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コラム



第77回 パンチ穴トリック(ムービングホールを中心に)(2017.1.27up)

はじめに

最近になってありえないパンチ穴移動現象を見ました。1枚のカードを垂直にして、2本の指で持っているだけで下側のパンチ穴が上へ飛び移ります。何かしたようには見えません。これは海外の商品ですが、昔に比べ進化していることに興味を持ちました。2013年には私が所属していますRRMCの会で谷英樹さんが演じられた現象にも圧倒させられました。谷さんの演技は今でもYouTube(チャンネル名:TANISHImagic)で観ることができるだけでなく、その映像の人気が高く、かなりの再生回数になっています。しかし、パンチ穴のマジックで最もインパクトが強かったのは、同じくRRMCに所属しています益田克也さんの消えるパンチ穴です。1枚のカードだけで演じ、本当にパンチ穴があいていることを示した後で、指で穴を取ると穴が消えています。カードを客に渡して調べさせることができます。タネを見せてもらいましたが、今までにない画期的な発想と緻密な配慮に感心させられました。残念ながら、素晴らしすぎてこのマジックの権利をカッパーフィールドが購入することとなり、その後、見ることができなくなりました。

1969年のGenii誌に発表された厚川昌男氏の作品も素晴らしい発想で、「ムービングホール」のタイトルがつけられた最初の作品となります。そして、1986年の “The New York Magic Symposium Collection 5” に発表された鈴木徹氏の “Diagonal Slide” も信じられない斬新な現象でした。パンチ穴のマジックでは日本人の作品が大きく貢献していることが分かります。ところで、私も1985年には一つの作品を制作し、京都のクロースアップの催しで演じました。客にサインさせたカードの4隅をパンチで穴をあけ、一箇所に集まる現象です。マイケル・パワーの作品をビジュアルでスピーディーな現象に改良しました。その頃に、それまでのパンチ穴のマジックを調べてまとめたことがありました。今回は良い機会ですので、それを含めて最近までの全体の発表作品を調べてみたくなりました。ここではパンチ穴のムービングホールを中心にしましたが、移動現象以外でも重要な作品は取り上げることにしました。

補足 益田克也さんのパンチ穴トリックの印象記

このマジックを初めてみた頃の印象を私のノートと記憶から思い出して報告します。1993年3月10日に、数名のマニアの集まりで益田さんがこのマジックを演じられました。Bee 銘柄の1枚のカードを使っています。コーナー近くにパンチの穴があいており、穴を通して上から下側が見えます。そして、小さな棒を通過させて、本当に穴があいていることも証明していました。この穴の上下を親指と人差し指でつまんで取る操作をして、穴をポケットへ入れると、カードからは穴が消えています。カードをそのまま客に渡して調べさせることができます。穴があいていた形跡すらありません。左手に持っている1枚だけのカードは、全体が見えたままで、チェンジしたり何かでカバーすることもありません。穴を指でつまむ時に穴がカバーされるだけです。この時にタネを見せてもらいましたが、タネの素晴らしい発想に感激してしまいました。私には考えもしなかった発想で、その柔軟な思考には勝てないと思いました。しかし、このタネには一つだけ気になる点がありました。このままでは客にカードを渡した場合には、タネが露呈しないうちに早くカードを取り戻した方がよいと思いました。

それから1ヶ月後のことです。RRMCの例会が通常とは違って驚くべき状況になっていました。二日前には「なにわのコンベンション」が開催されていましたので、深井洋正さんがRRMCにポール・ダニエル、パトリック&ミア、メイヤー・イエジット、藤井明さんと共に参加されました。この時に益田さんがパンチ穴マジックをポール・ダニエルさんに演じられました。ダニエルさんはカードを渡され、いろいろと調べられていましたが、私は早くカードを取り戻すべきだと心配しているのに、益田さんは悠々とされていました。ところで、ダニエルさんはかなり驚いた表情で目をキョロキョロさせるばかりで、声も出せない状態でした。本当に不思議な時にはこのようになるのだと思います。後で益田さんに弱点部分のことを尋ねますと、改良して克服されていたとのことでした。

その後、1998年2月3日のRRMCの例会では、上記と同様に穴が消える作品が発表されます。これが「お星さま返して」の名前で2000年には商品化されることになる作品です。10数枚のパケットに星型の穴が確かにあいており、ジョーカーでカバーした後でジョーカーを取り去ると、穴が完全に消えています。これは1枚だけの方法とは全く違ったタネや考え方が使われています。これも面白くて不思議な現象ですが、1枚だけで行なっていた時の強烈さが、いつまでも頭から離れずに残っています。なお、黒い紙にパンチしてできた小さな黒丸を写真の上へ置くと、それが動いたり写真に穴があく「あながあくほど見つめて」の商品も発売されています。これも斬新な発想でかなり不思議ですが、今回のテーマから少し外れた作品となります。

補足 谷英樹さんのムービングホールについて

YouTubeで人気のある谷さんのムービングホールは、他の作品と何が違うのでしょうか。客にサインさせたカードを裏向けてパンチで穴をあけ、それが瞬間的に他の場所へ飛び移り、さらに別の場所へ飛び移ります。そして、一気に4箇所に穴があいた状態となり、表向けて客に渡すことができます。この最後のありえない状態を見てしまうと、もう一度最初から映像を見直したくなるマニアが多かったのではないでしょうか。

谷さんの作品も、最初からこのような強烈な意外性をもった現象ではありませんでした。短期間に数回の改良が加えられています。谷さんが影響を受けたのは “Flik”という商品のデモ動画だそうですが、パンチであけた穴が別の1箇所だけに移る現象でした。それを参考に2013年10月15日のRRMCの例会で谷さんは、穴が2箇所に移動するように改良して演じられました。(YouTubeには “Look at the hole” というタイトルでアップされています) 次の11月5日のRRMCでの例会では、カードを弾くたびに3箇所に穴が移動し、最後には一気に4箇所の穴があくようにパワーアップされていました。そして、11月19日のRRMC例会では、YouTubeに “Moving hole Exp” というタイトルでアップされている最終形となりました。カードにサインさせてから演じる方法となり、最後には四つの穴があいたサインカードを客に渡すことができるようになったのです。なお、カードを消耗させないために、サインはカードの表側に直接書かせるのではなく、シールにサインを書いてもらい、それをカードの表に貼り付ける方法をとられています。

パンチ穴を使った最初の作品とその後について

最近ではカードを使用するのが主流です。商品やYou Tubeにもたくさんの方法が発表されています。一つだけの穴が移動することもあれば、4隅にあけられた穴が一箇所に集まる現象もあります。しかし、パンチ穴を使った最も古いマジックは移動現象ではなく、パンチ穴の復元現象でした。4分割した小さな4枚の四角形の紙を重ね、中央にパンチで穴をあけています。客に渡した1枚が復元できず、演者が試みた3枚は穴が消失して復元します。1940年1月のThe Jinx No.77に発表されたL. Vosburgh Lyonsの “A Hole In One”です。1945年発行の “My Best” の本に再録され、よく知られるようになります。この作品には、4枚とも本当にパンチ穴をあけたように見えるのかといった疑問点があります。実際には3枚をずらして1枚しかパンチしていません。しかし、面白い発想が、パンチした後4枚を重ね、4枚ともに穴があいているように見せている点です。そのために黒穴(ブラックホール)を使う必要があります。この偽物の黒穴を使う発想が、その後のエルムズリーや厚川昌男氏の作品にも使われ、穴が動いたように見せる重要な役割を持つことになります。

なお、4枚の紙片を使う発展形が、1967年のLu Brentや1982年のRosenthalの四つ折りの紙片の作品に影響を与えています。これらの方法では、四つ折りで一気に四つの穴をあけたように見せて、実際には三つだけしかあけていません。そのことにより、四つの穴のうちの一つが別の四つ折り紙片へ飛行する現象に変わりました。これらの作品の問題は、現象の迫力が弱いことです。一つだけの穴を使った現象の方が不思議さが強く感じられます。紙を使った一つだけの穴の移動の代表作といえば厚川昌男氏の作品です。1966年のニューマジック誌に「動く穴」として発表され、それが1969年の米国のGenii誌に「ムービングホール」のタイトルで発表されることになります。カードより少し長い縦長の紙が使われて二つ折りにされ、一方にあけられたパンチ穴が他方に移動します。画期的な方法が使われており、シンプルで不思議さの強い作品です。

名刺を使ったエルムズリーの作品とサーボンの作品

1950年のフェニックス誌に発表されたエルムズリーの「パンクチャー」が、パンチ穴移動の最初の作品となります。つまり、ムービングホールの最初の作品です。名刺を使った現象ですが、名刺の束も使います。名刺の束の中央部分を幅のある青色の帯で束ねています。束から1枚の名刺を引き出すと、一方のサイド中央にパンチ穴があいています。客に調べさせた後、束の上へ置くと、穴が帯の上になるために穴から青色が見えます。この穴を指で押さえてエンド側へ移動させます。この名刺を取り上げて客に渡すことができます。このままでは問題になるのが、穴をエンド側へ移動させた時に青色の帯から外れるために、穴からは白色しか見えないことです。効果が弱くならないようにエルムズリーの方法では、パンチ穴の周りに少し色がある布製の丸いシールのような補強リングが貼られています。この補強リングごと穴を動かして、移動現象を分かりやすくしています。大きな問題は、穴を動かす前に名刺をすり替える必要があることです。そのために、これから起こることを説明している間に名刺の束から客の視線を少しだけ外させる必要があります。もちろん、このエルムズリーの方法でも十分に通用します。

この改案が、1971年のGenii誌にブルース・サーボンが発表しています。すり替えの方法は基本的に同じですが、少し工夫が加わっています。しかし、そのことよりも大きな違いは、マグネットを使って演じやすくされていた点です。また、名刺を束ねるのも青色の帯ではなくなり、名刺の半分ほどの長さがある黒色のケースを使って名刺の束を入れています。このケースがあることにより、この上へ1枚の名刺を置くと、サイドのパンチ穴からケースの黒色が見え、さらに、エンド側へ移動させた時も穴から黒色を見せることができるようになりました。つまり、特別な補強リングを使う必要がなくなったわけです。もちろん、補強リングがある方が、少し離れても現象がわかりやすい利点があります。しかし、サーボンの方法を行う上では、補強リングを使わない方がスムーズに行える工夫がなされています。

名刺を使ったその後の作品

興味深い方法が、1979年のMUM誌に発表されたNed Wayの作品です。マジック仲間から上記の名刺を使ったパンチ穴の移動の話だけ聞いて考案したために、全く違う方法の作品が出来上がりました。1枚だけの名刺で見せる現象と思っていたようです。名刺の束を使わない方法になっています。実際には、もう1枚の名刺を使っているのですが、その存在を見せない工夫がされています。グライドを使い、最後にはパームを使って余分な1枚を処理しています。また、1986年の鈴木徹氏の方法にも感動させられました。名刺用の白いカードが使われています。本に解説される以前にご本人より見せていただきましたが、シンプルなのに不思議さが強烈な現象でした。

そして、1990年にマイケル・クローズが彼の作品集 “Wokers No.1” で新しい発想を発表しています。1枚の名刺上でパンチ穴の移動現象を見せ、その穴を指で摘まみ取り、別の名刺へ穴を移して、その名刺を客に渡せる現象です。これと同様な現象の作品が、翌年の1991年にマイケル・ウエバーがチケット(昔の鉄道の切符のような形状)を使って発表しています。素材が違うだけで、同様な現象と考え方が使われていますので、どちらが先であるのかの混乱が起こりそうです。調べますと、1987年にウエバーが来日した時に、箱根クロースアップ祭でこの現象を演じられていました。また、ネット上では、1984年のIBM大会で個人的に見せてもらっていた人物が報告されていました。さらに、ウエバーの本では、マイケル・クローズが名刺の上に地図を描いて演じる素晴らしい改案を発表していることを報告されていました。つまり、マイケル・ウエバーが先のようです。簡単な方法でパンチ穴をあけたり消したりでき、パンチの器具で音だけを出したり、別のチケットへ穴を移して客に調べさせるようにしたりなど、新しい発想がいろいろと加えられています。

最近では、金沢の山崎真孝氏が2015年の “Pop Magic 2” で名刺を使った作品を発表されています。黒色の名刺ケースを使用して、ケースから取り出した名刺の束から1枚が自動的にずれ出してきます。その名刺を黒色ケースの上へ置いて、パンチ穴の移動現象をされています。ミニウォンドも効果的に使用され、かなり演じやすくなっています。

カードのパンチ穴トリック・パート1 マトリックス現象

1981年頃にマイケル・パワーのHoly Terrorが商品として発売されます。これがカードを使用したムービングホールトリックの最初となります。カードの4隅にパンチ穴があけられ、それが一つずつ1箇所に集まるマトリックス現象です。二つのデックとギミックカードも使われていたそうです。実際の演技は見たことがありません。しかし、1984年に発行されたFFFFの作品集に、この商品を基にしたDavid Walkerの改案が発表されます。こちらはギミックカードを使っていません。青デックから1枚選ばせ、サインさせて四隅にパンチ穴をあけています。これを赤デックの上に置くと、穴から赤色が見えることになります。この穴が一箇所に集まります。また、1984年頃に京都のマジカルアートクリエーションの黒沼昇氏より、原案をもっとシンプルにされたパンチ穴のマトリックス現象を見せていただきました。いずれも良くできているのですが、もっと楽でスピーディーでビジュアルな方法に改良したくなりました。そして、作り上げた作品を85年の京都の発表会で演じました。デックのトップにブランクカードを置いて、その上へサインさせた四隅にパンチ穴がある客のカードを裏向きにおきます。一つ目の穴の移動はこれまでと同じで指で引き寄せるだけですが、残りの二つは一気に集めています。カードを右側へサイドジョグして上下に本当の穴があることを確認させ、カードをデック上にそろえるだけで、左内隅に四つの穴が集合します。表向けてサインと集まったパンチ穴がある状態で客にプレゼントできます。1990年には、マイケル・パワーが一つのデックで行える商品のHoly Terror 2を発売しています。1999年のポール・ウィルソンのビデオでは、Unholy Gatheringのタイトルで1箇所に集まる簡易な方法を解説しています。

カードのパンチ穴トリック・パート2

カードを使ったムービングホール・トリックは1981年頃のマイケル・パワーが最初です。しかし、カードのパンチ穴トリック自体は1年前の1980年にマルローが発表していました。パンチ穴を使っていますが、どちらかといえば一般のカードマジックに近い扱いの作品です。客のカードを裏向けて中央にあけたパンチ穴が消失し、最初にデック中央に表向きに入れていたジョーカーに穴が移動する現象です。1983年には、これを少し変えた作品がJ.K.Hartmanにより発表されています。穴の移動現象をなくし、客のカードの穴の消失だけで終わっています。いずれもチェンジのためにKMムーブが使われています。1986年にはジョニー・リンドホルムが、即席のムービングホール作品を発表しています。カードの両エンドにパンチ穴を開けた後、一方のエンドに二つの穴を集めています。マイケル・パワーの方法をシンプルにして、一つの穴の移動現象だけにしています。このリンドホルムの方法に工夫を加え、さらに演じやすくしたのがDavid AcerのNo Holes Barredです。1992年のGenii誌6月号に解説されています。1991年のBob Hirschの方法では、1枚だけしか使っていないように見せて行う方法です。一方のエンドに多数のパンチ穴をあけ、これらが消失する現象です。1986年の鈴木徹氏の方法に近い発想が使われています。ところで、この解説を書いたハリー・ロレインは、1980年代はじめにHirschより見せてもらったことを報告しています。鈴木徹氏の発表よりも以前になるのですが、何故10年も経ってからの発表となったのかが不思議です。1993年のリチャード・バートラムの本では、穴の消失や出現の手作りの方法が解説されています。細長い紙のアームや蝶番としてのゴムシートが使われています。この本にはパンチ穴に関連したトリックが数作品発表されているのですが、カード上でのパンチ穴移動現象は一つだけです。2010年のMAGIC誌7月号にはGlenn Westによる簡易なムービングホールが解説されていました。穴のあるカードを裏向きにデックの上においても、裏模様の関係で穴の存在が分かりにくくなります。デックから穴がある部分を外へ突き出せば穴の存在が分かるのですが、それをうまく利用した作品になっています。このような発想を利用した作品が今までにもありましたが、それをメインにしたのはこれが最初かもしれません。

2000年以降の作品の商品化と現象の進化

2000年以降は商品として発表されているのが特徴的です。そして、次々と新しい発想の作品が発表されています。特に、2016年秋のMichael ChatelainのMatrix 2 には驚かされました。ここまでパンチ穴の現象が進化しているのかと思いました。1枚のカードを片手だけでコーナー部分を指でささえて持っているだけで、何もしていないように見えるのに、穴が瞬間移動するからです。瞬間移動とは、一方の穴が消失すると同時に、別の位置の穴が現れることを言います。4隅の穴が上側のエンドに一列に並ぶ状態になります。同じ2016年に発売されたTom ElderfieldのSpace Timeや、Agus TjiuのVoidの商品も片手で持っているだけで瞬間移動できます。この2作品は一つの穴が2箇所へ移動するよく似た現象で、裏表のあらためが可能な特徴があります。カードの中央付近を指で摘んで持っているだけです。このような瞬間移動は、2013年のフランスのAlexis De La FuenteのFlikが最初かもしれません。この商品は1箇所だけの移動です。

別の新しい試みとして、穴が自動的に動いて、別の場所に穴があくのも面白い現象です。2012年のPeter Eggink のThe Holeは、細いマジックペンをカードに突き刺して、飛び出した紙のギザギザがある状態のまま穴が動きます。これまでのムービングホールにはなかった新しい発想が使われています。翌年の2013年には、Darryl Vanamburgが同様な現象の商品のPortholeを発売しますが、違った方法でペンで突き刺した穴を動かしています。なお、2010年のDave ForrestのNothing in Transitでは、穴が動いているように錯覚させる面白い方法が使われていました。この商品では、見やすいようにかなり大きい穴で演じられています。

クレジットカードを使ってパンチ穴の移動現象を行なっていたのはMenny Lindenfeldです。2005年にSafety Holeを発売しましたが、その後次々と改良して、2012年にはSafety Hole Lite 2.0を発売しています。クレジットカードの磁気の部分に穴があいているので使えない状態になっています。この穴を別の場所へ移動させ、その後、元の位置へ戻しています。Lindenfeldの2004年の商品のHollow 2では、パンチ穴を拡大鏡で見ると穴が大きく見え、拡大鏡を外しても穴が大きいままとなる現象です。その後、元の大きさに戻しています。2011年のWill TsaiのHolelyは、1枚だけのカードにパンチ穴をあけて、その穴を別の場所へ移動させ、そのまま客に渡して調べさせています。つまり、1993年の益田さんのトリックと同様に1枚だけしか使っておらず、最初の穴を消したにもかかわらず客に渡せる不思議さがあります。しかし、益田さんとは全く違っており、最初にあける穴には予想外の発想が使われていました。これがどの程度通用するのかが気になるところです。次々と方法や現象が進化しているために、2000年以降に発行されたいくつかの商品が販売終了となっていたり、改良版として新たに販売されている特徴があります。今後はどのように進化するのかが楽しみです。

おわりに

今回はムービングホールだけでまとめる予定をしていました。最近の驚いた商品や谷英樹さんのYouTubeの作品もムービングホールの現象であったからです。しかし、パンチ穴の最初の作品が穴の消失であり、私が好きな益田克也さんの作品も穴の消失です。そこで、ムービングホールだけに限定しないことに変更しました。穴の大きさに関しては、パンチ穴を原則として、大きい穴の作品は基本的には省くことにしました。大きな穴の場合、穴があいたカードと別のカードとの穴の入れ替わり現象や、穴から見えているカードの変化現象が中心であったからです。しかし、大きい穴でもDave Forrestの商品のように穴が動いているように見える現象や、LindenfeldのHollow 2 のように穴が大きくなったり小さくなる現象は取り上げることにしました。パンチ穴の大きさでもマルローの作品の場合は、一般のカードマジックに近い現象で、本来であれば含めるべきでない作品です。しかし、カードを使ったパンチ穴の最初の作品であることから外すことのできないものでもありました。

今回もまとめるにあたり、数名の方にご協力していただきました。私が所属していますRRMCのメンバーの益田克也さん、谷英樹さん、川島友希さんです。益田さんと谷さんには、お二人についての記載部分をチェックしていただきました。それにより、一部分の不備な点の修正ができました。また、川島さんには、最近の商品についての多数の情報を提供していただき大変助かりました。ありがとうございました。 最後に参考文献と商品の一覧を掲載しましたが、それぞれに簡単な説明も加えさせていただきました。


【参考文献と商品一覧】

1940 L. Vosburgh Lyons A Hole in One The Jinx 77 1月号
     4枚の小さい紙片のパンチ穴 演者が試みた3枚だけが復元
     1945 My Bestに再録
1950 Alex Elmsley Elmsley’s Puncture Phoenix 213
     名刺のサイド中央のパンチ穴がエンド側へ移動 名刺の束と帯が必要
     1959 Bruce Elliott編集 Professional Magic Made Easyに再録
     1959 「あなたも魔術師になれる」として上記の日本語版
     1991 The Collected Works of Alex Elmsley Vol.1に再録
     1997 麦谷真里編集「即席マジック入門事典」にも解説
1967 Lu Brent End Papers The Pallbearers Review Vol.2 No.3
     四つ折り紙片にパンチした四つの穴の一つが他の紙へ飛行
     1985 Self-working Paper Magic に再録
1966 Masao Atsukawa 動く穴 ニューマジック Vol.5 No.9
     二つ折り紙片の一方から他方へのパンチ穴移動
     1969 Moving Hole Genii Vol.34 No.1 に英訳掲載
1971 Bruce Cervon Puncture Genii誌 Vol.35 No.5
     名刺のパンチ穴移動 名刺の半分の長さの黒色ケースを使用
     1988 The Cervon File に再録
     マジックランド発行の Bruce Cervon Lecture Japanにも
1979 Ned Way Hole Cards MUM Vol.68 No.11 4月号
     1枚だけで行う名刺のパンチ穴移動 実際には2枚使用
1980 Edward Marlo Black-Hole Card Switheroo The Last Hierophant
     客のカードの穴とデック中央のジョーカーとの穴の入れ替わり
1981? Michael Powers Holy Terror 商品
     カードの四隅にあけたパンチ穴が1箇所に集合 2デック使用 
1982 Harvey Rosenthal Hole Flight 単一作品小冊子
     上記のLu Brentの四つ折りの紙を使った方法の改良版
1983 J. K. Hartman Lo and Be-Holed Apocalypse Vol.6 No.1
     客のカード中央にあけたパンチ穴の消失
1984 David Walker Holy - Holey Fork Full of Appetizers 2
     マイケル・パワーのマトリックス現象の改案 ギミックカード不使用
1986 Tooru Suzuki Diagonal Slide The New York Magic Symposium 5
     名刺用の白い用紙を使用 コーナーからコーナーへのパンチ穴移動
1986 Johnny Lindholm Impromptu Holey Terror
     Magical Arts Journal Vol.1 No.2
     カードの両エンドのパンチ穴が一方に集まる ほぼ即席で可能
1990 Michael Powers Holy Terror 2 商品
     一つのデックでマトリックス現象が行えるように改良
1990 Michael Close The Pothole Trick Workers No.1
     1枚の名刺上でのパンチ穴移動の後、他の名刺へ穴が移動
1991 Michael Weber The One-Two Punch Life Savers
     2枚のチケットで行うパンチ穴移動
1991 Bob Hirsch Holed Up Apocalypse Vol.14 No.9
     1枚のカードに多数の穴をあけて消失させる
1992 David Acer No Holes Barred Genii誌6月号
     カードの両エンドに穴をあけるLindholmの方法を改良
1993 Richard Bartram. Jr Mystification Hole Shuttle
     カードのパンチ穴の移動 工作のしかたを解説
1998 益田克也 お星さま返して 益田克也作品集Video(演技のみ)
     10数枚のパケットのコーナーにあけられた星型の穴が消失
     2000年 商品として販売
1999 Paul Wilson Unholy Gathering Knock Em Dead Video
     カードの四隅の穴のマトリックス現象 ウエバーの方法の応用
2004 Menny Lindenfeld Hollow 商品
     カードの穴の2箇所への移動
2004 Menny Lindenfeld Hollow 2 商品
     カードの穴が拡大鏡で大きくなり 元の大きさに戻る
2005 Menny Lindenfeld Safety Hole 商品
     クレジットカードの穴の移動
2008 Mickael Chatelain Matrix 商品
     カードのパンチ穴のマトリックス現象 スムーズな演技が可能
2010 Craig Petty Sun Bed Matrix Slim DVD
     カードのパンチ穴のマトリックス現象
2010 Glenn West Movin Hole MAGIC誌7月号
     簡単な準備ですぐに演じられる 穴を2箇所に移動
2010 Dave Forrest Nothing in Transit 商品
     カードにかなり大きい穴 穴が自動的に動いているように見える
2011 Will Tsai Holely (Original Version) 商品
     カード1枚だけの使用 穴を移動させた後は客に渡す
2012 Will Tsai Beyond Holely 商品
     カードだけでなくクレジットカードや紙幣やペットボトルでも実演
2012 Menny Lindenfeld Safety Hole Lite 2.0
     クレジットカードの磁気部分の穴を他へ移動させ元に戻す
2012 Peter Eggink  The Hole 商品
     カードにサインペンで穴をあけ 穴が自動的に動く
2013 Darryl Vanamburg Porthole 商品
     カードに細いペンで穴をあけ 穴が自動的に動く 上記とは別の発想
2013 Alexis De La Fuente Flik 商品
     カードのパンチ穴がフリックだけで1箇所に瞬間移動
2013 谷英樹 Moving hole Exp YouTube(TANISHImagic)
     上記の改良版 3箇所へ瞬間移動し最後は4箇所の穴 客へ渡す
2014 Mayank Chaubey Dark Hole 商品
     カードのパンチ穴を指を使って両面を見せつつ移動
2015 山崎真孝 Mickey Puncture Pop Magic 2
     名刺と名刺入れを使用 名刺1枚のずれ出し現象と穴の移動現象
2016 Tom Elderfield Space Time 商品
     カードのパンチ穴が2回の瞬間移動 両面のあらためが可能
2016 Agus Tjiu Void 商品
     同上 さらに精巧に
2016 Michael Chatelain Matrix 2 商品
     カードの四隅にパンチ穴 2本の指の保持だけで上側に並ぶ


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