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コラム

第19回 フォーエース・アセンブリー (1960年までのクラシック・フォーエースとコリンズ・フォーエース)(2005.5.29up)

はじめに

1960年代から70年代にかけて、代表的なカード・マジックは何かと聞かれたら、私は即座に、フォーエース・アセンブリーと答えます。ところが、1990年代に入ってからは、フォーエース・アセンブリーを演じるマニアが、極端に少なくなったような気がします。1970年代を思い返しますと、演じられていましたアセンブリーは、スローモーション・フォーエースか、それをさらに発展させた作品がほとんどでした。そのうえに、80年代には、プログレッシブ・エーセスやリバース・アセンブリーのような複雑な作品が中心に発表されるようになっていました。もともと、スローモーション・フォーエースは、マニア対象とした要素が強いものです。それが、さらにマニアックになっていたわけです。その後、いろいろ理由があるのでしょうが、マニアの興味の中 心からはずれていったようです。近い将来には、新しい要素が加わって、再ブームの可能性がないとはいえません。

そういった状況の中で、見直してもよいフォーエース・アセンブリーがあります。クラシック・フォーエースです。20世紀の初め頃は、パーラー・マジック として演じられてもいました。そして、一般客へのインパクトとなりますと、スローモーション・フォーエースに比べはるかに勝っています。一般客の前で カード・マジックを演じる場合、私が5作品を選ぶとしますと、今でも、クラシック・フォーエースは必ず含めています。

最近になって、クラシック・フォーエースについて可能なかぎり調べてみました。それに関連して、コリンズのフォーエースについても調べました。そのために、主に1960年までのフォーエース・アセンブリーに関して書かれた文献を読みあさりました。その結果、私がそれまでにもっていましたいくつかの疑問に対する解答が得られただけでなく、新しい発見や面白い事実も分かってきました。また、調べれば調べるほど分からなくなることにも出会いました。そういったことをまとめた報告文を、近日発行予定(6月頃?)の「Toy Box Vol.8」に掲載させて頂きました。40ページ近くになるとのことです。それを全てここでは紹介出来ませんので、特徴的なことと、私の印象に残った点を中心に報告させて頂くことにします。

クラシック・フォーエース・アセンブリーの現象

次の4段階からなりたっています。

  • 1.4枚のエースをあらためた後、裏向きにして、4枚をテーブル上に並べます。
  • 2.各エースの上へ、普通のカードを3枚ずつ重ねます。
  • 3.客に好きなパケットを一つ選ばせます。
  • 4.他の三つのパケットよりエースが消失し、選ばれたパケットに4枚のエースが集まります。

クラシック・フォーエースの歴史の概要

最初に発表されたのは、1853年のフランスのPonsinの本です。英語の文献では、1876年のイギリスのプロフェッサー・ホフマンの「モダン・マジック」が最初です。ところで、「クラシック・フォーエース」だけの名前では、混乱をおこす可能性もあります。初めて文献上に登場するのは、1584年のレジナルド・スコットの"Discoverie of Witchcraft"に解説された方法と紹介されていることがあるからです。また、1900年以前を代表するクラシック・フォーエースと書かれた場合は、コヌーのフォーエースをさしています。どちらもフォーエースは使っていますが、アセンブリーの現象ではありません。なお、フォーエースを使用した最初のアセンブリーは、1740年にフランスのGuyotの本に発表されています。それは、デックの中のバラバラの位置へエースを入れて、中央に4枚のエースを集める現象です。それでは、四つのパケットを作って行うクラシック・フォーエース(アセンブリー)とは、どういった存在となるのでしょうか。私の考えでは、19世紀の終わりから20世紀前半における、もっとも代表的なフォーエース・トリックといってもよい位置づけとなるものではないかと思っています。

初期の時代で、パームを使用した、もっとも完成度の高い2作品が登場します。どちらも、1902年に発表されています。一つは、アードネスの「エキスパート・アット・ザ・カード・テーブル」に発表された"Exclusive Coterie"で、もう一つは、ラング・ネイルの「モダン・カンジャラー」に発表された「チャールズ・バートラムのフォーエース」です。その後、独創的な作品が次々と3人により発表されます。1909年のネルソン・ダウンズと、1914年、15年のスタンリー・コリンズと、1919年のチャールズ・ジョーダンの作品です。1932年には、バーノンの方法が発表されています。

1940年代は大きな転換期といえます。スタンリー・コリンズのフォーエースが、今日知られている、配り直す操作を取り入れて発表されます。また、1941年のスフィンクス誌には、後年に、スローモーション・フォーエースと呼ばれるようになる作品が初めて登場します。そして、1945年にブラウエ のシークレット・アディションが発表され、これを取り入れることにより、フォーエース・アセンブリーが演じやすい作品となりました。

1950年代は、40年代を受け継いで、クラシック系、スローモーション系、コリンズ系のそれぞれのフォーエース・トリックの改案が発表されて発展してゆきます。そして、1960年以降は、発表の主体が、スローモーション系のフォーエースに移ってゆきます。概要は以上のとおりですが、興味深い点をもう少し詳しく報告したいと思います。

クラシック・フォーエースを発表した文献について

フランスのJ.N.Ponsinの本が最初とされています。1853年のこの本の発行時には、上下巻に分かれていましたが、58年には一冊の本として再版されています。これを英訳したのがS.H.Sharpeで、1937年に発行され、1987年に再版されました。私はこの再版の英訳本を読みましたが、どこにもフォーエース・アセンブリーの作品が見当たりませんでした。結局、Ponsinが最初というのは、間違って伝えられているのだろうと考えたりもしてしまいました。調査の結果、分かりましたことは、この英訳本はPonsinの本の全てを訳した本ではなく、すでに英訳されているマジックに関しては削除していることでした。このことは、この本の訳者まえがきの3ページ目になって、やっと書かれていたことでした。こんな重要なことは、もっと目立 つところに書いておくべきだと抗議したくなります。

そして、すでに英訳してのせてしまっている本というのが、あの有名なプロフェッサー・ホフマンによる1876年の「モダン・マジック」であったのです。特にカード・マジックの部分の多くがPonsinの本から取り入れられているのです。ホフマンの本のまえがきやその他の部分にも、そのようなことは一切書かれていませんでした。結局、現代までに、Ponsinの本の全てを英訳した本は発行されていないのが実情です。

フェイスト・デックによる方法

Ponsinの本あるいは「モダン・マジック」の本では、フェイスト・デック(Faced Deck)による方法が用いられています。フェイスト・デックとは、デックの下半分を表向けた状態のデックのことです。デックの上に置いた数枚のカードを、秘かにデックをひっくり返すことによりチェンジすることが出来るわけです。最初のクラシック・フォーエースに使用されたこの方法が、なぜか、その後の長い間、フォーエース・マジックにおいて使用されることがありませんでした。調べた範囲では、その後から現代までに発表されているのは、次の3作品だけでした。1940年の「エキスパート・カード・テクニック」におけるチャーリー・ミラーの方法、1953年の「カーディシャン」におけるマルローの方法、そして、1980年代に入って、デビット・ウイリアムソンによる「イージー・エーセス」に使用された方法です。

フェイスト・デックがほとんど使用されなかったのは、デックをひっくり返すタイミングがむずかしいためでしょうか。その点、マルローやウイリアムソンの 方法は工夫されていますので参考になります。1990年にマジック・ランド主催の「箱根クロースアップ祭」では、ウイリアムソンがゲスト出演されまし た。その時に、フェイスト・デックによるフォーエース・アセンブリーを演じられ、多くのマニアを煙に巻いていたのを思い出します。

ネルソン・ダウンズの奇抜な発想

20世紀初め頃までのフォーエース・アセンブリーは、パームを使用する方法が主流でした。また、パームのかわりにパスが使われることもありました。ところが、1909年のネルソン・ダウンズの「アート・オブ・マジック」以降、各種の方法が発表されるようになりました。ダウンズは、6枚のDFカードを使用して、4枚のエースとその上にのせる3枚のカードも全て表向きのままで行う方法を発表しています。さらに、別の方法では、3枚のデュプリケート・エースが使用されています。この場合には、選ばれなかった三つのパケットのボトムのエースを処理する必要があります。その方法は、クロースアップ・マジシャンでは考えもしない方法が採用されています。テーブル・クロスに細工がされていたのです。当時は、パーラー・マジックとして演じられていましたので、そのような考え方も可能であったものと思われます。

そして、もっと奇抜な方法が発表されました。テーブルに並べる4枚のエースのうち、3枚のエースに特別な細工が加えられているのです。現実ばなれした笑ってしまいそうな方法です。しかし、これを最近になって、別の現象のマジックに応用して、多くのマジシャンを煙にまいた商品が発売されました。少し離れて演じる特別なクロースアップ・マジックでは、十分に通用することが証明されました。

スタンリー・コリンズのフォーエースについて

全てのパケットからエースが消失して、配り直したいくつかのパケットの一つより4枚のエースを現すマジックが、今日では、コリンズのフォーエースと呼ばれています。この現象が文献上に発表されたのは1940年代に入ってからです。ところで、コリンズのフォーエースの特徴は何かといえば、各パケットからのあざやかなエースの消失です。これを、トリック・カードを使用せずに、余分な1枚のカードを加えて、グライドのテクニックを使用して可能にしたことです。この方法を取り入れたフォーエース・アセンブリーが、1914年のマガジン・オブ・マジック誌10月号に、コリンズにより、すでに発表されています。そういった意味では、こちらの1914年の作品が原案といえます。しかし、この時の現象はクラシック・フォーエースそのものです。3枚のデュプリケートのエースを使って、客が選んだパケットより4枚のエースを現しています。選ばれなかった三つのパケットは、コリンズのグライドを使った方法により、あざやかにエースを消失させています。

さらに、1915年のコリンズの"Original Magical Creations"の本における改案では、封筒を使用して、不可能性が強くなっています。コリンズは、1914年のマガジン・オブ・マジック誌11月号に、別のタイプのフォーエース・アセンブリーを発表しています。これが可能であれば、パーフェクトのフォーエースといえるものです。客より借りたデックにより、客が4枚のエースを並べ、客にその上へ3枚ずつ置かせています。そして、フォースしないで、選ばれたパケットに4枚のエースを集めています。むずかしい部分がありますが、パーラー・マジックとして演じられており、そうであるならば不可能ではない方法といえます。これを、ダイ・バーノンは、テーブルを前にして座った状態で行うマジックとして、1935年のスフィンクス誌に発表してい ます。これは、1938年の「グレーター・マジック」に"Aces for Expert"として再録されました。

意外性の強いチャールズ・ジョーダンのフォーエース

本来のクラシック・フォーエースのように進行し、途中で意外な状況となり、最後は本来の状態に丸くおさまるといったフォーエースです。1919年の"Thirty Card Mysteries"に発表されています。意外な状況とは、客が選んだパケットが4枚ともジョーカーにかわっており、横に置いてあった1枚のジョーカーが1枚のエースにかわっていることです。この後、4枚のジョーカーが4枚のエースになり、横に置いたカードがジョーカーに戻って終わります。このマジックの意外性は現象だけではありません。この作品の海外での改案が、私の調査では2作品しかなく、42年の間隔をあけて発表されているといった意外な事実もわかりました。最初の改案は、42年後の1961年にチャーリー・ミラーの小冊子に発表されました。そして、それから42年後の2003年に、ロベルト・ジョビの改案として「カード・カレッジVol.5」に発表されています。なお、日本においては、1973年の奇術研究68号に、松田秀次郎氏の方法が発表されています。余分なカードは使用しないで、シンプルにした改案作品となっています。

ダイ・バーノンのクラシック・フォーエース

バーノンといえばスローモーション・フォーエースが有名ですが、クラシック・フォーエースにおいても新しい考え方を発表しています。1932年にフォー セット・ロスにより解説されたバーノンの作品集の小冊子において発表されています。バーノンのフォーエースの特徴点は、4枚のエースの内2枚だけ普通のカードとチェンジしているところです。これまでの方法では、3枚がチェンジされていました。このチェンジの方法も新しい考え方が取り入れられています。そして、2枚にしたことにより、有利な点がいくつかあります。その反面、テクニック的にむずかしくなった点は、最後の段階で、デックより1枚のエースをサイド・スティールして、選ばれたパケットへ移す必要があることです。

その後、この2枚のエースをチェンジして行うフォーエースの作品が、いくつか発表されています。1936年の「フランシス・カーライル・エーセス」、 1940年のチャーリー・ミラーによる"The Nomad Aces"(エキスパート・カード・テクニック)、1948年の"Gathering of The Clan"(ロイヤル・ロード・ツー・カード・マジック)等です。

配りなおすタイプのスタンリー・コリンズのフォーエースについて

1930年代は、今日知られています配りなおすタイプのコリンズのフォーエースが出来上がるまでの過渡期といえます。1930年には、アーサー・バックリーにより、配りなおす方法を取り入れたフォーエース・トリックが発表されました。しかし、彼の現象はフォーエース・アセンブリーではありません。 フォーエースのパケットと配りなおして選ばれたパケットとの入れ代わり現象となっているからです。各パケットにおいて、コリンズのグライドを使った操作 が行われますが、コリンズのフォーエースの特徴であるエースのあざやかな消失現象がありません。この作品が発表されたのは、Dariel Fitzkeeによる"Thirty Card Problems"においてです。これが、1948年の"The Card Expert Entertains"に再録されています。

ところで、興味深いことは、この作品が日本においては「スタンリー・コリンズの4枚のエース」として発表されていることです。1959年の奇術研究15号において高木重朗氏の訳で解説されました。また、それがそのまま、1983年の「カード・マジック事典」に再録されています。このバックリーと同様な方法を使って、もっと複雑な現象にしたのが、1938年の「グレーター・マジック」に解説されたアンネマンの作品です。これもアセンブリーの現象ではありません。

結局、アセンブリーの現象として最初に解説されたのは、1940年の「エキスパート・カード・テクニック」における"Solo Flight Aces"です。これは、ダイ・バーノンからサジェストをうけたチャーリー・ミラーが演じた方法のようです。なお、その後の調査により、1940年以前においても、Nate Leipzig(1939年死亡)により演じられていたことが分かりました。しかし、その方法の文献上での発表は1963年まで待つ必要がありました。コリンズ自身も配りなおすタイプの作品を発表していますが、それは少し後になってからのことです。1945年のJ.G.Thompson,Jrの「マイ・ベスト」の本において、「アルファー・フォーエース・トリック」の名前をつけて発表されました。

この後、1960年までに、次の人物の改案が発表されています。ヘンリー・ヘイ、エド・マルロー、ブルース・エリオット、コンラッド、サイエンド・ フィールド、Max Katzの作品です。

エキスパート・カード・テクニックにおけるフォーエース・アセンブリー

この本はヒューガードとブラウエによる共著で、1940年に発行されています。この本には大きな問題がありました。考案者の許可を得ないまま、勝手に掲載されてしまった作品やテクニックが多数あったことです。しかし、内容はとてもすばらしく、研究価値のあるものばかりです。この当時のダイ・バーノンやチャーリー・ミラーのすごさが分かる本でもあります。

ところで、"Birds of a Feather"の部分の14作品のうち、7作品がフォーエース・アセンブリーの現象の作品です。7作品ともに、レギュラーのワン・デックで出来るものばかりです。そして、この7作品に使用された方法は、各種の考え方やテクニックが取り入れられており、興味のある内容となっています。ただし、エキスパートを対象に書かれており、初心者向きの作品はありません。

転換期となる1940年代、50年代のフォーエース・アセンブリー

今日知られていますフォーエース・アセンブリーは、1940年代に発表された作品が基本となっています。スタンリー・コリンズのフォーエースについて は、上記に報告しましたとおりです。スローモーション・フォーエースにかんしては、1941年にダイ・バーノンにより初めて発表されましたが、特に有名 なのは、1950年の「スターズ・オブ・マジック」での解説です。改案作品がいろいろ発表されていますが、その当時、エド・マルローは特に多数の方法を発表されています。

そして、重大な出来事が、1945年にブラウエのシークレット・アディションが発表されたことです。1948年のターベル・コース第5巻には、これを取 り入れた作品が発表されています。マルローの「シンプレックス・エーセス」と「ワン・アット・ア・タイム・エーセス」です。特に「シンプレックス・エー セス」は、今日演じられていますクラシック・フォーエースの基本的な方法といえるものです。その後も、シークレット・アディションは多数の作品に取り入れられ、フォーエース・アセンブリーが演じやすい身近な作品となりました。

ところで、このシークレット・アディションには不可解な点がいくつかあります。調べれば調べるほど分からなくなる点が出てきます。この用語の名称の問題、用語の解説のしかたの問題、原案はどの方法とすべきか等の問題です。このことの報告だけで多数のページを取りますので、ここでは割愛させていただきました。

1950年代のクラシック・フォーエースにおける画期的なことは、1957年にエルムズリーの"1002nd Aces"が発表されたことです。使用する枚数を少なくしてシンプルにしただけでなく、マジシャンズ・チョイスを使用しないで行えるようになりました。巧妙な発想の作品です。また、1958年にはリン・シールズにより"Ultimate Aces"が発表されています。4枚のエースだけバックの色を変えて使用するフォーエース・アセンブリーです。

1960年代以降は、オープン・トラベラーズ、ジャズ・エーセス、オーヘンリー・エーセス、プログレッシブ・エーセス、リバース・フォーエース・アセンブリー等が次々と発表されます。つまり、スローモーション系のフォーエース・アセンブリーの全盛期をむかえることになるわけです。

おわりに

まだまだ報告したいことは多数ありますが、きりがありませんので、ここで終わることにします。なお、もっと詳しい内容や、今回報告しましたこと以外のことについても、"Toy Box Vol.8"では取り上げていますので、ご一読いただければ幸いです。


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