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コラム



第36回 消える結び目(バーグ・ノット、天海ノット)(2008.5.2up)




はじめに

最も不思議なシルク(ハンカチ)による消える結び目は、ジョー・バーグ原案による方法です。これを一度見たマジシャンをとりこにしてしまいます。日本では、石田天海氏が改良して演じられ、多くのマジシャンやマニアを魅了されました。そのためか、これは天海ノットとも呼ばれています。

2008年2月に、石田天海氏のマジックを、松浦天海氏と小川勝繁氏により解説されるDVDが発行されました。そして、その中に天海ノットも含まれていました。天海氏の方法は、原案者のジョー・バーグの方法や、それを改案したダイ・バーノンの方法とは、いくつかの点で違いがみられます。そして、興味 深い改良が加えられていました。

私は2003年に、ジョー・バーグの原案を失敗せずに行うための方法を研究したことがありました。その後、石田天海氏のマジックを研究されています小川勝繁氏とお話をする機会があり、天海氏の方法の奥の深さを知り感銘しました。そして、今回のDVD発行をきっかけに、これまでに発表されていますいくつかの方法を調べ直しました。その結果、各方法のすばらしい点だけでなく、問題点も分かってきました。そこで、これらの分かりましたことを中心に報告させて頂きます。

ところで、ここで非常に残念なことをお伝えしなければならなくなりました。上記のDVDで、石田天海氏のマジックを実演されておられました松浦天海氏が、1月27日に急逝されたことです。ご冥福をお祈り致します。

ジョー・バーグ・ノットについて

シルクの中央に結び目を作って、両端を引っ張ると、結び目がどんどん小さくなります。これ以上引っ張れば、結び目がほどけなくなると思った瞬間に、ポロッとほどけます。

この結び方の最大の魅力は、結び目が次第に小さくなって消失するところです。単に結び目を消すだけなら、よく使われている簡単な方法で十分です。それならば失敗がほとんどありません。そのかわりに、物足りなさが残ります。その点、バーグ・ノットでは、単独の現象だけでもインパクトがあります。ただし、いくつかの問題点があります。

一つ目の問題点は、結び目がかなり小さくなるまでほどけないようにしようとすると、一歩間違えるとほどけなくなります。そして、みじめな醜態を見せてしまうことになります。しかし、この点がマニアにとっての腕の見せ所でもあるわけです。

二つ目の問題は、他の結び方と違い、複雑なため、習得するのにかなりの時間がかかることです。また、使っていないと、方法を忘れてしまいやすく、時間をかけて再習得が必要となります。

三つ目の問題は、普通にシルクを結んだように見えない恐れがあることです。特に、結び始めの段階で、シルクが幕状に広がった状態を見せない工夫が重要となります。

つまり、失敗しやすく、習得するのがたいへん、変な結び方に見える恐れがあるといった、三つもの欠点があることになります。

一般客の前で演じる場合、演者が予想していたほど受けないかもしれません。他の簡単な方法での反応と、大差がないといってもよいでしょう。ところが、マニア相手には、大きな効果が得られそうです。他の消える結び目との違いが分かるからかもしれません。そして、演じる側もマニアの場合、かえって、このような困難なマジックに魅力を感じてしまいます。この私もその一人です。

問題点だらけのジョー・バーグ自身の方法の解説とその歴史経過

ジョー・バーグの方法は、1937年に彼の作品集"Here's New Magic"の中で発表されました。"An Odd Handkerchief Knot"(奇妙なハンカチ結び)のタイトルがつけられています。A5版で20ページしかない小冊子に多数のマジックが解説されています。そして、このマジックに関しては2/3ページしかスペースが取られておらず、その狭い中に五つの図も描かれていました。つまり、複雑な結び目であるのに、解説文も図も少なすぎます。何の知識もない人には、とうてい理解出来そうにありません。レクチャーで指導を受けた人が、思い出すための解説といった方がよいのかもしれません。

有名な数学者のマーティン・ガードナーは、13年間、この結び目に注目する人がいなかったと指摘しています。そして、もっと分かりやすい図と解説で詳しく書き直しました。それが、1950年の「ヒューガード・マジック・マンスリー」Vol.7 No.9に解説された「ジョー・バーグ・ノット」のタイトルの解説です。ガードナーの告白によりますと、1937年のジョー・バーグの本の解説文を手伝ったのが、ガードナーであったようです。バーグ・ノットの解説が短すぎて、理解出来なかったことの責任は自分にあるとして、上記のマジック誌に全面的な書き直しをしたことが分かりました。

こちらの解説では、図を見ているだけでも、結び方がよく分かります。消える結び目が成立するための必要要素に焦点を当てて、理解しやすい解説となっています。さらに、興味深い点は、その後に発表されています他の方法と比べて、非常に簡単に出来ることです。他の方法と違って、最初の部分を省略しているだけでなく、一端のすり替え操作もありません。つまり、非常にシンプルな方法になっています。

この方法で実際に操作してみると、あまりにも簡単に出来ますので、かえって不安を感じてしまいます。やはり、その不安が的中しました。鏡の前で繰り返していますと、最初は気がつかなかった不自然さが目につくようになってきました。結び目を作り始める時に、シルクのほとんどの部分が、幕状に大きく広がっていることが気になってきたからです。それだけでなく、シルクを細長くする最初の部分を省略したために、両端を使って結んだように思えないことに気がつき始めました。これでは、本当の結び目を作る時との差が大きくなり、目立ってしまいます。

1983年には、300ページ以上にもおよぶジョー・バーグの作品集"The Berg Book"が発行されます。その中には、David Avadonにより、1937年のバーグの原案を、図と解説を多くして書き直されていました。ガードナーの解説のように、最初の部分を省略せずに、一度、シルクを細長くした状態から、一端のすり替えが行われています。今回の丁寧な解説であれば、原案で理解出来なかった本来のバーグの方法がよく分かります。

そして、この図と解説が、1993年に発行された"Encyclopedia of Silk Magic Vol.4"に再録されます。なお、日本語版は、1997年に東京堂出版より二川滋夫訳「シルクマジック大事典 第6巻」として発行されています。この方法も気に入り、かなりの量の練習をしました。しかし、やはり、ガードナーの解説の方法ほどではないにしても、幕状の広がりの問題は残っていました。この方法の練習成果の報告と、この問題点の解決方法については、後で紹介させて頂きます。

バーグ・ノットがほどけるメカニズムについて

シルクの中央に結び目を作るためには、対角線上の2端を使う必要があります。隣り合った2端で結び目を作ろうとしても、シルクの中央には結び目が出来ません。その場合、シルクの上側の中央に結び目が出来ますが、その下側の多くの部分が幕状に広がったまま残ってしまいます。

バーグ・ノットの場合、対角線上の2端を使って結び目を作っているように見せていますが、一端をすり替えて、隣り合った2端で結び目を作り始めています。ところが、その後、対角線上の2端で引っ張る状態に変えて、シルクの中央に結び目が出来るようにしています。面白いことは、この状態から、さらに両端を引っ張ると結び目がほどけることです。

以上の説明では、意味不明に思われてもしかたありません。具体的な方法が何も説明出来ていないからです。簡単には説明しにくく、映像や図を取り入れての説明が必要なマジックです。そこで、ここでは、マーティン・ガードナーが解説した、最初の部分を簡略化したバーグ・ノットで解説することにします。この方法であれば、文字だけでも理解が出来そうであるからです。実演ではおすすめしたくない方法ですが、結び目のメカニズムを知るためだけであれば、こちらの方がふさわしいからです。

シルクを広げて、上側の両端を左右の手に持って示します。左手に持った端は、手から出さずに、右サイドへ近づけて隠しています。右手の端を左手に渡しますが、7~10センチ程上方へ突き出させて持ちます。シルクを左手だけで持っている状態で、少し話をして間をあけます。その後、右手で右サイドにある3番目の端を持ちます。この右手の端も、7~10センチ程上方へ突き出しています。これからシングルノットを作るわけですが、左手の端を右手の端の上へ交差させて結び始めます。右下へ出て来た端を、右手で取る時に、左手に隠していた端もいっしょに持って引っ張り出します。両手で左右に引っ張ると、結び目が作られ始めますが、途中で、右手の2端の内の一端を放します。放す端は、結び目を作る時に右下へ出て来た端です。さらに、左右へ引っ張ると、中央に結び目が出来ます。そして、それ以上に引っ張ると、結び目が消失することになります。

結び目がほどけるメカニズムは、両端を引っ張ると、その前に放した一端が、中央の結び目の方へ引き戻され、結び目を通過することによりほどけます。結び目を構成していたのは、この一端であり、替わりに引っ張っていた端は、この結び目の中を通過させていたものにすぎないからです。

このマジックがインパクトのある現象となるか、失敗して惨めな状態となるかは、この2端の内の一端を放すタイミングにかかっているといっても過言ではありません。結び目をしめるために引っ張る途中で、端を放すタイミングが早ければ、結び目が出来る前にほどけて、結び目が出来ません。もう少しだけ後の場合、結び目は出来ますが、小さくしぼられる前にほどけてしまいます。反対に遅れてしまった場合には、結び目が完全に締め付けられて、簡単にはほどけない状態になります。このタイミングは、練習で習得するしかありませんが、このことに関しては、後でもう少し詳しく報告させて頂きます。なお、上記のこと以外にも、自然な結び目を作ったように見せるための様々な工夫が必要であり、奥の深いマジックであると言わざるをえません。

ダイ・バーノンとバーグ・ノット

バーノンの方法が解説されたのは、1977年のカール・ファルブス著による"Pallbearers Review"誌のダイ・バーノン特集号パート1においてです。図も豊富で、分かりやすく解説されています。これは、1950年のガードナーの解説のような、最初の部分を省略した方法ではなく、ジョー・バーグの本来の解説に近い方法となっています。もちろん、ハンドリングで各所に違いがみられますが、全体的には大きな違いがありません。タイトル名も「バーグ・ノット・バリエーション」となっています。結局、この解説では、バーノンの改案の大きな特徴点を見つけることが出来ませんでした。

1983年に13巻のバーノンのビデオ"Revelations"が発行されますが、その第9巻の冒頭で、バーノンの方法が本人により実演されていました。なお、1999年にはDVDで発行されています。80才代のバーノンであるために、うまいとは言えず、結び目は出来ていますが、容易にほどけてしまいます。それほどインパクトがある結び方には見えないかもしれません。そして、結ぶ方法も、1977年に解説されたとおりです。

しかし、この映像により、バーノンの方法の大きな違いが分かりました。バーノンはイスに座って、テーブル上で演じていたのです。これは重要なことです。シルクの端のすり替えが行われた後、左右の手に一端づつ持っていますが、この部分だけテーブルから持ち上げた状態になっていました。シルクの本体部分のほとんどが、テーブル上に残していたのです。つまり、私が気にしていました、シルクの幕状の広がりの問題点を、見せないですむ状態になっていました。この方法は、テーブルがない場合にはイスに座って、太ももの上で演じれば、同様に行えます。ところで、バーノンはバーグ・ノットを常に座って演じていたのでしょうか。立って演じることはなかったのでしょうか。今回は、この点に関しては分かりませんでした。

ビデオの映像では、もう一つ、演出においても注目すべき操作がありました。横に座っている客に、シルクの一端を持たせて、結び目を消失させていました。マジックの中へ客を参加させて、客の協力があったからこそ、結び目が消失したとなれば、拍手もとりやすくなります。なお、この演出により、バーグ・ノットの新たな応用作品がひらめきました。客に一端を引っ張らせても、なかなかほどけない演出です。そのために、いろいろな工夫が必要となりましたが、そのことについては後で報告させて頂きます。

バーノンの改案が発表された経緯

 1977年の"Pallbearers Review"誌には、ビデオで演じているようなバーノンの方法の特徴点が、なぜ記載されなかったのでしょうか。そこに解説された作品は、バーノンがチェックした内容ではなかったからのようです。また、この解説を書いたカール・ファルブスは、バーノンが演じているのを直接見ていない可能性がありそうです。バーグ・ノットだけでなく、いくつかのバーノンの作品は、Harvey Rosenthalがカール・ファルブスヘ提供したものでした。Rosenthalがバーノンからバーグ・ノットを教わった時の興味深い記事が、2001年11月のGenii Forumに投稿されていました。

21才のRosenthalが、バーノンを紹介されて初めて会ったのが、1958年のニューヨークです。バーノンがロサンゼルスへ移る1963年頃まで、交流が続いていたそうです。1969年にミッド・ウエストでマジック大会が開催された時に、再会することになりますが、Rosenthalはマイク・スキナーと共にバーノンのホテルの部屋を訪問しています。バーノンはアンダーシャツ姿でシェービング・クリームを付けたままでドアを開け、二人を招き入れると、さっそく、シルクを取り上げてバーグ・ノットを演じます。その後、2時間かけて、バーグ・ノットの指導を受けています。ここでの投稿は、最後までシェービング・クリームを付けたままであった、バーノンの人柄を紹介する記事にもなっていました。

この後、カール・ファルブスがバーノン特集の記事を書くとのことで、Rosenthalはバーノンのバーグ・ノットも含めることを提案し、その他いくつかの作品も提供することとなります。分かりやすい解説にはなっていますが、テーブル上で演技することについては、何も触れられていませんでした。

改案作品の発表者とジョー・バーグとの関係

改案作品が発表された歴史経過を調べて、面白いことに気がつきました。改案を発表しているマジシャンは、ジョー・バーグと直接会って見せられたことにより、影響を受けたとしか考えられない点です。

ジョー・バーグは、1925年から51年まで、シカゴのマジック・ショップでディーラーを務めています。この時期には、シカゴに住んでいたマーティン・ガードナーとの交流があり、本の制作にガードナーが協力したようです。戦後(1945年以後)、ガードナーはニューヨークへ移り、ダイ・バーノンと出会います。そして、1950年にシンプルで分かりやすい方法に書き直して発表することになります。1953年に、Dr.daleyのホームパーティーでバーノンの要請により、ガードナーはカーディー二にバーグ・ノットを見せています。この結び方のアイデアにカーディー二は衝撃を受けますが、結び始めるまでの操作は、工夫した方が良いことを示唆します。この後、意見交換しますが、良い案が出なかったようです。

 ジョー・バーグは、1951年にハリウッドへ移り、マジック・ショップを開いています。(これは、マジック・キャッスルのすぐ近くにあるハリウッド・マジックのことではありません) そして、バーノンも1963年にハリウッドへ移っています。マジック・キャッスルに招かれたからです。"Pallbearers Review"誌によりますと、ハリウッドへ移ってから、バーグ・ノットの問題点を、バーノンがエレガントに解決した噂が伝わってきたと報告されています。

ところで、石田天海氏は1958年に帰国して、その年の杉並公会堂での帰朝公演でバーグ・ノットを演じられ、マニアに強いインパクトを与えています。このことは、1980年のニューマジック誌に、フロタ・マサトシ氏が報告されていました。天海氏はアメリカ巡業中の1953年に狭心症で倒れ、ロサンゼルスで療養生活をすることになります。そして、病状が回復して、ジェラルド・コスキーと共にラウンド・テーブルを開始し、帰国時まで続けることになります。これは、マジシャン同士で見せあったり、意見交換する場です。2年前の1951年には、ジョー・バーグがハリウッドに移っていますので、本人からバーグ・ノットを見る機会があったわけです。

1980年発行の、大野正治編「アルバム 石田天海 おきぬ」を見ますと、天海夫妻とジェラルド・コスキーとの3ショットがあるのは当然ですが、ジョー・バーグとの3ショットがあることから、深い交流関係にあったことがうかがわれます。なお、フロタ氏の報告では、天海氏が強調されていたのは、このマジックのオリジナルはジョー・バーグであり、そのハンドリングを天海のものとして完成させたことを常々言われていたそうです。

自然な結び方に見せるための工夫

本来の結び方とは異なり、秘密の操作や状況は隠す必要があります。このことで思いうかぶのが、次の三つの部分です。一つは最初の端の入れ替え操作です。二つ目は、最後の部分で一端を放して、この端が中央へ移動する動きです。そして、三つ目は、結び始めの段階で、シルクの多くの部分が幕状に広がっていることです。この三番目の問題は、これまでに何回も言ってきましたように、私が最も気にしている問題点でもあります。

面白いことに、この三つの問題を一気に解決する方法がありました。しかも、それが1937年の最初のバーグ・ノットの解説に書かれていたことが驚きです。演者の身体の左サイドが客席へ向くように、少し横向く状態となり操作を行うと、全てが解決するのです。横向く理由は、最初のすり替えをカバーするためと説明されています。しかし、この後もそのまま操作を続けますと、シルクの幕状の広がりも、前後方向の広がりとなるために、前方の観客からは、この変な状態を見せずにすみます。また、最後の放した一端の中央への移動の動きも、前後方向に近い動きとなるために、ほとんど目立ちません。この重要な記載が、何故かマーティン・ガードナーの書き直した解説や、1982年の本来のジョー・バーグの方法の書き直しにも記載されていませんでした。結び方を分かりやすくすることに意識が集中していたために、もれてしまったのでしょうか。あるいは、横向くことを好ましく思わなかったためでしょうか。

ところで、マーティン・ガードナーの解説には、別の部分でちょっとした工夫がありました。二端の内の一端を放す前に、シルクを垂直状態にしていることです。二端がある方を下部にして、演者側を放すべき端にしています。これであれば、端を放しても動くのが目立ちません。これは、一つの有効な工夫には違いがないのですが、そのことよりも、この解説には別の部分で大きな欠点を残すことになってしまいました。結び目の作り始めで両端を左右に分けて持っているため、シルクの多くの部分が幕状に大きく広がっていることを露呈させてしまったからです。これの解決方法として、最初の解説のように横向きになるか、バーノンのビデオのようにテーブル上で演じることになります。

そして、もう一つ、頭の良い解決方法が存在していました。ここで、石田天海の方法の登場となります。

天海ノットについて

天海の方法の大きな特徴は、シングル・ノットを作るためにシルクを右手に巻き付けるように操作して、それにより出来たループから、右手を抜き出すことにより結び目を作っていることです。他の方法では、結び始めの段階が、左右の手に端を持って横に開いた状態であり、横にシルクを広げることの原因になっています。ところが、天海の方法では、両端が前後方向にある状態から、客側のシルクを右手背を通って、手前側に持ってきています。そして、この端を右指に挟ませています。つまり、シルクを左右に広げることがない方法となっているため、シルクの幕状の広がりを見せずにすむわけです。

天海の方法は、1958年には、日本において実演されていますので、バーノンが1963年にハリウッドへ移って改案を考案するよりは、以前の話となります。ところが、天海の方法が文献上に登場するのは、1980年のニューマジック誌のフロタ・マサトシ氏の解説まで待たねばなりません。文献上での解説は、これ一つだけです。もちろん、文献での海外の発表はありません。もし発表するとしても、ジョー・バーグやバーノンの解説以上に複雑となり、理解されにくいことが予想されます。かなりの数の図や写真が必要となります。映像での解説は、今回の「石田天海の研究」のDVDで松浦天海氏が演じられて、小川勝繁氏との対談で解説されているものと、島田晴夫氏がビデオ(DVD)で演じられているものがあります。

残念なのは、石田天海氏自身が演じられている映像を見ることが出来なかったことです。「石田天海の研究」のDVDを見ますと、端の入れ替えは、手に隠れて見えないようになっています。さらに、それだけでなく、もう一つの問題点の、一端を放した時の中央へ移動する動きも、シルクの陰に隠れて見えないように工夫されていることが分かります。つまり、三つの問題点が解決されているわけです。

これら以外では、1978年の奇術研究84号に「ジョー・バーグの消える結び目のバリエーション」として、高木重朗氏が解説されたものがあります。石田天海氏の改案とは書かれていませんが、この方法を見る限り、明らかに天海の影響を受けていると考えてしまいました。石田天海氏が原案者のジョー・バーグの名前を強調されていたので、それに従ったのでしょうか。

なお、もう一つ、私にとっては忘れられない方法があります。私が初めて「天海の消える結び目」として教わった方法です。1975年頃、ジョニー広瀬氏より教わった方法で、シルクの対角線上の両端を左右の手に持った状態で、結び目を作る方法です。以上でいくつかの方法を紹介しましたが、それぞれに何らかの違いがあることが興味深い点です。しかし、全てに共通している点は、シルクを手に巻き付けるようにして結び目を作っていることです。

失敗しないための研究

結び目がほどけなくなるのは、最後の部分で、二端の内の一端を放すタイミングが遅かった場合です。練習を繰り返せば、いつ放せば良いのかの大まかな見当がついてきます。それでも、10回に1~2回は失敗してしまいます。そこで、100%失敗しない方法はないかと、研究を始めたのが次の方法です。

一端を放す前のシルクの両端の長さと、結び目の出来具合との関連性を調べてみることにしました。机の上へメジャーを置き、バーグ・ノットを作って、一定の長さになった段階で一端を放せば、どのような結果になるのかの調査です。

方法は「シルクマジック大事典 第6巻」に解説された方法で、一辺が45センチのシルクを使って、出来るだけ同様な結び方になるようにしてバーグ・ノットを作りました。その当時の結果では、27センチ以下では結び目が出来ないことが多く、29~31センチでは結び目が出来ても、すぐにほどけます。一番良い状態は、32~33センチです。毎回、結び目が出来た後、気持ちよくスムーズにほどけます。34~35センチでは、ほどけない場合がかなり生じてきます。つまり、両端の長さと失敗しないことの関連性があることが分かりました。

問題はメジャーがない状態で、32~33センチの長さを知ることが出来るかです。当時の私は、両肘を身体の横につけて、両端を持っている左右の指先の位置が、どの位置にあれば目的の長さになるのかを理解した上で、目で確認して行っていました。今はこの方法は使っていませんが、良いトレーニングになりました。

なお、短期間の間に500回近くも練習を繰り返したことにより、シルクがヨレヨレとなり、端を放すタイミングも少し変化させる必要性が生じました。しかたがないので、新たなシルクにかえると、今度は逆の状態になり、さらにタイミングの調整が必要となりました。少し使い込んだ状態が、最も使いやすいのですが、シルクの状態がこの操作に大きな関連を持っていることを痛感させられました。

ところで、このような研究をしていた2003年頃は、失敗しないことだけを考えていた時期でした。マーティン・ガードナーの方法も行ってみるようになって、シルクの幕状の広がりの問題が気になるようになってきました。石田天海氏の方法のすばらしさが分かるようになるのはこれ以降です。さらに、その後、小川勝繁氏より天海ノットに適したシルクについて教えて頂き、方法だけでなく、シルクまで工夫されていたことに感銘を受けました。このことに関しては、今回のDVDの中でも触れられていますので、聞きのがさないで下さい。これは扱いやすくするだけでなく、失敗を減らすための重要な要素と考えられます。  

サムパーム使用による天海ノット

1975年頃、私がジョニー広瀬氏より、天海の方法として初めて教わった時には、結び目を作り始めるまで、左右の手に端を持ったままでした。わざわざ片手に両端を持たせることはしていませんでした。ところが、本来のバーグ・ノットや天海ノット、そして、バーノンの方法も、解説に使用された図を見ますと、何故かシルクを二つ折りにして、両端を片手で持っている図が描かれており、変な持ち方をしていると思っていました。

しかし、実際に操作をしてみれば分かることですが、片手に両端を持つ方が、第3の端との入れ替えが楽に行えます。それに比べますと、私の教わった方法では、かなり練習を必要とします。両手を近づける動きの中で、3番目となる端を、秘かに、すばやくサムパームして取ってくる必要があるからです。これを教わった1975年頃、うまくサムパーム出来ないことが多く、何か対策がないものかと考えましたが、良い案がなく、30年近く忘れた存在となっていました。

サムパームを使っていたことはかすかに覚えていましたが、方法は完全に忘れていました。思い出させてもらえたのは、庄野勝吉氏が覚えておられたからです。さらに、今年の正月休みの間に、当時の古いノートを読み返していますと、詳しい図入りで、私が書いていたものも見つかりました。方法を忘れないように、絵が苦手であるにも関わらず、がんばって描いたものと思われます。当時は、この方法の習得に必死であったのに、中断してしまっただけでなく、解説を書いていたことも、方法すらも忘れていたことを反省しました。

そこで、このサムパームを使った方法を、100%可能とするための研究と練習を始めました。うまくサムパーム出来ないのは、練習量の問題があります。しかし、それだけでなく、サムパームする時に、中央に位置する二つの端が重なって、一端だけのサムパームを困難にしていることも大きな原因でした。今回、二端が重ならないようにしたり、一端しか外部に出ないようにして、いくつかの方法を工夫しつつ練習した結果、ほぼ失敗することなくサムパームが出来るようになりました。回数は数えていませんが、短期間に500回以上は結び目を作ったように思います。おかげで、この結び方を応用した無謀な試みも、実現の可能性が出てきました。

私の新たな試み

ここで、かなり無謀とも言える試みを紹介させて頂きます。バーグ・ノット(天海ノット)により、結び目がほどけない状態にする方法です。これは、間違って書いているのではありません。両端をかなり強く引っ張っているにもかかわらず、結び目をほどけない状態で残す方法です。この後、演者が息を吹きかけるか、客に息を吹きかけさせて、両端を引っ張ると、楽々とほどけてしまいます。

この方法で演じてみようと思った理由があります。両端を引っ張ってもほどけない状態になった時に、一方の端に近い一部分を引っ張ると、もう少し引っ張ることが可能となり、ほどくことが出来たからです。この方法の成功率は80%です。残りの20%は、そのまま楽々とほどけてしまったり、完全にほどけない状態になることもありました。

しかし、これはそれほど無謀ではありません。実践でも使える方法です。もっと無謀と言える方法が、客に一端を持たせて引っ張らせたり、シルクごと客に渡して両端を引っ張らせても、ほどけない状態にする方法です。もちろん、この後、演者が両端を持って引っ張ると、楽々とほどけます。この場合には、いくら引っ張っても、びくともしないぐらいの硬い結び目にする必要があります。また、結び目の大きさも、ある程度以上の大きさで残しておく方が見ばえがします。

今のところ、この状態にするのに適しているのが、サムパームによる天海ノットを応用した方法です。シルクの一端を中へ巻き込んで細長くした状態で、結び目を作ります。問題は、成功率が5割程度で、まだまだ実践的ではない点です。もう少し研究の必要性を感じているところです。

おわりに

今回は、いつも以上に、マニアックな内容となってしまいました。最近では、これを演じているマジシャンをほとんど見かけませんので、かえって価値があると思います。

ところで、4月5日~6日にかけて、マジックランド主催の第16回「新・箱根クロースアップ祭」に参加してきました。この大会では、毎年恒例の「ひとネタ・コンテスト」があり、私もチャレンジしました。今年は出場希望者が多く、10名で打ち切られたようです。

私は客に渡してもほどけないバーグ・ノットを、それまでに完成させて、コンテストで実演する予定でいました。そして、すでに出場予約をとっていました。しかし、当日の午前中まで練習を重ねましたが、成功率がそれほどアップしないために、急きょ、演目をかえることにしました。

完成したばかりの本「トイ・ボックス 9号」に解説しています私の作品「二人のエニー・ナンバー」を演じました。二人のカードが、指定されたそれぞれの枚数目から現れる現象です。エルムズリーの巧妙な原理を使うことにより、二人のカードを、一気に二つの目的地へ移動させることが出来ます。コンテストの結果は、なんと、1位を獲得することが出来ました。私の好きなエルムズリーのこの原理が評価された思いがして、嬉しさでいっぱいになりました。参加者全員による投票方式で採点されていますので、私に票を入れて下さった方々のおかげです。ありがとうございました。

最後に、参考文献とビデオ(DVD)一覧を紹介させて頂きます。

The Joe Berg Knot・天海ノット:
1937 Joe Berg An Odd Handkerchief Knot Here's New Magic
1950 Martin Gardner The Joe Berg Knot Hugard's Magic Monthly Vol.7 No.9
1977 Dai Vernon Berg Knot Variation Pallbearers Review Close-Up Folio 7
1978 Martin Gardner Encyclopedia of Imprumptu Magic(1950年の解説の再録)
1978 高木重朗 ジョー・バーグの消える結び目のバリエーション 奇術研究84号
1978 高木重朗訳 ジョー・バーグの方法のガードナーの解説の訳 奇術研究84号
1980 石田天海 ジョー・ボーグ&天海の消える結び目(フロタ・マサトシ解説)
     ニュー・マジック Vol.19 No.4
1983 David Avadon The Berg Knot ( Berg's Handling ) The Berg Book
     1937年のバーグの方法の詳しい解説
1983 Eric Lewis Joe Berg's Incredible Knot The Berg Book
     1950年のガードナーによる解説の再解説
1983 Dai Vernon The Berg Move Revelations Vol.9 ( Video )
     1999 L&L社よりDVDにて再発行
1988 高木重朗訳 ダイ・バーノンのバーグの消える結び目のバリエーション 奇術界報 560号
1993 Mark E.Trimble Rice's Encyclopedia of Silk Magic Vol.4
     1983年のDavid Avadonの解説の再録
1997 二川滋夫訳 シルクマジック大事典 第6巻(1993年の本の日本語訳版)
2008 DVD「石田天海の研究 第壱巻」(演技・解説)松浦天海 (聞き手・補足)小川勝繁


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