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コラム

第93回  ジェリーズナゲット各種デックの比較(2020.1/31up)

はじめに

1970年に製造されたオリジナルのジェリーズナゲットが、現在では未使用のデック一つで5万円以上の値がつくようになりました。封を開けた中古デックでも1万円以上するようです。そのような状況で、ジェリーズナゲット・カジノの許可を得て2019年にビンテージフィール”Vintage Feel”とモダンフィール”Modern Feel”の2種類が発売されました。いずれも赤裏や青裏は1000円代中頃の価格です。私は赤裏だけを購入しましたが、この2種類のデックが手に入ったことにより、オリジナルデックと数年前発行の変な2種類のジェリーズナゲットを含めて5種類の赤裏が揃うことになりました。よい機会ですので、この5種類の違いを比較することにしました。

結論から言いますと、オリジナルと他の4種類とは別物と言えます。モダン版はU.S.プレイングカード(USPC)社により製作され、現在のUSPCのカードの質で、ジェリーズナゲットのデザインにしたものと言ってもよい状態です。オリジナル版を扱う感覚とは全く異なりますが、普段からバイシクルを使っている場合には同じ感覚で実践に使える良さがあります。ただし、アメリカ製デックの一番の欠点とも言えるバックの白い縁の幅の差が少し見られます。差のないデックを手に入れた時は幸運に思います。それに対してビンテージ版はオリジナルに近づける努力をしているのがよく分かるデックです。見た目には違いが分かりにくいほどの完成度です。しかし、これだけの手間をかけて価格をモダン版と同じにするためか中国で製作されています。1枚で触ったり弾力を比べますとオリジナルとの違いが少しある程度ですが、54枚の束になると違いがはっきりしてきます。そして、数年前発行の残りの二つは、パロディー版とも言えるチキンナゲットデックと、もう一つは明らかな偽物として出回ったものです。この二つはオリジナルとは大きな違いが各所に見られます。これらのことをもう少し詳しく報告させていただきます。

オリジナル・ジェリーズナゲットの特徴

1970年度製のジェリーズナゲットのデックは薄いのにしっかりとした弾力性があります。そして、滑りすぎることがないコントロールが可能な滑りとなっています。一番の大きな驚きが裏の縁の白い幅です。アメリカ製のデックの多くが裏向きでボトム側からのフェロウシャフルができるTraditionally Cutになっているためか白い縁の幅が不均等になりがちです。ところが、ジェリーズナゲットは白い幅が狭いのにそれがないことが奇跡的です。絵札の赤青黄色が濃くてはっきりしているのも素晴らしい点です。素晴らしいことばかりのデックのような報告となりましたが、好みの分かれるデックでもあります。これが高い価格になっていることが信じられないほどです。リー・アッシャーやダン&デイブが2000年前後には既に使っており、冊子や雑誌でもこのデックを使って掲載されただけでなく、2004年のダン&デイブのDVDでも使われていたために火がついたようです。ところが、販売元の在庫が既になくなっており、同じ質のものを新たに作ることもできないことから高値となったと考えられます。各要素について、もう少し詳しく報告することにします。

厚さは2017年のバイシクル54枚と比べて4枚少なく、1枚を触ってもわずかですが薄い感触があります。しかし、弾力がしっかりしているので、54枚でスプリングするのに少し力が必要ですが、デックとしての厚みが薄いのでスプリングするのには問題ありません。この弾力はBeeのカードの高質な紙の特性とも言えます。バイシクルやタリホーは少し柔らかく、好みが分かれる大きな要素となります。2008年製のバイシクル・ゴールドスタンダードが少し硬く感じるのは、Beeの高質な紙を使っているからで、カードの歪みが少なく、パーフェクト・フェロウシャフルがしやすくなっています。私の場合、部分的にでもパーフェクト・フェロウシャフルを使う場合にはゴールドスタンダードを使いますが、それ以外では普通のバイシクルを使っています。

滑りはコントロールが可能なそこそこの滑りで、このことは1970年代中頃までのUSPC社のデックの特徴です。その後の約10年間はほとんど滑らなくなり、1980年代中頃より現在のようなよく滑るカードとなります。オリジナルはファンにすると広がりに少しの違いが生じますが、それほど気になりません。滑りが悪くなってきたり、綺麗に広げたい場合にはプレッシャーファンを使っていました。滑りすぎない利点は、不安定な場所や手の裏にデックを置いても勝手にトップから滑り落ちる危険性が少ないことです。バランスを重視するフラリッシュには、こちらのデックが向いています。しかし、軽いタッチでファンに広げたい場合には現在のデックの方がよさそうです。

そして、アメリカ製カードの素晴らしさでもあるフェロウシャフルが、裏向きでボトム側からスムーズに行えます。たぶん、フェイス側からカットされているので、ボトム側からのフェロウシャフルが可能なのだと思います。1995年頃までのUSPCのデックはこのカットが基本であったようです。問題はフェイス側からのカットの場合には、裏側の白い縁の幅が左右や上下で差が出やすい欠点があります。Beeのカードの場合には裏側に白い縁がないので問題がありません。そのことを考えますと、ジェリーズナゲットは縁が狭いのに幅の違いがないのが驚きです。これはたまたまであるのか、この頃に勤めていたこだわりのある技術者によるものであるのかが分かりません。製作側にとっては扱いたくないデザインであったと思います。日本やアジアの多くのデックが、バックから見たデザインの商品価値を下げないように白い縁の幅が揃っているのですが、これは裏側からカットしていると考えられます。この場合、フェロウシャフルは表向きにして下側から行う必要があります。または裏向きではトップ側から行うことになります。USPC社も1995年頃からは記念デックや裏のデザインの特別なデックが多数製造されるようになります。裏側のデザインが中心となるために裏の白い縁が揃ったデックとなった反面、フェロウシャフルが逆向きのデックが多数出回るようになりました。そのためか、2008年製のバイシクル・ゴールドスタンダードでは、本来のフェロウシャフルができるTraditionally Cutであることがケースに明記されています。

絵札の色も赤青黄色が濃く、青色による線も明瞭でスッキリしたカードとなっています。バックの縁の白い幅が狭いので赤裏や青裏の色の印象が強烈です。また、バックのデザインがシンプルなのも特徴的です。この色やデザインに対して好みが分かれそうです。全体的な印象として、弾力性のあることや滑りすぎないこと、そして、裏の目立つ色によりフラリッシュに使用するのに向いているのかもしれません。ダン&デイブが好んで使っていたのが納得できます。当時は他のデックと価格の違いがほとんどなかったようです。昔のほどほどの滑りのデックを使いたい場合にも向いています。2017年のコラム「U.S.プレイングカード社製カードの質の時代変化」でも報告しましたが、1969年のグレートモーガルや1971年のタリホーのデックでは、弾力や滑りとインクの濃さも最適で、この頃のデックの質の良さの素晴らしさに感心させられました。1970年代後半から80年代前半にかけてカードの質が悪くなるのでなおさらです。ジェリーズナゲットの赤と青が1970年にしか製造されていなかったようですので、質の良さが保証されるデックとされたのかもしれません。しかし、数万円もするデックとなった現在では、使用のためよりも別の目的を持ったデックとなってしまったことが残念です。

モダンフィールのジェリーズナゲットについて

基本的に現在のバイシクルと同様なデックで、ジェリーズナゲットのデザインにしたデックと言ってもよさそうです。2017年のデックよりも2枚少ないので柔らかく感じます。そして、全方向に対してのしなやかさがあります。残念なのはアメリカ製のデックの多くに見られるバックの縁の白い幅に少しの違いがあることです。もちろん、実演での使用に支障がない程度です。別の三つのモダンフィール・デックを見せてもらう機会がありましたが、いずれも同程度の幅の違いがありました。絵札の色は赤青黄色共に濃く、この点ではオリジナルに最も近いと言えます。カードケースは現在のバイシクルと同様な構造のものが使われ、デザインはジェリーズナゲットと同様な感覚で作られています。ただし、ケースの底に説明書きがあるのがオリジナルと違っている点です。ケースのビニールの封を開ける帯テープはオリジナルと同様で開けやすくなっていたのですが、青いシールが光沢のある現在的なものになっていたのが残念です。この青シールの両サイドがギザギザに刻まれているのですが、これはオリジナルっぽく見せるためのようです。

ビンテージフィールのジェリーズナゲットについて

私が最も感激したのが、フェロウシャフルが裏向きでボトム側からできるのに、裏の縁の白い幅が均等になっていたことです。私が入手したビンテージ版デックがそのようになっていただけで、全てがそうではない可能性があります。私がたまたま幸運であったのかもしれませんが、均等になっているデックが多いと考えています。

このこと以外では、見た目の完成度の高さがありました。今回の5種類のカードを1枚ずつ裏向きに並べて違いを見て比べますと、オリジナルとビンテージフィールだけ見分けがつかないほどです。エンボスの状態がわずかにはっきりしている程度です。次に5種類のハートのAを表向きに並べて比べますと、ハートのマークやAの文字は同じで見分けがつきません。しかし、紙の色や光沢が少しずつ違います。チキンナゲットは紙が白くテカテカ光っています。次に光沢があるのがビンテージフィールです。オリジナルは他と比べてわずかですが青っぽく見えます。そして、オリジナルだけが表側のエンボスが全く異なります。他の4枚は表も裏も同じエンボスですが、オリジナルでは表には連続した短い縦の線のようなものが見えるだけです。U.S.プレイングカード社のカードは1992年か93年頃から表も裏も同じエンボスとなりますが、それ以前の表側は違っていました。

ビンテージフィールの場合、見た目の違いでもう一つの残念なことが絵札の青色が薄いことです。絵札を見ると別物であることが分かってしまいます。青色は絵の線に使われるだけでなく絵札の縁の四角の線にも使われているために、色が薄いとメリハリが弱く頼りなく感じます。こだわりを持つなら、なぜ最も重要な青色を薄くしてしまったのかが不思議です。ついでに書けば、ジョーカーのJerry’s Nuggetの文字が薄くて弱々しいのも違っている点です。ジョーカーに関してはモダンフィールも同様でした。

次に触った感覚ですが、これも5種類を1枚ずつ目を閉じて硬さや表面の感触判断しますと、オリジナルとビンテージフィールの2枚だけが特定できずに残ります。しかし、2枚だけで比べますと、ビンテージフィールが少し硬く感じます。また、表面が少しですがぬるっとした感触があります。ただし、チキンナゲットのカードに比べてかなりマシです。夏になると感触がどのように変化するのかが気になります。

さらに、54枚でオリジナルと比べると違いがはっきりしてきます。滑りが全く違って、現在的なよく滑るデックです。これは仕方がないのかもしれません。35年ほど前から、よく滑るのが当然になっていますので、滑りが弱いと欠陥商品と思われてしまいそうです。また、硬さが硬くスプリングをするのにかなりの力が必要です。ただし、リフルシャフルの後のウォーターフォールのために湾曲をつくるのには全くの問題がありません。つまり、実演での使用には支障のないデックです。

カードケースがモダン版以上にオリジナルに近づけていました。まず、ロングフラップになっています。これは1991年か92年まで使われていたケースと同様です。また、ビニールの封を開くためのテープがオリジナル的になっているだけでなく、青シールが側面にギザギザのあるオリジナルと同様な紙で再現されていました。さらに、ケースの厚みもオリジナルと同じで少し薄くなっています。そのためか余分なカードが入っておらず、2枚のジョーカーを含めた54枚だけです。問題はオリジナルに比べてビンテージフィール54枚の厚みがあるので、ケースに入れると満杯状態になることです。そして、最も残念なことは、ケースの内側がオリジナルでは何も突出物がないのですが、ビンテージフィールではボトムにサイドフラップが上へ向けて突出してサイドに糊付けされていたことです。デックを入れるとカードのコーナーを痛めてしまいそうに感じられます。実際には当たっていないようですが気になる部分です。オリジナルではボトムのサイドフラップは外にも内側にも現れないようにうまく作られていました。ケースのサイドの2枚の間にこのフラップを挟んで糊付けすべきであるのを、ケースの内面で糊付けしてしまったのでしょうか。

ビンテージ版の全体の感想としては、こだわりを持って制作されたことが分かるのですが、もう少し薄くして弾力性は保ちつつ硬さを減らして、絵札の青色は濃くして欲しかった思いが残りました。さらに気になるのが、表面のコーティングの長期使用後の変化とバックの赤色が他に影響を与えてしまう問題です。既にエンドに薄いのですが赤色がついてしまいました。赤裏以外の色は少しマシかもしれません。高質のBeeの紙も1970年頃と同様な紙は既に存在しないのかもしれません。また、当時と同じコーティングの再現や表側の表面状態の再現も困難なのだと思いました。そのことを考えますと、よく頑張って製作されたデックだと思います。

チキンナゲット・デックについて

パロディー版として作られたことを考えますと、悪くないデックです。絵札がハンバーガー店の各種の食べ物を食べているマンガタッチの顔になっています。ジョーカーやバックの文字、そして、カードケースの文字もきっちりとChicken Nuggetと書かれています。しかし、注意して見ないと、Jerry’s Nuggetと書かれていると間違った判断をしてしまう点が面白いと思います。オリジナルよりも3枚多い厚さで、スプリングするのにかなりの力が必要です。ビンテージフィールよりも硬く感じます。裏側の白い縁の幅は均等ですが、表向きでのフェロウシャフルが必要となります。カードケースはロングフラップとなっていますが、大きな問題がケースの内側にボトムからのフラップが突き出ていることです。デックをケースに入れようとすると、2~3枚がそのフラップに当たって入らず、調整しながら入れる必要が生じます。

偽物のジェリーズナゲットについて

各所に明らかな違いが見られます。カードのバックの赤色やケースの赤色が濃く、少し黒っぽい赤になっています。カードの裏側の縁の白い幅が広く、普通のカードと同じになっています。この白い幅が均等になっている反面、表向きでのフェロウシャフルが必要です。問題は、このフェロウシャフルもスムーズではなく、少し引っかかる感じがあることです。カードケースのフラップは短く、チキンナゲットと同じで内側ではボトムからのフラップが突出しているために、デックを入れるときに注意が必要です。これは日本やアジアの紙製のカードケースの多くに見られます。面白いことが、5種類のカードケースの中で、これだけがサイドに書かれたJerry’s Nuggetの文字が逆方向になっていました。いろいろな点でわざと違うようにしているのかと思ってしまいます。問題のあるデックですが、使用するのに大きな支障はありません。

おわりに

今回の2種類のジェリーズナゲットが発売されたことにより、オリジナルのジェリーズナゲットが少しでも安くなるか、高値が続くのかが興味のあるところです。また、今回発売のモダンフィールが1st Editionとなっていたことから今後の期待も持てそうです。USPC製でBeeの紙を使ったジェリーズナゲットも発行して欲しい希望もあります。今回のテーマでまとめた私の感想は、実戦で使うのはモダンフィールがよく、少し硬いほうが好みの人はビンテージフィールも悪くないことです。ただし、ビンテージフィールの赤は使い続けると色が少しですが指に着くことがあるので注意が必要です。また、モダンフィールは赤と青以外の色も発行されていますので全てを揃える楽しみ方もあります。チキンナゲットと偽物に関しては、使うよりも話題性として持っているのが面白いと思います。

今回のコラムのテーマは、2種類のジェリーズナゲットが手に入ったので、急遽、まとめてみたくなりました。本来は別のテーマで調査中であったのですが、まだまだ日数がかかりそうですので、こちらを先にしました。今回の内容については、2017年のコラム「U.S.プレイングカード社製カードの質の時代変化」と部分的に重複する記載もあります。USPCのカードの時代変化は、そちらのコラムも参考にして頂ければと思います。


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