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コラム

第14回 本結び・たて結びとマジックのかかわり (2004.2.17up)

はじめに

本結びを Square Knot (reet knot)、たて結びは Granny Knot と呼ばれています。スライディーニの結ばれたシルクを解くマジック "Slydini's Knotted Silks"の第2段では、2つの結び目についての解説がされています。客に結ばせた結び目を解く為には、2つの結び方のどちらになっているかを、まず見分ける必要があるからです。そして、それぞれに対して、少し違った対処のしかたがあります。シェフェロ・ノットという結び目を解くパズル様のマジックがあります。これも2つの結び方の違いが分かっていない場合には失敗する可能性が多くなります。また、それぞれのロープの端を他端から3分の1の長さの部分に結びつけ、この2つの結び目のすぐ横をハサミで切った後、復元させるマジックがあります。これは本結びが出来ないと困難なマジックといえます。これらのマジックが失敗せずにスムーズに行えるようになるためには、2つの結び方についての知識が必要です。少なくとも、本結びが何も考えずにスムーズに結べるようになっておく必要があります。また、2つの結び目の特性が分かってきますと、結び目を使ったマジックも面白さが増してきます。

本結びは別名として、真結び、こま結び、堅結びというように多数の呼び名があります。それに対して、たて結びには別名がほとんどないと言ってもよいでしょう。結び方に関する多くの本の中で、本結びのことは紹介されていても、たて結びについては書かれていません。もし書かれていても、間違った結び方であり、本結びにするように注意書きされています。

本結びは一度結ぶと解きにくく、その反対に、解きたい時にはある方法で簡単に解くことが出来ます。それに対して、たて結びでは結び目では少しゆるんでいるだけで、解けてしまうおそれが大きい結び方といえます。さらに悪いことに、解く時には本結びで簡単に解いていた方法が行いにくく、時間をかけて苦労して解くことになります。たて結びは本結びに比べると、全く良いことなしの結び方といってもよいでしょう。

マジックにおいても本結びの方が簡単に解く方法があることや、結び目の特性上でいろいろと活用しやすい点があります。それでは、たて結びはマジックではほとんど使用しないのかといえば、スライディーニの緩んだシルクを解くマジックの第一段では使用されています。この場合には演者が結んでいますが、ゆっくりと結ばれてゆく状況を客にもよく見せて、納得させながら結び目をつくっています。この時は本結びではなく、たて結びの変形といえる方法を採用されているのです。なぜ、たて結びなのでしょうか。マジックにおいてはたて結びの方が良い点があるのでしょうか。その解答のためには、もう少し踏み込んだ2つの結び目の特性の違いに興味がわいてきました。

両者の特性の違いを説明する前に、結び方の違いと形状の違いについて触れておく必要があります。結び目を作る為にロープの両端を交差させた後でからませる操作を繰り返します。つまり、2回行うことにより、解けない結び目が完成するわけです。ところで、2回目の両端を交差させる時に1回目と同様に重ねればたて結びになり、逆に重ねれば本結びとなります。少し混乱する表現になるかもしれませんが、上記のことを別な表現をしますと、同じロープ端が常に手前になるように重ねれば本結びとなります。つまり、右端を手前に重ねてからませるとこの端は左側へゆきます。2回目の時にこの左側にきた端を手前に重ねてからめれば本結びにとなるわけです。

本結びは平たく四角形に近い形状となることより、アメリカでは Square Knot と呼んでいます。たて結びでは2回目のからませたロープが安定するために90度程ずれる状態となります。その為に横方向のロープ本体に対して、たて方向へロープの両端が出てきます。結び目から出てゆくロープの状態が十字型となり、結び目自体は四角形ではなく丸に近い形状となります。

なぜ、たて結びでは2回目のからませる時に90度回旋してしまうのでしょうか。それは、ロープの状態からみて不自然なからませ方をしているからです。1回目のからませることを終わった後、2回目のロープの交差をさせる時に、ロープの手前から出てきている端をわざわざ向こう側へまわし、向こう側から出ていた端を手前側に持ってきて重ねているからです。

では、なぜ2回目には不思議な重ね方をしてしまうのでしょうか。それは手の動かし方の癖といえばよいのでしょうか。1回目の時と同じ手の動かし方で交差させてからませてしまう為と思われます。アメリカではたて結びを granny knot と呼びますが、 granny とは「おばあちゃん」の意味です。アメリカでの女性は日常生活において本結びを作る機会が少ないのでしょうか。男性は仕事や野外活動等の中で本結びを作る機会が多くありそうです。たて結びではなく本結びになるように結び方の指導をうけたことがなかったり、本結びを作る機会が少ない人の場合にはたて結びになりやすい傾向があるのかもしれません。 日本においては、アメリカと違って、生活様式の違いから年齢の高い女性ほど本結びには詳しいような気がしています。

本結びを作る為の留意点として、ロープの状態に逆らわないように2回目も重ねればよいだけですので、割合気楽に行えます。ロープより手前に出てきたロープ端を、2回目の重ねる時に手前から重ねればよいだけです。それだけでたて結びになることが避けられます。

次に簡単に結び目を解く方法についてです。その為には、まず2つの結び目の内部のロープのからみ方をじっくり観察する必要があります。本結びでは右側にあったロープの端が、一度は左側へ行って、その後に元の右側へもどって右側のロープ本体と並んだ状態となります。

この本結びを簡単に解く為には、一方のロープが結び目内で一直線になるようにすればよいわけです。その為に、どちらか一方のロープ端とそれによって並んでいるロープ本体部を左右の手に持ち、左右方向に引っ張れば一直線になります。結局、ロープ端が180度方向転換を強要されることになる為に、結び目内ではロープが大きく動き、大幅な形状の変化が起こることになります。

これに対して、たて結びにおいては、右側のロープ端は右側にもどらずに90度方向に出てゆきます。そのために、一方のロープを一直線にするにはどちらのロープ端とどちらのロープ本体部を持って左右に引っ張ればよいのかの判断にとまどいます。これはロープのからみ状態をみて判断することになります。そして、一直線にする為には90度の方向転換させているだけとなり、本結びのような大幅なロープの動きや形状の変化が起こりません。この変化が少ないということが、たて結びの大きな欠点の理由となっています。つまり、一方のロープ自体が勝手に一直線に近い状態に変化してしまうことがあるからです。

ある品物にロープを巻き付けてたて結びでしばったとします。結ばれたロープ本体の一部をつかんで品物を持ち上げると、品物の重みでロープが引っ張られ、結び目内で一方のロープが直線状へ容易に変化して解けてしまう可能性が大きくなります。

以上のようなことを調べている中で、面白い現象が起こる理由が解明できました。それはロープの端近くをそれぞれの手に持って、端10センチ程のところにたて結びをつくった場合の現象です。多くの場合はその位置で結び目が出来て動きませんが、時々、結び目が固定出来ず、どんどんずれてゆく現象が起こることがあります。この現象は数年前より興味をもっていましたが、そのことの原因を究明するまでには至りませんでした。今回この報告をまとめるにあたり、100パーセントずれを起こさせる為の方法を研究しました。もちろん一方のロープが直線に近くなるようにたて結びをすれば容易にこの現象が起こります。しかし、そうではなく、近くで見ても全く普通のロープのからませ方であやしさがなく、両端を普通に左右に引っ張ってゆっくり結び目をしめつける課程の最後で、一方のロープが直線に近い状態になるのです。結び目が固定される場合とずれる場合の結び目の作り方の違いに気付かれることはまずないと言ってもよいでしょう。この方法と原理は、ロープのセルフワーキングマジックとしてまとめて、近い将来に紙面上で発表したいと思っています。

これまではロープを使用して両者の違いをみてきました。しかし、スライディーニはシルク(ハンカチ)を使ってマジックを行っていますが、シルクでもロープと同じ特性があるものと考えてよいのでしょうか。基本的には同じ特性がありますが、いくつかの点で違いがみられます。スライディーニのマジックで説明したいと思います。第2段では、本結びになっているかたて結びになっているかを見分ける必要がありますが、これはロープの時と同様に形状を見ればすぐに分かります。しかし、たて結びの場合、ロープの時のように結び目内のからまり状態を容易に知ることが出来ません。ロープのような厚みがない為です。そこでスライディーニは、色違いのシルクを使用してたて結びを作り、どちら側のシルクがどのようにからまっているのかをよく観察しておくことを述べられています。いくつかの着目すべき点があげられていますが、この状態が分かれば同色のシルクを結んだ場合でも判断出来るようになります。

次に前にも書きましたが、スライディーニの第1段ではなぜかたて結びが使われています。本結びをロープで行った場合には、簡単に解けるように一方のロープ端を直線状に変換しますと、結び目内部が大きく変化してしまいます。そして、結び目から出ているロープの端が、一方が最初よりもかなり長くなり、他方は短くなってしまう問題がありました。たて結びではこの変化のしかたがかなり少なくてすみます。そういった理由でスライディーニはたて結びを使っていると結論を出しかけたことがありましたが、シルクの場合には状況が違っていました。厚みが少ない為に、本結びでも大きな変化が起こらないことが分かったからです。両者の結んだ状態を比べても大きな違いはみられませんでした。結局、たて結びを使用する理由が分からないといった結果になってしまいました。あえて他に理由を考えますと、このマジックではゆっくり結ばれてゆく状況を客にもよく見せて納得させながら結ぶ目を作っていますので、ハンドリングの関係でたて結びの方がスムーズに行いやすいのかもしれません。いずれにしましても、もう少し研究してみる必要性を感じさせられました。

ここで少しスライディーニの結ばれたシルクを解くマジックについて触れておきたいと思います。第1段と第2段では上記のように本結びやたて結びを使った結び方です。ところが第3段と第4段では両端を重ねた状態で巻きつけて結ぶ方法で行なわれています。これまでの中で説明しましたことは、一般の人にも知られている内容が多く含まれています。これに秘密の操作が加わってありえない解け方が起こるわけです。そしてこのマジックのすばらしさは、結び目を解く為に多くの工夫が加えられていますが、それがうまく融合されている点といってもよいでしょう。ただし、このマジックの解説書を読まれて一定期間練習されて実演されたとしましても、実際面では思っているほどスムーズに出来ないことがあります。また、例えうまくいったつもりでも、思っているほどはうけなかったりして、奥が深いことを思い知らされます。

マイク・スキナーのビデオでは、このマジックをスムーズにうまく実演されていました。しかし、スライディーニに比べますと、負けている印象をうけてしまいました。テクニック的には、もしかしますとマイク・スキナーの方が上まわっていたかもしれません。ところが、スライディーニが演じますと、絶対に解けそうにないと思わされてしまうだけでなく、いつの間にか抵抗感なく解けてしまっているのです。このめりはりのつけ方は、誰にもまねの出来ない名人芸といえるでしょう。解く方法と解くタイミングがわかっているつもりでいても、まだ解いていないと思わされてしまうすごさがあります。

私にとっては、この第1段と第2段だけでも強烈な印象を与えられたマジックでしたが、それ以上に魔法を見ている思いにさせられたのは第3段であったのです。結ばれていることをあらためた直後に、ゆっくりと抵抗感なく2つのシルクが左右に分離していったからです。この現象は本を見てもマイク・スキナーのビデオを見ても、そのような見せ方になっていないのが残念な点です。

それではまた、ロープを使用したマジックに話をもどしたいと思います。冒頭に書きましたロープ切りのマジックでは、2カ所にそれぞれのロープの端を本結びで結び付けています。この後、2つの結び目共にそのすぐ横の部分をハサミで切ってしまうわけですが、結び目のどちら側を切るのかが重要です。このマジックの場合、1つの結び目にはロープの端が1本しかありませんので、それと平行に並んだロープの本体とロープの端をいっしょに切っています。本結びによりロープの切る位置が明示されているわけです。反対側を切ってしまうと大失敗してしまいます。ロープの端と並んだロープの本体部を切っても、それはロープの端に近い部分であるわけです。

このロープ切りのすばらしいところは、2カ所の結び目の横を切った後、新たに出来たロープの端を左右に引っ張りますと、結び目が2つ共前方へ飛び出して、ロープが復活することです。面白くあざやかに見えます。

次はシェファロ・ノットについてです。本結びやたて結びではロープを交差させてからませることを2回繰り返すと書きましたが、シェファロ・ノットにおいては、2回目との間に大きなループを保った状態にしています。1回目にからませた部分の下側にあるループと2つ目のループがほぼ同じ大きさであり、8の字の形になっています。この状態から、一方のロープ端だけを使って解くわけです。一般的な考えでは、ロープの流れをもどる方向にするため、上方のループにロープ端を通過させて、その後下側を通過させれば解くことが出来ます。しかし、このマジックの面白いところは、先に下側のループを通過させた後、上側のループを通過させても解けるところが不思議なわけです。この原理を発展させて、あらゆる状況にも対応出来るように研究されて発表されたのが松山光伸さんです。1972年の「マルティプル・ノットの研究」 (「マニアック」NO.1,立体社発行)に発表されています。それによりますと、ロープが2つだけでなくそれ以上のいくつでも対応出来、本結びとたて結びがまざっていても可能です。しかもシンプルな解説法となっています。さらにそれだけでなく、松山氏独自の新たな解き方も発表されており、この分野の原理の研究としては完成された感じがします。しかし、この本の中でも触れられていますが、パズルとしての面白さはありますが、マジックとしては意外性等での弱さがあります。また、マジックとしての使用は2つのループまでが限度であろうとも述べられています。

実を言いますと、このマジックは私は好きではありませんでした。マジックというよりもパズルといった思いがしてしていたからです。変わった方法で解いたとしても「解けるようになっているんだ」と思っただけです。不思議さや面白さはほとんど感じませんでした。8の字型の2つのループを見せられても、特例のものとしか受け取れなかったからです。ところがよく見ますと、上側のループを小さくすれば本結びになることに気付かれることと思います。意味のない2つのループよりも、少しゆるめに結ばれた本結びを解くマジックとしての方が興味が出てきます。上側のループを作るかわりに本結びを作って、その中央にロープが余裕をもって通過出来る程度のすき間を作るようにします。このことにより、このマジックが一気に身近な存在になります。

このマジックで注意すべき点は、本結びであっても最初にどちら側のロープ端を手前に重ねるかにより、後でのロープの通過させ方が異なることです。また、たて結びになっていることに気が付かずに、本結びの時のように通過させると失敗してしまいます。たて結びの場合も、少し方法が異なるわけです。 ところで、私はこの原理を使用して、少し変えた方法のマジックを2つ考えました。しかし、結び目を解くという現象には変わりありません。1つ目は、上側のループ(本結びの中央のすき間)に一方のロープを一回通過させるだけで結び目が解けます。2つ目は、たて結びにしてたて結びを解く方法で、ロープを通過させ、両端部を引っ張りますと、最後は失敗したかのように固い団子様のかたまりが出来ます。そして、もちろんそれも解けてしまいます。

2つの現象に補足しておきますと、本結びにおいては、最後にはゆるやかにもつれたように見えて解けます。このことの研究発表は石田天海氏の方法(奇術研究 2号)が有名です。たて結びでは途中で必ずひっかかりが出来て、それ以上解きにくい状況が起こります。このようなことが起こらないようにしただけでなく、最後には固いかたまりが出来て解けるようにしました。なお、松山氏の新たな方法では、どちらもスムーズに解けるようになっています。

最後に、本結びのダイレクトな解く方法についてです。本結びであれば、結び目の近くの左右のロープ本体部を持って左右に引っ張っても解けるものではありません。しかし、見た目にはそのようにして解いたとしか見えない方法が発表されました。オランダのリンフやアメリカのミルボン・クリストファーにより発表された方法です。本結びといえども、少し待つ位置を変えて、力の加える方向を変えるだけで解けてしまいます。少し前に書きましたように、結び目内の一方のロープを直線状にしなくても、ダイレクトに解くことが出来るわけです。どのように引っ張れば解けるかは、ロープを実際に手に持たれて結び目を作ってためして下さい。こういったことが分かってきますと、本結びであっても完全ではないことが理解出来ます。しかし、そういった欠点がかえってマジックに応用出来る要素となりますので面白いものといってもよいのかもしれません。


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