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コラム

第25回 ゴムシート(デンタル・ダム)によるコイン貫通トリックについて (2006.3.17up)




はじめに

ゴムシート(デンタル・ダム)を貫通して、透明グラスに入るコイン・トリックには、大いなる驚きと感動を与えてもらえました。そして、昭和40年代、私には欠かせないトリックの一つとなっていました。その当時、かなりのゴムシートを使い果たしたように記憶しています。

ところで、このトリックの原案者は誰なのでしょうか。ルーバー・フィドラーが原案者であることを、かなり以前に聞いたことがあります。そして、2001年4月に、そのことを確認するために調べたことがありました。残念なことは、調べれば調べるほど分からなくなってきたことです。その時にまとめた調査結果と、最近になって分かった情報を報告したいと思います。

そもそも、この原案者を調べることになったきっかけは、2001年に、このトリックがちょっと変わった方法で行われているのを見たことからです。さらに、2005年には、違った面白い方法も見る機会がありました。そして、このトリックの原案者を調査する過程でも、興味深い発想が紹介されていました。そこで、まず、これらの現象のことから報告させて頂くことにします。

自動的コイン貫通現象パート1

2005年11月20日に、I B M大阪リング・大阪奇術愛好会主催による「クロースアップ・マジックの集い」が開催されました。久しぶりの開催であるだけでなく、そうそうたるメンバーが出演され、会場は熱気に包まれると共に、大いに盛り上がりました。そういった状況で、金沢から出演された山崎真孝氏も不思議で楽しい作品を演じられました。そして、その中に、ゴムシートによるコイン貫通のトリックも含まれていたのです。

透明グラス(容器)の口をゴムシートでカバーして、輪ゴムで止められており、このゴムシートの上に乗っているコインがシートを貫通してグラスの中に入るトリックです。古くから知られているトリックですが、今回演じられた方法は、これまでの方法と違っていました。演者はグラスから少し離れており、コインには全く触れていないにもかかわらず、自動的にゴムシートを貫通してグラスに入ってしまうのです。本来の方法では、コインの上を指で押さえるか、コインの一端を少しつまみ上げる必要がありました。

休憩時間の間に、山崎氏からお話を伺っていますと、何年か前のリンキング・リング誌( I B M機関誌)に解説されていたものであることを教えて頂きました。それから一ヶ月ほどして、調べたいことがあり、リンキング・リング誌のバック・ナンバーを見ていますと、山崎氏が演じられたものと同様の方法が目に止まりました。そこには、I B M の1997ー98オリジナリティー・コンテスト受賞作品として紹介されていました。Andrew Dakotaの「ベスト・ダム・トリック」と書かれていました。コインが自動的に入ってゆく仕掛けのために、特別な準備が必要なことが分かりました。しかし、演技後は全ての道具を調べさせることが出来ます。

この解説を読んでいて残念に思ったことがあります。本来のゴムシートによるコイン貫通のトリックの原案者名が書かれていなかったことです。このような賞を獲得された作品であれば、それを誌上で発表する場合には、本来の現象の原案者名を書くのが普通ではないのかといった思いがしてしまったからです。

自動的コイン貫通現象パート2

2001年4月、私が所属していますマジック・クラブ「 R R M C」において、村上欣隆氏がこの現象のトリックを演じられました。興味深いことには、山崎氏が演じられた方法とは別の方法により、自動的にコインが貫通する現象でした。ただし、こちらの方法では、特別な仕掛けを必要としないかわりに、貫通しはじめる部分までは指を使っています。その後は指をはなして、自動的に貫通してゆきます。ゴムシート自体の弾力性の問題が大きく関係しているために、この現象が可能なようにいろいろと工夫されたようです。

文献からの面白いアイデア

1969年 Ibidem 34&35には、チャーリー・ブラウンによる「ダム・ユー」が解説されています。ゴムシートの上にクォーター(25セント・コイン)が乗っており、その上にニッケル(5セント)、そして、その上にダイム(10セント)が乗っています。トップのダイムを手に取って、他のコインの上を軽くたたくと、ダイムがグラスの中へ貫通して落ちます。次に指先でニッケルの上を押さえると、クォーターがグラスの中へ入ります。そして、ゴムシートの上にはニッケルだけが残ります。

これを行うためには、クォーターの下へもう1枚のダイムを重ねて、本来の方法でゴムシートにセットするだけです。実際に行ってみれば、どのような状態に なるかが分かります。問題は、グラスにセットする段階でダイムが落下してしまうことがあることです。また、セットがうまく出来ても、コインへの衝撃の加え方が少ないと、ダイムが落ちなかったり、少し強すぎるとクォーターといっしょに落ちてしまいます。いずれにしても、コツをつかむまで、何回も試してみる必要があります。日本のコインで行う場合には、10円玉(または100円玉)と1円玉の組み合わせがよいのではないかと思います。

1980年には、Ian Sutzにより「ザ・ベスト・ダム・トリックス」というデンタル・ダムの作品集の小冊子が発行されています。この中には、上記のクォーターとダイムの貫通の応用作品もいくつか紹介されています。

ゴムシート上のダイムを消失させる方法として、ペンを使っています。ペンの頭部にワックスを付けて、この部でダイムをたたくことにより消失させる方法です。また、ペンの頭部にマグネットを組み込んで、スティール製のコインを使う方法も解説されています。あるいは、ロックタイプのペニー・アンド・ダイムを使う方法では、クォーターの上にダイムを置き、その上へ少しずらしてペニーを置いて、中央のダイムを消失させると同時に、ダイムをグラスの中へ落下させています。

この本の最初には、ウォルター・ギブソンが紹介文を書いており、また、最後には、各作品のクレジットを記載したページがあります。しかし、この小冊子においても残念なことは、どこにも元となるデンタル・ダムのコイン・ペネトレーションの原案者名が書かれていなかったことです。さらに、ダイムの後でクォーターが貫通する作品についても考案者名の記載がありませんでした。風船の中へコインが入ったり、水入りグラスの中から外へのコイン脱出等、その他のゴムシート作品の考案者名はクレジットされていました。

2001年に原案者を調査することとなった理由

この2001年だけは、R R M C にとって特別な年でもありました。毎回発行される通常の R R M C ニュースとは別に、「裏 R R M Cレポート」と呼ばれるものを、毎回発行していたからです。月2回、各会員が発表した内容の詳細と、少し辛口(甘口?)のコメントに、そのマジックに関する簡単な歴史や原案者名も調べて報告していました。そして、そのレポートの中で、村上氏が演じたゴムシートのコイン貫通の原案者をルーバー・フィドラーと書いたのでした。

ところで、このレポートを配布した後になって、本当にルーバー・フィドラーでよかったのか、もっと具体的な確証を得たくなり、可能な限り調べてみることにしました。その結果、まとめたレポートが次のようなものでした。

2001年度 R R M C レポートからのゴムシート・トリック原案者の調査報告

かなり以前に、ルーバー・フィドラーがゴジンタ・ボックスの考案者だと知り、驚くと共に納得もしてしまいました。そして、その頃、ゴムシートのコイン貫通のトリックも彼だという話を聞いたつもりでいました。1999年2月号の Genii誌には、テンヨーの新製品についてカウフマンが書いた記事があります。そこには、ルーバー・フィドラーについても触れられており、デンタル・ダム・トリック、ゴジンタ・ボックスの考案者として紹介されていました。そこで、R R M C のレポートに考案者名を決定して書いてしまったわけです。

ところが、後になって気になることがあり、再調査することにしました。気になることとは、アメリカ版「フーズ・フー」には彼の考案したマジック名がいくつか書かれていますが、ゴムシート(デンタル・ダム)のトリックの記載がなかったことです。さらに、Genii誌に書かれていますデンタル・ダム・トリックだけでは、この素材を使った別の現象のトリックをさしている可能性もあると思えてきました。ルーバー・フィドラーのレクチャーノートがあったはずだと思い出し、探し出して、まえがきの部分を見ますと、彼の考案作品の中に " Rubber Dam Deception"と書かれているものがあることを見つけました。しかし、ここでも残念なことは、コイン・ペネトレーションの現象を示す名前が含まれていなかったことです。

日本では、テンヨー社より「コインマジック」の商品名で3種類のコイン・マジックが出来る用具が入って売られています。その中の一つが、ゴムシートを使用するこのトリックです。ところが、カタログを見ても、また、商品の解説書を見ても、考案者の記載がありませんでした。ゴジンタ・ボックス(テンヨー社では、1993年に「パンドラ・ボックス」の名前で発売)の方は、ルーバー・フィドラーの名前が記されていました。

たしか、海外のダム・トリックの作品集があったはずだと思い出し、Ian Sutzの小冊子を探し出しました。最初には、基本の現象となるコイン貫通のトリックが解説されています。その後、各種の応用作品が紹介されていますが、この中にも、ルーバー・フィドラーの名前が見あたりません。そこでひとまず、考案者名の確定を保留とすることにしました。

もう一つ気になることは、ルイス・タネン社のカタログです。1983年度版によりますと、「ビジブル・ペネトレーション」の商品名で、作者が P.Cinimod (本名 Dominic. Pを逆にした名前)とあったため、一瞬、コイン貫通の原案者は彼であったのかと思ってしまいました。しかし、この商品は広口の小瓶にプラスチックのリムとゴムシートを付けて販売されており、本来の輪ゴムで止める代わりにリムで簡単に止められるように改良したものでした。携帯に便利なように改良して、商品化したのが彼であるということなのでしょうか。よく分かりません。

ところで、本来のゴムシートのコイン貫通が、いつ頃から商品として出回ったのかも、同時に調べました。1963年のGenii誌の12月号を見ますと、ルイス・タネン社の広告として「コイン・トレーション」の名前で掲載されていました。やはり、考案者名の記載はありません。日本では、「奇術研究」誌の1964年秋号で、力書房の商品広告欄に「ペネトロコイン」の名前で掲載されています。そこには、「アメリカで今大流行のマジック」と書かれていました。

なお、ルーバー・フィドラーはアメリカ版「フーズ・フー」によりますと、1933年生まれで、1963年に作品集(38ページ、英語ではありません)を出しており、1966年にゴジンタ・ボックス考案とあります。彼は1967年にチェコからオーストリアへ移り、同時にプロとなっています。マジック・インベンダー、メールオーダー・ディーラーと書かれています。マチュアとして活躍していた1960年代の初めに、彼の名前が無名であったアメリカで、ゴムシートのコイン貫通が商品化され、出回り始めたことになります。このことは、このトリックとルーバー・フィドラーとの関連性がないとはいえないと私は思っています。

最近の情報から

やはり、ルーバー・フィドラーが原案者であることが分かってきました。インターネットにおける Genii Forumで2003年2月に次のような質問が提出されました。「デンタル・ダム・コイン・ペネトレーションは、ルーバー・フィドラーにより発明されたと聞いていますが、このことを確定したり、その年月日を特定することが出来るのでしょうか」といった内容の質問です。これに対して、リチャード・カウフマンは、このトリックは1950年代後半に、ルーバー・フィドラーにより考案されたと述べた上で、ダベンポートがイギリスでの権利を買い取り、その時より商品として販売していると答えています。また、アメリカのいくつかのディーラーにも権利を売ったことを述べています。

そして、2005年11月には、ドイツの ReinhardMuellerが決定的な報告をされました。ルーバー・フィドラーはこの現象を、1958年のドイツ・マガジン" Zauberkunst No6"に発表され、その後、1959年のドイツ・マジック・サークル・マガジン" Magie No2"に再録されているそうです。その中でフィドラーは、彼の実験室でゴム手袋をつけて作業中に、このトリックを見つけたと書いているそうです。

ところで、最近になって、テンヨー社のホームページを見ていますと、テンヨーのマジック商品の歴史一覧が掲載されており、上記の「コインマジック」の考案者にルーバー・フィドラーの名前が記載されていることが分かりました。また、海外のホームページで、テンヨー商品クリエーターの紹介記事がありますが、ルーバー・フィドラーについては、考案作品の中にデンタル・ダム・トリックの名前も記載されていました。

アメリカの文献の再調査より

結局、原案者がルーバー・フィドラーであることがはっきりしたわけですが、まだ、すっきりした思いにはなれません。アメリカの文献で、このトリックの原案者に関する記載が、あまりにもなさすぎるからです。それに近い状態の記載が、フィドラー自身のレクチャーノートと1999年のGenii誌だけであったからです。もっと、きっちり書かれたものが存在するはずだと思います。その可能性が高いのは、アメリカでこのトリックが出回り始めた頃の文献と思われます。そこで、もう一度、調べなおすことにしました。

1963年12月号のGenii誌を読み返しましたところ、ルイス・タネンだけでなく、ホールデンの店より「コイン・トレーション」の名前で、また、ジーン・ゴードンの店では「ザ・ダム・ディセプション」の名前で、広告が出されていることが分かりました。つまり、63年12月号より、いっせいに、三つのディーラーからの商品広告掲載が始められたことになります。

ところで、興味深いことは、ゴードンの広告には Du Boisの名前が書かれていましたが、12月号と翌月の1月号だけで、2月号では違った名前が書かれています。そして、3月号からは商品名だけの記載となり、人物名はなくなっていました。さらに、当時の他のマジック誌「ニュー・フェニックス」1964年1月号を見ますと、「ダム・トリックの原案者は誰でしょうか」と書き始められた小さい記事を見つけました。「このトリックは、アメリカのほとんどのマジック・ショップで商品化され販売されています。これは、ここ数年の間でも、最高級のクロースアップ・マジックの一つです。悲しいことは、クリエーターの名前が分かっていないことと、このトリックにおける報酬を何も受け取っていないことです。このトリックが、ヨーロッパから来たものであることは分かっています」といった内容の記事が書かれていました。

Genii誌には、ジーン・ゴードンのコラムが不定期に掲載されています。そして、当時の記事には、ダム・トリックについて分かったことを、少しでも記載されていることも分かりました。63年12月号には、最近開催されたNYCAの大会において、Dick DuBoisがこのトリックを演じられたことが紹介されています。そして、1月号には、TVのジョニー・カースン・ショーにおいて、Shari Lewisがこのトリックを演じ、その翌日より、このトリックを買い求める客がマジック・ストアーに、着実に増えたことが報告されています。2月号には、ゴードンのこのトリックの広告に、Du Boisの名前をクレジットしてしまった理由が書かれていました。彼により初めて示されたトリックであったからで、彼との相談も許可も得ずに、勝手に名前を使ってしまったことが明らかになりました。そして、本当の原案者が分かったとして、チェコのある人物名が紹介されています。その後、6月号になって、2月号で報告した原案者は間違いであったことが述べられています。デンマークの読者からの手紙により分かったことです。このトリックの正しい原案者はチェコのルーバー・フィドラーであり、1958年のZauberkunst誌12月号の129ページに発表されていることが明らかになりました。

残念なことは、その後、このニュースがほとんど知れわたっていないことです。ジーン・ゴードンの広告においても、別な商品の紹介に変わっており、ルーバー・フィドラーの名前が表に出ることがありませんでした。ただし、彼の店のカタログやこのトリックの解説書には名前が書かれていたのかもしれません。

あまりにも有名なBoboの「モダン・コイン・マジック」の本が、かなりのページ数が加えられて、1966年に「ニュー・モダン・コイン・マジック」として発行されました。この430ページには「ザ・ダム・コイン・トリック」として、本来の現象といくつかのアイデアが解説されています。そこには原案者名が書かれていないだけでなく、不正確な記載の部分も見られます。これはドイツで考案され、Dick DuBoisによりアメリカに持ち込まれ、ジーン・ゴードンにより発売されたもので、今日では、全てのディーラーで販売されていると書かれていました。なお、このトリックの応用として、クォーターの下へダイムを置く方法も、すでに解説されていました。しかし、ここには作者名の記載はありませんでした。

おわりに

このトリックの原案者については、最近になるまで、海外の多くのマニアにおいても知られていなかったのではないかと思います。一部のマニアか関係者だけが、知っていたといってもよいのかもしれません。このようなことは、このゴムシートのトリックだけではありません。最近になって、原案者が明らかになったり、間違って伝えられていた考案者についての訂正が書かれるようになってきています。今後も、こういったことは、出来るだけ紹介してゆきたいと思います。


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