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コラム



第13回 「クロースアップ・マジック」という用語について (2004.1.10up)

2003年12月のRRMCの例会は、「クロースアップ・マジック」という用語や発言の問題が話題となりました。 まず最初に、シャンハイの大会に参加されていた会員から面白い話を提供してもらえました。中国の司会者が、日本では言わない方がよい言葉を何回も言われていたそうです。後で意味を教わったところ「クロースアップ・マジック」となるそうです。「クロースアップ」だけでも、中国語の発音の響きは日本人には別なことを連想されるものとなります。これに「マジック」が加わると、より意味深長な言葉になってしまうようです。その意味はここでは書けません。「クロースアップ」や「マジック」という英語は、中国では一般的にはまだまだ通用しない言葉なのでしょうか。

ところで、日本ではかなり昔より「クローズアップ」という言葉が日本語として定着しています。マジックで「クロースアップ」という言葉を使用しますと、両者の違いを聞かれることが時々あります。今回の例会でも、最近になって数名の初心者にカードマジックを指導されている会員から、「クロースアップ・マジック」という用語を使用すると「クローズアップ」との違いの質問がかえってきたそうです。答えは簡単で「クロースアップ」が英語の正しい発音であるわけです。

では、なぜ日本では「クローズアップ」と発音されるようになったのでしょうか。また、日本のマジックの世界では、いつ頃から「クロースアップ」と呼ぶようになったのかも興味が出てきました。そして、海外で「クロースアップ・マジック」という用語が使われるようになったのはいつ頃からかも調べることにしました。

まず最初に、英和辞典と国語辞典で確認することにしました。英和辞典で"close-up"をみますと、発音は「クロースアップ」に近い記載がされています。ところで、意味のところとなりますと、辞典によっては「クロースアップ、大写し」とあります。国語辞典で「クローズアップ」を調べますと、その意味が書かれた最後に「正しくはクロースアップ」とか「英語ではクロースアップと発音」と書かれています。 面白いと思ったのは「広辞苑」です。「クローズアップ」は「クロースアップの言化」と書かれていたからです。ユニークな表現です。

そこで、元になります close を調べることにしました。最後の発音が「ズ」になるのは動詞の場合で、「ス」になるのは形容詞か副詞の場合とあります。名詞は意味によって両方が使われています。 結局、close が2通りの発音の使いわけを必要とする単語であるために生じた間違いであろうと思われます。このことがきっちり書かれた文献を見つけることは出来ませんでした。私の勝手な想像では、動詞の「閉じる」の意味の close の最後を「ズ」と発音することが、外来語としては早い時期より認知されていたのではないでしょうか。そして、後で知られるようになった close-up も同様に発音するように思われてしまったのではないかと思いました。正確なことは分かりません。

  ところで、もっと混乱しそうなことは、英語でも「クローズアップ」と発音することがあることです。「閉鎖する」とか「間を詰める」といった場合に使用されます。この時には、close up と書かれています。二つの単語の間に「-」が入りません。

調査している中で興味ある記載がされている本がありました。1978年発行の「外来後の誤典」という本です。その中で、間違った発音の外来語が紹介されていました。デバートはデパートが正しく、バックはバッグ、バトミントンはバドミントン、ナフキンはナプキンが正しいとされていました。しかし、これらの外来語を最近の国語辞典でみますと正しい発音の方で書かれるようになっています。時代と共に、正しい発音が外来語として定着してきたようです。
ところが、「クローズアップ」や「ルーズ」(だらしない等の意味)は今日でもそのまま辞書に使われています。修正されずにそのまましっかりと日本に定着しているようです。「クロースアップ」や「ルース」になっていません。

では、なぜ日本のマジックの世界では「クロースアップ」となったのでしょうか。
1960年代や1970年代中頃までは「テーブルマジック」という用語が使用されていましたが、「クロースアップ」の用語はあまり使用されていなかったように思います。本のタイトルで最初に使用されたのは、1974年発行の松田道弘著の「クロースアップ・マジック」であると思われます。その後も、この用語を含んだタイトルのマジック書が数冊発行されています。 1978年には第1回世界クロースアップ・マジック大会が開催され、1982年よりマジックランド主催で箱根クロースアップ・マジック祭が毎年開催されるようになりました。それだけでなく、1984年からは日本クロースアップ大賞を決定するためのコンテストが毎年行われるようになりました。これらはすべて「クローズアップ」ではなく「クロースマジック」の方が使われています。
この頃より、「テーブルマジック」の用語よりも「クロースアップ・マジック」が、よく使用されるようになってきたようにも思います。

なお、1980年代頃までは「クローズアップ」の方も、マジシャン同士の会話ではまだまだ使用されていたように思います。しかし、上記のように本や催しでの用語が「クロースアップ」と書かれるようになって、マジックの世界では「クロースアップ」の認知度が高くなって、その後はかなり定着してきたのではないかと思います。

この頃の面白い話があります。「クロースアップ」と発音するのは「cloth up」つまり、クロース(布地)であるテーブルクロスやテーブルマットの上で行うマジックであるからで、これからは「クローズマジック」と呼ぶ必要があるといった診説があったことです。

日本において「クロースアップ・マジック」の用語がいつ頃から使用されているのかを、さらに調査をすすめますと、大阪奇術愛好会が1965年に第1回クロースアップ・マジック・コンベンションを開催されていました。この頃から、英語発音の「クロースアップ」が使用されていたわけです。それ以前に関しては、今回は十分な調査ができませんでした。

それでは、海外で「クロースアップ・マジック」の用語が使用されたのはいつ頃からでしょうか。20世紀に入ってアマチュアの時代とかクロースアップ・マジックの時代に入ったと言われています。ダイ・バーノンがニューヨークで多くのマジシャン達をクロースアップ・マジックで不思議がらせたのは1920年代に入ってからです。その頃には、すでにこの用語は使用されていたのでしょうか。1934年には、Jean Hugard の「クロースアップ・マジック」というタイトルの本が発行されています。これが本のタイトルとしては最初に使用されたものではないかと思います。しかし、雑誌や書物の中でこの用語が使用されたのは、もう少し前であろうと思われますが、今の段階ではここまでの調査しか出来ませんでした。
今回はマジックそのものからは少しはずれてしまいましたが、たまにはこういった報告もしてゆきたいと思います。

追記
最初に報告しました中国語の発音ですが、日中辞典で発音を調べられても、「クロースアップ」では別の中国語発音となります。「大写し」の意味としての中国語になるためだと思われます。 なお、たとえ「クロースアップ・マジック」に匹敵します中国語がわかり、発言を辞典で調べられても、冒頭で述べましたようになるとは想像も出来ないかもしれません。しかし、本場シャンハイの司会者が発言するとそのように聞こえてしまうそうです。 「クロースアップ・マジック」はやはり不思議としかいいようがありません。


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