3フライは3枚のコインを使った新しいタイプのコインズアクロスです。クリス・ケナーが1991年に発表していますので、既に25年が経過したことになります。フィンガーチップコインズアクロス(F.C.A.)とか、ビジュアルコインズアクロス(V.C.A.)と呼ばれることもあります。考案者のクリス・ケナーはジョナサン・タウンゼンドの方法に影響を受けたと報告していますが、二人の方法の違いは何でしょうか。また、3フライがその後どのように変化したのでしょうか。海外では1990年代から新しい方法が次々と発表されていますが、日本では2008年からの発表が続いています。どのような新しい考え方が加わったのでしょうか。なお、最後には発表年順に文献とDVDを掲載しました。 |
3枚のコインを指先に広げ、両手を顔や胸の高さにして、手から手へ1枚ずつビジュアルに飛行させる新しいタイプのコインズアクロスです。これまでのコインズアクロスとの違いは、テーブルや客の手を使わずに、手の中にコインを握り込む操作もなく、いつもコインが見えているようにして演じています。また、高い位置で演じているために、離れた観客にも見えやすくなりました。テーブルを使わないので、ハンピンチェンムーブやギャローピッチなどが使えませんが、ラムゼイサトルティやスライドバックの操作がよく使われるようになります。コインをずらす時に音が出るのをなくすためにソフトコインを使ったり、代用として使えるポーカーチップを使うこともあります。ハーフダラーコインでも行えますが、見えやすいように1ドルコインか同サイズのポーカーチップがよく使われています。 |
多くの文献では原案のクレジットを1992年のクリス・ケナーの "Totally Out of Control" の本をあげています。しかし、その本での3フライの作品は別の現象です。3枚の銀貨が1枚ずつ消失し、3枚の銅貨に変わって現れる現象です。このタイトルをよく見ますと、3 Flyではなく3 Fryであることが分かりました。全く別のものです。 "Menage Et Trois" のタイトルで解説された方の作品が、現在では3フライと呼ばれるものとなります。5年前よりインディアナ州のレストランで繰り返し演じてきたことも報告されています。つまり、1987年頃より演じられていたわけです。また、この1992年の本が有名になりクレジットされていますが、1991年の "Magic Man Examiner" と " 3Fly" の両方にも解説されていたようです。興味深いことは、91年の来日時にマジックランドより発行された " Kenner Japan 91" にも既に解説されていたことです。この冊子でのタイトルは、単に " Coins Across " となっているだけでした。 |
クリス・ケナーの "Totally Out of Control" の本には、ジョナサン・タウンゼンドの方法に影響を受けたとクレジットされています。しかし、タウンゼンドの方法は長い間未発表の状態が続いていました。それでも、その後の3フライの改案の解説のほとんどには、クリス・ケナーをクレジットするだけでなくタウンゼンドの名前も書かれていました。見たこともないタウンゼンドの作品を「タウンゼンド・フィンガーチップコインズアクロス」の名前となっていました。2006年9月号のGenii誌で、やっと、タウンゼンドの方法が解説されることになります。クリス・ケナーの発表後から15年が経過していました。この解説に12ページを使い、その方法だけでなく、コインズアクロスの発展の歴史についても記載されていました。タウンゼンドの方法はコインを握り込まず、常に見えている状態にしています。左手のコインは指先にファン状に広げますが、2枚目と3枚目の飛行時は、右手の手掌を上向きにして指の上でコインを示していました。つまり、左手は胸の高さですが、右手は降ろした状態で腰の高さになっています。この右手の状態の利点は、中指薬指間でディープバッククリップが出来ることです。 |
1987年にタウンゼンドの方法をバーノン、クリス・ケナー、ボブ・コーラーに見せたことを報告しています。クリス・ケナーの1992年の本では、5年前から演じていると書かれていますので、上記のすぐ後に考案したことになります。しかし、このようなタイプのコインズアクロスを最初に解説して発表したのはギャリー・カーツです。 1990年の "Unexplainable Acts" の本に "Trio" のタイトルで発表されています。3枚のコインを1枚ずつ出現させ、3フライの現象の後、1枚ずつ消失させています。シェルが使われていますが、3フライの時だけ外して4枚で演じ、飛行後は3枚の状態に戻しています。ほとんどが胸の高さで演じられていますが、1枚目と2枚目の飛行後に、左手を上向きにして飛行したコインを示す部分があります。各技法のクレジットはされているのですが、コインズアクロスの部分に関して、いつ頃にどのような経過で考案されたのかの記載が全くありません。ところで、彼のコインマジックで似たタイトルの "Trio in Three" もありますが現象が全く異なります。 |
3フライはこれまでのコインズアクロスに比べて、ビジュアルでスピーディーでテクニカルです。テーブル上が見えにくくなっている観客数の多いコンテストやクロースアップショーには最適です。欠点は両手でほぼ同時に現象が起こるので、観客の目がついてゆけないことです。また、いつの間にか飛行現象が起こり、見過ごした印象やごまかされた感情が起こりかねません。一般客に対しては、少しマニアックといえるのかもしれません。本来のコインズアクロスのように、手に握ったコインが、手を開くと増えていたり減っている方が、一般客には分かりやすいともいえます。しかし、そのようなことを言っていたのでは、コインマジックの進歩がなくなってしまいます。新しい考え方を取り入れて発展させることも重要です。少なくとも3フライは、1980年代頃からの規模が大きくなってきたクロースアップの会場で、観客の不満点を改善させた現象として、私は大いに評価しています。 |
茶1970年代から80年代にかけて、コインマジックではコインアセンブリーの人気が高まった頃です。この頃からクロースアップの人気上昇と同時に観客数も多くなり、テーブル上の現象がほとんど見えない状態になりました。観客数が100名以上であったり、客席が階段状ではなく平坦な場合は、後方から全く見えませんでした。特に気になるのが、テーブルと最前列の観客との間隔が狭い場合です。最前列の客の頭が妨害して、後方からはテーブル上が全く見えなくなります。コインアセンブリーが演じられて、前方の客席から歓声が起こっても、後方からは見えないのでイライラします。ハンギングコインやグラスへ飛行するコインは後方からも分かりやすい演目でした。IBMの大会のクロースアップは、数部屋に分かれて100名以下にして、階段状の客席にしていましたのでテーブル上の現象を見ることが出来ました。演技者は5回ほど繰り返すことになるのでたいへんですが、観客には見やすくて助かる大会です。日本では、1982年からマジックランド主催で開催されています箱根クロースアップ祭も、観客数を100名以下にして、客席を階段状にされているので見やすくなっています。なお、1980年代の出演者のほとんどが座って演じられており、立って演じる演技者の方が多くなるのは2000年頃からだったと思います。 |
3フライの発表から25年が経過し、人気の盛り上がりも一段落したように思います。3フライがコインズアクロスの一つの分野として定着しただけでなく、新しいタイプのコインマジックの発展に大きく貢献しました。3フライ発表からの25年を振り返りますと、大きく三つのタイプに分かれて発展していたように感じられます。技術と演出を中心とした発展、ギミックコインとその使い方の発展、そして、3フライの枠にとらわれないスタンダップ・コインズアクロスとしての発展です。最後のことに関しては、マイケル・ルービンシュタインのコインベンション・レクチャーノートの中で興味深いことを書かれていました。全手順を胸の高さで演じることに制限されることなく、また、コインが移動したことが分かるようにチャリンと音を出したいことも述べられ「レトロフライ」を発表されていました。そして、これが二つのコインズアクロスの間を埋める存在になることも報告されていました。2000年以前には、イタリアのGiacomo Bertini が3フライにとらわれず、新しいタイプのスタンダップ・コインズアクロスを発表されています。また、米国のHomer Liwag は、両手を上向けたままでコインズアクロスを演じ話題を呼びました。今後もそれぞれの立場での発展を期待しています。 |