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コラム



第40回 バーバルマジックとセルフワーキングマジック(2009.5.27up)




はじめに

「ラジオ番組でマジックを演じることになりました」 

冗談を言っているのかと、私は耳を疑いました。数年前に、あるプロマジシャンより、ラジオ向きのマジックがないかとの相談をうけたことがあったからです。思い当たる作品が3作品ほどあり、電話で方法を説明しました。いずれもコインで行うマジックばかりです。ボブ・ハマーやジム・スタインメイヤーの原理を使ったものをアレンジして、日本のコインで行えるようにしました。カードを使えばもっと候補作品が増えるのですが、残念ながら日本では、カードを置いている家庭が少なくなっています。すぐ近くにあって使えるものとして、コインを採用したわけです。

それから数年を経た2008年に、驚きの本が登場しました。ラジオ番組で実際に使われたマジックばかりが集められた本が発行されたからです。スペインのタマリッツによる「バーバルマジック」の英訳版の本です。ほとんどがカードマジックですが、名刺や紙片を使っても演じれるようにしていました。全てにタマリッツの頭の良い発想が加えられています。しかも、多数の作品数にびっくりしてしまいました。今回、この本の内容についてと、私の思いを報告させて頂きます。さらに、バーバルマジックと関連の深いセルフワーキングマジックとの違いについても触れることにしました。

※なお、このコラムの最後に、前回コラムの追加記事を掲載しています。

バーバルマジックの本について

2003年から約1年間、毎週、スペインのラジオ番組でタマリッツが演じたマジックを、1冊の本にまとめたものです。35のマジックと、ちょっとした軽いタッチのトリックやジョーク的なものも紹介されています。そして、最後には、ラジオで演じるためのいくつかのアイデアや原理も紹介されています。読んでいて、すばらしい刺激ばかりを受けてしまいました。既成の原理であっても、タマリッツによる頭の良い改良が加えられていたからです。それだけでなく、ほとんどの作品には面白い演出が加えられていました。

もう一つ重要な要素が取り入れられています。ラジオで演じるための工夫です。4Aや特定のカードを客(リスナー)自身でセットさせているからです。それでも不思議に思える工夫が加えられています。何回もシャフルしたりカットして、よく混ざってしまい、位置が分からなくなった印象を与えています。また、いくつかのカードの山を作る時も、何枚ずつ置いたのかが記憶しにくいようにしています。そして、秘密が解明されないように、客自身が行った全体の操作を、後で思い出しにくくしています。結局、知っている原理を使ったマジックであっても、タマリッツの改良により、大幅に違ったものに生まれ変わっています。タマリッツの頭の良さを思い知らされる作品ばかりです。

これまで良いことばかり紹介しましたので、欠点が無いように思われそうです。実を言えば、大きな欠点があります。全ての作品は、タマリッツが口頭指示で演じれば受けること間違いなしです。しかし、他の人が演じた場合、いくつかの作品では不思議に思えなかったり、面白さを感じられない作品があります。タマリッツが親しみのある明るくはっきりとした声で、精力的にまくしたてて指示するからこそ効果が大きいのです。冷静に操作されたのでは、重要な秘密がばれる恐れのある作品もあるからです。クライマックスで現象が起こるところでのタマリッツの盛り上げ方は超一流です。タマリッツのすごさを感じるところです。今回のマジックにはカードの技法は必要ありません。しかし、はっきりした声で分かりやすく説明し、強調すべきところは強調し、盛り上げるべきところは盛り上げる、話すことの技術が必要となります。タマリッツも、もちろん、研究と訓練をしたようです。ただし、スピーチ技術は大きな要素となりますが、多くの作品ではそれを別として、面白さと不思議さを持った作品となっています。以上のことを根底において、主な作品を要素別に紹介することにします。

日本のラジオ番組でも使えそうな作品

この本には35作品が解説されていますが、全てがそのまま日本で使えるわけではありません。英語の文字を使った作品や、かなり大変な操作を強いられる作品があるからです。また、私の判断でふさわしくないと思った作品もあります。しかし、それらについても、十分に楽しく読ませてもらえました。面白いアイデアが使われていたり、無謀なことにチャレンジしたりしていたからです。結局、約半数の作品だけが、そのままか少しの改良で日本のラジオで使えると判断しました。その中でもベスト3をあげるとすれば、次の3作品となります。

一つ目は " Heads Up " です。35作品の中で唯一のコインマジックです。やはり、日本ではカードよりもコイン使用の方がふさわしいと思います。そして、この作品がすばらしいのです。ボブ・ハマーの原理を使っていますが、大幅に変えられており、違った現象の作品となっています。3枚以上であれば何枚でも良いのですが、6枚ぐらいまでが実際的でしょう。1枚や2枚を数回ひっくり返す操作を繰り返させています。その後、好きな1枚をカバーさせ、ある操作を行ってもらいます。それにより、カバーされたコインの面が全員同方向を向くことになります。不思議さを高めるためのセリフも考えられており、さすがタマリッツだと思いました。

二つ目は " Paradise Recovered " です。本来、私が嫌いであったダウン・アンダーの操作を使う作品です。しかし、演出がすばらしいのです。また、ダウン・アンダーも7枚のカードを使うだけのため、操作回数が少なくなっています。さらに、途中で枚数確認のリバースカウントを加えていますので、単調にならなくしています。面白いのはカードを取り除く時です。健康状態を悪くするカードとか、生活を苦しくするカードとか、ネガティブなことを言って、カードを投げ捨てさせています。この時、「アウト」と叫ばせているのですが、日本語では「出てゆけ」とか「いらない」と言えばよいでしょう。最初に客に大きな印を付けられたラッキーカードが最後に残ります。もちろん、最初に、7枚をよくまぜた印象を与えています。これは、演技者の盛り上げ方の力量が大きく問われそうな作品と言ってもよさそうです。

バーバルマジックの本のマジック解説は文章のみです。イラストも写真もありません。口頭説明だけで理解出来なければ意味がないからです。しかし、このマジックに関しては、ラジオスタジオで演じている状況の写真が挿入されています。スタジオ内の10名ほどの観客が、いっせいにカードを投げ捨てている場面です。かなり盛り上がっている状況が伝わってきます。この写真を見ているだけでも、どのような現象なのか、早く読みたい気にさせられてしまうマジックです。

三つ目は " Happiness " です。私の好きな原理が使われているのです。驚いたことは、私以上にタマリッツにとってはこだわりのある原理であったことです。今回の本では、8作品にそれぞれ違った方法で取り入れられています。この原理には、変幻自在の多数の応用パターンがあり、各作品に使用された以外に、本の最後の付録の項目では、さらに多数の応用例が紹介されていました。私の知らなかった応用例もいくつかあり、それを知っただけでも、私にとっては最高級のプレゼントであり、非常に得をした気分になりました。

1から10に整列した裏向きの10枚に、不特定の表向きの3枚が、客の好きな位置へバラバラに挿入されます。この13枚を、二つの山や三つの山に配ることが繰り返されます。しかも、途中で数回カットして上下を入れ替えています。それにもかかわらず、表向きの3枚を取り除くと、残りのカードが1から10に整列しているのです。生まれた時は1から10に整列した最大級の幸福な状態で、人生には三つの大きな障害が待ち受けているといった話で始まります。さらに、まぜられたことにより、将来が混沌としていて憂鬱になってしまうことを話します。ところが、すばらしい結末が待ち受けていることになります。マジックとして、最後に、きれいに10枚が整列するところが、ビジュアルで好きです

日本のラジオ番組用には選択しませんでしたが、興味深い発想の作品

もしかしますと "The Horoscope " をベスト1の作品として選ぶべきであったのかもしれません。Magic 誌でのこの本の書評欄では、その評者の好きな作品ベスト3のトップに紹介されていました。ポケットに入れたカードが、その日の新聞の広告に予言されている現象です。よく混ぜた中から選ばれた3枚のカードの1枚を、表を見ないでポケットへ入れています。残りの2枚は、新聞の2桁のページ数です。そして、別の2枚のカードの数を加えた値が、上からの広告の番号になります。客により、広告の予言がコメントと共に読み上げられ、ポケットの中のカード名が当てられます。

私の選択に入れなかったのは、お金がかかりすぎるからです。タマリッツはスペインでは有名人であり、彼のラジオ番組もそれなりの人気があればこそ可能となったマジックです。なお、ラジオではなくライブで演じる場合には、会場で配るパンフレットの広告の中に予言を含めるアイデアが紹介されていました。

ところで、「バーバルマジック」の本の中で、ラジオスタジオで演じている写真が掲載されていることを報告しました。実は、もう1作品の写真も掲載されているのですが、それがこの作品になります。放送席の後方に座っている何名かの観客が、ポケットから取り出したと思われるカードを高々と持ち上げて示していました。もちろん、全てのカードが幸せな気分にさせてくれる同じカードでした。

日本のラジオ向きではない作品の中から、もう1作品を紹介します。" Live with the Devil" です。実を言えば、この本の中で、私が一番気になったマジックです。多数の英単語を使うために、日本には向きません。しかし、いくつもの面白い発想や原理が使われています。いくつかの英単語から徐々に数を減らして、最終的には Live と Devil の単語が残ります。それぞれのアルファベットが1文字ずつ9枚の紙片に書かれています。二つの単語を連結させると、「ステイ・スタック」の原理が使えることが分かります。中央から対称的な配列になったことを利用して、面白い現象を起こす原理です。

この作品では、まぜる操作が繰り返され、1枚減らして、4枚ずつの二つの山が作られています。好きな枚数目を思ってもらい、二つの山からその位置のカードを取り出すと、二つの文字が一致します。この後、トップから同時に表向けてゆくと、三つのペアとも文字が一致することになります。この作品ほど、大幅に全体を変更したくなった作品はありません。とりあえずシンプルにして、クライマックスは一つの単語が完成して終わるようにしました。日本語で出来るようにしたかったのですが、良い案がうかびませんでした。

まだまだ不満点の多い作品ですが、RRMCの例会で発表することにしました。驚いたことは、それから1ヶ月後の RRMC の例会です。谷英樹氏が大幅に改良した作品を発表されたからです。トリプルクライマックスで意外な結末となります。今年の4月に開催されたマジックランド主催「箱根クロースアップ祭」の「ひとネタコンテスト」で実演されましたので、ご存知の方もおられると思います。良い素材であるからこそ、改良したい気にさせられた作品でした。私も別の構想を練っているところです

既成原理を効果的に応用した作品について

バーバルマジックの本で私が気に入っている点は、各作品の最後に、使用された原理の歴史について、きっちりと書かれていたことです。この本を英語版にする時に、マックス・メイビンやスティーブン・ミンチが関わっていたことが、より正確性を高めていたものと思われます。

例えば、" The Power of Love " の作品では、Ed Balducci の原理が使われています。1956年に発表されており、例えば、デックの上 1/4 ほどをひっくり返した後、次にデックの 1/2 をひっくり返すことにより、フォースにも使える原理です。しかし、この原理は 1946 年のスフィンクス誌7月号に Sam Mayer により、既に同様な方法が発表されていたことを報告していました。

なお、今回の作品では、この原理をフォースとして使っていません。デックの上から、違った位置で何回もひっくり返したのに、最後には裏向きにそろってしまう現象です。この作品で、最初に行わせる操作が、この現象をより効果的なものとしています。8枚のカードを持たせて、上から6枚をひっくり返させています。次に4枚をひっくり返し、次に2枚、そして1枚をひっくり返させ、8枚を広げて裏表が混ざっていることを見せています。これがあるからこそ、後の現象が生きてきます。上記の作品だけでなく、この本の全ての作品が、これまでに発表された原理を巧妙に変えて、うまい使い方をしています。ここでは、さらに、二つだけ紹介させて頂きます。

一つはギルブレス原理を使った "The Human Condition" です。この原理はカードを赤黒交互に配列させた場合、分割してリフルシャフルした時に生じる現象を元にしています。ちょっとした特定の状況にするだけで、トップから2枚ずつ取ると、いずれも赤黒1枚ずつ含まれた状態となります。この原理を応用した作品が、今日までに、調査しきれないほど多数発表されています。しかし、今回の作品の発想は、ちょっと変わった部類に入ります。客がポケットへ入れた2枚だけが赤赤のカードとなり、テーブルの他のペアは全て赤黒になっているからです。簡単に出来る頭の良い発想です。黒いカードは人間のダークな面を表しており、赤は善の面を表しているといった話から始まっています。もちろん、リフルシャフルが出来ない人のために、二つの山をテーブル上でかみ合せる簡単な方法も説明されています。

二つ目は "In Search of The Desired Harem" です。客がデックを4分割すると、各山のトップより、Qのカードが現れる現象です。1939年に発表された Steve Belchou のマジックです。本来は4Aを出現させるマジックのセルフワーキング版ともいえるものです。マジック入門者向けの本や子供向けの本の多くに解説されてきたものです。全てを客自身で行わせるために、間違った山の順番で行われないように、4枚の紙片に1~4の数を書いて並べています。その下へ四つの山を置かせ、1の山から順に操作させています。見えない客相手のため、余分な手間が必要となっています。ところが、感心させられたのは、この手間を逆にうまく利用していたことです。本来であれば、全ての山で、トップの3枚をボトムへまわしています。しかし、この作品では、1の山は1枚、2の山は2枚をボトムへまわすように変更しています。単調な操作の繰り返しとなるマジックであったのですが、うまい変化を加えています。改良する部分の少ないマジックでしたので、感心してしまいました。

複数の山へ配る繰り返しの原理について

上記の "Happiness" のところでも触れました原理です。マジックとは関係なく、一人でこの操作をして遊ぶだけでも、不思議で楽しい思いにさせられます。タマリッツはこの本の中で、数作品にそれぞれ違った方法を取り入れています。

基本となることを説明する上で、1~8まで整列した8枚のカードを使った場合を例にあげます。8の場合、2X4の数式が成り立ちますので、二つの山と四つの山に配ることになります。まず、トップから1枚ずつ、左、右と交互に配り続け、二つの山を作ります。二つを重ねる時は、左山を右山の上へ重ねます。次に配る時は、左から4枚を1列に並べ、その上へ重ねるように左から残りの4枚を配ります。四つの山を重ねる時は、左山がトップに、右山がボトムになるようにします。この2回の操作により、8枚が整列することになります。しかし、逆向きの整列となります。興味深いことは、配るのは同様に行い、山を重ねる時に、右山がトップになるようにした場合です。整列のしかたが、逆向きではなく、本来の順に戻ります。

もっと面白いことは、8が2X2X2の数式でも表せることです。この場合、二つの山を配って重ねることを、3回繰り返すことになります。毎回、左山がトップになるように重ねると、前回とは異なり、元の状態に整列します。その反対に、右山がトップになるように重ねると、逆向きに整列します。偶数回の繰り返しと奇数回の繰り返しで、整列状態が逆転するわけです。さらに、もっと驚くべきことがあります。最初や途中でカットして、上下を入れ替えても、この原理を成立させるための方法です。上記で解説した方法では、途中で1回でもカットするとバラバラになってしまいます。簡単な方法で行うことが出来ます。しかし、ここでの解説は割愛させて頂きます。

この本には以上のことだけではなく、赤黒交互の配列や、J Q K、J Q K が繰り返して配列された場合の特性も紹介されています。この原理の最も古い原点が何になるのかは分かりません。この本においても歴史記載がありません。ただし、タマリッツは、2004年発行の "Mnemonica" の130ページに、影響を受けた作品について記載していました。1940年に発表された Stephen G.Simpson の作品です。Jinx誌の94号に記載されていますが、この作品が最初となるのかどうかは分かりません。48枚を使用し、3X4X4の数式から決めていました。このような原理に関しては、日本では、1976年のTCC 15周年記念号に松山光伸氏により、かなりまとまった研究報告がなされており、応用作品も解説されています。

この原理は、フェロウシャフルやリバースフェロウの各種原理との関連性もあり、まだまだ発展性のある面白い原理といえます。バーバルマジックとして客自身に操作させる場合、まぜた印象を与えることが出来るため、タマリッツは有効的に使っていたわけです。客を目の前にした本来のマジックとして演じる場合、この応用作品が思っているほどに受けないことがあります。単に手間のかかる操作の作品にしか見えないからです。原理は非常に面白いのですが、この操作に合ううまい演出を考える必要があります。

演出の面白さ

ほとんど全ての作品に、タマリッツの楽しい演出が加えられています。約 1/3 の作品では、ラッキー(ハッピー)な結末になるか、恋愛をテーマにしてハッピーエンドとなる演出です。M A G I C の文字を魔法の言葉として使ったり、結末でこの文字が現れる作品もありました。特殊なものとして、セックスや性欲に関連した言葉が現れて笑いを取ろうとするものもあります。また、このラジオ番組が始まった2003年がイラク戦争と大きく関わっていた年であり、反戦のメッセージが結末に現れる作品もありました。タマリッツの演出のすばらしさをあげればきりがありませんが、ここでは二つだけ紹介することにします。

一つは "Your Better Half" です。実を言えば、この作品に使用された原理は好きではありません。10代の二桁の数(11~19)を指定させ、例えば15の場合、15枚をテーブルに配ります。次に、10代の数を構成する二つの数(例では1と5)をプラスして、その枚数を、配ったカードのトップから配りなおさせています。特定の位置のカードをフォースすることの出来る原理として、数理マジックではよく使われてきました。しかし、私にはこの原理が不思議ではなく、客も同じ思いの人が多いのではないかと考えてしまい、使う気にもなれなかった原理です。また、意味もなく10代の数を指定させ、その後、二つの数を加算させるのも不自然で、好きになれませんでした。しかし、これを使った今回の作品を、タマリッツは多数のマジシャンに対して演じていました。バーバルマジックの本には、ラジオスタジオ以外でも演じている写真が数枚ありますが、その中の1枚がこのマジックの写真です。マジシャン全員が Q のカードを手に持って見せていました。

この作品を読んだ時、嫌いな原理であるのに、すばらしいマジックだと思いました。特にラジオでのマジックとしては、最適ではないかとさえ思ってしまいました。それは、演出が良いからです。10代の数の選ばせ方に無理がなく、自然なムードでこのマジックの世界に入れたからかもしれません。デートでの待ち合わせ時間を決めてもらうのですが、それを午後に指定しているからです。13時や16時のように思うよう指示しています。二つの数をプラスさせた時に、ラジオスタジオの数名の客に、その数を発表させているのも面白い演出です。バラバラの数が発表されます。その後、各個人の枚数を配らせると、恋人である Q が現れます。この Q は、最初の段階で客自身にセットさせていたものです。しかし、何枚目の位置へセットしたのか思い出しにくくしています。バーバルマジックとして、説明しやすく、間違うことも少なく、この本の中でもシンプルな操作の作品であることも見直してしまいました。そして、ちょっとした演出だけで、これほど違った 印象になることに驚いたマジックでした。

二つ目は "Wisdom" です。嘘と本当を分離させる演出です。赤のカードが本当で、黒を嘘のカードとして、嘘と本当を完全に分離するといって、赤黒を分離させるシンプルな現象です。これだけでは、こじつけの演出に思われてしまいます。しかし、この作品の導入部が気に入りました。1枚の紙とペンを用意させ、片面に「裏のことは本当」と書き、反対面には「裏のことは嘘」と書かせます。そして、このように、嘘と本当はキッチリ分けることが困難であることを説明しています。この導入部があるからこそ、その後の分離現象の効果が大きくなっているといえます。

ラジオで演じるための工夫

シャフルが可能な部分では、出来るだけシャフルさせています。そして、現象が起こる前には、よくシャフルしたことを告げて、その事を再認識させています。シャフルさせる時には、「シャフル、シャフル、シャフル」と3回続けて言い、客の記憶にシャフルの言葉が残りやすいようにしています。客がデックを取り出したり、数枚のカードを取り出させた最初の段階でシャフルさせているだけです。しかし、シャフルした記憶だけが残り、演技後には、シャフルしたのに不思議な現象が起こったと思わすようにしています。2005年に、マジックランド主催の箱根クロースアップ祭でタマリッツがゲスト出演しました。その時のことで、「シャフル、シャフル、シャフル」と繰り返し言っていたことが、今でも私の頭に焼きついています。

次に、カットも多用されているものの一つです。客自身に特定のカードをセットさせた後はシャフルが出来ません。代わりに、カットを繰り返し行わせて、よくまざった印象を与えています。一般客にとって、カットして上下を入れ替えることは、カードがまざってしまう印象があるようです。トップとボトムがつながっているといった考えはなさそうです。このことを利用して、4Aや4Qを取り出す作品が解説されています。また、キーカードの使用も重要です。1枚のカードをキーカードとして、デックやパケットのボトムへ表向きに置かせます。2枚のAを裏向きでトップへ置き、残りの2枚のAをボトムへ置かせます。客にカットを繰り返させ、よくまぜた印象を与えた後、表向きカードがトップになるようにカットすると、その下に4Aが集まっていることになります。もちろん、ここで4Aを取り出して終わりではありません。ここから、本来のマジックの操作が始まります。

別の工夫として、いくつかの山へ同数枚ずつ置いたように思わせて、実際には、そのようにしていない方法があります。これを客自身で行わせるわけですから、心理作戦が必要です。面白い方法で行われているのですが、私には実行する自信がありません。タマリッツのように、テンポよくしゃべる場合には成立すると思います。これら以外に、単純な繰り返し操作だけの作品では、わざと余分な操作を加えて複雑にして、簡単に種が解明出来ないようにもしていました。。

問題を感じた作品

この本の第3章のパート2は、計算を使ったトリックとなっています。3作品が解説されていますが、3作品共に問題を感じてしまいました。3桁~6桁の数字をいくつか使って、加算や引き算をさせています。これにより、数桁の数字を導き出して、その数に該当するアルファベットを当てはめると、興味ある単語が現れる現象です。リスナーの誕生年の4桁を使ったり、自由に書かせた3桁の数を使ったりもしています。そうであるにも関わらず、最終的には、全てのリスナーが同じ数になるのが面白いところです。そのために、頭の良い発想が使われています。めんどうな計算がありますが、そのことは大きな問題としていません。私が問題と感じたのは、リスナーに計算させるいくつかの数字の一部は、タマリッツにより指定された数であったことです。この数は、ラジオスタジオの客にフォースして選び出されていました。5枚や6枚のカードをフォースして、5桁や6桁の数として使っています。あるいは、5枚の紙に1~5を書いた紙から3をフォースして、1245の数と3333の数を加算させたりしていました。スタジオの客を参加させて、うまく利用した試みと言えます。しかし、少し抵抗を感じます。この本には、他の作品でも、デックのトップかボトムかをスタジオの客に指摘させて、リスナーにも、そちらのカードを使ってもらう場面があります。本を読み始めた時には、このことにも違和感がありましたが、今回の三つの作品では、それ以上に強い抵抗を感じます。ただし、これもタマリッツの新しい試みの一つとすれば、受け入れるべきなのかもしれません。

特に問題を感じたのは、"The Cry of Truth" でのフォースです。6枚のカードをパームして、シャフルさせたデックにその6枚を加え、スタジオの客にフォースしていたのです。それだけでなく、もっと驚くべきことが、この作品の二つ目のフォースです。客に自由に言わせた数を、特定の数から暗算で引き算をして、その答えとなる5桁の5枚のカードを、デックからすばやく見つけ出し、一カ所に集めてフォースしていたことです。強引で無謀な方法です。バーバルマジックの世界から、かなりはずれた印象を受けてしまいます。しかし、そのようなことを行ってでも、このマジックを演じたかったタマリッツの気持ちが分からないわけではありません。イラク戦争が始まったため、スペイン語で「戦争反対」の文字を導き出したかったようです。また、"The Origins of Evil"(悪の根源)の作品では、"Bush" の名前が現れるようにしていました。

もう一つの問題に感じる操作があります。前にも触れました、同じ枚数ずつの山と思わせて、実際には違う枚数にする方法です。"Card to Pocket" では、最初に7枚をテーブルへ配った後、さらに、1枚を表向きにしてボトムへ加えています。この後、7枚の山に配ることが繰り返され、その内の一つは、トップカードが表向けられます。また、別の7枚のトップには、さらに3枚が加えられ、10枚として離れた位置へ置かれます。このような操作により、最初の山のボトムに加えたのが、8枚目のカードであった印象をぼやかせています。さらに、この山を取り上げて、7枚であると誤認識させる操作もさせています。心理作戦をうまく使っているのは分かるのですが、これがどの程度通用するのかが不安であり、実演する気にはなりません。

上記の作品以上に演じる気にならないのが、"The Case of the Nine Magic Hats of La Carona" です。三つの山へ5枚ずつ配ることになりますが、3・2・3と配った上へ、2・3・2の枚数を配っています。しかし、実際には、6・4・5と配った状態になっています。これを成立させるために、配る操作の途中で、残りの枚数を確認させる操作を挿入して、その後の配る順序をごまかしています。また、そのために、興味深いストーリーが使われています。5人がけの三つのテーブルと、20人のマジシャンと、10個のシルクハットがストーリーに登場します。楽しいムードのマジックですが、テンポよく行えば成立するマジックであるのかが不安です。

この項目で取り上げました作品は、新たな試みや、大胆な発想が取り入れられて感心はさせられます。しかし、実演するとなると躊躇してしまう作品といえるものでした。

バーバルマジックとセルフワーキングマジックとの違い

この本には、すばらしいアイデアや作品が満載です。しかし、これを普段のマジックにそのまま取り入れても、うけるとは限りません。バーバルマジックは、ラジオ番組や多人数の前で、客自身に操作させるマジックです。このような状況は、ほとんどないといってもよさそうです。実際面では、セルフワーキングマジックとして演じることになります。しかし、この二つの間には、いくつかの点で違いがあります。セルフワーキング用に変更する必要があります。

バーバルマジックの本の多くの作品は、かなり手間取ったり、複雑にしたものになっています。客自身にセットさせるためであったり、秘密の暴露を避けるめに複雑にしています。つまり、時間がかかりすぎです。客自身が操作しているために、本人にはそれほど時間の経過が長く感じられないのかもしれません。しかし、一般のマジックでは通用しません。この操作を見ているだけの人には退屈な時間です。また、目の前の客に、この操作をむりやり強要して、全てをさせるのも問題に感じます。

セルフワーキングマジックとして演じる場合、私の考えでは、出来るだけシンプルにすべきだと思っています。演技者が操作するのであれば、グリンプス、ブレーク、クリンプ、フォールスシャフルやカットの簡易な技法が使えるからです。これらを利用するだけで、全体をシンプルにしても、不思議で秘密の解明が容易ではない作品となります。

次に、バーバルマジックのままでは、一部の作品を除いて、現象が弱く感じます。バーバルマジックとして演じた場合、客自身が全ての操作をしたにもかかわらず、不思議な現象が起きるので、効果が強烈です。しかし、演者が少しでも手を触れるマジックにした場合、不思議さがかなり減少します。もっと意外性があるか、盛り上がるクライマックスにする必要があります。バーバルマジックではセットを使わないか、客自身にセットさせる必要がありました。しかし、一般のマジックでは、この弱点がありません。だからと言って、セットに手間をかけすぎるのは好きではありません。しかし、1~2枚のセットや簡単なセットで、強烈な現象が起こせるのであれば利用すべきです。また、演技の途中での、演者のちょっとした操作で、不思議さをもっと強めることが出来るはずです。

演出に関しては、タマリッツの本は良いお手本です。しかし、あくまでタマリッツにあわせた演出であり、自分にあったものだけを採用するか、大幅に変更する必要があります。

バーバルマジックの欠点の一つに、客が操作ミスを起こす可能性があることです。それを極力減らすために、間違わせないための説明方法の工夫と言葉の使い方、そして、しゃべる技術が重要になってきます。クロースアップマジックにおいても、これまで以上に、しゃべることの技術と研究の重要性を考えさせられた本でした。

おわりに

今回のテーマの最初の予定では、セルフワーキングの各原理の歴史変遷や、それに関わるマジシャンについても取り上げるつもりでした。しかし、かなり長くなりそうですので割愛しました。バーバルマジックは、最近の海外の文献の中で、最も楽しめた本で、タマリッツの違った面を知った思いがします。そして、セルフワーキングマジックの新たな方向性の開拓者として、タマリッツの名前は忘れてはならない存在となりました。

■セルフワーキングマジックを中心とした文献一覧
1937 Jean Hugard Encyclopedia of Card Tricks
  1936 Glenn Gravatt Encyclopedia of Self Working Card Tricks をリメイク
1948 Hugard & Braue The Royal Road to Card Magic(技法使用作品も解説)
1950 John Scarne Scarne on Card Tricks
1956 Martin Gardner Mathematics Magic and Mystery (1959年に日本語訳版)
1964 William Simon Mathematical Magic
1968 Temple C Patton Card Tricks Anybody Can Do
1973 Gene Finnell Gene Finnell's Card Magic
1975 Frank Garcia & George Schindler Magic With Cards
2002 Jim Steinmeyer Impuzzibilities
2003 Aldo Colombini Imprompto Card Magic
2006 Aldo Colombini Simply Impromp 2
2006 Jim Steinmeyer Further Impuzzibilitiesv
2006 Roberto Giobbi Card College Light (1988年にドイツ語版)
2008 Roberto Giobbi Card College Lighter (1992年にドイツ語版)
2008 Juan Tamarit Verbal Magic

上記以外にも多数の文献があります。
Karl Fulves 多数のセルフワーキングのタイトルの本を発行 カード使用は下記5作品
 1976 Self-Working Card Tricks、1984 More Self-Working Card Tricks、1995 Self-Working Close-Up Card Magic、2001 New Self-Working Card Tricks、 2001 My Best Self-Working Card Tricks
Steve Beam Semi Automatic Card Tricks のシリーズを7冊発行
Nick Trost 多数のパンフレットを発行 1997年にThe Card Magic of Nick Trost 発行
J.Stewart Smith 多数のパンフレットを発行
Bob Longe 数冊の小冊子を発行

日本での主な文献 1980 松田道弘 松田道弘遊びの本1「トランプ・マジック」 1989年に文庫本にて
1987 高木重朗、麦谷眞理編集 カードマジック入門事典
1993 赤松誉義 トランプ数理マジック事典
1993 石田隆信 スーパーセルフワーキング
1999 松山光伸 セルフワーキング・マジック事典
2000 荒木一郎 カードマジック19の秘宝、カードマジックおとぎ話
2007 松田道弘 タロットカード・マジック事典

前回コラムへの追加記事

前回のコラムでは、パチンと弾いて、たて方向にひっくり返すダブルリフトのことを報告しました。ラリー・ジェニングスが良くない方法と指摘していたのに、1986年のジェニングスの本のオープン・トラベラーの作品の中で、何故か使われていました。しかし、今回、それ以上にびっくりすることが分かりました。

1975年頃発行のカール・ファルブス著「エピローグ・スペシャル・ラリー・ジェニングス特集パート1」にも、このダブルリフトが使われていることが分かりました。「ファイナルタッチ」の作品で、右手のビドル・ポジションの表向きの2枚を、裏向けて左手へ置く操作として使われています。これは、前記のオープン・トラベラーでの使い方に近い方法です。さらに興味深いことは、それ以前に発行されていた1972年の加藤英夫著「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」には、すでに日本語訳されていたことです。ファイナルタッチの作品の備考2に、このダブルターンオーバーをジェニングスは使っていることを書かれています。この本に、ジェニングスがこのダブルリフトは良くないと言ったことが報告され、この作品の部分では、ジェニングスが使っていることが書かれています。不思議な思いにさせられます。

そのことの理由として、加藤英夫氏が「カードマジック・ライブラリー第1巻」の26ページで指摘されていました。パチンと弾いたのが良くないのではなく、右親指で持ち上げる動作が目立つやり方であることが、良くない理由だと考えられると報告されていました。つまり、デックのトップでの使用の注意点としてとらえた方がよさそうです。内エンドで、親指により、ゴソゴソしながら2枚を持ち上げるのは良くないと言いたかったのかもしれません。しかし、2枚だけの場合での使用も、後年には、ゴードン・ダブルターンオーバーに変えていたようですところで、このダブルリフトは、1958年のバート・アラートン著「クロースアップマジシャン」の小冊子に発表されたのが最初とされています。

驚くべきことは、この本より1年前に、すでに、日本でこのダブルリフトが解説されていたことです。1957年3月に力書房より発行された高木重朗講述「奇術研究講習テキストVol.1,No.3」です。チェンジの項目で、このダブルリフトが解説されていました。原案者名がありませんので、日本で使われていたものか、海外からの方法かが分かりません。しかし、この頃には、米国ではアラートンが使っており、当時、来日されていたセンダックスや他の米国の愛好家より伝わった可能性が考えられます。この二つの解説には、一つだけ大きな違いがあります。アラートンの解説では、最初にゲット・レディーしていますが、日本の場合、ダイレクトに行う方法になっています。アラートンは、左親指でトップの3~4枚を右サイドへ押し出して、2枚目の下へ左薬指でブレークを作り、デックをそろえた後でダブルリフトしています。それに対し、日本のテキストでは、直接行う方法として解説され、親指で内エンドから2枚を数え取り、前方へずらす方法となっています。それ以降のターンオーバーの解説は、アラートンの方法と同じです。このテキストから、この方法が日本中に広まったものと思われます。


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