告したいと思います。 |
多くの文献には、それは、1853年のフランスのPonsinの本であると書かれています。しかし、私個人としては、いろいろ調査しました結果、この報 告は、間違っているのではないかと考えるにいたりました。 |
英語の文献でアンビシャス・カードが最初に解説されたのは、1887年のホフマンの "Drawing-Room Conjuring"といわれています。これは、フランスのDelarueにより発行された本の英訳本ですが、フランスの原書の発行年は書かれていませんでした。しかし、最近発行の本とありましたので、1885年前後と考えられます。この英訳本では、すでに「アンビシャス・カード」と書かれています。トップへは4回移動しますが、最初の2回はパスによる方法で、残り2回は、トップ・チェンジによる方法が使用されています。ダブル・リフトは使われていませんでした。 |
Reinhard Mullerの "Escorial 1993"には、ドイツ語の20世紀以前のマジック書とホフジンサーのマジックについてがまとめられています。それによりますと、1839年にPoppeによる6巻からなる本が発行されており、その中に、2枚を1枚として見せる事を使ったマジックについて触れられています。概略説明によりますと、その操作の部分は、客のカードの表を別のカードでカバーして、デックより取り出すとなっています。つまり、デックのトップからのダブル・リフトではないのかもしれません。 |
1716年のリチャード・ニーブの後、英語の本で、次にダブル・リフトの操作の記載が登場するのは、1897年のRoterbergの「ニュー・エラ・カード・トリックス」です。このことは、現段階では、まず間違いなさそうです。この中に二つの使い方が解説されています。どちらも、ダブル・リフトとしてのテクニックの解説ではありません。取り上げた2枚を使って、表を示したカードをチェンジするための方法の解説となっています。 |
これまでのダブル・リフトの記載を振り返ってみますと、共通点は、2枚持ち上げると書かれていても、持ち上げるための具体的な記載が、ほとんどなかったことでした。また、ダブル・リフトであっても、ダブル・ターンオーバーではなかったことです。2枚を取り上げたり、2枚をターンオーバーするための方法に焦点を当てて、ダブル・リフトの技法名で詳細な解説がされるようになるのは、1930年代の文献からです。 |
この時代、ダブル・リフトの名前がないだけでなく、そのようなテクニックの存在すら、ごく一部のマジシャンにしか知られていませんでした。この操作を、独立した利用価値の高いスライトとして独自の方法を考え出し、ダブル・リフトの現代化に影響を与えたマジシャンとして、アーサー・フィンレイ、クリフ・グリーン、ダイ・バーノン、ライプチッヒがあげられます。彼らは、2枚の取り上げ方を研究されただけでなく、2枚をデックの上で、ひっくり返す方法を取り入れるようになりました。つまり、ダブル・ターンオーバーの誕生となるわけです。1956年のルイス・ギャンソン著「ザ・バーノンブック・オブ・マジック」によりますと、バーノン曰く「アーサー・フィンレイが、2枚のカードを1枚のようにひっくり返す方法を、最初に使った」と書かれています。 |
ダブル・リフトの現代化に影響を与えた上記4人のマジシャンの共通点は、自分の技法やマジックを解説したり、解説されるのが好きではなかったことです。特に1910年代〜20年代にかけては、その傾向が強かったようです。この時期には、カード・マジックにおいて、注目すべき文献が少なく感じられます。 |
1933年の "Ralph Hull's More Eye Openers"のダブル・リフトの解説では、内エンドに当てた親指により、どのようにして2枚を取り上げるのかを、これまでにはない詳細な説明がなされています。 |