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コラム



第88回 バーノンのトライアンフの気になる点(2019.2.22up)

はじめに

ピット・ハートリングの “Master of The Mess” を読んだ時に強い衝撃を受けました。本当に表裏グチャグチャ状態から同じ向きにそろえていたからです。数回のフェロウシャフルの問題がありますが、頭の良い方法に感心させられました。さらに、全く別の発想で素晴らしい作品が発表されます。佐藤総氏の “Bushfire Triumph”です。不規則な表裏バラバラ状態から一気にそろいます。その映像を見ますと、インパクトの強さに圧倒させられます。

ところで、この二つともに現在ではトライアンフの作品とされています。以前はリフルシャフルするのがトライアンフと思っていたのですが、それを含めた広い範囲でトライアンフの名前が使われています。ダイ・バーノンの原案では、トライアンフ・シャフルといった特別なタイプのフォールス・リフルシャフルが使われていました。しかし、バーノンが実演する場合には、別のリフルシャフルが使われていたとの報告がされています。 バーノンのトライアンフは1946年に発表されていますが、このような現象はバーノンが最初ではありません。スロップシャフルで演じる方法が以前より発表されています。それだけでなく、リフルシャフルを使う方法もすでに発表されていたようです。さらに、シャフルせずに表裏バラバラにしたデックをそろえる現象であれば、1914年のディランドの商品が最初と言われています。しかし、バーノンのトライアンフのシンプルで強烈な現象が大きな話題となり、このような現象を代表する名前となったようです。

トライアンフで最近よく話題になるのが、最後のスプレッドを裏向きではなく、表向きの方が良いのではないかとの意見です。2009年の海外のMagic Cafeフォーラムでも両者からの意見が多数出されていました。また、クライマックスの同じ向きにそろう現象をサプライズとして演じるか、先にそろうことを告げておいてサスペンスを楽しませる演出にすべきかの考えもあります。

トライアンフは1980年には100作品を超えており、その後も発表が増え続けています。現在では300を超えているのではないかと考えられますが、DVDやネット配信も多くなり全てを把握するのが困難になっています。今回はトライアンフの分類やそれぞれの方法についてではなく、原案のバーノンのトライアンフの気になっている点について調べましたのでご報告します。

バーノンのトライアンフについて

1946年の「スターズ・オブ・マジック」のシリーズ2にバーノンのトライアンフが発表されます。このシリーズには、当時の人気の高いマジシャンのマジックが解説されており、その代表がダイ・バーノンであり、この本の彼の最初の作品がトライアンフです。1982年にはバーノンのビデオシリーズが発行されますが、その第1巻の最初のマジックもトライアンフでした。ただし、バーノンがビデオで説明されている内容はトライアンフシャフルのことが中心でした。トップカードをずらす考えのクレジットとして、マクミランのライジングカードに使われていた方法を元にして、リフルシャフルに応用したものであると説明されていました。

以前から日本の一部のマニアの間では、バーノンが実際に演じる場合に、本で解説されているトライアンフシャフルが使われていないとの情報が伝わっていました。このシャフルは、誰でもが楽に行えるように考えられた方法とも言われていました。バーノンのダブルリフトも、スターズ・オブ・マジックやバーノンブックに解説された方法を、普段には使っているのを見たことがないとの話を聞いたことがあります。これも楽に行える方法として解説されていたと考えられます。

2018年にJohnny Thompson(グレート・トムソニー)の2冊組の本が発行されます。上記の噂の話が、この本では真実であったことがはっきり書かれていました。第2巻にはトライアンフの解説があり、バーノンが演じている時にトライアンフシャフルを使っているのを見たことがないと明記されていました。ストリップアウト・シャフルが使われていたと報告されています。この方法であれば、演者の前に横向きに置かれたデックをリフルシャフル後に揃えても、客席側のサイドと左右の両エンドが完全に揃っているように見せることができます。かなりカードの扱いが慣れていなければ失敗することも考えられますが、こちらの方が完全に揃えたように見せることができます。この方法をバーノンが使っていないわけがありません。さらに、トムソニーの場合は、シャフルする条件が悪い場合には、ザローシャフルを使った方法で演じることもあるそうです。マジック用のテーブルやマットがない場合には、ストリップアウト・シャフルがうまくできないことがあるからです。

ところで、スターズ・オブ・マジックのトライアンフの解説の冒頭には、プルスルー・シャフルと同じ原理で、はるかに優しく行えるようにしたのがバーノンのシャフルと説明されています。ギャンブル技法の中で至難な技法の一つがプルスルー・シャフルで、綺麗にうまく行えるマジシャンは少ないとも書かれています。本ではバーノンのシャフルの解説に多くの部分が使われています。だからこそ、1982年のビデオでは、本に書き漏れていたシャフル考案の元になるマクミランの名前と、考案経緯を報告したかったのだと考えられます。なお、シャフルの名称は混乱しやすく、プルスルーは現在ではプッシュスルーの名前がよく使われており、プルアウト・シャフルと呼ばれていたものはストリップアウトの名前が使われています。

スプレッドは表向きがよいのか裏向きがよいのか

この問題に関しては、2009年の “Magic Cafe Forum” に多数の投稿がされていました。それを抜き出してA4の用紙に印刷しますと10数枚になります。両者からいろいろな意見が出されましたが、その中でも代表的なものを報告します。

表向きにスプレッドして客のカードだけ裏向きがよいとの投稿で多かったのが、その方がサスペンスがあるとの理由です。表向きに揃うだけでなく、1枚だけ裏向きカードが残るので、それが客のカードかどうかのちょっとしたサスペンスがあるとの考えです。客のカードが何であったのかを聞くゆとりがあり、裏向きカードが客のカードであることを示して拍手がもらいやすくなります。

もう一つの多かった意見が、裏向きにスプレッドした場合に、二つの現象が同時に起こるのでよくないとの考えです。裏向きに揃うことと、客のカードだけが表向きに出現することの二つです。

これに対して、裏向きにスプレッドして客のカードだけ表向きにする方がよいとの投稿は、その方がダイレクトで現象が強くなるとの意見です。現象を二つに分けた場合には、全体が揃う現象が強く、その後の客のカードが当たっているのを示す現象が弱いことを問題としています。そのために、アンチクライマックスになるとの指摘です。また、表向きにスプレッドした場合に多数の色やマークにより、1枚だけが裏向いていることに気がつきにくいとの指摘もあります。

トミー・ワンダーはトライアンフを発表されていませんが、彼のハンカチを貫通する客のカードの考えから、投稿者によりトライアンフも現象を二つに分けた方がよいとの意見がありました。しかし、それに対する反論では、その考えはトライアンフの場合には適用されないと言っています。ハンカチから貫通する場合にはゆっくりであるので、裏向きのカードを表向けることにより拍手をもらうきっかけとなります。しかし、トライアンフのように現象が起こるのが素早い場合には適していないとの指摘です。

トミーワンダーのスプーン一杯の考えから

同時に二つの現象を見せるより、分けて見せた方がよいとの意見の元になっているのは、トミー・ワンダーの考えが大きく関係しているようです。そこで、この考えが生まれた背景を調べてみました。

トミーワンダーの考えは、2003年に発行されたDVD “Visions of Wonder” 第3巻の「カード・スルー・ハンカチーフ」の解説の最後で語られています。デックをハンカチに包んでハンカチの上部を持ち、振り続けることにより客のカード1枚だけが下方へ抜け出す現象です。トミー・ワンダーも元々は表向きに抜き出していたそうです。しかし、その後、裏向きに抜け出すようにして、客のカード名を言わせてから表向ける方が盛り上がることが分かったと報告されています。表向きに客のカードが抜け出すのは、スプーン2杯分となり、スプーン一杯ずつに分けた方が効果的との考えです。このことを日本では「まちかね山の魔法」の本の中のトライアンフの解説のアフターソートで、トミー・ワンダーの「スプーン一杯の原理」として紹介されています。これは納得できる考え方でいろいろと応用ができそうです。しかし、これをトライアンフに適用することに関しては少し考えた方がよいのかもしれません。

1996年にトミー・ワンダーは厚さのある2冊の本を発行され、その第1巻の方にハンカチを貫通するカードが解説されています。奇妙なことは効果も方法の解説にも、ハンカチを貫通したカードが表向きか裏向きかの記載がありません。また、この部分の重要なイラストがありません。この本を書いた時期は、どちら向きで解説するのかに迷われていたのかもしれません。このマジックは1890年代に初めて解説されますが、その後、多くの本に違った方法でも解説されています。それらに共通していたのは表向きに抜き出していたことです。トミー・ワンダーは1970年代のJos Bemaの名前の時に、すでにこのマジックをレクチャーノートで発表されています。1996年の方法もほぼ同じで、表向きに出現させる状態になっていたと考えられます。1994年に解説されていたエルムズリーの方法だけが裏向きになっていました。多数発表されているライジングカードも基本的には表向きで上昇させていますので、どちらにすべきかで迷われていたのではないでしょうか。

トミー・ワンダーのハンカチの貫通はダイレクトでシンプルであり、演じやすいように改良された画期的な方法です。レクチャーには最適です。そうであるのに予想していたほどには受けなかったのではないでしょうか。それを受けるマジックに変革できたのが「スプーン一杯の考え」を取り入れたことにあると考えられます。ハンカチからの貫通はよくできたマジックであるのに、思っているほど受けないのは何故でしょうか。ライジングカードは大いに受けます。それに比べて何が違うのでしょうか。ハンカチのカバーがあるのでなんでも出来そうで、穴があいておればハンカチを振れば重力で下へ抜き出ると考えられてしまいそうです。貫通することよりも、それが客のカードであることの方が不思議さが大きいようにも思えます。

ライジングカードの場合は、重力にさからって上昇するので、それだけでもかなり不思議です。カードが上昇するだけでなく、それが客のカードであることが見えた瞬間には盛り上がりが最高潮となります。これも裏向きに上昇させるべきでしょうか。手に持ったデックのライジングカードは少し効果が弱くなる場合がありますが、その時にはスプーン一杯の考えが効果を発揮できそうです。トライアンフは予想以上の受け方をして演者自身が驚いてしまうことがあります。これもスプーン一杯の考えを加えた方が、もっと受けるのでしょうか。二つに分ける方が、客にカード名を聞ける余裕ができることと、それが当たっていることを示して、拍手をもらうタイミングが得やすくなる利点があります。しかし、そのために、スプレッドした瞬間の客に与える衝撃度に違いがないのかを調べてみるのも面白いと思います。

同時に二つの現象を起こすことの正否

1911年に重要なマジックの理論書が発行されます。Nevil MaskelyneとDavid Devant共著による “Our Magic” です。この本の中でルール4として、二つの現象を同時に生み出してはいけないと書かれています。観客は混乱し、どちらの現象もはっきりと受け止めることができないと厳しい指摘をされています。ただし、これを補正するかのようにルール5の中では、二つ以上の現象でもお互いに関連しているものであれば、それで一つの効果となると説明されています。これは同時に瞬間的に起こっている場合の状態です。結局、関連性のない現象を同時に起こすことを厳しく注意していることになります。トライアンフでは二つの現象が関連して同時に起こっているので、それで一つの現象となるわけです。もちろん、二つの現象として分けてもよいわけで、どちらを選んでもトライアンフは大いに受けるマジックであることには違いがありません。

“Our Magic” はバーノンがGenii誌に連載されていたバーノンタッチのコーナーで、読むべき本のトップに何度かあげていました。また、1982年に来日されたデビッド・ロスが対談の中で、日本の研究家に読んでほしい本のトップにあげていたのが “Our Magic” でした。この対談は1982年発行の「不思議3号」に掲載されています。”Our Magic” の原著は300ページほどあり、三つのパートに分かれています。その最初の重要なパートを、2004年に加藤英夫氏により翻訳されて出版されましたが、今は絶版となっているようです。この本を読むと感激させられ、マジックの理論を知る上で、まず読むべき本だと思いました。

表向きにスプレッドするトライアンフの代表作品

一番の代表作はバックのカラーチェンジによるダブルクライマックス作品です。表向きに揃ったことを見せた後で、裏向きの客のカードを抜き出し、残りを裏向きにスプレッドするとカラーチェンジしています。1971年のディングルの作品が発表された後、同年にアッカーマンとブルース・サーボンも発表しています。1964年のハリー・ロレインの “Four of a Kind” では、最後に表向きにファンに広げて全ての向きが揃っていることを示しています。次に裏向けて大きくファンに広げると、最初に客の指定で選ばれてデックへ戻した4枚だけが表向きで現れます。こちらもダブルクライマックスですが、カラーチェンジほど強烈ではありません。

1枚の客のカードを当てるだけのトライアンフでは、ダローの「プエルトリカン・トライアンフ」が有名です。各部がバーノンの方法と大幅に違っています。特に6分割でのあらためが有名です。スプレッドする前の状態では、デックが表向きでトップと中央に1枚ずつ裏向きカードがあリ、中央が客のカードです。トップの裏向きカードを処理する必要があるのですが、最も簡単な方法で解決しています。トップカードを取り上げて表向きに戻すことにより、デック全体が表向く理由としています。

1973年のフランク・ガルシアのトライアンフは、バーノンの方法との違いを印象付けるかのように各所を少しづつ変更しています。混ざっていることのあらためではバーノンの方法のように行って、トップ半分をそのままテーブルへ置き、その上へ下半分を表向きにひっくり返して重ねていました。バーノンの方法より簡単に行えますが、巧妙さが減少しているように思います。この状態で広げると表向きのスプレッドとなります。1980年の別のガルシアのトライアンフでは、バーノンの方法を基本にして、数ヶ月前に発表されたばかりのダローの6分割あらためを取り入れ、バーノンのあらためも少し加えて、上記のようにデックを表向きに重ねてスプレッドしています。

バーノンも1987年の”The Vernon Chronicles” の本では、表向きスプレッドの作品を発表しています。このトライアンフでは客にカードを選ばせず、同じ向きに揃うだけの現象です。デックの上半分が表向きで下半分が裏向き状態から、密かに下半分をひっくり返してスプレッドしていました。

2004年のジョン・バノンの「ラストマン・スタンディング」は、テーブルを使わないトライアンフです。最後は裏向きデックをわざわざ表向きにして、両手の間でゆっくりと広げて1枚だけの裏向きをアウトジョグしています。このように両手の間でゆっくり広げる場合には、トミー・ワンダーのスプーン一杯の考えが効力を発揮しそうです。後で報告しますスペインのキャロルのトライアンフもテーブルを使いませんが、両手を使って一気に大きくS字状ファンに広げています。彼の場合は裏向きです。キャロルの説明では、普通のファンでは現象が小さくなり、また、普通に両手の間で広げるのはまどろっこさがあると書かれています。観客の方に向けての両手の大きなS字状ファンは、テーブル上のスプレッドに近い効果を生み出しています。しかし、彼のようなフラリッシュを得意とするマジシャンでなければうまく行えないかもしれません。

2010年のジョン・ガスタフェローの “One Degree” のトライアンフも表向きスプレッドです。最後には客に3回のひっくり返す操作を行わせて、客の興味を高めています。表向きスプレッドは普通のようには行わず、ゆっくりとデックの上から落としてゆくように行い、どうなっているのか全く予想がつかないムードの見せ方をしています。私の印象では、テーブル上で一気にスプレッドする場合には裏向きの方が効果的で、ゆっくりと広げたい場合や手に持って広げる場合には表向きも良いように思えました。

ここで取り上げた作品以外にも表向きスプレッドのトライアンフがありますが、最近の方が多くなっている印象があります。これは2003年のトミー・ワンダーのスプーン一杯の考えの影響でしょうか。なお、マジックの理論も書かれて影響力のあるスペインのアスカニオ、タマリッツ、キャロル、そして、スイスのロベルト・ジョビのトライアンフは裏向きでスプレッドしていました。

トライアンフのサプライズとサスペンス

サプライズは結末の意外な驚きを、サスペンスは結末を知らせた上で途中経過のワクワク感を楽しませています。それぞれに利点と欠点があります。スターズ・オブ・マジックに解説されたバーノンのトライアンフは、サプライズのための巧妙な演出がなされています。客のカードをデックに戻させた後、意地悪な客に表裏を混ぜられてしまう演出です。「意地悪そうな目で笑いながら、さあ、なんとかしてみろと言われます。大きな危機ですが、ただあざ笑うばかりで、私の苦境を楽しんでいるようでした。それに対して、挑戦をお受けします、奇跡を期待されているようですので、それをお目にかけましょうと言って、デックをピシャリと叩きます」。デックを客に渡して、テーブル上にリボン状にスプレッドさせます。「この時の彼の顔つきを、みなさんにもご覧に入れたかったものですよ」。大幅にセリフは省略して変更を加えていますが、概要は分かっていただけたと思います。表裏を混ぜる不自然さを意識させず、最後まで客のカードを探し出すマジックと思わせている巧妙さがあります。だからこそ、最後に一気に裏向きに揃い、客のカードだけが表向きになっている驚きが強くなります。このストーリーを語ることにより、観客には騙された感を持たせず、第3者として結末のサプライズを楽しんでもらえる配慮もなされています。そして、トライアンフ(勝利)のタイトルがつけられた理由もわかったように思います。もちろん、このセリフ通りに演じる必要はなく、最後のスプレッドも演者自身が行っているマジシャンが多いと思います。

サスペンスを意識してトライアンフを考案されたのが、スペインのキャロル “Jose Carroll” です。1988年に英語版で “52 Lovers” が発行され、その中に彼のトライアンフ “A Triumph With Fans” が解説されています。デックを手に持ったままで演じ、多くの観客に見える配慮があり、これまでのトライアンフとはかなり違った作品となっています。そもそもカードの選ばせ方から違っており、52枚のデックであれば51枚を選ばせています。それを実行するのがたいへんなので、選ばれない1枚を取らせてデックへ戻して表裏を混ぜ、選ばれた51枚を同じ向きに揃えることを告げて演じています。各種のトライアンフを知っているマニアにも通用するように全ての発想が新しく、これで本当に揃えることができるのかとサスペンスを感じさせています。彼はフラリッシュやギャンブリング・デモを得意とする高い技術力を持っています。このトライアンフにおいても、前方に向けての大きなS字状ファンだけでなく、少しからませただけの巨大ファンで示したり、最後には右手から左手へデックを落下させながらトップカードだけひっくり返しています。彼は1982年のFISMのカード部門で2位、1988年FISMでは1位を獲得されています。彼のこの本とその続編が合本となり、2017年に岡田浩之氏が日本語訳版を発行されました。スペインのマジシャンの中でも、少し変わった面白い発想のカードマジックが多いので、オススメしたい本です。

彼の本の最初に、彼のマジックの理論が書かれており、サスペンスとサプライズの違いも解説されています。結局、サスペンスは日本では有名な「サーストンの3原則」の「あらかじめ演技の内容を話さないこと」に反していることになります。海外には「サーストンの3原則」はないのですが、その元になる同様な考えのルールは古くから知られていました。これはどちらかといえば、マジックの初心者のための注意点と言えます。それを守る方が不思議さを与えやすく、効果も得られやすくなります。先に現象を言ってしまうと、演技の早い段階から客の注目が続くので全く気が抜けません。さらに、結末の意外な驚きがなくなります。しかし、サスペンスは早い段階から客の興味をもたせて楽しませることができます。客の期待を裏切らない技術力と内容を持っている必要があり、熟練者向きと言えます。

マニアや以前にトライアンフを見せた客を相手にする場合、表裏を混ぜると揃う現象だと気づかれます。サプライズ効果が得にくくなる点では、サスペンスを意識した考えで演じた方がよいのかもしれません。テレビでもトライアンフがよく演じられましたので、現象を知っている一般人が増えている可能性が考えられます。いろいろな状況に応じて演じられる力量が必要です。バーノンの原案かそれを少し変えた方法、2度目に見せる必要が生じた場合のサスペンスを意識したトライアンフ。または、バックのカラーチェンジのようなダブルクライマックスや、マニアにも通用する演者独自のトライアンフがあれば申し分ないと言えます。表裏のバラバラを強調するために、表裏のシャフルを増やしたり、あらためを増やすことも考えられます。しかし、多すぎるとゴチャゴチャして興味が薄れたり、現象が起こるまでの時間がかかりすぎることがあります。また、揃えているのではないかと疑われる元にもなりかねません。そのことを考えますとバーノンのトライアンフはシンプルであり、しっかりとシャフルしていることがわかり、最後の一気にスプレッドした時の反応のすごさにあらためて感激させられます。

おわりに

トライアンフは以前から取り上げようと思っていたテーマです。しかし、あまりにも作品数が多いために躊躇していました。トムソニーの本が発行されたことにより、トライアンフをまとめる決心がつきましたが、原案のバーノンの作品とそれに関連したことをまとめただけで、かなりの分量となりました。そこで、急遽、内容をそのことに集中するように切り替えました。トライアンフの分類やその後の発展変化は、別の機会に取り上げることにします。

一度に二つの現象を見せない方がよいと書かれている文献を探すのに、結構、日数をかけてしまいました。おかげで、多くのマジックの理論書に目を通すきっかけとなりました。スプーン一杯の考えは、いずれかの理論書には書かれていると思って探しましたが、結局、見つけることができませんでした。トミー・ワンダーが死亡する3年前に発行されたDVDの第3巻の解説の中で語られているだけであったのが意外でした。また、Our Magicのパート1を読み返して、この理論書の素晴らしさが再認識できました。せっかくですので、コラムでもマジックの理論書の歴史と変遷をまとめてみたくなりました。

最後にトライアンフ作品一覧に関してですが、あまりにも作品数が多く、コレクター作品のように全てを掲載できません。トライアンフは1946年発表ですので、25年後の1971年までの分かった作品全てを掲載し、それ以降は日本人の作品と私が気になっている海外作品だけとさせていただきました。


【Triumph 作品一覧】(1971年までの作品とその後は代表作)

1914 Theodore Deland Inverto 商品
     1945 The Conjuror’s Magazine Vol.1 No.8 9月号にも解説
1919 Ellis Stanyon The Self-Reversing Cards Magic Vol.15 No.3 12月
1919 Charles Jordan The Alternate Reverse 30 Card Misteries
1927 Walter B. Gibson The Shuffle Reverse リフルシャフル使用
     In Two Dozen Effective Practical Card Tricks
1932 Ralph W. Hull Topsy-Turvy Climax Eye Openers
1937 名前なし Reversible Cards Encyclopedia Card Tricks
1937 Sid Lorraine The S.L. Reversed Card スロップシャフル原案
     John Braun & Stewart Judah Subtle Problems You Will Do
1946 Dai Vernon Triumph Stars of Magic Series 2 No.1
1946 Arthur Buckley The Mix-Up Card Control
1946 Arthur Buckley Four Aces Par Excellence Card Control
1947 Edward Marlo Marlo’s Triumph Marlo in Spades
1952 Bill Simon The Turnabout Cards Effectine Card Magic
1954 Bill Simon The Four Packet Shuffle Slightly Sensational
1958 Edward Marlo 76-76-67-67 Faro Notes
1960 James Steranko Voodoo Card Steranko on Cards
1964 Harry Lorayne Four of a Kind Personal Secrets
     ファンで全てが表向き、裏向きファンで最初に入れた4枚だけ表向きに
1964 Edward Marlo Two Triumphs The Patented Shuffle
     First 全ての順を保つ Second 分離した色を保つ
1967 Larry Jennings Gambler’s Triumph Ultimate Card Secrets
     デックを3分割して4Aの出現と3パケットで表裏のシャフル
1967 Rink Ups and Downs Ultimate Secrets of Card Magic
     Bill Simonの方法の改案 客のカード3枚
1967 Edward Marlo Daring Triumph Riffle Shuffle Finale
1967 Edward Marlo Triumph Triumph Triumph Triumph Riffle Shuffle Finale
1967 Edward Marlo Shuffling Out Riffle Shuffle Finale
1968 Edward Marlo The Simple Triumph Expert Card Conjuring
1968 Edward Marlo Cover-Up Triumph Expert Card Conjuring
1969 Bruce Cervon Simple Triumph Epilogue 6
1970 Edward Marlo No-Turn Triumph Hierophant 3 二つの方法
1971 Derek Dingle Color Triumphant Dingle’s Deceptions
     表向きスプレッドのトライアンフ後 デックの裏の色のチェンジ
1971 Allan Ackerman Color Triumphant The Esoterist 同上の現象
1971 Bruce Cervon All Shook Up Expert Card Chicanery 同上
1971 Edward Marlo Delayed Double Climax Expert Card Chicanery
     客のカードの代わりに4Kを使用
1972 Derek Dingle Gambler’s Triumph Epilogue 15
1972 Derek Dingle Mental Triumph Epilogue 15 数理の使用
1972 Derek Dingle Progressive Triumph Epilogue 15 4枚選ぶ
1973 Derek Dingle Royal Triumph Innovations 2
     Progressive Triumphにバックのカラーチェンジを加えて
     ザローシャフルを使ったバリエーションも掲載
1973 Jack Avis Topsy Turvy Epilogue 18
     アンビシャスとFour of Kindの現象も
1973 Frank Garcia Triumph Location Super Subtle Card Miracles
     客カードを数理により11枚目へ シャフルによりトップへ移動
     原案のトライアンフのマイナーな変更 表向きにスプレッド
1976 Paul Harris Color Stunner The Magic of Paul Harris
1978 Jon Racherbaumer Arch Triumphs 数名の作品が掲載
1980 Daryl The Puerto Rican Triumph Secrets of A “Puerto Rican Gambler”
     2回のリフルシャフル 6分割のあらため 表向きスプレッド
1980 Frank Garcia The New York Opener Exclusive Card Secrets
     バーノンの方法を変更しダローの6分割使用 表向きスプレッド
1987 Dai Vernon No Sleight Triumph The Vernon Chronicles Vol.1
     客カード使用せず表向きに揃うだけ 普通のリフルシャフルで
1987 Dai Vernon The Second Campaign The Vernon Chronicles Vol.1
1988 Jose Carroll A Triumph With Fans 52 Amantes(スペイン語)
     テーブル使用せず S字ファンや巨大ファン使用 フェロウ2回 
     1988 英語版 52 Lovers
     2017(岡田浩之 / 訳)1991年のVol.2を加えて
1990 Shigeo Takagi Total Triumph The Amazing Miracles of Shigeo Takagi
     6分割のあらため 表向きスプレッド
1990 Shigeo Takagi Rising Triumph The Amazing Miracles of Shigeo Takagi
     裏向きデックから客カードが表向きに上昇し裏向きファンに広げる
1990 Shigeo Takagi Color-Shift Triumph The Amazing Miracles of Shigeo Takagi
     二人の客カード使用 デックのバックのカラーチェンジ現象
     1992(二川滋夫 / 訳) 高木重朗の不思議な世界
1990 John Bannon Play It Straight Impossibilia
     客に取らせたカード以外の12枚が順に並んで表向きに
1991 赤沼敏夫 究極のカラー・トライアンフ とりっくBOX 2
     1枚だけ裏の色違いカードを使ったカラー・トライアンフ
1991 片倉雄一 カラー・エース・トライアンフ とりっくBOX 2
     4Aだけ裏の色違いカードを使ったカラー・トライアンフ
1991 Juan Tamariz A Clear Triumph Sonata
     2013(角矢幸繁 / 訳)ホァン・タマリッツ・カードマジック
1994 松田道弘 私案トライアンフ 松田道弘のクロースアップ・カードマジック
     シークレットターンノーバーと完全に混ざったように見せるテクニック
1996 松田道弘 私案トライアンフ 松田道弘のマニアック・カードマジック
     上記の方法の後半部分の見せ方の改案
1996 松田道弘 トライアンフ・エース 松田道弘のマニアック・カードマジック
     表裏のリフルシャフル後に3Aを1枚ずつ取り出して4枚目でトライアンフ
1998 Robert Giobbi Triumph Card College Vol.3
     客に表裏を揃える時間を測らせる演出 表向きデックを裏向けて終了
1999 Guy Hollingsworth A Triumph Routine Drawing Room Deceptions
      テーブル使用せず リフルシャフル ファンに広げてバラバラに示す
2003 Pit Hartling Master of the Mess Card Fictions
     グチャグチャ状態から数回のフェロウを行う
     2012(冨山達也 / 訳) Card Fictions
2003 佐藤総 Bushfire Triumph トランプと悪知恵
     二人のカード使用 テーブル上で表裏を乱雑に混ぜる
2004 John Bannon Last Man Standing Dear Mr Fantasy
     テーブル使用せず フェロウ 特別ディスプレイ 表向きスプレッド
     2013(冨山達也 / 訳) ジョン・バノン・カードマジック
2008 佐藤総 Bushfire Triumph Ver1.5 Card Magic Designs
     2003年版の改案 一人の客カード使用 より一層に乱雑に見せる
2010 ふじいあきら カジュアル・トライアンフ 魔法修行 第6号
     テーブル使用せず 事前のセットによる簡易な方法
2010 John Guastaferro Behind-The-Back Triumph One Degree
     スロップシャフル フェロウ 客が3回ひっくり返し 表向きスプレッド
     2015(冨山達也 / 訳) ジョン・ガスタフェロー・カードマジック
2011 Woody Aragon Separagon Triumph A Book in English
     表裏バラバラにテーブルへ並べる 表向きスプレッド
2011 松田道弘 もう一つのトライアンフ カードマジック The Way of Thinking
     天海リバースの使用
2011 松田道弘 ストリームラインド カードマジック The Way of Thinking
     デックの半分がDBのチーク・トゥ・チークの改案
2014 Indy Left Out Card まちかね山の魔法
     デックの裏のカラーチェンジ現象
2014 山本洋史 クワトロシャッフルトライアンフ まちかね山の魔法
     裏向きに揃い、表向きスプレッドで1枚の裏向きカード 3段階の現象
     トミー・ワンダーのスプーン一杯の原理説明
2014 田中大貴 O.S.P.I.S.T. まちかね山の魔法
     Play It Straightの改案 客の1枚が表向いた後で12枚の同マークも
2018 Johnny Thompson Triumph The Magic of Johnny Thompson Vol.1
     客カードを使用せずバーノンの方法と同様に行い中央に4A出現
2018 Johnny Thompson Triumph The Magic of Johnny Thompson Vol.2
     ストリップアウトシャフルの解説とトライアンフ
2018 Johnny Thompson Zarrow Triumph The Magic of Johnny Thompson Vol.2
     ザローシャフルを使ったトライアンフ     
2018 Harapan Ong Triumph Squared Principia 2枚の客カードで


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