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コラム

第95回 ロイ・ウォルトンと彼のマジック(2020.4/10up)

はじめに

英国の代表的なマジック研究家といえば、アレックス・エルムズリーとロイ・ウォルトンの名前がうかびます。お二人のマジック界への貢献は計り知れません。そのロイ・ウォルトンが2020年2月3日に癌でなくなりました。87歳でした。なお、エルムズリーは2006年に76歳で亡くなっています。ロイ・ウォルトンの作品の代表作といえば「カードワープ」と「オイル&クイーン」を思い浮かべるマニアが多いと思います。さらに追加として、「コレクター」の原案者であることや、穴が空いた封筒を使う「インパクト」の作者としての知名度もあります。しかし、ウォルトンの本当のすごさはそれだけではありません。今回調べますと、カードマジックだけでも450を超える作品が発表されており、その多くの作品で良い刺激を与えてもらえます。新しい大胆な発想と適度な技術が加わり、解説を読むだけでも頭の良さが感じられます。バーノンもマルローもジェニングスも彼の作品を常に注目されていたようです。

私は1970年代に彼の作品の素晴らしさに感激し、ジェニングスやディングルのマジックと共に追い求めたことを思い出します。なお、その少し後でポール・ハリスも加わります。それ以前のカードマジックが古く感じ、新しさを追い求めていた時代です。バックの色変わりが流行していた時代であり、4Aアセンブリーも新しいタイプのものが次々と出現していた時代でした。また、パケットマジックの全盛期でもありました。これらの流行が、1980年代中頃には時代遅れになっていたような印象があります。しかし、ウォルトンは独自の発想の作品を、その後も継続して発表されています。

1981年に「コンプリート・ロイ・ウォルトン」が発行され、1969年~1979年までの7冊の小冊子の作品再録と新たな10作品が追加されていました。全体で108作品が収録されているだけでなく、その中で使用された各種技法の解説も加えられていました。これだけでコンプリート(完全)版かと奇妙に思いましたが、彼が発行した7冊のコンプリート版の意味では納得できます。1988年には第2巻が発行されて104作品が収録され、各種のマジック誌や本に掲載されていた作品が再録されていました。しかし、それは6割だけで残りの4割は未発表の作品でした。これでウォルトンの全作品が解説されて本当の意味でのコンプリートだと思っていました。ただ、単一作品の商品として発行された「カードワープ」や「カスケイド」などが含まれていなかったことが不満でした。 そして、2016年には第3巻が発行され、95作品の収録と、最後には「カードワープ」と「カレイドスコープ」の商品としての発行作品も解説されていました。なお、調べますと6割以上が未発表作品でしたので驚きました。ところで、今回のコラムのために可能な限りウォルトンの全ての発表作品を調べますと、上記の3巻以外にまだまだ作品があり、全体で450作品を超えることが分かりました。あまりにも作品数が多いので、個々の作品については紹介できませんが、ウォルトンのことについてと印象的な作品のことだけを報告させていただきます。

ロイ・ウォルトンについて

1932年4月生まれで、8歳からマジックの影響を受け、1949年の17歳で有名なマジック誌「フェニックス」にカードマジックを掲載されています。1951年の19歳で英国空軍に所属し、1954年の22歳でブリティッシュ・コンピューター・グループに勤務し、1959年の27歳でダベンポート・マジックショップの娘であるJeanと結婚しています。1965年の33歳で義父のダベンポートよりグラスゴーにある支店Tam Shephers のショップを2週間まかされ、その仕事が気に入り、勤めていたコンピューター会社を辞職し、亡くなるまでその店の経営を続けました。現在もそのショップは二人の娘さんが中心となって継続されているようです。

プロの演技者ではなく、レクチャーツアーをすることもありませんでした。映像に撮られることを拒否し、映像で楽々とマネされて使い捨てされるよりも、本から学び取ってほしい考えがあったようです。昔は顔写真がほとんどないことを不思議に思っていました。発表作品のほとんどがカードマジックですが、1953年の英国の数名の作品集”Come a Little Closer”(当時21歳頃の顔写真があるのが貴重です)では彼のカラーチェンジナイフが解説されています。また、ポール・ウイルソンによりますとコインマジックも得意とし、天海ペニートリックに特別のあじわいがあったそうです。 ウォルトン著作の本は全てがダベンポートから発行され、1969年の最初の本からコンプリート版3冊を含めて10冊が発行されています。商品としては1972年「アニマルマジック」、1973年「カードワープ」、1974年「カスケイド」、1975年「カレイドスコープ」、1999年「ポケット・パケット」が発行されています。

最初の作品集 The Devil’s Playthings について

1969年に発行された60ページほどの冊子です。マニアからの高評価により、ロイ・ウォルトンの名前が世界中に知れ渡ることになります。ウォルトンが37歳での作品集で30作品が掲載されています。ほとんどの作品が1ページか2ページで解説され、全作品が普通のカードで行えるものばかりです。トリックカードが使われないだけでなく、余分なカードも使っていません。各種の技法が使われているのですが、その技法の解説がなく、それぞれの知識を持っているマニアを対象にした本です。基礎知識を持ったマニアにとっては解説が簡潔であるので読みやすいとも言えそうです。 最初の作品はアペリティフ(食前酒)のタイトルで、このマジックがこの本の特色を表しているように感じられます。客にシャフルさせたデックを使って次々と4枚のAを出現させており、一般客だけでなくマニアも驚かせる現象と方法になっています。パームを使いますが、マジックが始まる前の油断させている段階でのパームです。この作品を含めて6作品でパームが使われていますが、パームに注目が集まらない配慮がされていますのでチャレンジされることをお勧めします。また、セカンドディールが5作品で使われていますが、それぞれでの使用には高い技術の必要性がないことも強調されています。カニバルカードでもセカンドディールが独特な使われ方をされており、他の作品でも面白い使い方であるので参考になります。

この本にはエルムズリーカウントを使った3作品があり、いずれもウォルトンを代表する作品ばかりです。「オイル&クイーン」「インパクト」「カラーマジック」です。いずれもネットで現象の映像を見ることができます。「カラーマジック」では4枚の絵札の表と裏を示して、1枚を別の裏の色のカードの絵札と交換すると全てがその裏の色に変わります。これを3回繰り返して、最後には裏がバラバラの4色になり、表が4Aとなって客に調べさせることもできます。4枚としてみせるにはカードの厚みが気になりますが、レギュラーだけで行なっているすごさがあります。この1~2年後にブルース・サーボンの商品「ダーティー・ディール」が発売され大人気となりますが、全体の構成がよく似ていますので影響を受けていると考えられます。サーボンはハーマンカウントの繰り返しだけで行っており、トリックカードも使っている大きな違いがあります。このトリックカードを使うことにより、最後が表の変化ではなく数種類の裏の色のカードの出現が可能となっています。 上記以外で話題となったのが「カードケース」と”Finders Keepers”です。「カードケース」はエルムズリーの”Between Your Palm”をカードケースの使用で試みた作品で、その後にも影響を与えています。また、”Finders Keepers”は3枚の間に2枚のカードがサンドイッチされる彼の原案のコレクターを、演じやすく実践的に改良されています。さらに、シンプルな1枚だけのサンドイッチ現象では”Mission Accomplished”(任務完了)と”A Further Mission”(さらなる使命)の2作品が解説されています。当時、このようなサンドイッチ現象は人気のあったテーマで、ウォルトンが大きな影響を与えていたわけです。その後、4Aの間に3枚がサンドイッチされるコレクターへと繋がることになります。1枚だけのサンドイッチは、現在での人気がフラリッシュ的でビジュアルな方法が主流となっているために少し古く感じられるかもしれません。しかし、当時のウォルトン的な2種類の違った解決方法が楽しめます。

セットを使ったものや数理的な作品も結構含まれていますが、技法が加わったものが多いために純粋なセルフワーキングは少しだけです。その一つが”Liberty”(自由)で、トップから23枚目までの間に特定の16枚のカードを不規則な配置でセットされています。今までになかった現象ですので大いに気に入りましたが、セットが多いことと規則性のないセットに問題を感じました。数がバラバラの4枚のカードから自由に1枚を選ばせ、残りの3枚の上へそれぞれの数の枚数を配ると、客と同数のカードが現れて同数の4枚が出そろう現象です。セットが嫌いな私でも、現象が面白いので改良したくなった作品です。ところで、この本には改案としての”Almost Impromptu”(ほとんど即席)も解説されており、4枚をセットするだけですので大幅な簡略化作品です。残念ながら現象がかなり違ったものになっていて、残りの3枚の数をプラスした枚数目より客のカードと同数同色のカードが現れます。これも悪くありませんが、原案の現象の方が迫力があります。 使えないと思ったのがボトムディールを繰り返し使う「正直者をだませない」です。デックのトップに4枚のJを置いて、客と演者に交互に配ると客に4枚のJが集まり、2回目も同様で、3回目は演者に4Jが集まり、客の4枚を見ると4Aとなっている結末です。52枚のデックによるボトムディールはかなりの熟練が必要です。そのために私向きではないと思いました。しかし、客の気分を良くさせるギャンブルデモンストレーションであり、客に好まれる内容です。少ない枚数のボトムディールであれば、かなり楽に行えます。4Aを原案と同様にセットした13枚ほどを使って、その上へ4Jを置いて演じる方法に変えて演じてみたくなります。

この本を読んで思ったのは、時代背景を知っていると興味がわくのではないでしょうか。まず、エルムズリーカウントの名前が出てきません。ゴーストカウントの名前になっています。そして、現在のように左手へとる方法ではなく、原案やバーノンの方法のように右手へカウントしながら取っています。60年代から70年代にかけてはエルムズリーカウントの方法が徐々に変化していった時代です。ウォルトンの本でエルムズリーカウントの名前で書かれるようになるのは1988年の「コンプリートVol.2」の本からです。もちろん、米国の本では1960年代からエルムズリーカウントの名前が使われ始めています。次にブラフパスが2作品で使われていますが、Mockパスの名前で書かれていました。これはブラフパスの名前が世界的に定着していなかったのか、Mockパスが英国独自の名称であったのかは調査できていません。また、”Leaper Again”では客のカードがポケットから出てくる現象ですが、カードにツバをつけて2枚を1枚としてテーブルへ配る操作があります。1960年代は指にツバをつけて紙をめくる操作が普通に行われていた時代ですので、ツバをつけるのが非衛生的との概念があまりなかった時代です。現在ではツバを必要とせずに、2枚を配ることが基本的な技法として行われています。なお、”Leaper Again”はパームしやすいミスディレクションがあるので、楽に行える実践的なマジックです。この本には、完成度の高い作品だけでなく、改善すべき作品が多数ありますが、全ての作品に発想の面白さがあり、世界中のマニアの注目を集めたのが分かる作品集です。

ロイ・ウォルトンの初期の作品

今回の調査で分かった最初の発表作品が、1949年のフェニックス誌No.188の「ABC」のタイトルの作品です。短い解説で、内容も分かりにくい状態でした。結局、客にシャフルさせたデックから覚えさせた3枚のカードを、離れたキーカードにより見つけ出しています。トップとボトムのカードだけでなく、その合計数のトップからの枚数目にあるカードも覚えさせていました。新奇性のある3枚のカード当てでマニアックさを感じます。

英国のマジック誌”Gen”には3作品が掲載されています。1954年8月号の”Terminus”(ターミナル駅)は、1953年のエルムズリーの作品である”Point of Departure”の改案です。2枚のAの間にサンドイッチされた客のカードが消失し、ポケットから出現させています。その現象は同じですが、全く別物と言ったほうがよさそうです。エルムズリーの原案では1枚のDFカードを使う鮮やかな消失ですが、ウォルトンはDFカードを使わず、客のカードをサンドイッチした3枚をデック中央に入れて、客のカードだけ消失させています。消失現象の鮮やかさが大幅に弱くなった印象です。また、最後だけでなく途中でもパームを使い、そのミスディレクションのためにズボンのポケットに入れた数本の輪ゴムを使っています。その反省のためか、1971年の冊子”Cardboard Charades”の中の”Jefferson’s Jest”では、見事な消失現象を発表されました。1枚のカードが入る大きさの透明なケースに客のカードを入れて、その上下を2枚の赤Aでサンドイッチして、この3枚だけを手に持ちます。間違いなくケースには客のカードが入っています。1枚ずつ3枚をテーブルへ配り、そして、1枚ずつ左手に戻して3枚を広げると、透明ケースの中の客のカードが消失して、ケースの外の赤A2枚だけとなります。透明ケースも2枚の赤Aも調べさせることができます。パームもラッピングも使いません。また、客のカードの再現もありません。この本には20作品が発表されていますが、ウォルトン自身がその中でも一番のお気に入りと書いていたのが印象的です。

”Gen”の1955年2月号の”Chamele-Aces”では、赤裏の4Aと青裏の4Aの8枚の裏の色のカラーチェンジです。赤と青の色が次々と入れかわるカメレオン現象で、現象の面白さだけでなく、セカンドディールの新しくて面白い使い方が特徴的です。裏向きのトップからセカンドディールで表向きに配ることにより、異なった裏の色を見せない考え方が取り入れられています。 英国のマジック誌”Pentagram”も3作品の掲載がありますが、特に興味を持ったのが1958年10月号の「クイーン&ウォーター」です。パケットマジックではなく、デックのトップに4Qを置いて始めています。テーブルは使わず、客の手の上へ1枚ずつ4枚のQを配り、他方の手には4枚の普通のカードを配ります。1枚ずつ交互にデックの上へ戻して、トップから4枚を表向きで客の手の上へ配ると4Qになっています。分離現象だけでなく、アンビシャス現象でもあるわけです。セカンドディールが2回使われますが、いずれも楽に使えるようになっています。クイーンを使っているのがウォルトンの特徴でストーリーを加えやすいのですが、女王の国を意識してのことでしょうか。

Genii誌では1954年に”Mental Four”が解説されますが、古い原理のマジックにボトムディールが加えられています。4枚ずつの四つの山を作り、4人の客に各山より自由に1枚ずつ覚えさせています。四つの山を集めてカットして配り直して当てるマジックです。これが1988年の「コンプリートVol.2」に再録されますが、そのすぐ後で最近の改案として”Past Help”の解説が加えられていました。こちらは完全なセルフワーキングで、違った文字数のマジシャン名をスペリングしながら各パケットをトップからボトムへ移動させる方法です。結局、若い頃のウォルトンは各種の技法を使った作品が多く、そのことによる新しい考え方が加わっている面白さがあります。しかし、1970年前後の作品に比べますと、それほどの話題性がありませんでした。

The Devil’s Playthings 以降の印象作

ウォルトンの作品のお気に入りをネットで調べますと、よく知られた作品以外では、1979年の冊子の作品”The Smiling Mule”(笑顔のラバ)を取り上げている人がよくいます。私も好きであった作品で、1980年代は演じていたのを思い出します。2枚の赤Aで客のカードをサンドイッチすると宣言して、結局、赤Aがトップとボトムに現れて、デック全体をサンドイッチしている状態になります。そのことが客のカードもサンドイッチしているギャグになるわけです。そのすぐ後で、デックの中央で本当に赤Aが客のカードをサンドイッチしているのを示すことができます。演じていますと、前半のギャグと後半の真面目な現象のアンバランスさに違和を感じるようになってきました。私向きではなかったのかもしれません。この改案として、マイケル・クローズが”Workers 5”で、また、ダーウイン・オーティスが”Scams & Fantasies”でセットされたデックの方法を発表されていますが、本来は即席の軽いタッチで演じる作品ではなかったのかと思うこともありました。そして、私が理想とするタイプの改案が、やっと発表されます。2012年発行の佐藤喜義作品集”The Amazing Sally Vol.1”の中の「チープ・サンドイッチ」です。あっさりとしたクライマックスが、即席タッチのある、さわやかな感覚で終わることができます。なお、この本の著者は佐藤大輔氏で、マジックの作者と同じ名字のために混乱しそうですが、ロイ・ウォルトンと会ったことのある日本でも数少ない一人です。

意外な発展をしていたのが”Palmist’s Prophecy”(手相見の予言)です。1973年6月のIBM機関紙”The Linking Ring”のカードコーナーで解説され、「コンプリートVol.2」にも再録されています。3~4枚のカードを予言としてテーブルへ置き、10~20の間の数のカードを配って客にストップさせると、予言の数枚の合計数がその枚数と一致している現象です。その数ヶ月後の”The Linking Ring”誌にはチャールズ・ハドソンやエドワード・マルローが改案を発表されます。この現象が1992年のクリス・ケナーの本の”Sybil The Trick”の中で使われています。4分割カットのフラリッシュを見せながら数枚のカードがアウトジョグされます。その枚数が客が指定した枚数であり、最後に客のカードが現れます。そして、予言としてテーブルに置かれていた数枚のカードの合計数が、その枚数の数と一致している現象です。1984年のPaul Cumminsの”Counting on it”の客の指定数のアウトジョグと客のカード当て現象にウォルトンの枚数の予言現象を加えたのが1989年のGary Plantsの”Count Me in”です。それにフラリッシュ操作を加えて、世界的に有名にしたのがクリス・ケナーであったわけです。この本は2019年に東京堂出版より角矢幸繁氏の日本語訳版が発行されています。

2種類のタイムマシン現象を発表されていたことも注目すべき点です。マルローのタイムマシン作品を読んだ時の感想は、テーマは面白いのに、ダラダラした盛り上がりのない印象でした。ところが、ウォルトンの1971年の”Cardboard Charades”の中の”Travellers in Time”は、スッキリさせた盛り上がりのある結末となっていました。赤と黒のカードを分離させ、赤半分の中で表裏にシャフルし黒半分でも同様にしたのに、次々と元の状態に戻ります。赤半分も黒半分も裏向きにそろい、両方を合体させて表向けると赤黒が混ざった状態に戻ります。タイムマシン現象にはもう一つの全く別タイプがあり、現在ではこちらの方が有名でよく演じられています。スティーブ・フリーマンのデックの中央でアウトジョグ状態にしたカードのタイムマシン現象です。1981年7月のGenii誌に発表されています。シンプルで分かりやすい現象で気に入っていますが、この演出の原案がウォルトンであることが分かり驚きました。1970年9月のPallbearer’s Review誌に”Back into Time”として解説されています。そして「コンプリートVol.2」でも再録されていました。ウォルトンは単調なダブルリフトの繰り返しだけですが、一般客にはこちらの方が受けそうな印象があります。

もう一つ紹介したい作品が1973年のCard Scriptの冊子に解説された “The Magical Eliminator”です。赤カード6枚と黒6枚を取り出してシャフルして1枚を覚えてもらい、1枚ずつ減らして最後に残るカードが客のカードとなります。アンダーダウンを使って最初に6枚を減らすのですが、表をチラッと見せると客のカードと同じ色の6枚です。残りの表を示すと他方の色で客のカードがありません。この時点で失敗していると思わせています。さらに3枚を減らして表をみせ、残りの3枚の表も見せて、最後に1枚だけを残します。それは客のカードではないはずであるのに、客のカードになっています。12枚を使って減らしてゆく操作で思い出したのが、2015年の春に野島伸幸氏に見せてもらった絵札を使った作品です。その後、2017年には下村知行&野島伸幸共作「トラベル占い」として商品化されています。お二人の作品の方が演出面での楽しさがあり、取り省くカードの理由も論理的な面白さがあります。シンプルで分かりやすく失敗しにくい方法です。ウォルトンの作品は意外な結末が面白いのですが、間違った操作をしやすい部分が数ヶ所もある点が問題です。そこがウォルトンらしいのかもしれません。

ロイ・ウォルトンとエルムズリー

エルムズリーはカードマジックの世界に新しい原理や現象で大きな影響を与えられましたが、ロイ・ウォルトンの場合には少し違っています。完成度の高い作品もありますが、多くの作品では好みに合わないものが多いようです。しかし、エルムズリーとは違った発見や改案の刺激がもらえます。 二人のマジックとの関わりを振り返りますと面白さが分かります。エルムズリーはウォルトンよりも3歳年齢が上ですが、マジック誌への発表は二人とも1949年が最初です。エルムズリーは次々と話題作を発表され注目の的となり、1959年には米国のレクチャーツアーをすることになります。しかし、その後はマジックから離れたような状態となり、1970年頃のパケットマジック全盛期では、エルムズリーカウントの考案者として知られている程度となります。それに対してウォルトンは、1950年代ではそれほどの注目作がありませんが、1969年から次々と冊子や商品を発行され、1970年代では一気に知名度が高くなります。エルムズリーは1975年に米国で2度目のレクチャーツアーを行い、再度注目をあびるようになりますが、その後はマジック界から再度離れます。1980年代のウォルトンは少し注目度が低下しますが、各種マジック誌に掲載を続け、1981年や1988年にはコンプリートの本も発行されて知名度を持続されています。エルムズリーは1991年と1994年に2冊の厚い本を発行され、エルムズリー人気が高まり、1990年代中頃には仕事の引退とともにレクチャーツアーを再開されます。ウォルトンは1990年代以降もMAGICやGENII誌に次々と掲載を続け存在を示されています。 ウォルトンはエルムズリーの作品の改案をかなり発表されていますが、面白いと思ったのが1973年のGenii誌の”The Marriage Brokers”です。これは同じGenii誌の数ヶ月前に発表されたエルムズリーの”Fool’s Mate”を改案されたものです。エルムズリーは大胆でシンプルな方法で行なっていますが、ウォルトンはエルムズリーカウントを使って演じやすくしています。エルムズリーが使わなかった自分のカウントをウォルトンが使っていたのが面白いと思いました。しかし、ウォルトンの方法は無難で演じやすくなった反面で、インパクトが少し弱くなっているのが残念です。

おわりに

ロイ・ウォルトンの作品で私が現在でも使っているのが”Runaround”を大幅に変えた方法です。原案は1975年の”Card Cavalcade 3”で解説されており、「コンプリートVol.2」でも再録されています。トリプルクライマックスですがダラダラとした現象が続くので、大幅に削除して最後のインパクトがあるクライマックスだけの現象に改案しました。1枚のジョーカーと4枚のQが一気に入れ替わります。さらに最近では、「コンプリートVol.2」の最初に解説されている”Stage Shout”も改案して実演しました。表向きの3枚のQに客のカード1枚を裏向きに加えて、エルムズリーカウントした後、客のカードを裏向きのままテーブルへ置き、残った3枚のQを耳元に持ってきて聞くふりをして、客のカード名を当てています。もう1枚のカードでも同様に当てて、この2枚のカードと3枚のQを再度使って別の現象に続けています。前半のカード当てでのエルムズリーカウントのうまい使用が面白いのですが、後半の面白さが足りません。後半を別の現象に変えただけで私好みの作品となりました。

結局、ウォルトンの作品は気に入らない作品があっても、それを改案することにより、好みの内容にかわるものが結構あることです。シンガポールの研究家のハラパン・オングさんもバニシングインクのブログの中で、「コンプリート・ウォルトン」の本について報告されていたことが印象に残っています。他の本と同様で8割は読者にとって興味のないものでしょうが、彼の本の素晴らしさは数年後に読み返しますと、その中でたくさんの宝を見つけることができたと書かれています。そして、彼が気に入った2作品を動画で紹介されていました。今後、私も何度か宝箱を開くことになるだろうと思いました。

参考文献に関しては、ダベンポートより発行されたロイ・ウォルトンの本や冊子と商品だけとさせていただきました。

参考文献

1969 The Devil's Playthings
1971 Cardboard Charades
1972 Tale Twisters
1973 Card Script
1975 Some Late Extra Card Tricks
1976 Trigger
1979 That Certain Something
1981 The Complete Walton, Vol. 1
1988 The Complete Walton, Vol. 2
2016 The Complete Walton, Vol. 3

商品

1972 Animal Magic
1973 Card Warp
1974 Cascade
1975 Kaleidoscope
1999 Pocket Packet

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