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コラム



第43回 シンパセティックシルク(6枚ハンカチ)の歴史と謎(2010.1.07up)




はじめに

シンパセティックシルクは、以前、ステージやテレビで良く見かけたマジックです。毎回、代りばえのしない内容で、私は見飽きてしまったマジックの一つでした。ところで、その後、あまり見る機会がないと思っていましたら、最近になって、立て続けに驚くべき内容で目にするようになりました。

その最初は、能勢裕里江さんの登場です。師匠のスピリット百瀬氏の技術を受け継いで、ほれぼれする演技でした。この内容でしたら、何回見てもあきることがありません。シルクの扱いとテクニックがすばらしいからです。もちろん、彼女の魅力もあります。

次の登場は、石田天海氏のマジックのDVDが発行され,その中で「6枚ハンカチ」が解説されたことです。実演されている内容を見てビックリしました。6枚がバラバラであることのあらためがシンプルなだけでなく、秘かにシルクを解く部分で、あやしい動きがないのです。これまで多くの演技を見てきましたが、全てといってよいほど、解いた瞬間が分かりました。もちろん、結び目は見えていませんが、解く瞬間に少し力が入ったり、引っぱっているのが分かるからです。ところが、天海氏の方法は、解く方法の発想が大きく異なっているだけでなく、全体の動きが滑らかで解く瞬間が分かりません。解いたように思えないのです。

そして、3番目の登場が、アメリカのレベントの演技です。2007年のUGM大会にゲスト出演され、彼のすばらしい演技やレクチャーに圧倒されました。技術、発想力、そして、面白さにあふれた演技力、いずれをとってもすばらしいマジシャンです。彼のシンパセティックシルクがイギリスのTVで放映されましたが、その映像がYou Tubeで紹介されて、話題となりました。演出が面白く、それだけでなく、驚くべきクライマックスとなっています。そして、そのような手順で行うようになった経過や考え方を、インターネットのマジック・カフェの中で、かなりのボリュウムをかけて報告していました。

今回、ここでは、シンパセティックシルクの歴史について報告します。原案者についてと、その後の変化についてです。しかし、それ以上に興味深いことが、結したシルクを解くための結び方についてです。天海氏が使用されていたのは、誰の方法であったのかに興味があります。天海氏の方法である可能性が高そうです。謎の部分がたくさんあるのですが、分かりましたことについて報告させて頂きます。その前に、シンパセティックシルクの現象についての記載から始めることにします。

シンパセティックシルクの現象について

日本では「6枚ハンカチ」と呼ばれて演じられています。その現象は、一方にバラバラの3枚を置いて、他方の3枚を結んで連結した後、別の位置へ置きます。結び目が移動するジェスチャーにより、バラバラの3枚の方に連結状態が移ります。そして、その後、この3枚もバラバラになります。つまり、6枚全てがバラバラになって終わります。

この現象が普通だと思っていましたが、その後、このマジックを練習し、いろいろ調べますと、海外ではシンパセティックシルクと呼ばれ、現象も少し違っていることが分かりました。一方の3枚を結ぶと、他方の3枚も同調して結ばれるといった現象です。そして、この結ばれた3枚を解くと、他方の結んだはずの3枚もバラバラになっています。ただし、今回の調査で,海外でも日本に近い現象で演じることがあるのも分かりました。結び目の移動現象となりますが、日本のように、全てがバラバラになって終わるとは限りません。

なお、Paul Rosiniの作品では,興味深い演出で行われていることが分かりました。一方の3枚を結ぶと、他方の3枚が同調して結ばれますが,その後,元の結んだ方にお呪いをすると,バラバラになります。すると、他方も同調してバラバラになってしまいます。この現象からセリフをなくし,バラバラにするお呪いをなくせば、日本 と同じ現象になります。Rosiniは天海氏と同様に,1930年代の活躍が目覚ましいマジシャンです。 。

シンパセティックシルクの原案者を誰にすべきか

日本のマジック書や雑誌に解説されている場合、いずれにも原案者名の記載がありません。Riceの "Encyclopedia of Silk Magic" の日本語訳版が出版されていましたが、これは別です。代表的なものとして、高木重朗氏は、「奇術研究」8号、25号、56号の3回に解説しています。また、松田道弘氏は75年に日本文芸社より「シルク奇術入門」を発行し、その後、東京堂出版より少しだけ加筆され、「シルクマジック」として出版されています。これら以外の数冊の本にも解説されていますが、全く原案者名の記載がありません。

今回、海外の文献では、どのようになっているのかを興味を持って調査しました。原案者名はきっちり書かれているものと思っていましたが、その予想が大きく外れてしまいました。ほとんどの文献には、原案者名の記載がなかったからです。また、いくつかの文献では、有名マジシャンが演じていたことだけを紹介していました。例えば、1927年のターベルシステムや41年のターベルコース第1巻では、フーディー二の得意芸であったことだけ書いています。77年のルイス・ギャンソンのこのマジックだけを解説したパンフレットには、フーディーニ(26年)、Jane Thurston(サーストンの娘)、Horece Goldinが演じているのを、著者が実際に見たことを報告していました。

原案者について触れている初期の本として、1939年のヒューガード著「モダン・マジック・マニュアル」があげられます。1910年のハットン&プレートの本に初めて記載されたことを報告しています。しかし、ヒューガードの記載は奇妙です。シンパセティックシルクの現象を簡単に紹介して、ハットン&プレートの本がそれを最初に記載したと書いていたからです。彼らの演技には、3枚のシルクしか使っていません。バラバラの3枚が連結したり、元通りのバラバラに戻るだけです。シンパセティックシルクの元になるマジックであることには間違いありませんが、シンパセティックシルクの現象ではありません。

それでは、原案者は誰にすべきなのでしょうか。それは、エドワード・ビクターといっても、ほぼ間違いなさそうです。前回のホフジンサー・エース・プロブレムのカードマジックに続いて、今回も同じマジシャンを取り上げることになってしまいました。これは、もちろん、偶然の出来事です。

エドワード・ビクターが原案者として認められだしたのは、1962年のRiceの "Encyclopedia of Silk Magic Vol. 3" からではないかと思われます。エドワード・ビクターとG.W.Hunterが共同開発したこと、そして、1913年にビクターがイギリスのジョージ・ホールで演じたことが記載されています。そして、1988年のT.A.Watersのマジック百科事典でもある "Magic and Magicians" のシンパセティックシルクの項目では、ビクターが原案者として記載されていました。このような決定の元となったのは、1937年に発行されたビクター著 "The Magic of The Hands" の本の記載が元になっています。「スーパー・シンパセティックシルク」のタイトルで解説していますが、その中で、上記のRiceが書いていたG.W.Hunterとの共同によるものであることや、1913年に初演したことが報告されていました。

なお、この本で解説された内容は、13年に演じられた原案のものではありません。別法として、シルクをぶら下げるスタンドを使った方法となっています。13年には、どのような内容で演じていたのかが気になります。また、G.W.Hunterがどの程度関与していたのかが分かりません。原案者名を二人の名前で連名にした方がよいのか気になります。さらに、この方法の元となる1910年のハットン&プレートは、原案者から完全に外してもよいのかといった問題もあります。まずは、これらのことを考える上でも参考となる、初期の文献と95年発行のエドワード・ビクターの本での記載を中心に報告します。

1910年、ハットン&プレートの本の作品

「ミステリアスシルク」のタイトルが付いています。バラバラの3枚のシルクを空中へ投げ上げて、落下したのを受け止めると、3枚がつながっています。もう一度投げ上げて受け止めると、バラバラに戻ります。

二つの方法が解説されており、一つは、シンパセティックシルクの最初のセット状態のように、結ばれた3枚を持って行っています。たれ下がった3枚のシルクの中央部が、それぞれスリップノットで連結され、見た目にはバラバラの3枚を持っているように見えます。バラバラであることを示すための特別な操作の解説はありません。この3枚を空中へ投げ上げるだけです。連結したシルクを解く方法は、3枚を揉んで、まるめて、投げ上げる時に解くと書かれているだけです。二つ目の方法は、輪ゴムを使っています。バラバラなことを示した後、3枚の一端をまとめて、秘かに輪ゴムで止めて、空中へ投げ上げます。輪ゴムを秘かに外せば、バラバラに戻ります。

シンパセティックシルクの元になっているのは間違いありませんが、これらをシンパセティックシルクの原案とするのには、やはり異論が出そうです。なお、輪ゴムを使う方法は、後年、重要な役割を持って再登場してきます。

シンパセティックシルクの現象を最初に解説した文献

私が調査した範囲では、イギリスのマジック月刊誌 "MAGIC" の1920年1月号が最初でした。それ以前に、既に解説されている可能性もありますが、1910年代後半のマジック文献の発行がかなり制限されています。1914年に第一次世界大戦が勃発したためで、上記の "MAGIC" 誌も14年9月号から19年8月号まで休刊しています。それでも、イギリスでは数冊のマジック誌発行が継続されていますが、その中にもなさそうです。

ドイツ語のマジック書であった "The Magic of Paul Potassy" が、2005年に英訳版で発行され、巻末には、シンパセティックシルクに関する60以上の参考文献を記載していました。それによりますと、1910年のハットン&プレートの本以降、20年の "MAGIC" 誌まで、参考文献名がありませんでした。

"MAGIC" 誌には、「シンパセティック・ハンカチーフ」のタイトルがつけられ、編集者の Stanyon の名前で発表されています。そして、解説の最後には、このマジックの考案者が分からないと記載していました。解説は、ほぼ1ページだけで、全くイラストがありません。一般的なシンパセティックシルクと同様な現象ですが、現代の方法との違いは、シルクをカウントする時に、結ばれた3枚とのスイッチがないことです。6枚のカウントの中で、結ばれた最初の3枚を、単にバラバラの3枚として数えているだけです。ただし、カウントする時、観客に対して身体の側面を向けており、つながっているのをばれにくいようにしています。さらに、バリエーションとして、バーに6枚をぶら下げて、バラバラに見せて行う方法も解説していました。

1927年のターベルシステムと41年のターベルコースでの解説

ターベルシステムは、1926年に制作され、27年に発行されたもので、レッスン60まであります。これを元にして、内容が追加されて、タネン社から発行されたのがターベルコースです。1941年に第1巻が発行され、その中にシンパセティックシルクの解説があります。イラストが多数使われ、分かりやすい内容になっています。このシンパセティックシルクに関しては、解説文もイラストも、27年のターベルシステムの記載がそのまま使用されています。最初に6枚をカウントしてバラバラなように見せていますが、3~5枚目はつながっています。前記の "MAGIC" 誌のように、横向きになってカウントしていませんが、巧妙なアクションが加えられ、6枚ともバラバラな印象を与えています。このカウントの別法として、結ばれた3枚とバラバラの3枚を、スイッチする方法が解説されています。また、バリエーションとして、イスの背もたれに6枚のシルクをぶら下げて、バラバラなように見せて行う方法も解説されていました。

1995年のエドワード・ビクターの本より

上記でも報告しましたように、1937年に解説されたビクターの方法は、彼の本来の方法ではなく、別法のスタンドを使用するものでした。95年にRae Hammondによるエドワード・ビクターの本が発行され、その中でシンパセティックシルクについても触れられています。60年のイギリスのマジックサークルのラウンド・テーブルでの会話が、テープに録音されていたのを元にしています。それによりますと、H.G.Hunterとは二つのことを話題にして話し合ったそうです。一つは、結ばれたシルクを結ばれていないシルクのようにカウントする方法です。もう一つは、本結びからスリップノットに変換する方法についてです。この会話から、ビクターのシンパセティックシルクがイメージされたとあります。結局、この会話の内容は,ハットン&プレートの本の記載が元になっているのが分かります。その本には,結ばれた3枚がバラバラであることを強調する記載がなかったことと、スリップノットも、二つの端を並べて、一方を他方に巻き付ける不自然で手間のかかる方法が解説されていたからです。

ビクターの方法は、カウントの途中で、3枚のスイッチが入っています。また、結んだ3枚は演者の首に中央部をひっかけてぶら下げられ、その後、同調して結ばれた他方の3枚を両手に持って示し、同じ色の順番に並んでいることを見せます。手に持っているシルクは、結び目の部分をそれぞれの手に持ち、指で押して秘かに端を結び目から外し、イスに置いています。首にかけていたシルクを外し、同じように、結び目の部分をそれぞれの手に持ち、指で押して、両サイドのシルクを床へ落としています。そして、イスのシルクも同調して、バラバラになったことを見せて終わります。

この方法についての疑問点は、1913年に完成させた時のままであるのかどうかです。カウント時のスイッチは、後で加えられた方法ではないのでしょうか。なお、手に持っている3枚が分離する場面はビジュアルで面白いのですが、マジック全体の不思議さを考えると、マイナスになるのではないかと思ってしまいました。イスの上のシルクも、同じようにして外したことを暴露してしまうことになるからです。2005年のPaul Potassyの本では、ハットン&プレートの本のことも取り上げていますが、本当の考案者はエドワード・ビクターで、H.G.Hunter が援助(アシスタンス)したと記載していました。私もこの記載が、最も適していると思いました。

ほどける結び目の三つの方法

2枚のシルクを連結した後、解くことが容易な結び目の作り方として、代表的な方法が三つあります。41年のターベルコース第1巻には、その三つの方法が解説されています。一つ目は、スリップノットにする結び目の作り方です。シンパセティックシルクでは、ほとんどの場合、スリップノットが使われています。スリップノットにするには、いくつかの方法がありますが、ターベルが解説しているのは、本結びを作っているように見える方法で、スライディーニ・ノットに近いものといえます。

二つ目は、本結びにするように見せて、前半部分を単にひねって交差させているだけの状態にしている結び方です。少しだけの衝撃を与えるだけで解くことが可能な利点があります。その反面、注意して扱わないと、勝手に解けてしまう問題があります。結び目の下にぶら下げている部分が重たいと、それだけで解けてしまいます。アル・ベーカーはこのノットを使っていますが、3枚ではなく2まいの連結したシルクの現象であるため、扱い易いのだと思います。

そして、三つ目の方法が、今回のコラムの中で一番取り上げたかった結び方です。ターベルは「ニューウェイ(Nu-Way)・ダブルノット」の名前を付けています。この結び目の説明は言葉では困難ですが、特徴点は、結び目から出ている両端を強く引っ張っても解けませんが、シルクの本体部を少し引くだけで解けることです。つまり、逆転した片蝶結びと呼べばよいのでしょうか。結び始めの前半部分が、本来のシングルノットではなく、折り曲げたループをひっかけている状態となります。蝶結びでは、二つのループが左右に大きく突出しますが、これを片側だけにして、しかも、突出させずに、この後で作るシングルノットの結び目の中に入れている状態にしています。スリップノットよりも、少しの引きで解くことが出来ます。三つとも考案者が誰であるのかを特定出来ませんが、この三つ目の方法をシンパセティックシルクに最初に使ったのが誰であるのかが、特に気になっているわけです。

ニューウェイ・ダブルノットの謎

石田天海の「6枚ハンカチ」には、この結び方が採用されています。石田天海氏のマジックを研究されています小川勝繁氏によりますと、天海氏の考案による方法である可能性が高そうです。1975年に、石田天海追悼の会より発行されました「天海メモ4 シルク編」の14ページには、天海の6枚ハンカチの結び方についての記載があります。具体的な解説は省略されていますが,「天海創案の結び方」(引き抜きにあらず)で結ぶと書かれています。天海氏の考案が証明出来る文献があればと思い調査しましたが、はっきりと書かれたものを見つけることが出来ませんでした。

海外の文献で、シンパセティックシルクにこの結び方を使って解説していた作品は、ハラルド・ライスの1作品しか見つけることが出来ませんでした。しかし,この結び方が彼の方法ではないことは、下記のように,ターベルの名前をあげていたことからも明らかです。日本では、1970年の「奇術研究56号」に、高木重朗氏がこの方法を使用してシンパセティックシルクを解説しています。この作品は、チャーリー・ミラーの「ノット・コントロール」のパンフレットに影響を受けている記載があるのですが、私はそれを持っていませんので、ミラーもこの結び方を使っていたのか否かが分かりません。

この結び方に付いては、奇妙なことがあります。最初に解説されたのは、41年のターベルコース第1巻です。これの元になります27年のターベルシステムには、他の二つの方法しか記載されていません。30年代に得られた情報から、ターベルコースで新たに加筆されたものと思います。62年のRiceの "Encyclopedia of Silk Magic Vol. 3" では、この結び方のタイトルの下に、ターベルの名前が書かれています。ターベルが最初に解説した意味で名前が記載されたのかもしれません。しかし、ターベルの考案ではないと思います。ターベルコースになって新たに加えられた作品や技法には、たいていの場合、作者名が書かれていたからです。即席のカードミステリーの章では、ターベルコースになって、石田天海氏の作品が加筆されていますが、「天海のリバース・カードミステリー」のタイトルが付けられています。「ニューウェイ・ダブルノット」がターベルの考案であれば、これが加筆された時に、「ターベルのニューウェイ・ダブルノット」と書かれていたと考えられます。

ところで、天海の「6枚ハンカチ」は、何年頃に作られたものであるのかが分かりません。1940年に、日本へ一時帰国された時に、2代目松旭斎天勝氏が指導を受けたことが、1958年の「奇術研究10号」に記載されていました。2ヶ月間の台湾巡業の間に指導を受けたとのことです。その当時には、既に天海の方法は完成されていたのでしょうか。あるいは、アメリカで一般的な方法を指導されただけなのでしょうか。日本でのこのマジックとの最初の関わりは、平岩白風著「舞台奇術ハイライト」の107ページには、松旭斎天洋氏がアメリカから来日した奇術研究家と交歓して知ったものとあり、初めて舞台で公開したと書かれています。年数が大正13年(1934年)となっていますが、大正13年は1924年であり、1934年が正しのであれば昭和9年となります。いずれにしても、戦後まで、一般的なマジックではなかったようです。2代目天勝が教わった方法が天海のものではなかったとしても、当時は貴重な存在であったはずです。しかし、40年には、既に天海の方法が完成していたとしますと、この結び方が天海考案による可能性がかなり高くなります。天海の「6枚ハンカチ」は、習得が難しいだけでなく、解説もしにくい作品です。30年代に結び目の作り方だけが知られるようになり、41年のターベルコースに加わった可能性があります。このような結び目の発想は、日本人だからこそ可能であったのではないかと考えています。ただし、これらのことに関しては推測だけで、はっきりしたことが分かっていません。

【補足】スリップノットについて
シンパセティックシルクのマジックでは、ほとんどの場合、スリップノットが使われています。この結び目の作り方には、いくつかの方法があります。1877年のSachsの「スライト・オブ・ハンド」の本では、本結びから一端を反対方向に持ってきて、一直線になるようにして作る方法が解説されています。この方法が、現代のマジックでも、また、日常での使用にも使われている代表的方法です。1910年のハットン&プレートの本では、2端を横に並べて、一方を他方に巻き付けながら結んで、スリップノットを作っていました。1927年のターベルシステムや41年のターベルコースでは、本結びするように見せながら、スリップノットを作っています。本結びの最後の段階で、端を出す向きを逆方向にして、一方のシルクの本体と端を引っ張って、直線にしながら結び目を作っていました。62年のハロルド・ライスのシルクマジック百科事典では、スライディーニの方法が加えられています。これは、60年のルイス・ギャンソン著「マジック・オブ・スライディーニ」に解説された方法です。ターベルが解説した方法に似ているのですが、たて結びで行っています。

以前のコラム(本結び・たて結びとマジックのかかわり)のスライディーニの第1段で,なぜ、たて結びで作っているのか、結局,よく分からないことを報告しました。その後,シルクやロープで二つの結び方の違いを比べた結果,現段階では,結び目の形ぐらいしか考えられない結論になりました。本結びでスリップノットにすると、結び目がT字型か、それをずらした歪な状態になります。一方のシルクを直線状にすると、他方のシルクの本体と端が、結び目の同じ部分から並んで出てくるからです。それに対し,たて結びでスリップノットにした場合,本来の本結びに近いスマートな結び目となります。それは、一方を直線状にしても,他方のシルクの本体と端が別の部分から出てくるからです。クロースアップ・マジックとして演じる場合,客の目の前で結び目の状態を確認させたりもしますので,このことは重要な要素になりそうです。ただし、シルクの場合,しなやかさがありますので,ロープでこの結び目を作った時ほどの違いが出ないことだけは付け加えておきます。なお、スリップノットへの変換時の動きや、解きやすさの問題等、今後も,さらなる検討が必要と思っています。

私が70年代から使っている方法は,両端だけを使って結び目を作るのではなく,本体部の操作を加えたものです。両端を重ねて交差させた上へ,一方のシルクの本体側をひっかけた後,両端を使ってシングルノットしています。すばやく,しかも,簡単にスリップノットが作れるのが利点です。この時の結び目の状態を見ますと,たて結びからスリップノットにした場合と同じ結び目になっていました。今日でも,スリップノットの利点を生かした私のレパートリーのパーラーマジックでは,この結び方を使っています。

ところで,最近になって、すばらしい発想の本を見つけました。2003年発行の「松旭斎すみえのマジックの世界」の本です。見事な発想の転換でスリップノットを作られていました。しかも、たて結びからのスマートなスリップノットになっていました。そして、解く操作にも工夫が加えられており、すばらしい作品であることを再認識しました。

ニューウェイ・ダブルノットはきっちり結んでいないと解けてしまう恐れがあります。その点,スリップノットは、初心者が結んでもしっかりと結ばれている利点があります。しかし、その反面,解くためには一定距離を引っ張る必要があります。引くのが弱いと解けません。70年代には,特に多くのステージの発表会を見ましたが,たいていシンパセティックシルクが演じられていました。その多くの演者が,失敗しないように力を入れて引っ張ったり,手の大きな動きが目立っていました。その点が気になってしかたありませんでした。そこで、70年の「奇術研究56号」に解説された結び方(ニューウェイ・ダブルノット)で練習するようになりました。これで行うと楽に解けるようになりました。なお、78年の松田道弘氏の「シルク奇術入門」でも、この結び方を使う方法で解説されていました。今後は,この結び方が一般化すると思っていましたが,シンパセティックシルク自体が,これまでのように演じられなくなりました。

レベントの演技より

You Tubeで Sympathetic Silks を検索しますと、レベントの映像を簡単に見つけることが出来ます。彼の演技の第1段は、一般的な結び目の移動現象として演じています。ただし、分かりやすさと面白くするために"KNOT"と"NOT"の文字版を、シルクを置くイスの背もたれに付けています。移動現象として示すために、Kの文字版をはずして、他方の"NOT"のトップに加える演出にしています。第2段の時には,このKの文字版を手に持って床上を歩かせるユニークな操作を加えています。そして,変わっているのが,第2段での結び目移動です。3枚の一端をまとめて結び,2端を左右の手に持って、Y字型で示しています。この連結状態が他方へ移動します。その後,バラバラの3枚のシルクから,次々と大きな品物が出現します。最後にウサギの人形を取り出しているのが、レベントらしくて楽しい演技になっています。なお、2枚の連結には,スリップノットが使われていました。

マジックカフェには、レベントによるシンパセティックシルクに関しての長文の報告があります。その中の印象的な記載のみ紹介します。1950年代に発行されたGenii誌の Robert Orben の報告では,実演する上で人気のあるマジックのベスト20において、シンパセティックシルクが12位になっていたそうです。それが,現在では,このマジックを演じているトッププロは、片手で数えられるほどであると報告しています。

レベントは、このマジックの問題点として、三つをあげています。一つは結び目のはずし方です。一般的には,シルクを丸めるか、ミスディレクションを使ってはずしています。いずれの方法にもレベントは納得が出来ず,レベント独自の工夫を加え、1000回以上の練習を繰り返し,スムーズに行えるようになった方法を使っていると書いています。3枚まとめて結ぶ方法も行っているため,解き方は2種類考案したそうです。いろいろと改善されているのでしょうが,映像を見ますと,やはり、解いているのが分かってしまいます。天海の方法を知った後では,他の方法が,どうしても見劣りしてしまいます。ただし、天海の方法は,スリップノットではない結び方であるために可能となった方法といえます。二つ目は,結ばれているのかいないのか,客が混乱してしまうことです。このマジックには,同調する「シンパセティックシルク」と、結び目が移動する「トラベリングノット」の二つの現象があることを報告しています。この中でも,結び目の移動現象を繰り返し行った場合,頭が混乱する問題があります。それを解決するために,"KNOT" と "NOT" の文字版を使うようにしたそうです。三つ目は,シンプルな現象ではなく,繰り返し現象にした場合、クライマックスをどのようにするかです。これまでの作品には,クライマックスが欠けていました。John Thompsonの助言により,シルクから品物を取り出すようにしたそうです。

彼がこのマジックで影響を受けた作品として,最初がチャーリー・ミラーの"Knot Control"で、その後,Edward Proudlock、そして最近では,Paul Potassyの方法です。それら以外では,ハロルド・ライス、スライディーニ、Will Aylingも勉強したと報告していました。レベントの奥さんはドイツ語を話されるので,Potassyの本は97年発行のドイツ語版から方法を学んだことも書き加えられていました。

石田天海の6枚ハンカチ

この方法については,2008年に発行されたDVD「石田天海の研究第1巻」により,詳しく知ることが出来ます。松浦天海氏による石田天海の方法の改案の実演と解説,そして、天海本来の方法を小川勝繁氏による実演と解説がされています。さらに,嬉しいことには,天海氏自身が演じている白黒の古い映像も見ることが出来ます。これだけで十分ですが,すぐに練習出来るように,テンヨー社から「石田天海の6枚ハンカチーフ」の商品が販売されています。大きな厚地のシルク6枚とイラスト入りで分かりやすい解説がついています。また、1986年の "The New Magic Vol.25 No.1"から87年のVol.26 No.3までの8回にわたり「6枚ハンカチ物語」が連載されていました。フロタ・マサトシ氏による解説ですが,方法の習得のためには,上記の二つを参考にされる方が分かりやすいと思います。「6枚ハンカチ物語」は長い連載であるのに、重要な結び目の解説を省略していることには驚きましたが,いろいろ参考になる記載があり,学ばせて頂きました。

天海の方法の最初の驚きは,「いつの間にすり替えたんだろう」と思ってしまうことです。6枚がバラバラであることのあらために,天海はすり替えを行っていません。上記でも報告しましたように,すり替えないのが、シンパセティックシルクとして解説された初期の方法です。大きなシルクを使っていますので,すり替えるとかえって目立ってしまいます。すり替えない方法が,この場合には,うまくマッチしています。そして,このマジックで一番不思議さが強烈な部分が,結び目の解き方です。シルクをサイドから包んで,台の上へ置いているだけのようにしか思えません。天海が使った結び方であったからこそ、この解き方が成立しているわけで、一心同体といった思いがしています。

結局,全てのシンパセティックシルクの中でも,天海の方法は,不思議さではずば抜けています。そして,演技全体にどっしりとした趣があります。これは,シルクが大きいからといった理由ではありません。しかし,良いことばかりとは限りません。The New Magic Vol.25 No.1 の中で,フロタ氏は興味深いことを報告されていました。フロタ氏は二代目天花氏といっしょに、天海氏より6枚ハンカチを教わったことを書いています。ところで、天花氏が営業で天海の方法を演じると受けが悪いそうです。営業では、これまでのリズム感あふれる演技の方が受けるようです。平岩白風著「舞台奇術ハイライト」の106ページにも、二代目天花氏のシルク芸は、さばく手つきにリズム感があり美しいと書かれていました。また、天海の6枚ハンカチは天海氏自身が演じられ,奥様のおきぬ氏が演じることはなかったそうです。つまり,すばらしいマジックでも、演者に合った内容かどうかが重要です。どっしりとした趣は,リズミカルな演技とは対称的な存在となります。


おわりに

今回はシンパセティックシルクの初期の方法と考案者、そして、解ける結び方を中心に報告しました。また、気になる作品の石田天海氏の方法とレベントの方法についても触れました。今回の調査により,海外の文献では,スタンドや特別な用具を使った解説がよく目につきました。6枚をぶら下げて,そこから3枚を取るとバラバラのようで,実はつながっている仕掛けです。最初のカウントによるあらためが省略出来,時間短縮になります。また、3枚の一端をいっしょに結んで,Y字型に広げて示す作品もいくつか発表されていました。これらは、日本ではほとんど見かけない方法です。

日本の文献で調べますと,昭和30年代に発行されたマジック書で、シルクマジックが含まれているもののほとんどには、6枚ハンカチが解説されていました。しかも、たいていが同じ内容で解説されていました。本もステージの内容も同じであれば、あきてきます。1980年以降は,徐々に目にする機会が少なくなってきました。海外の文献でも,70年代からは、新しいアイデアの発表がかなり少なくなりました。シンパセティックシルクの重要な文献として,62年のRiceの "Encyclopedia of Silk Magic" があげられます。そこには、10以上の手順、そして、結び方,カウント,スタンドや用具の仕掛け等の多数の方法が解説されており,たいへん参考になりました。

最後に,参考文献を記載しますが,主要なものだけとさせて頂きました。私の調査では,1927年のターベルの文献以前では,下記の2冊だけでした。27 年以降から60年代中頃まで、マジック誌や本に多数の発表がありますが,主要作品を私の選択で選びました。なお、作品名のない文献は,Sympathetic Silks が作品名となります。

■Sympathetic Silks 関連文献
1910 Hatton & Plate The Mysterious Knots Magicians'Tricks How They Are Done
1920 Ellis Stanyon The Sympathetic Handkerchiefs Magic(Jan)
1927 Harlan Tarbell Tarbell System
1936 Edward Proudlock Sympathetic Silks 一昨品の解説書
1937 Edward Victor The Super Sympathetic Silks The Magic of The Hands
1937 Jean Hugard Silken Sorcery(1974年 Dover 社再版"Handkerchief Magic ")
1939 Jean Hugard Modern Magic Manual
1941 Harlan Tarbell The Tarbell Course in Magic Vol.1
1941 Al Baker Magical Ways and Means
1942 Arnold Furst Genii 7, 4 (Dec)
1948 Tony Lopilato The Tarbell Course in Magic Vol.5
1950 Henry Hay The Amateur Magician's Handbook
1958 Peter Warlock A Tip for the Sympathetic Silks Pentagram 12,9 (June)
1958 Rink Rink's Sympathetic Silks (Lewis Ganson) The Gen 14, 8 (Dec)
1961 Will Ayling The Rose Garden The Gen 16, 11 (March)
1962 Harold R. Rice Encyclopedia of Silk Magic. Vol.3
1963 Rink A Modern Version of The Sympathetic Silks The Gen 18, 9 (Jan)
196-? Charlie Miller Knot Control パンフレットによる解説書
1977 Lewis Ganson Ganson's Magic Teach-in Series
1977 Billy McComb Magigram 9, 8
1979 Slydini The Magical World of Slydini (Karl Fulves)
1980 Ken Brooke Knot Out Ken Brooke's Magic
1980 Eric C. Lewis A Continuation of Miracles
1981 Jean Merlin 傘を使ったシンパセティックシルク Merlin on Silks 2
1983 Joe Berg THe Berg Book
1995 Edward Victor The Magic of Edward Victor's Hands (Rae Hammond)
1999 Paul Rosini House of Cards The Life & Magic of Paul Rosini
2005 Paul Potassy The Scarves The Magic of Paul Pdtassy

■日本の文献より
1957 奇術研究8号 高木重朗解説 シンパセティック・シルク
1962 奇術研究25号 高木重朗解説 6枚ハンカチの変わった演出法
1970 奇術研究56号 高木重朗解説 シンパセティック・シルク
1971 ふしぎなあ~と Vol.1-1 加藤英夫、伊藤正博、小鳩明 現代版シンパセティックシルク
1975 シルク奇術入門 松田道弘 シンパセティック・シルク
     「シルクマジック」として再版
2003 松旭斎すみえのマジックの世界 6枚シルク


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