代行サービスが盛んになり、テレビで色々と紹介されていました。その中に、縫いぐるみや人形などを旅行に持っていってくれるというものがあります。行った先で縫いぐるみが入った風景写真やビデオを送ってきます。まるで映画の「アメリ」。当人は健康上の問題などから海外に行くことができないので、送ってもらった写真や映像などを見て観光を楽しみます。縫いぐるみを一緒に持っていくのは、ちゃんとそのために行ったという証拠でしょう。色々と変わったものがあると思っていたら何と、手品の観客代行サービスも出てきました。演者に一度に何枚ものカードを引かせられても覚えられなかったり、レモンの中からグチャグチャの状態で出てきた1万円札を返されるのが嫌だったり、ブラジャー・トリックをされて恥ずかしい思いをしたくない方のために、客の隣に座って演者が手伝いを申し出た時に代行してくれます。演者が客から借りそうな物は全て準備していますので、マジシャンが「どなたか、ナゲットのオリジナル・デックをお持ちの方いますか?」などとジョークで言おうものなら、本当に出してくるので、代行客がいる時には注意が必要です。
フーディーニを題材にしたトリックには、フレンチでも取り扱っている「フーディーニ 52 プレディクション」「フーディーニーズ・ダイアリー」があります。第88回で紹介したように、フーディーニは生前、自分の日記が読まれることを想定し、誇張したり嘘のことを書いていました。そういう話をしながらフーディーニの日記を紹介して演技に入ると良いでしょう。又、フーディーニと言えば脱出なので、ハンドカフならぬ足枷から抜け出る「フーディニーの足枷」、ジャンボ・カードで行う「幻の名画(フーディニーの脱出)」(以上、DPグループ)、2枚の牢獄のカードに挟まれたフーディーニのカードが抜け出る「脱出するフーディニー・カード」(マジックファンタジア)、David Goodsellのパケット「Houdini does it again」などの商品があります。最後のものは警官のカードに挟まれたフーディーニのカードからフーディーニが消えて、手錠だけになってしまうものです(下の写真)。
フーディーニの肖像が入ったジャンボ・コインやバイシクルのレギュラー・デックもあります。
書籍「The Cancer of Superstition」($30)が今年、出版されました。これは迷信やオカルトについてフーディーニが提供した考えを元に、C. M. Eddy Jrらが書いたもので、フーディーニが突然、死去したため編集が中止になりましたが、数十年後に原稿が発見され、出版にこぎつけました。
今回から、アメリカのテレビ・ドラマを何本か紹介していきます。
原題:Twin Peaks
監督:David Lynch、他
製作:David Lynch、他
脚本:David Lynch、他
出演:Kyle MacLachlan (Dale Cooper), Sheryl Lee (Laura Palmer), David Lynch (Bureau Chief Gordon Cole), Michael Ontkean(Harry S. Truman), Jack Nance(Pete Martell), Russ Tamblyn(Dr. Lawrence Jacoby), Lara Flynn Boyle(Donna Hayward), Frances Bay(Tremond)
シーズン数:3
話数:48
放送:ABC
放送:1990年~1991年、2017年
製作国:アメリカ
「エレファントマン」やカンヌ映画祭でグランプリを受賞した「ワイルド・アット・ハート」などを撮ったデビッド・リンチが中心になって作ったテレビ・シリーズです(彼が実際に監督したのは、テレビ・シリーズ6話分と劇場公開版と2017年に放送された「リミテッド・イベント・シリーズ」の全話)。 アンジェロ・バダラメンティのけだるいBGM、 奇妙な登場人物、 チェリー・パイや丸太などの小道具設定がカルト的な人気を呼び、日本でも最初にWOWOWで放送されて話題になりました。「Xファイル」、「アメリカンゴシック」など、アメリカのTVドラマの、日本での放送復活の先駆けとなった作品でもあります。カナダの国境に近いツイン・ピークスという架空の町で起こった女子校生ローラ・パーマー殺人事件を中心に、様々な人間模様が展開されます。
テレビ・シリーズの方では手品シーンが2つ出てきます。登場人物の行動が異常すぎてストーリーを紹介することは難しいので割愛します。第4話では、精神科医ローレンス・ジャコビーが殺人事件の事情聴取を受けるところで、彼が右手に2個の玉を持っており、それを頭に打ち付けて1個にし、消えた玉を口から出すという演技をしています。その後、高度な1つの玉を使ってのフラリッシュを演じているので、かなり手品をやっていると思われます。第9話、7分では、殺されたローラの代わりにドナが、殆ど寝たきりのトレモンド夫人へ食事を運んできます。椅子に座っていた孫のピエールが「時にはこんなことも起こる」と言って指を鳴らします。お盆の蓋を取ると、ご飯とフライド・チキンとクリーム・コーンが皿に盛られています。トレモンドは「コーンは要らないと言ったのに」と言い、ドナが再び皿を見ると、クリーム・コーンは消えており、いつの間にか、ピエールの手の中へ移動しています。トレモンドは「孫は手品を練習してるの」と言います。ここは編集で単に繋いだものなので、実際に演じてはいません。
「イレイザー・ヘッド」で怪演したJack Nanceがローラ・パーマーの死体を見つける役で出ていますが、「イレイザー…」と違って全く普通の役なので、気がつかないでしょう。このドラマがお勧めかと聞かれると難しいところがあります。前半は奇妙な設定、犯人捜しが興味を引きますが、犯人が分かってからは視聴率が落ち、広げた風呂敷も畳めず、最後は中途半端な形で終わっているからです。2017年に再開された第3シーズンは詰まらなさすぎて、途中で見るのをやめてしまいました。
次回は「X-ファイル」です。あっ、冒頭の代行の話は、旅行の方は本当ですが、手品の客の代行は冗談ですので...。
参考文献
1) 栗田研:「映像の魔術 ツイン・ピークス」『Four of a Kind Vol.2 No.1』(チェシャ猫商会, 1998) p.48
2) Jennifer Lynch: 『ローラの日記』(扶桑社, 1992)
3) 篠原義近:『ピーカーをめざせ!』 (読売新聞社, 1992)
4) Scott Frost:『クーパーは語る』(扶桑社, 1992)
5) 辻徹也:『ツイン・ピークス心理分析白書』(日経通信, 1992)
6) David Lynch, Mark Frost, Richard Saul Wurman:『ウェルカム・トゥ・ツイン・ピークス』(扶桑社, 1992)
7)ヒロサカイ:『ツイン・ピークス』、『Strange Spells』(マジックランド, 1992), p.1