1960年代から70年代にかけて、代表的なカード・マジックは何かと聞かれたら、私は即座に、フォーエース・アセンブリーと答えます。ところが、1990年代に入ってからは、フォーエース・アセンブリーを演じるマニアが、極端に少なくなったような気がします。1970年代を思い返しますと、演じられていましたアセンブリーは、スローモーション・フォーエースか、それをさらに発展させた作品がほとんどでした。そのうえに、80年代には、プログレッシブ・エーセスやリバース・アセンブリーのような複雑な作品が中心に発表されるようになっていました。もともと、スローモーション・フォーエースは、マニア対象とした要素が強いものです。それが、さらにマニアックになっていたわけです。その後、いろいろ理由があるのでしょうが、マニアの興味の中 心からはずれていったようです。近い将来には、新しい要素が加わって、再ブームの可能性がないとはいえません。 |
次の4段階からなりたっています。
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最初に発表されたのは、1853年のフランスのPonsinの本です。英語の文献では、1876年のイギリスのプロフェッサー・ホフマンの「モダン・マジック」が最初です。ところで、「クラシック・フォーエース」だけの名前では、混乱をおこす可能性もあります。初めて文献上に登場するのは、1584年のレジナルド・スコットの"Discoverie of Witchcraft"に解説された方法と紹介されていることがあるからです。また、1900年以前を代表するクラシック・フォーエースと書かれた場合は、コヌーのフォーエースをさしています。どちらもフォーエースは使っていますが、アセンブリーの現象ではありません。なお、フォーエースを使用した最初のアセンブリーは、1740年にフランスのGuyotの本に発表されています。それは、デックの中のバラバラの位置へエースを入れて、中央に4枚のエースを集める現象です。それでは、四つのパケットを作って行うクラシック・フォーエース(アセンブリー)とは、どういった存在となるのでしょうか。私の考えでは、19世紀の終わりから20世紀前半における、もっとも代表的なフォーエース・トリックといってもよい位置づけとなるものではないかと思っています。 |
フランスのJ.N.Ponsinの本が最初とされています。1853年のこの本の発行時には、上下巻に分かれていましたが、58年には一冊の本として再版されています。これを英訳したのがS.H.Sharpeで、1937年に発行され、1987年に再版されました。私はこの再版の英訳本を読みましたが、どこにもフォーエース・アセンブリーの作品が見当たりませんでした。結局、Ponsinが最初というのは、間違って伝えられているのだろうと考えたりもしてしまいました。調査の結果、分かりましたことは、この英訳本はPonsinの本の全てを訳した本ではなく、すでに英訳されているマジックに関しては削除していることでした。このことは、この本の訳者まえがきの3ページ目になって、やっと書かれていたことでした。こんな重要なことは、もっと目立 つところに書いておくべきだと抗議したくなります。 |
Ponsinの本あるいは「モダン・マジック」の本では、フェイスト・デック(Faced Deck)による方法が用いられています。フェイスト・デックとは、デックの下半分を表向けた状態のデックのことです。デックの上に置いた数枚のカードを、秘かにデックをひっくり返すことによりチェンジすることが出来るわけです。最初のクラシック・フォーエースに使用されたこの方法が、なぜか、その後の長い間、フォーエース・マジックにおいて使用されることがありませんでした。調べた範囲では、その後から現代までに発表されているのは、次の3作品だけでした。1940年の「エキスパート・カード・テクニック」におけるチャーリー・ミラーの方法、1953年の「カーディシャン」におけるマルローの方法、そして、1980年代に入って、デビット・ウイリアムソンによる「イージー・エーセス」に使用された方法です。 |
20世紀初め頃までのフォーエース・アセンブリーは、パームを使用する方法が主流でした。また、パームのかわりにパスが使われることもありました。ところが、1909年のネルソン・ダウンズの「アート・オブ・マジック」以降、各種の方法が発表されるようになりました。ダウンズは、6枚のDFカードを使用して、4枚のエースとその上にのせる3枚のカードも全て表向きのままで行う方法を発表しています。さらに、別の方法では、3枚のデュプリケート・エースが使用されています。この場合には、選ばれなかった三つのパケットのボトムのエースを処理する必要があります。その方法は、クロースアップ・マジシャンでは考えもしない方法が採用されています。テーブル・クロスに細工がされていたのです。当時は、パーラー・マジックとして演じられていましたので、そのような考え方も可能であったものと思われます。 |
全てのパケットからエースが消失して、配り直したいくつかのパケットの一つより4枚のエースを現すマジックが、今日では、コリンズのフォーエースと呼ばれています。この現象が文献上に発表されたのは1940年代に入ってからです。ところで、コリンズのフォーエースの特徴は何かといえば、各パケットからのあざやかなエースの消失です。これを、トリック・カードを使用せずに、余分な1枚のカードを加えて、グライドのテクニックを使用して可能にしたことです。この方法を取り入れたフォーエース・アセンブリーが、1914年のマガジン・オブ・マジック誌10月号に、コリンズにより、すでに発表されています。そういった意味では、こちらの1914年の作品が原案といえます。しかし、この時の現象はクラシック・フォーエースそのものです。3枚のデュプリケートのエースを使って、客が選んだパケットより4枚のエースを現しています。選ばれなかった三つのパケットは、コリンズのグライドを使った方法により、あざやかにエースを消失させています。 |
本来のクラシック・フォーエースのように進行し、途中で意外な状況となり、最後は本来の状態に丸くおさまるといったフォーエースです。1919年の"Thirty Card Mysteries"に発表されています。意外な状況とは、客が選んだパケットが4枚ともジョーカーにかわっており、横に置いてあった1枚のジョーカーが1枚のエースにかわっていることです。この後、4枚のジョーカーが4枚のエースになり、横に置いたカードがジョーカーに戻って終わります。このマジックの意外性は現象だけではありません。この作品の海外での改案が、私の調査では2作品しかなく、42年の間隔をあけて発表されているといった意外な事実もわかりました。最初の改案は、42年後の1961年にチャーリー・ミラーの小冊子に発表されました。そして、それから42年後の2003年に、ロベルト・ジョビの改案として「カード・カレッジVol.5」に発表されています。なお、日本においては、1973年の奇術研究68号に、松田秀次郎氏の方法が発表されています。余分なカードは使用しないで、シンプルにした改案作品となっています。 |
バーノンといえばスローモーション・フォーエースが有名ですが、クラシック・フォーエースにおいても新しい考え方を発表しています。1932年にフォー セット・ロスにより解説されたバーノンの作品集の小冊子において発表されています。バーノンのフォーエースの特徴点は、4枚のエースの内2枚だけ普通のカードとチェンジしているところです。これまでの方法では、3枚がチェンジされていました。このチェンジの方法も新しい考え方が取り入れられています。そして、2枚にしたことにより、有利な点がいくつかあります。その反面、テクニック的にむずかしくなった点は、最後の段階で、デックより1枚のエースをサイド・スティールして、選ばれたパケットへ移す必要があることです。 |
1930年代は、今日知られています配りなおすタイプのコリンズのフォーエースが出来上がるまでの過渡期といえます。1930年には、アーサー・バックリーにより、配りなおす方法を取り入れたフォーエース・トリックが発表されました。しかし、彼の現象はフォーエース・アセンブリーではありません。 フォーエースのパケットと配りなおして選ばれたパケットとの入れ代わり現象となっているからです。各パケットにおいて、コリンズのグライドを使った操作 が行われますが、コリンズのフォーエースの特徴であるエースのあざやかな消失現象がありません。この作品が発表されたのは、Dariel Fitzkeeによる"Thirty Card Problems"においてです。これが、1948年の"The Card Expert Entertains"に再録されています。 |
この本はヒューガードとブラウエによる共著で、1940年に発行されています。この本には大きな問題がありました。考案者の許可を得ないまま、勝手に掲載されてしまった作品やテクニックが多数あったことです。しかし、内容はとてもすばらしく、研究価値のあるものばかりです。この当時のダイ・バーノンやチャーリー・ミラーのすごさが分かる本でもあります。 |
今日知られていますフォーエース・アセンブリーは、1940年代に発表された作品が基本となっています。スタンリー・コリンズのフォーエースについて は、上記に報告しましたとおりです。スローモーション・フォーエースにかんしては、1941年にダイ・バーノンにより初めて発表されましたが、特に有名 なのは、1950年の「スターズ・オブ・マジック」での解説です。改案作品がいろいろ発表されていますが、その当時、エド・マルローは特に多数の方法を発表されています。 |
まだまだ報告したいことは多数ありますが、きりがありませんので、ここで終わることにします。なお、もっと詳しい内容や、今回報告しましたこと以外のことについても、"Toy Box Vol.8"では取り上げていますので、ご一読いただければ幸いです。 |