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コラム

第28回 最近のフラリッシュの状況 (2006.8.31up)




はじめに

2003年頃から、フラリッシュの世界が、大きく変わってきたように感じられます。それまでのフラリッシュの歴史を振り返ってみますと、フラリッシュ賛成派と反対派の意見の対立があったことが印象的です。

ところで、最近の状況をみていますと、派手さの強い新たなフラリッシュが、次々と開発され、DVDやインターネット上で披露されています。それだけではありません。昨年や今年のI.B.M.大会報告にもありますように、マジックにジャグリング要素が取り入れられている印象が強くなってきました。そして、そういったことに対しての批判も、あまり目にしなくなりました。いずれにしても、今の状況は、フラリッシュには勢いがあります。

そこで、今回、最近のフラリッシュの内容と、それらを発表した数名の中心的人物について、少し詳しい紹介と、私の感想も含めて報告させて頂きます。さらに、私が2002年に、フラリッシュについてまとめた内容の概要も紹介したいと思います。そこでは、フラリッシュの賛否の問題を、かなり取り上げています。

ところで、これらの報告に入ります前に、まず、フラリッシュそのものについて再確認しておきたいと思います。

フラリッシュとは

フラリッシュは、辞書によりますと、「華やかに〜する」、「見せびらかす」等の意味があります。様々な方法がありますが、共通しているのは、不思議な現象を見せるためのテクニックではないことです。フラリッシュはオープンでビジュアルであり、華やかさや面白さを見せてくれます。その反面、器用さを誇示するものにもなりかねません。そして、そのマジックが、手の器用さだけによりなりたっていると、客の考えを誘導させてしまう恐れもあります。多くを行いすぎますと、マジックよりも、ジャグリングの印象が強くなります。

それに対してスライトは、パス、パーム、チェンジで代表されるような、不思議現象を行うためのテクニックです。これは、フラリッシュのように、失敗せずにスムーズに行えるようになったということだけではすまされない、難しさがあります。スライトを使用したことを、気づかせずに行う必要があるからです。ミスディレクションを含め、多くの他の要素が関係することとなります。

なお、この中間的なものとして、マニピュレーションがあります。これは、スライト・オブ・ハンドによるマジックをさしています。華やかでビジュアルでありながら、不思議現象を起こすものです。カードのプロダクションや消失、チェンジ現象等、主に、ステージの場合に使用されることが多いようです。

最近の状況

2002年には、Jerry Cestkowskiが、500ページ以上の、カード・フラリッシュの百科事典を発行されています。そして、2002年の終わり頃より2003年にかけて、いくつかのカード・フラリッシュのDVDの登場となります。また、インターネットの動画により、何名かのフラリッシュの演技を見ることが出来る時代となってきました。さらに、2003年のGenii誌10月号には、フラリッシュ界の注目の兄弟Dan and Daveによる、24ページにもおよぶ特集が組まれました。

そして、2003年のもっとも大きな出来事は、FISMにおいてグランプリを獲得したのが、フランスのNorbert Ferreで、フラリッシュを多用したマニピュレーションであったことです。ビリヤード・ボールとカードを使って華麗な演技が行われました。2004年もDVD発行の勢いは止まりません。また、Genii誌8月号には、12ページにわたり、謎のフラリッシュマンDe'Voの特集が組まれました。

2002年に、私はこれまでのカード・フラリッシュについて、まとめたことがありました。これを、2002年12月発行の「トイ・ボックス 6号」に掲載させて頂きました。30ページ近いボリュームになってしまいました。その原稿を書いている時は、それほど大きな変化は感じていませんでした。Brian Tudorが "Show off"と "Show off 2"のビデオを発行しており、マルティプル・カットのすごい人物が現れたということぐらいでした。その後、フラリッシュ界に、大きな波が訪れてきたわけです。

マルティプル・カットの代表ともいえる Sybil について

このSybilが、今日のブームのきっかけとなったのではないかと思っています。これまでにも、各種のトリプル・カットやマルティプル・カットが発表されてきていますが、このSybilほど心をときめかされたカットはありません。両手の指先の間で、デックが4分割されるのですが、その後、各パケットの数回の入れ替えが行われます。この入れ替えの動きが魅力的なのです。パケットの180度方向転換も加えられた動きが入ります。このSybilと、その発展形について、少し具体的に報告したいと思います。

Sybilは、1992年に、クリス・ケナーにより発表されたマルティプル・カットです。Homer Liwagとの共著による、クリス・ケナー作品集「アウト・オブ・コントロール」に解説されています。そこには、Sybilとして、三つの方法が紹介されています。その中でも、今日、もっともポピュラーなマルティプル・カットの基本型となったのが、"Sybil The Trick"に解説された4分割カットの方法です。このカットを、クリス・ケナーは、不思議な現象のマジックの重要な要素として使っています。また、このカットは、最終的には、一つのパケットがアウト・ジョグされた状態となります。これを抜き取ってトップに置くと、フォールス・カットとして使えます。

このSybilに対して、各フラリッシュ演技者の改良点を報告します。この改良のしかたをみているだけで、各人物のセンスや、考え方の一端が分かるような気がしてきます。

Brian Tudorは、Sybil を永久的に繰り返しが可能なように、工夫を加えました。これを、1999年の"Show Off"のビデオにおいて発表し、大きなブームの火付け役となったと考えられます。難しい操作の繰り返しを、スムーズに、そして、スピーディーにこなし、かっこよく見えてきます。

Dan and Daveは、本来のSybilを2回繰り返すことにより、フォールス・カットとなるように工夫しています。その為に、途中で少し複雑な動きが入りますが、頭の良さと、うまさが感じられます。

Capaso Casinoは、本来のSybilの1回分の操作で、フォールス・カットとなるようにしています。それだけでなく、180‘方向転換していた二つのパケットの向きも、戻しています。すっきりした方法なので、私は好きですが、彼が演じると、きざっぽく嫌みに見えてしまう点が不思議です。

Jerry Cestkowskiは、2002年に発行したフラリッシュ百科事典に、二つの方法を発表しています。あまりにも簡略化しすぎた「クイック・トリプル・ カット」と、反対に、複雑にして8分割のディスプレイを目的とした「タワー・カット」です。どちらも、私の好みではありません。

De'Voは、デックの3分割にカード・ケースを加えて、Sybilの4分割カットと同様なムーブを行っています。それだけでなく、次々と、パケットをケースの中へ戻してゆく操作が加えられています。そして、最終的に、ケースの中へ戻されたカードの配列は、元の状態に保たれたままとなっています。

ちょっと一息

2006年のFISMのグランプリとして、ステージ部門ではフランスのPilou、クロースアップ部門ではアメリカのRick Merrillが獲得されました。Rickは、2004年のI.B.M.大会においても、クロースアップの1位を獲得されています。テクニックのうまさ、楽しい演出、そして、クライマックスの意外性や盛り上げ方のうまさを感じました。その時の演技内容の一部分を、私のコラムの2004年I.B.M.大会報告において紹介していますので、参考にして頂ければと思います。

そして、このRickとSybilとの関係ですが、2005年にAntinomy Magicから発行された彼の作品集"Home Schooled"に、Sybilを使った二つのマジックが解説されています。そこで使われたSybilは、4分割した後、さらに、もう1分割して、5分割によりディスプレイする、クリス・ケナーの"Five Faces of Sybil"を使っています。これを使ったマジックの現象だけを紹介させて頂きます。

"Sybil Cut Rise"では、5分割して示した状態で、一つのパケットの中央より、1枚のカードがライジングしてきます。このカードを口にくわえて示しています。このカードは、最初に客に選ばせて、デックの中へ戻した客のカードです。"Sybil Cut Flush"では、デックをシャフルの後、テーブル上に4分割して、トップカードを表向けると、4枚のエースが出現します。次に、四つのパケットと4枚のエースを重ねて、Sybilにより、両手の間で5分割すると、各パケットのボトムには、スペードのロイヤル・ストレート・フラッシュの各カードが示されます。私も彼のように、フラリッシュの操作をマジックの中にうまく生かして、新たなマジックを開発することには、もっとも興味のあるところです。

現代のフラリッシュの代表的演技者

Brian Tudor

私の知っている範囲では、5本のビデオ(DVD)を発行しています。1999年に"Show Off"、2001年に"Show Off 2"、2003年に"Generation X"、2004年に"Heckler"、その後、"Card Sharp"が発行されています。この5本を見ていますと、彼は、今後の進むべき方向を、模索しているのが感じられます。最初の2本はフラリッシュのみです。次の2本は、フラリッシュを取り入れた、スピーディーでビジュアルなマジックが中心です。そして、最後の5本目は、カード・ギャンブルのイカサマ・テクニックのDVDです。

最初のビデオは、カットとシャフルが中心です。シンプルで実用価値があり、使ってみたいフラリッシュがいくつかあります。

2本目は、1本目の内容を複雑にしたフラリッシュが中心となります。よりスピードアップして、うまさがきわざっています。しかし、私はこれよりも、最初のシンプルな内容のビデオの方が好きです。

興味深いのは3本目の"Generation X"です。これはいろいろな意味で、見ておくべき価値のあるDVDです。フラリッシュの欠点が、よく分かるからです。反面教師という言葉があてはまります。最初から最後まで、フラリッシュを交えながら、テクニカルでビジュアルな現象が続けられると、不思議さが、かなり減少します。器用さのみが、前面に出すぎです。そのうえ、次々と現象が起こるので、それについてゆくのが大変です。それでも、1〜2作であれば、変わっていることが面白く感じたかもわかりません。しかし、それ以上になると、面白さが急激に減弱して、あきてきます。マジックでもジャグリングでも、客を楽しませるには、テクニックのうまさは重要ですが、それだけでは不十分であることを考えさせられます。とは言っても、かなりの難しいことを、スピーディーにこなしていますので、うまさにはほれぼれしてしまいます。マジックとしては、「フォロー・ザ・クィーン」は必見です。これは、彼のタイプにあったマジックではないかと思います。このマジックに関しては、繰り返し見てしまいました。そして、もう一つ、必見の映像があります。パーフェクト・リフル・シャフルが実演されているのです。フェロウ・シャフルではありません。これが、毎回、失敗せずに行えるのであれば、すごいことです。この部分を見るだけでも、このDVDを見る価値があります。

4本目は、パームとチェンジを中心とした、すばやい現象の作品集です。フラリッシュを期待した人には、物足りない内容といえます。

そして、5本目はギャンブル・スライトのみです。今後は、どのような方向を目差されるのかが、興味のあるところです。

Dan and Dave Buck

双子の兄弟で、Buck Twinとも呼ばれています。マルティプル・カットや、フォーエース等の同数の4枚を一気に出現させてのディスプレイに、感動的なうまさがあります。操作のなめらかさでは、トップクラスです。そして、それらに関しての多数の方法を発表しています。

二人のフラリッシュとの関わりは、1998年に、クリス・ケナーの本に解説されたSybilと出会ったことからのようです。1999年には、すでに、いくつかのフラリッシュを作り上げています。2001年には、ラスベガスの大会でゲスト出演し、2002年には、ロンドンの大会で実演とレクチャーも行っています。2003年には、話題のDVD"Hit The Road"に、多くのマジシャンにまざって出演しています。2004年は、DVD"Dan and Dave System"を発行、2005年9月、日本において、マジック・ランド主催のクロースアップ大会に、飛び入りゲストとして出演されたことは、記憶に新しいところです。

日本での演技を見た感想は、個々のフラリッシュのうまさや面白さには感心させられました。しかし、これを繰り返し続けられますと、違ったことを行われても、同じことの繰り返しのように見えてしまいます。二人とも、無口でシャイな面がありますが、今後、プロのエンターテイナーとして、どのように活躍されるのかが楽しみです。

Jerry Cestkowski

通称、フラリッシュマンと呼ばれています。ホームページのURLも、その名称が使われています。2002年に、カード・フラリッシュの百科事典を発行し、さらに、De'Voと共に、DVDの発行やフラリッシュの普及活動を行っています。2004年には、De'Voと共にビギナー用のDVD"Xtreme BeginnerZ"を発行しました。

彼が考案したものの中では、Fan TwirlやTwirl Closeが気に入っています。カード・ファンを両手でささえて、1回転させたり、回転させつつファンを閉じるフラリッシュです。これ以外に、いくつかのフラリッシュを考案されています。しかし、ジャグリング的なものが多い印象をうけます。私は、マジックにいかせるフラリッシュが好きですが、彼の百科事典の内容を見ていますと、マジック的な要素には興味がないことが伝わってきます。

ここで、このカード・フラリッシュ百科事典について、少し触れておきたいと思います。550ページもある厚い本で、189のフラリッシュを、多数の写真を使って解説しています。ところで、私には不満点がたくさんあります。考案者名がはっきりしている比較的最近(数10年前も含む)のフラリッシュは、ことごとく除かれている印象をうけます。また、百科事典の名前を付けたわりには、調査文献が少なすぎます。そして、残念なことは、各フラリッシュがマジックの中で、どのように活用されているのかについては、全て省略したと書かれていたことです。それだけでなく、マジック的要素のあるフラリッシュも、全て除かれています。一気にフォーエースを表向きに出現させたり、1枚のカードが、表向きにアウト・ジョグされて出現する、ポップ・アウト等のフラリッシュです。まだまだ不満点はあります。しかし、これだけの数を集めて、写真により分かりやすくした功績は評価したいと思います。

De'Vo

顔や声も年齢も分からないことばかりの、謎の人物です。今までになかった斬新な発想のフラリッシュを、次々と発表しています。バランス芸が多いのも特徴です。指先でカード・ファンをささえて、掌上で浮いているように見せたり、カード・ファンのエッジの上に、さらに、ファンを乗せてディスプレイしています。また、手背に乗せたカード・ケースから、片手だけでデックを取り出したり、手背のデックを鮮やかな方法でファンに広げています。これは必見です。これらや前記のSybilの改案は、2003年のDVD"Cradle to Crave"に解説されています。さらに、2004年には、「コブラ・コレクション」のDVDを発行しています。片手だけでコブラの頭を形作り、手背に乗せたパケットを落下させて、指先のコブラの口で、ガブリとかぶりつくフラリッシュです。

2004年のGenni誌には、彼との対談が12ページにわたり掲載されています。それによりますと、彼がマジックとして演じていたものを「それはマジックなのか、マジックでないのか」といった議論の対象にされ、そのようなことがいやになり、マジックの世界から離別し、ヨーロッパに移ります。その後、アメリカに戻り、フラリッシュを中心とした活動を始めます。彼のユニークな才能を、マジックの世界から遠ざけてしまったことは残念です。しかし、彼の発想には、マジックに応用出来るものも多く、今後の発表される作品が楽しみです。

Capaso Casino

いくつかのパケットに分割して、ディスプレイするカットのフラリッシュを得意としています。その中で、私の気に入っていますのは、両手ですばやく横に5分割する「ブリッジ」です。動きが面白くビジュアルで、何かのマジックに応用したくなります。残念なのは、これらのように、単に分割するだけでは、マジック的要素が少ないことです。

2002年に「C4」のタイトルで、また、最近では"Recapped"のDVDを発行しています。まだまだ若く見えるのに、解説する時の話し方や態度が、なまいきに見えてしまう点が損をしている印象をうけます。

最近のフラリッシュの代表的人物をあげましたが、共通していますことは、器用さだけが前面に出ていて、演技者としての魅力が出ていないことです。若い人が多いからかもしれません。マジックでもジャグリングにおいても、一流の演技者は、技術のうまさだけでなく、演出の面白さや、演技者自身の魅力に引きつけられます。彼らの今後に、期待したいところです。

チャーリー・フライのジャグリングとマジック

前回のコラム(2006年I.B.M.大会報告)でも報告しましたように、チャーリー・フライのジャグリングのすばらしさと面白さ、そして、マジックを演じた場合のうまさには感激させられました。そのチャーリー・フライのDVD"Eccentricks"が3巻も出ていることが分かりました。2001年、2004年、2006年に発行されています。DVDは3巻共に、クロースアップからステージのマニピュレーションまで、ギャグを交えながら、コミカルにマジックとフラリッシュ、そして、ジャグリングが演じられています。全てがすばらしいのですが、その中でも、私には印象的な、二つのジャグリング要素との組み合わせだけを紹介したいと思います。

一つ目は第3巻に解説されています、大きな輪っかと太いロープのマジックです。めりはりがあって楽しい構成になっていますので、このままこの手順を使いたいと思ってしまったほどの内容です。この中で、一カ所だけ、ジャグリングの小わざが使われています。輪っかを鼻の上で立てて、バランス芸を演じているのです。その後、輪っかを落下させ、ロープで受け止めつつ、ロープに結んで、一連の手順を終了させています。

二つ目は第1巻の中のコイン・マジックです。靴のつま先部分に置いたコインを蹴り上げて、右目の少し上の部分で受け止めて、最終的には、モノクル(片メガネ)のように、右目に挟み込んでしまう方法です。この後、この状態をうまく使ったマジックに続けられています。

彼の演技やDVDを見ていますと、上記で紹介しました最近のフラリッシュの人たちと違って、エンターテイナーだということを、つくづく実感させられました。

「トイ・ボックス 6号」でのフラリッシュの記事の概要

2002年12月の「トイ・ボックス 6号」では、利点・欠点・注意点を数項目ずつにまとめて、説明を加えています。ここでは、その中から、注意すべき点の、特に代表的なことだけを書いておきます。フラリッシュを強調させながら見せないこと。多くやりすぎないこと。メンタル・マジックや不思議さを強調させたマジックを演じたい場合は、フラリッシュはしない方がよい。以上の3点があげられます。

また、フラリッシュと言っても、全てをひとくくりにするのには無理があります。アームスプレッド・ターンオーバーのようなジャグリング的なものから、リフルやリボン・スプレッドのように、カードの基本的扱いの中で使われるものまであるからです。不思議さを強めるために、基本的扱いまで否定して、不器用に見せなさいと書いている本があります。私は、それには反対です。また、多くの書物でも、それには強く反対しています。そこで、フラリッシュを取り入れるべきか、否か、について書かれた文献を、可能なだけ取り上げて、「トイ・ボックス」では報告させて頂きました。さらに、各フラリッシュが、マジックの中で、どのように取り入れられているのかも紹介しました

フラリッシュの賛否について

「トイ・ボックス」の中では、フラリッシュの賛否についての結論は出していません。状況により異なることが多いからです。ここでは、プロとアマチュアとでの違いと、ダイ・バーノンとフラリッシュの関係についてのみ、報告したいと思います。

プロはフラリッシュを含めたテクニカルなことが出来てあたりまえと思われています。メンタル・マジシャンでなければ、テクニカルな面を、わざと隠す必要はありません。短時間で、マジックの世界に引き込むために、最初に、フラリッシュを少し見せることもありえます。観客は、不思議な現象だけでなく、テクニカルなカードの扱いを見たがっているかもしれません。名のある多くのプロは、フラリッシュを部分的にうまく取り入れて、プラス・アルファーの効果を引き出しているといえるでしょう。

アマチュアの場合、一般的には、スライトやフラリッシュが行えるとは思われていません。その為に、フラリッシュを行うと、プロ以上にうけます。しかし、フラリッシュを行わずに、秘かに行うスライトを使って、不思議現象を見せる方が、もっと大きな効果が得られると考えられます。また、フラリッシュは、容易に、マジックの熟練者らしく見せてしまう働きがあります。このことは利点として使える反面、アマチュアにとっては、演者自信が興味の対象となりかねません。「こんな難しいことをこなせるのは、普段からこういった事ばかりを、よほど練習しているのだろう」と、考えられてしまいます。そのように思われたくない人にとっては、マイナスとなります。しかし、このようなことにも気を使う必要があるのは、特別な立場の人物で、少数といってもよいでしょう。一般には、好意的にみられることの方が、多いのではないでしょうか。いずれにしましても、アマチュアの場合、最終判断は、本人の好みの問題が大きな要素となりそうです。

次に、20世紀のクロースアップ・マジックの代表ともいえるダイ・バーノンとフラリッシュの関係についてです。ロベルト・ジョビの「カード・カレッジ1」には、フラリッシュについて書かれています。フラリッシュの賛否の二つの極端な考え方に対して、バーノンは第三の道、つまり、中間の立場であったと報告されています。バーノンの数冊の本には、フラリッシュ的なテクニックが解説されています。しかし、それを取り入れて、実演されていたかどうかは別です。バーノンはメンタル・マジックも多数発表し、実演もしています。そういった点で、フラリッシュを取り入れる事に関しては、慎重であったと思われます。

そうかと思えば、カップ・アンド・ボールのようなビジュアルな現象が伴うマジックには、ウオンドによるスピンのフラリッシュを取り入れています。しかし、これは単なるフラリッシュではありません。その操作に客の意識を集中させている間に、ボールを手から手へ移動させています。特別なタイプのミスディレクションといえそうです。あるいは、カモフラージュといった方がよいのかもしれません。マジックをより不思議にするために使っているようです。単なる見せびらかしではないことが、私も納得出来るところです。

フラリッシュ否定派の元となったと考えられる文献について

不器用に見せた方がよいといった極端な意見を書いていたのは、1969年のHenning Nelmsの「マジック・アンド・ショーマンシップ」です。この本自体は、フランス語やスペイン語にも翻訳され、多くのマジシャンに読まれた、影響力のある本です。そして、彼は法律家で、劇場ディレクター、作家、アマチュア・マジシャンであります。

彼やメンタル・マジシャンがマジックを演じるのであれば、そういった考え方もよいのかもしれません。しかし、全てのマジシャンに当てはめるのには無理があります。この意見の元になったのではないかと考えられる文献を調べました。そして、二つの主要な文献を見つけることが出来ました。いずれも、今日にお いても、マジック界に大きな影響力を持ち続けている文献です。

一冊目は、1902年のアードネスによる「エキスパート・アット・ザ・カード・テーブル」です。127~128ページ(日本語版では132ページ)に書かれています概要は「演者の器用さが知られていないことや、手品の中で技巧的な部分が全く見えない方が、クライマックスでの効果が大きくなります」といった内容です。ところが、この本には、フラリッシュのテクニックであるスプリングやリフルを使ったマジックが解説されています。不思議さの強いマジックになっています。ここでは、マジックのための重要な要素として使われており、器用さを誇示するものではありません。

2冊目の文献は、1911年発行の"Our Magic"です。マジックの理論書として、トップクラスの文献です。第1章において、ネビル・マスケリンは、技術的な面では、マジシャンはジャグラーに、到底かなわないことが書かれています。そして、マジックをアートとするには、技術的なことよりも、マジックらしさを追求する事が重要だ、といったことが強調されています。ところで、この本の第3章は、デビッド・デバントが書いています。そこには、「カード投げ、アーム・スプレッド、スプリング、エキセントリック・シャフルを行うと、マニピュレーションは器用さのみで、不思議さが消失してしまいます。」といった内容が書かれています。奇妙な事は、この本の1年前には、デバントの"Trick for Everyone"が出版されていますが、そこには、アーム・スプレッドやスプリングが解説されていることです。なぜ、ちぐはぐな記載となってしまったのか、不思議です。

以上のようなことが書かれるようになった背景を考えてみました。19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、急ピッチでマニピュレーションの開発が進んだことが関係しているようです。そのこと自体は喜ばしい事ですが、その弊害として、新たなテクニックが行えることや、テクニックのうまさを誇示しようとする風潮が強かったのではないかと考えられます。そして、肝心のマジックの不思議さがなおざりにされ、テクニカルな操作を見せることの方が、前面に出過ぎていたのではないかと思います。まだまだ発展段階であったマニピュレーションに対しての、きびしい警告ではなかったのかと、私はとらえてしまいました。その当時としては、必要な警告であったと思います。

おわりに

今回は、最近の状況と、100年近く前の文献での考え方も含めてしまいました。最近のフラリッシュの状況や、ジャグリングとマジックのコンビネーションは、一時的な波でしょうか。あるいは、今後、さらに発展してゆく分野となるのでしょうか。興味のあるところです。また、現在の状況をみていますと、フラリッシュの賛否の問題は、過去の問題のように思えてしまいます。しかし、この考え方の対立は、根強く残っていそうです。今後の動向を、見守ってゆきたいと思います。

なお、私の知っている範囲内で、関西でのトップクラスのフラリッシュの使い手は、このフレンチ・ドロップにも出演されていますアルス氏ではないかと思っています。そして、私が所属していますRRMCの会のメンバーでもある川島友希氏も、フラリッシュに関しての技術と知識がすばらしく、今回のコラムをまとめるにあたり、多大なる協力を頂きましたことを報告しておきます。ありがとうございました


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