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コラム

第104回 21カードトリックのタイトルの謎(2022.5/24 up)

はじめに

なぜ、この名前なのでしょうか。21枚のカードを7枚ずつ3つの山に配り分け、これを3回繰り返して客のカードを見つけ出しています。21枚を例にあげましたが、調べますと最初に発表された1593年の文献では15枚が使われ、1813年にフランスの数学者Gergonne(ジェルゴンヌ)が学問的に研究して発表された方法では27枚が使われていました。有名な1876年の英国の「モダンマジック」の本では、21枚を例にあげて解説していますが、21枚に限らず奇数で3分割できる数の15や27枚でも可能であると書かれています。日本では後記の参考文献のように27枚の使用が中心です。それでも現在では「21カードトリック」のタイトルが一般的になっています。なぜ、いつからそのようになったのか歴史経過を調べました。

最初の解説は15枚の使用

1593年にベネティアのGalassoが”Giochi Di Carte”の本で15枚使う方法を解説しています。15枚を5枚ずつの3つの山に配り分け、21枚の場合と同様に行います。表向きに配るのを3回繰り返すわけですが、最終的には15枚の中央の8枚目に客のカードが来ることになります。このことは、2007年の”Gibeciere” Vol.2 No.2に上記の本の英訳版が発行されてから世界的に知られるようになります。マジックが解説された初期の有名な1584年の英国のレジナルド・スコットの本や同年のフランスのPrevostの本がありますが、いずれにもこのトリックの記載がありませんでした。

20世紀初めまでは21枚に限らず15枚や27枚も

1593年の本以後では、1740年のスペインのDiego Joseph Zamoranoの本に登場しています。この本の最初のトリック解説が21枚使った方法で、次のトリック解説は3つの山のそれぞれが奇数であれば15枚や27枚でも同様に行えると紹介した内容でした。これと同様な解説が、1876年の有名な英国の「モダン・マジック」の本です。21枚を使った解説の後で、21枚に限らず奇数で3の乗数であれば、例えば15枚や27枚でも行えると書き加えられていました。さらに、別の作品では27枚を使い、客のカードがある山をトップになるように毎回重ねると、客のカードがトップに来ます。それをパームして様々な方法で出現させることが解説されていました。その後、21枚を使った解説が数冊の本に掲載され、よく知られるようになります。しかし、1911年までは「21カードトリック」のタイトルをつけられることがありませんでした。1912年のStanyon編集の月刊誌”MAGIC”では、「モダンマジック」と同じような解説であるのに”21Cards”のタイトルにしていました。もちろん、使用枚数は奇数で3の乗数であればよいことも書かれています。ところで、1889年には27枚を使う新しい考えを加えた方法も発表されます。ホフマン著の”Tricks With Cards”では、客が指定した枚数目より客のカードを取り出しています。毎回3つの山の積み重ね方が重要になります。このタイトルは”Another Method”となっていましたが、1890年の「モアマジック」の本では同じ方法が「27カードトリック」の名前に変えられていました。このタイトルの方が先に登場していたわけです。

1930年代と40年代の状況

何故か1913年から1935年までの文献では、21カードトリックや同様な作品を見つけることができていません。やっと、1936年の英国のFarelliの冊子で”Three Sevens”のタイトル作品を見つけました。その解説の冒頭には、本来の方法を「オールド・21カードトリック」と書かれていました。Farelliの方法は本来の現象を知っている相手に向けて考えられています。21枚使った場合には中央の11枚目に客のカードが来るのですが、それを12枚目になるようにしています。11枚目のカードを客に確認させている間に、残りのトップカードをパームしてポケットなどから取り出す現象にしていました。この頃から裏をかいたり少し変わった方法が発表されるようになります。また、数作品の冒頭には「オールド・21カードトリック」を新しくしたものであると書き加えられていました。意外であったのが、1938年発行の「グレーターマジック」や1941年から次々と発行された「ターベルコース」には解説されていなかったことです。それだけでなく、1937年の「エンサイクロペディア・カード・トリック」や1943年の有名な”The Royal Road to Card Magic”の本にも解説されていませんでした。なお、1948年の”The Fine Art of Magic”には「21カード」のタイトルの作品がありますが、リバース・フェロウを使う別のものでした。

1950年代から「21カードトリック」のタイトルが登場

1950年の”Scarne on Card Tricks”に「21カード・スペリング・トリック」の名前がタイトルに使われます。このように「21カードトリック」だけでなく、前後や中央に別の言葉が加わったタイトルが次々に登場します。特に有名になるのが1953年のエドワード・マルローの”21 Card Trick Streamlined”です。マルローの”The Cardician”の本に解説されています。Streamlinedとは能率的な意味があります。本来は3回繰り返して配る操作を1回だけにして、客のカードを当てています。また、1983年の”Marlo Without Tears”の本では、”Nouveau 21-Card Trick”のタイトルの中で多数の改案を発表して注目を集めました。マルロー派ともいえるJon Racherbaumerやデビッド・ソロモンやスティーブ・ドラウンなども「21カードトリック」のタイトルをつけて改案を発表し、この名前が定着する要因になったと思います。興味深いことがBert Allertonの作品です。1946年、1956年、1958年の3回発表していますが、少しだけ変えた方法であるのにタイトル名を毎回変えていました。彼の方法では18枚を使い、2回目に配った段階で当てています。1946年では”You Remember This One”でしたが、1953年にマルローが発表した後の1956年のタイトルが”Streamliner”にしていました。さらに、1958年には21枚使っていないのに”The New 21 Card Trick”のタイトルにしていました。「21カードトリック」の名前がマジシャンの間で一般化しつつあるように思いました。

マルローの21カードトリックとその改案

客にシャフルさせたデックから7枚ずつ取って3つの山を置いています。本来であれば1枚ずつ表向きに3つの山に配るのですが、配る操作を省略して簡略にしているわけです。好きな山を持たせて表を見て1枚思わせ、その山を残りの2つの山の間へ挟ませています。この21枚を演者が取り上げてシャフルして、中央の7枚を特定の位置へ配置します。最初の作品では、6枚をトップに、1枚をボトムに持ってきています。この後で1枚ずつ表向きに3つの山に配りますが、山を重ねずに少し下へずらして全てのカードが見えるようにする必要があります。最後にボトムの1枚は配らずに手に持ったままにして3つの山を指し示し、どの列に客が思ったカードがあるかを尋ねます。配った中に見当たらない場合は、演者が手に持っている裏向きカードが客のカードです。しかし、ほとんどの場合は1つの列を言われるので、手に持ったカードを表向きにして、そのカードで順番に各列をすくい取ります。客のカードがある列が中央になるようにしています。そして、シャフルとダブルカットにより客のカードの可能性のある2枚をトップとボトムにしています。当て方はいろいろです。その後の改案では、最初のシャフルで客のカードがある7枚を21枚のトップに3枚、ボトムに4枚が来るようにして、3つの列に表向きに並べた状態から一気に当てる方法に変えていました。

面白いと思ったのがビル・マローンのDVD”Malone Meets Marlo”第6巻です。DVDでは第3段までありますが、次第に意外性と不思議さが強烈になっています。第1段は上記で報告した方法ですが、第2段では各山を客にシャフルさせ、1つの山のボトムを覚えさせて、3つの山を重ねて客にシャフルさせています。そうであるのに当たる不思議さがあります。第3段では裏向きに3列に配り、手に持った最後のカードで各列を指して、どこに客のカードがあるのかを聞きます。客には訳の分からないことを聞いていることになりますが、この状態で覚えたカード名を聞いています。演者が手に持っている1枚のカードを表向けると客のカードになっている面白さがあります。

本来の方法V.S.マルローの改案

本来の方法は完全なセルフワーキングです。電話で指示して演じることもできます。欠点は1枚のカードを当てるだけであるのに、手間のかかる同じ操作を3回も繰り返していることです。繰り返しをなくして、配るのを1回だけにしたのがマルローの素晴らしさです。本来の方法を見たことがある相手には意表をつくので効果が大幅アップします。しかし、中央の7枚をオーバーハンドシャフルによりコントロールしているので力技といえます。もちろん、セルフワーキングではなくなっています。

マルローの解説には何を元にしたのかの記載がありません。しかし、明らかに1946年のAllertonの方法の影響を受けていると考えられます。Allertonは18枚を使い、1回目も表向きに配って並べています。しかし、これを6枚ずつの束にして置けば、マルローと同じように全体では1回だけの配る操作になります。しかも、シャフルによるコントロールも不要のため、セルフワーキングと言ってもよい状態のままです。マルローの場合には、21枚でも行えるようにしただけでなく、各山の7枚目となるカードを効果的に使っています。21枚目の最後のカードを配らずに手に持ったままにすることを考えた頭の良さに感心させられます。それだけでなく、次々と新しい考えを取り入れて改良されています。ただし、マルローの問題は、この作品だけでなく多くの場合に、何を元にしたかを書かずに全てが自分のオリジナルのように解説していたことです。その反対に、自分のちょっとした考えを他の人物がマルローの名前を書かずに解説した場合には、すぐに手紙を書いて抗議していました。世界中に多くのマルロー・ファンがいますが、アンチ・マルローも作ってしまったことが残念です。

日本の状況

明治・大正時代には英国のホフマン著「モダンマジック」や「モアマジック」の部分的な翻訳本が発行されています。昭和に入ってからも昭和9年(1934年)に金竜堂より「手品の種明し」が発行されていますが、「モダンマジック」の1部が翻訳されたものでした。21枚使った方法で解説され、奇数で3の乗数であれば15や27枚でも行えることが書かれています。昭和13年(1938年)の阿部徳蔵著「とらんぷ」では、「モアマジック」に解説の27枚使う「相手の心に思った札を相手の好む枚数の所から現す事」が解説されていました。昭和18年(1943年)の坂本種芳著「奇術の世界」では27枚を使い、最後にはグライドを使った当て方の工夫が加えられていました。この本は部分的に改訂を加えて、昭和30年(1955年)に再販されています。

その後、大きい影響を与えたのは、1959年のマーティン・ガードナー著「数学マジック」の金沢養翻訳による本です。1813年にジェルゴンヌが「積み分け問題」として学問的に研究されたことの記載と、27枚使った各種の応用が紹介されました。同じ1959年には浅野勝蔵氏が「奇術研究」15号に「ジョン・スカーンの三つ山くずし」として、1950年のスカーンの本で解説されていた方法を紹介されました。27枚を使い、客は自由に3つの山を積み重ねるのですが、演者はポケットから取り出した数枚のカードの合計数目により客のカードを見つけています。面白い発想の応用作品が厚川昌男氏の「邂逅と透視」で、1969年の「奇術研究」53号に発表されました。いずれも素晴らしいのですが、3回も27枚配るのを繰り返していますので、セルフワーキングの悪いイメージを受けてしまいました。Allertonやマルローが、配る回数を減らして意表をつきたくなるのも分かります。使用枚数が少ない15枚であれば印象も変わったと思います。15枚使った解説がないと思っていましたが、1993年の赤松誉義著「トランプ数理マジック事典」に応用作品があったことが意外でした。

2000年以降の状況

2007年にはJon Racherbaumerが「21カードトリック」を集めてまとめた「7-7-7」を発行しています。マルロー派のメンバーは、マルローの「21カードトリック」の改案を発表することが、マルローやメンバーに認められる一つの手段であったのではないかと思います。そのマルロー派の代表の一人であるJon Racherbaumerがまとめたのは適任であったわけです。2000年頃から特に増えてきたのがセットを使う方法です。2012年のボリス・ワイルドはマークトデックを使ったり、2000年のスティーブ・ビームはデックのトップ部分に13枚や7枚をセットして演じています。また、3枚を特定部分にセットして演じていたのが、1999年のAndrew Wimhurst、2009年のMike Powers、2011年のDani Daortizです。そして、本来の方法のように7枚の中から思わすのではなく、カットしたボトムカードを覚えさせる方法が増えています。もちろん、客にシャフルさせて手がかりがなくなった印象を与えている巧妙さがあります。新たな段階に入った状態ですが、これまで以上にマニアのためのトリックになっているように思いました。私がスーパーセルフワーキングとして求めている3条件の2つ「繰り返しを減らす」と「意外な結末」が取り入れられていますが、もう1つの「セットをなくすか減らす」に対しては逆行していたのが残念です。

おわりに

「21カードトリック」のような限定した枚数の名前のタイトルを、21枚以外で使った場合にもこの名前にするのは奇妙なことです。しかし、古い方法を「オールド・21カードトリック」と呼ばれていたり、マルローの21枚を使った特別な作品とその改案が多数発表された影響で、この名前が定着したことが分かりました。日本では27枚の使用であったことから、「21カードトリック」と言われても、すぐにはどのようなものか分からないマニアが多かったと思います。海外でも1988年のT.A.Watersの「マジックとマジシャンの百科事典」には、この用語は書かれていません。しかし、2007年のBart Whaleyの「マジック百科事典」やネットでのGeniiのMagicpediaには、この用語の解説がされていました。そして、最近の日本でも「21カードトリック」の名前が定着しつつあるように思います。 今回の参考文献は海外と日本に分け、初期の頃の発表文献は可能な限り記載しました。しかし、その後の文献に関しては、代表的なものとここで取り上げた文献だけにしました。なお、最近の作品以外では使用枚数を記載しました。

参考文献(海外)

1593 Horatio Galasso Giochi Di Carte ベネティア 15枚
    2007 Gibeciere Vol.2 No.2に英訳版

1740 Diego Joseph Zamorano スペイン 21枚(15枚や27枚も)
    2013 Gibeciere Vol.8 No.2に英訳版

1876 Hoffmann Modern Magic 21枚(15枚や27枚も)
    シンプルモードの客のカード発見 Second Method
    思ったカードが消失しポケットなどから出現 27枚

1888 Kunard The Book of Card Tricks 21枚(各17までの奇数枚も)

1889 Hoffmann Tricks With Cards 客が思ったカードの発見
    First Method Modern Magicと同じ 21枚(15 枚や27枚) 
    Second Method 客のカードをトップへ 21枚
    Another Method 客の指定の枚数目へ 27枚

1890 Hoffmann More Magic
    Sixth Method 上記Second Methodと同じ 21枚
    The Twenty-Seven Card Trick 上記のAnother Methodと同じ 27枚

1902 Hilliar Modern Magician’s Hand Book Modern Magicと同じ

1912 Stanyon’s Magic 8月 The Twenty-one Cards Modern Magicと同じ 

1912 Stanyon’s Magic 9月 The Twenty-one Cards 21枚
    客のカードがある山を毎回上、または下に置く

1936 Victor Farelli Lend Me Your Pack Three Sevens 21枚
    本来の方法をOld Twenty-one Card Trickと記載

1942 Shaman The Phonix 24 21 Plus 21枚
    冒頭でold“Twenty-One” trickをstreamlinedしたと記載

1943 Fred Braue Tricks and Sleights Incredo Thought 24枚

1946 Bert Allerton 50 Tricks You Can Do You Remember This One 18枚
    冒頭でan old timer the twenty-one card trickの改案と記載

1950 数名 Scane on Card Tricks  No.64 The Triple Deal Card Trick 27枚

1950 Martin Sunshine 同上著書 No.135 The 21 Card Spelling Trick 21枚

1953 Edward Marlo The Cardician 21 Card Trick Streamlined 21枚

1956 Bert Allerton The New Phonix 337 Streamliner 18枚

1956 Martin Gardner Mathematics Magic and Mystery
    From Gergonne to Gargantua 27枚

1958 Bert Allerton The Close-Up Magician The New 21 Card Trick 18枚

1972 Edward Marlo Kabbala Vol.1 No.7 21 Plus Subtlety

1983 Edward Marlo Marlo Without Tears Nouveau 21-Card Trick

1983 Edward Marlo 同上著書 The 27-Card Trick Streamlined 27枚

1987 Steve Draun The Magic of Steve Draun The 21 Card Trick Routine

1999 Andrew Wimhurst Low Down Dirty Tricks How to Cheat at 21

1999 James Swain 21st Century Card Magic The 21 Card Trick

2000 Steve Beam Semi Automatic Card Tricks 3 3作品

2007 Jon Racherbaumer 7-7-7 これまでの多数の考案者の作品

2007 David Solomon The Wisdom of Solomon The 21 Card Trick

2009 Mike Powers The Linking Ring Vol.89 Feb 21 Again

2011 Dani Daortiz Semi Automatic The Special 21 Card Trick(日本語版)

2012 Boris Wild Transparency The Ultimate 21 Card Trick


日本の参考文献

1934 手品の種明し 金竜堂 Modern Magicと同じ 21枚(15 枚や27枚)

1938 阿部徳蔵 とらんぷ 相手の心に思った札を相手の好む枚数の所から現す事 27枚

1943 坂本種芳 奇術の世界 相手の思った札を富てる方法 グライド使用 27枚

1955 図解手品と奇術の種あかし 他人の思っているカードを発見する
    Modern Magicと同じ 21枚(15 枚や27枚)

1958 平岩白風 たのしい新トランプ奇術 あなたの思ったカード当て 27枚

1959 マーチン・ガードナー 数学マジック ジェルゴンヌのトリックとその応用 27枚

1959 浅野勝蔵 奇術研究15号 ジョン・スカーンの三つ山くずし 27枚

1963 石原清彦 トランプ・手品 並べなおしてカードをあてる 27枚

1969 厚川昌男 奇術研究53 邂逅と透視 27枚

1972 氣賀康夫 百万人のトランプ手品 新しい瓶に古い葡萄酒 27枚

1986 荒木一郎 ビッグ・マジック講座 21枚のカード

1993 赤松誉義著 トランプ数理マジック事典 15枚のカード(5)


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