• HOME
  • カードマジック
  • コインマジック
  • 日用品・雑貨
  • マジック基本用具
  • DVD
  • 書籍
  • ムービー

コラム

第7回 月なきみそらの天坊一座(2023.9/15 up)

このコラムを書くきっかけとなったのは、関東でのレクチャーに庄野隊長をお呼びした際に交わされた以下の様な会話です(多分、その前の関東での演技はメリー・ゴーラウンドのショーに出演していただいた時です。「ザ・マジック Vol.80」参照)。

「何でもいいので、コラムお願いでけまへんか?」
「何でもいいんですか?」
「いや、できれば、手品に関することがええんですが...」
「手品なら何でもいいんですね?」
「いや、できれば、マニアっぽくて、石田さんのように圧倒的な資料による裏付けがあって、これが元で顧客が増えればなおいいんですが...」
「そうでしょう?じゃあ、最初から何でもいいなんて言わないで下さい。それで思い付いたんですが、「Four of a Kind」に書いている「映像の魔術」でしたら、いくらでも書けますよ」
「いくらでも、1,000回でもいいですか?」
「いえ、限度は存在します。言葉の綾ですよ。手品の出てくる映画がテーマじゃ駄目ですか?」
「映像の魔術ですよね、あれかあぁ...」
「何です?あれかあぁって」
「いえいえ」
「私、手品と映画が大好きなんです。こういうのが売れるってことは、日本のマジシャンもまだまだ捨てたもんじゃないって思いますよ」
「いえ、「Four of a Kind」は売れていませんよ」
「あ、そうですか。でも、売れていないということは、知られていない名作が沢山載っているので、埋もれた価値があるということですよね?」
「沢山は載っていますが、名作かどうかは...」
「...」

今回の書き出しはフレンチのメルマガ風にしてみました。では本題です。

『月なきみそらの天坊一座』

月なきみそらの天坊一座1

原作: 井上ひさし
製作: NHK
脚本: 高橋正圀
出演: 川谷拓三(旭日斎天坊)、浅茅陽子(お浜)、和田求由(浩志)
放送:1986年6月2日~20日(月曜~金曜)
時間:1話20分


原作は1981年に新潮現代文学より出版された井上ひさしの小説です。NHKの銀河テレビ小説枠(21時40分~22時)にて、15話構成でドラマ化されました。

終戦直後の荒廃した時代、どさ回りの奇術師、旭日斎天坊と内妻、弟子で孤児の浩志を中心とした、心温まる人情と笑いと涙の物語。DVD化されておらず、放送当時、1度見ただけなのでうろ覚えですが、原作に忠実にドラマ化していたように記憶しています。以下の内容は小説を主体にしています。手品師が主人公ですので、マジックが随所に出てきて、その特技を利用して人助けをしたり、ピンチを切り抜けたりします。

このコーナーで紹介するドラマや映画の手品シーンには、とって付けたようなものも多いのですが、これではストーリーに手品を実に上手く組み込んでいます。又、小説では種明かしをしているところも、テレビではストーリー上、必要無いものはあえて明かさず、テレビでの種明かしに配慮しているように思えました。例えば、冒頭の鉄火掴み(熱して赤くなっている鉄の棒を素手で掴む大道芸)は小説では原理を説明していますが、テレビでは種明かしをしていなかったはずです。

話の中では、観客に欲しい物を紙に書かせてそれらを取り出すという、物品取り寄せ術が出てきます。今では見ることはありませんが、私の父が子供の頃に学校で見たそうで、不思議だったそうです。石田天海氏が子供の頃、亜細亜マンジ氏の演じる一里四方物品取り寄せ術のために、ネタ集めに奔走したという話が「奇術五十年」の中で書かれていますが、小説でも浩志がネタ集めをしている時に警官に捕まるというシーンが出てきます。

舞台で心霊術を演じる浩志たちのところへ、京子という少女が頼み事でやってきます。京子は叔父の家にやっかいになっており、叔父夫婦は京子とその母親を追い出したいがため、家宝の茶碗が盗まれたという狂言をし、盗んだのは母親だと濡れ衣をかけます。消えた茶碗はまだ家の中にあるようなので、それを心霊術で見つけてほしいというのです。勿論、心霊術と言っても「マジック・ボーイ」でも出てきた、当てさせるものが何であるかを助手に暗号で知らせる手品なので、本当はできっこないのですが、如何にして茶碗を見つけ、京子たちの疑いを晴らすか?そこで天坊たちはあるトリックを仕掛けます。

又、ロベール・ウーダンの弾丸受け止め術が話として出てきたり、物語終盤での東北協進博覧会の東北奇術コンテストで審査委員長としてミルボーン・クリストファーが登場するなど、実在の人物が出てきます。天坊はコンテストに出場するつもりで、道具を買う金欲しさにいかさま博打をしますが、指輪のシャイナーを見つかり、指を折られて手品師生命を絶たれます。コンテストには代わりに浩志が出ることになりますが、タンギングをしている時に、子供がタバコを吸っていいのか?という野次で咽せてしまって失敗!さて、どうなりますやら?

他には、「ペーパー・ムーン」にも出てきた釣り銭詐欺まがいのシーンもあります。まず、天坊が本屋で「婦人世界」を買い、二円五十銭払います。その後、店へ電話して、「さっき、本を買った時に五円札を出したが、お釣りが七円五十銭あり、多く貰っていたので帰りに寄って五円を返す」と言います。その後、浩志が店に行き、「さっき、雑誌を買った時に、十円出したけど、お釣りが五円少なかった。男の人が隣で買っていた時だよ」という話をします。店の人は子供に渡すお釣りを間違えて男に渡したと思い、浩志に五円を渡します。そして五円を返しに来る人を待つのですが、いつまでたっても現れないという話。ドラマは見られないので(台本がネット・オークションに出品されたことがあります)、小説の方をお読み下さい。Kindle版もありますし、古本も安く入手できます。マジックを題材にした小説のベスト3に入ります。因みに、後書きは江國滋氏。又、2007年にはNHKラジオ第一の日曜名作座でも放送されました(出演:森繁久彌、加藤道子)。次回は旅芸人繋がりで、アニメ「地獄少女」から紹介します。



月なきみそらの天坊一座2

トピック

来週放送予定の、マジック・シーンが出てくるドラマの情報です。

9月18日 13時55分~ 「ミステリー・セレクション・金田一耕助シリーズ トランプ台上の首」 BS-TBS

9月21日 13時~ 「ボルサリーノ」 NHKBSプレミアム

9月22日 13時~ 「リオブラボー」 NHKBSプレミアム

参考文献

石田天海:『奇術五十年』(朝日新聞社, 1961), p.8

井上ひさし:『月なきみそらの天坊一座』(新潮現代文学, 1981)

栗田研:「映像の魔術 月なきみそらの天坊一座」『Four of a Kind Vol.19 No.2』(チェシャ猫商会, 2021) p.647

栗田研:「イベント・レポート」『ザ・マジック Vol.80』(東京堂出版, 2009) p.70


pagetop
当サイトは日本ベリサイン株式会社の認証を受け、SSL暗号化通信を実現しています。