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コラム



第83回 あやとりと指ぬきマジック(2018.1.26up)




はじめに

石田天海氏とダイ・バーノン氏がロープによる指ぬきマジックを考案されていたことが意外でした。「ロープパズル」のタイトルで発表されています。それとは方法が全く違うのですが、同じような原理を使った指から抜ける方法があやとりの本に解説されていたのも意外でした。さらに、そのあやとりの方法の元になるのが1951年発行の柴田直光著「奇術種あかし」の可能性があるのも意外でした。 マジックとしてよく知られている客の指から抜ける方法がありますが、ダイ・バーノンのお気に入りの方法があることが分かりました。シンプルで感心させられる方法ですが、これまでほとんど知られていなかったのも意外です。ところで、海外の方法では右指だけの操作で行うのですが、日本のあやとりの本では両指を使う独自の考え方が加わっています。そして、柴田直光氏の本の方法も両指を使っており、日本のあやとりとの関係に興味がわきます。

少し変わった指ぬきマジックが1859年発行の米国のマジック書に解説されます。鼻に指を当てる方法ですが、その後、その解説を日本や海外のマジック書で見つけることができませんでした。しかし、最近の日本のあやとりの本で原案や改良案が解説されていたのには驚きました。

上記のように指ぬきマジックを調べるために、マジック書だけでなくあやとりの本が重要であることが分かります。予想以上にあやとりの本が発行されており、指ぬきマジックも多数解説されていることには驚きました。今回はこれらのことを、もう少し詳しく報告させていただきます。

天海とバーノンの指ぬきマジック

1953年にダイ・バーノンがルー・ダーマン宅にて天海氏に指ぬきマジックを見せています。それを改案した天海の方法が、1971年のGenii誌5月号に「天海のロープパズル」のタイトルで解説されました。”Do As I Do” の現象で、客と演者が同様に行うのに演者は指からロープが抜け、客のロープは指に絡まってしまいます。10枚の写真付きで解説されているのですが、手もロープも白いために、手とロープが重なっている部分のロープの状態がほとんど分かりません。また、指から抜けるようにするための重要な部分の詳細がわかりません。肝心な部分の写真と解説が抜け落ちているようにも思えます。勝手な解釈でスムーズに行える方法を考えましたが、それが正しいのかどうかが分かりません。

1.2メートルほどのロープをループ状にして、右手の親指と左手の人差し指に引っ掛けて左右に広げて示しています。客側に掌を向けていた右手の手首を返しつつ2本のロープの下をくぐらせ手背を向けた後、右人差し指を左へ向けて突き出しピストル状にします。この右人差し指へ左人差し指のループ端を引っ掛けます。右手だけで右人差し指のループ端を右親指に移し、親指と人差し指の指先を合わせます。今の状態は右親指に二つのループ端が掛けられており、リング状にされた指で外れないようになっています。しかし、左手でロープの一部分を引くとリング状の右指からロープが抜け出します。同様に行わせた客のロープは指に絡まって抜け出すことができません。

バーノンの方法に関しては、天海氏のマジックを研究されている小川勝繁氏より見せていただいた資料の中にバーノンの方法の記載がありました。天海メモの中で紹介されていたようで、四つのイラストと簡単な説明だけで記載されていました。バーノンの方法でもロープのループを右親指と左人差し指に引っ掛けて左右に広げて示し、右手首を返して2本のロープの下をくぐらせているのは同じです。しかし、この後に違いがあります。手首を返して手掌を客側に向けて、右親指が左方向へ突き出すようにしています。この右親指の先に左手人差し指の先をくっつけて、ダイレクトに左人差し指のループ端を右親指へ移しています。その後、右親指と右人差し指の先をくっつけてリング状にして、ロープが抜け出せないようにしている点は同じです。こちらも、重要な秘密の操作部分の詳細が分かりません。

その後の調査により、1986年発行のKarl Fulves著 “Contemporary Rope Magic” にSam Schwartz解説による「バーノンのロープ・パズル」として解説されていることが分かりました。この解説では秘密の操作部分がハッキリとイラストで描かれており、私が想像していた通りであることが確認できました。しかし、私がこの方法で不安に感じていたのが、実際面でこれが通用するのかといった点です。秘密の操作を客には見えている状況の中で行なう必要があるからです。そのようにしていると思わせない工夫が必要で、客に意識させないタイミングやテンポで行うことになります。このことに関しては独自で研究するしかないようです。そのようなわけで、これはマジックとして使えても、あやとりでは使えないと思ってしまいます。しかし、同じような原理を使う方法があやとりの本で解説されていることが分かりました。こちらでは方法を大きく変えて、誰にでもすぐにできるようになっていました。

なお、最近のマジックでは、客には出来ない不愉快な思いをさせない傾向があるようです。高木重朗氏の客と一緒に行うロープ切りも、初期の方法では演者だけが繋がって終わっていました。しかし、1992年発行のリチャード・カウフマン著「高木重朗の不思議の世界」での方法では、客のロープも繋がるように改良されていました。そのことから、この天海やバーノンのロープパズルをこれまでと同様に行なうとしても、抜けるのがダメで抜けないのが良いといった逆の発想が考えられます。マジシャンの方がロープをしっかりとつかめないことになります。そして、客におまじないをかけてもらうと外れない演出も面白いと思います。

同様な原理を使ったあやとりの本の別の方法

私が所属していますRRMCの例会で「バーノンのロープパズル」を演じました。その時に、メンバーである福島さんより同じような原理を使った別の方法を見せていただきました。マジックをされていない父親より教わった方法とのことです。この方法であれば楽に行うことができます。これに関してはあやとりの本に解説されている可能性を考えました。あやとりの本は近くのショッピングセンター内の書店で20冊もあり、大阪の大きな書店である丸善ジュンク堂書店で36冊もあることには驚きました。そして、それらの中の有木昭久著の本で福島さんの方法に近い指ぬきを見つけることができました。

ループ端を左中指に引っ掛けて、手掌側から親指サイドを通過させて手背へ回しています。そして、ループの中へ中指を入れて、残りを手掌側に垂らしています。親指サイドを通過しているロープの中央部分を持ち上げて、人差し指と中指の間へ挟みます。手掌側に垂らしたロープ端を引っ張るとロープが中指を抜け出します。ところで、このような方法を海外の文献で調べましたが、全く見つけることができませんでした。ところが、その後、1951年発行の柴田直光著「奇術種あかし」の本に「指抜き」のタイトルで解説されていることが分かり驚きました。この本は何度も再版を繰り返すほどの名著で、日本のあやとりの本にも影響を与えたものと思います。方法は少し違いがありますが、基本的には同じと言えます。あやとりの場合は誰でもが同様に行えば指から抜けるようになっています。しかし、これをマジックとして行う場合には同様に行えば抜けないのが基本で、秘密の操作で抜けるようにする必要があります。なお、福島さんの方法ではロープの回す方向が逆なだけでなく、小指のサイドをロープが通過し、後でその部分を中指と薬指の間に挟むことになります。こちらの方法であれば抜けないのを基本にして、手のカバーによる操作で楽々と抜けるようにすることも可能となっていました。

客の指を抜く方法の意外な歴史

日本ではよく知れれている代表的な指ぬきですが、60歳以上と40歳代以下のマニアとでは、知っている方法が違っている可能性があります。60歳以上のマニアは、1956年発行の柴田直光著「奇術種あかし」で覚えられた可能性が高く、この本は70年代ごろまで何度も再販されています。それに対して、40歳代以下のマニアは1974年に発行された高木重朗著「奇術入門」の方法の影響が大きいと考えられます。この本は1976年発行の高木重朗著「ロープ奇術入門」や1987年の「ロープマジック」にも再録されています。また、2011年発行のゆうきとも著「ウケる手品」では少し方法が改良されて解説されています。 この二つの方法には大きな違いがあります。柴田氏は両手を使って操作しているのに対して、高木氏は右手だけの操作で行なっているからです。さらに興味深いことは、海外の本で調べますと右手だけの方法しか記載がありませんでした。つまり、高木氏は海外の文献からの影響を受けた解説と言えます。ただし、海外の文献では2本の指を使う方法ばかりですが、高木氏やゆうき氏の方法は3本の指を使う違いがありました。ところで、最近の日本のあやとりの本では両手を使う方法が発表されており、これは柴田氏の本の影響があるのかどうかが分かりません。なお、日本では柴田氏の本以前では見つけることができませんでした。

さらに意外であったのは、海外のマジック書では1935年以降に解説されたものを見つけることができなかったことです。ロープマジック事典は3巻も発行されていますが、そのいずれにも解説がありません。グレーターマジックや8巻もあるターベルコースだけでなく、多数発行されている子供向けのマジック書やボリュームのあるマーチン・ガードナーの即席マジック事典にも解説されていませんでした。 この方法が最初に解説された本を調べますと、1912年発行のWill Goldston著 “Exclusive Magical Secrets” である可能性が高そうです。それ以前の本では見つけることができなかっただけでなく、この本の中でもこれまでにこのような操作のトリックはなかったと書かれています。この本は鍵をかけることができることでも有名な本で、冒頭に解説されていたのが前回に取り上げたシェファロの結び目トリックです。シェファロが考案者でないのに、本人の確認を取らずに勝手にその名前をつけて発表しています。シェファロの結び目の次に解説されていたのが 指ぬきマジックです。“A Loop of String and a Finger” のタイトルがつけられています。この解説にも大きな問題がありました。五つのイラストがあるのですが、肝心の指を絡ませる部分の二つのイラストに間違いがあり、イラスト通りに行うと外れなくなります。右手で操作を行う場合には、左側のひもを右側のひもの上へ持ってくる必要があるのに逆になっているだけでなく、指の入れ方も奇妙です。その後、正しい解説とイラストで解説されていたのが、1933年発行のウォルター・ギブソン著 “Magic Made Easy” のタイトルのマイナーな冊子です。ウォルター・ギブソンは多数のマジック書だけでなく、数名の有名マジシャンのマジック書のゴーストライターでもあるのですが、私が持っている本の中では上記の1冊しか解説されていませんでした。

原案やギブソンの方法は右手の2本の指しか使っていないために、客の指へ演者の指を接近させる時にひもが不安定な状態になります。それだけでなく、見ていても客の指から抜ける不思議さが感じられない方法となっていました。それに比べますと高木氏やゆうきとも氏の方法は、右手の3本の指を使っているので安定感があり演じやすく不思議に見える状態になっています。柴田氏の方法では右指は2本だけですが、左人差し指も使っているので安定して行えます。あやとりの方法では右指2本と左指2本を使っています。

ところで、1934年に発行されたR. M. Abrahamの身の回りの品を使ったエンターテイメントの本では、素晴らしい指ぬきマジックが解説されていました。これも2本の指しか使わないシンプルな方法ですが、面白い発想が使われています。操作の安定感があり不思議さもあるので感心させられました。考案者名はわかりません。なお、この本はあやとりやロープの結び方や折り紙などが解説された本です。そして、最近になって、この指ぬきの方法がダイ・バーノンのお気に入りの方法であったことが報告されます。2012年発行のパーシ・ダイアコニス著の本です。2013年には「数学で織りなすカードマジックのからくり」のタイトルで日本語版が発行されています。214ページのボブ・ニールの報告によりますと、バーノンは1本のひもだけを使う即興の奇術を50種類も行うことが出来たそうです。その中でもボブは、バーノンのお気に入りであったこの方法だけは50年以上経っても忘れずに覚えていたそうです。本にはおそらく広く知られているであろうと書かれていましたが、この本が発行されるまでマジック書で見つけられませんでした。また、日本のマジック書やあやとりの本にも解説されていませんでした。なお、ダイアコニスについては以前にコラムでも報告しましたが、学生時代に家を出てバーノンと約2年間もマジックづけの旅を共にしています。その後、努力して統計学や数学の教授になったことで有名な人物です。

口と鼻を使った少し変わった指ぬきの意外な歴史経過

1981年の京都のマジックの催しで、ジャグラー禎一氏が少し変わった指ぬきを演じられました。ロープの中央に直径10センチほどの輪を作って口にくわえ、この輪に右人差し指を入れて左右のロープに絡ませた後、指先を鼻に当てられました。口からロープを離しますと、鼻に当てた指に絡まっていたロープが抜けて外れました。初めて見た現象ですが、日本の昔から伝わっている方法だと思っていました。ところが、江戸時代の文献では見つけることができず、その後の文献では十分な調査ができていませんが、やはり見つけることが出来ませんでした。海外の文献でも探しましたが、同様なものがありませんでした。

1990年代に入って、私はこのマジックの改案である「E. T. ロープ」を考案し、1997年にマジックランドから発売された「Winners 厚川昌男賞8人の受賞者」に解説しました。口を使わずに客に親指と中指でロープを摘まませ、指に絡ませるロープも一方のロープだけにしたシンプルな方法に変えました。客が摘んでいたロープを離すと、演者の指にロープが絡まります。もう一度同様に行って、E. T. の映画で有名なシーンのように、客の人差し指と演者のロープが絡んだ人差し指とをくっつけると、ロープが指から外れます。その後購入した1859年の米国のDick & Fitzgerald 発行 “The Secret Out” でこのマジックの解説を見つけました。”The String and Nose Trick” のタイトルで誰の作品かは分かりません。この方法では指を一方のロープに絡ませているだけでした。つまり、ジャグラー禎一氏が両側のロープ共に絡ませるように変えられた可能性が考えられます。そして、私の改案の方が元に戻ったことになります。口を使わないことや、E. T. の演出が現在的と言えそうです。その後も海外や日本のマジック書で、この原案や改案の解説を見ることがありませんでした。

ところが、今回、あやとりの本を調べたことにより意外なことが分かりました。1982年発行のさいとうたま著「あやとりいととり3」の本に1859年に解説された方法と同じ内容で解説されていました。また、2004年発行の皆川しずく著「やさしいあやとりごっこ」や2013年の多田千尋監修「たのしいあやとり」にも解説されていました。そして、2013年や2017年の有木昭久著のあやとりの本では、中央の輪に入れた指を1回ひねるだけで横のひもには絡ませずに指先を鼻につけると、外れる方法が発表されているのには驚きました。考えつかなかった面白い改案です。それらのことから、あやとりの本では何を元にして原案を知ったのかが不思議でした。しかし、それもその可能性が分かりました。バーノンのお気に入りの指ぬきが解説された上記の1934年の本に、この口と鼻を使う方法も解説されていたことが分かったからです。他の方法の場合にはイラストがあるのに、この方法ではイラストがない短い文章の解説だけでしたので読み飛ばしていました。”The Fly on The Nose” のタイトルがつけられています。海外のあやとりの分野ではよく知られている方法なのかもしれません。

おわりに

最近ではあやとりの本が多数発行されているだけでなく、その中に多数の指ぬきマジックが解説されていることには驚きました。私もかなり昔にはあやとりに興味があり、その中での指ぬきはよく行っていました。その時の方法は現在でも多くのあやとりの本に解説されているものです。片手の各指にひもを絡ませて次々と抜けるものや、隣の指へヒモが移るものなどです。しかし、今回取り上げたそれぞれの方法は、当時には解説されていなかったと思います。また、現在でもごくわずかの本にしか解説されていません。

指ぬきをあやとりとして行う場合と、マジックとして行う場合の違いを考えてみました。あやとりは外れないように見えるのに外れる面白さを見せたり教える楽しさがあります。また、教わった人は自分で行ってみて不思議さを楽しむことができます。見せるのは子供相手のことが多いと思います。そのような状況を考えますと、方法は混乱しない分かりやすいものにすべきだと思います。マジックの場合は、子供だけでなく大人にも見せることが多く、不思議さをより強める必要があります。天海やバーノンパズルのように二人で同時に行って、一人は外れて他方は外れないとか、先に外れないのを見せた後で外れるのを見せる方法が考えられます。

今回はマジックの本だけでなくあやとりの本を調べたことにより、これまで以上に多くの発見がある楽しめた調査となりました。なお、参考文献としてマジック関係とあやとりの本とは分けて報告することにしました。


【参考文献】(マジック書)

1859 Dick & Fitzgerald 発行 The Secret Out
     The String and Nose Trick 口と鼻を使用
1912 Will Goldston Exclusive Magical Secrets
     A Loop of String and a Finger 右親指と人差し指を使用 
1933 Walter B. Gibson Magic Made Easy
     The Magic Loop 右親指と人差し指を使用
1934 R. M. Abraham Easy to do Entertainments and Diversions
     Removing The Loop 右人差し指と中指を使用
     The Fly on The Nose 口と鼻を使用
1951 柴田直光 奇術種あかし
     指抜き    中指にかけたひもを抜く
     人の指を抜く 右親指と人差し指と左人差し指を使用
1971 石田天海 Genii誌5月号 Tenkai’s Rope Puzzle
     客と同時に行う 右親指と人差し指と左人差し指を使用
1974 高木重朗 奇術入門(池田書店発行) 指を通り抜けるヒモ
     右親指と人差し指と中指を使用
     1976 ロープ奇術入門(日本文芸社発行)に再録
     1987 ロープマジック(東京堂出版発行)に再録
1986 Karl Fulves著 Contemporary Rope Magic
     Sam Schwartz解説 Vernon’s Rope Puzzle Method 1&2
2011 ゆうきとも ウケる手品(ちくま新書) 指から抜けるストラップ
2012 Persi Diaconis and Ron Graham Magical Mathematics
     2013年に日本語版「数学で織りなすカードマジックのからくり」発行
      214ページにバーノンのトリック(バーノンのお気に入り)
       1934年のR. M. Abrahamの本の方法と同じ


【参考文献】(あやとりの本)

1982 さいとうたま 親子であそぶあやとり絵本「あやとりいととり3」
      はなぬき 口と鼻を使用
2004 皆川しずく やさしいあやとりごっこ
      はなぬき 口と鼻を使用
2013 多田千尋監修 たのしいあやとり
      はなぬき    口と鼻を使用
      1ぽんゆびぬき 客の指ぬき 演者の両手の操作で
2013 有木昭久 みてみて!びっくりあやとり
      はえがとんだ 口と鼻を使用 改良した方法で
      ゆびぬき2  客の指ぬき 演者の両手の操作で
      なかゆびぬき
2017 有木昭久 親子で遊べる大人気!あやとり DX
      くしゃみ   口と鼻を使用 改良した方法で
      二人ゆびぬき 客の指ぬき 演者の両手の操作で
      中指ぬき


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