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コラム



第66回 2014年 I.B.M. S.A.M. 合同大会報告(2014.7.18up)

はじめに

今年はミズーリー州セントルイスで、I.B.M.とS.A.M.の合同大会として開催されました。この合同大会は6年ぶりで、FISMの北アメリカ代表を選出する目的をかねた大会であり、非常に満足度の高い大会となりました。ステージとクロースアップのコンテストのレベルが高かったことと、ゲストショーがすばらしかったからです。

参加者は約1300名で、最近のI.B.M.やS.A.M.の大会に比べても、参加人数の多い大会となりました。7月1日(火)から5日(土)までの5日間の開催です。ステージ・コンテストは28組が3日間かけて、また、クロースアップ・コンテストは13名で競われました。いずれも、審査員により決勝戦へ7組が選ばれ、ステージとクロースアップのそれぞれから一人ずつ勝者が決定されます。それぞれの勝者の決定は、全観客による投票、つまり、ピープル・チョイスにより決められます。ピープル・チョイス賞を獲得すると、現金で3000ドルをもらえるのが魅力です。

そして、北アメリカからの出場者の場合には、一定得点以上の獲得者にはFISM出場資格が与えられ、その中でも最高得点者には各部門で2000ドルがもらえます。さらに、I.B.M.もS.A.M.も本来の審査が行われ、1位と2位も決定されます。1位は2000ドルがもらえます。今回もいつものように、印象に残った点を中心に報告させて頂きます。

コンテスト結果

ファイナリスト(各部門7組)

 ステージ部門
  Den Den  日本
  Hun Lee 韓国
  Cheol Seung Choi  韓国
  Po Cheng Lai  台湾
  Sheldon Wang  中国
  Trevor & Lorena Watters カナダ
  Natalie & Eli  スイス

 クロースアップ部門
  Shin Lim カナダ
  Soel Park  韓国
  Martin Braesser アルゼンチン
  Michael Dardant  米国
  Chris Hannibal  米国
  Alberto Lorenzo  米国
  Reuben Moreland  米国

ステージ部門受賞者
 ピープルチョイス賞  Hun Lee 韓国
 FISM選考 北アメリカ・チャンピオン Trevor & Lorena Watters カナダ

クロースアップ部門受賞者
 ピープルチョイス賞  Shin Lim カナダ 
 FISM選考 北アメリカ・チャンピオン  Shin Lim カナダ 

IBM Awards

 ステージ部門受賞
  ゴールドメダル 受賞者なし
  1位 Hun Lee 韓国
  2位 DenDen 日本

 クロースアップ部門受賞
  ゴールドカップ 受賞者なし
  1位  Michael Dardant  米国
  2位 Place - Alberto Lorenzo  米国

S.A.M. Awards

 ステージ部門受賞
  1位 DenDen  日本 さらに ゴールドメダル受賞
  2位 Hun Lee  韓国 さらに シルバーメダル受賞、オリジナル賞受賞

 クロースアップ部門受賞
  1位 Soel Park  韓国  さらに シルバーメダル受賞
  2位 Reuben Moreland  米国

ステージコンテスト決勝戦に出場した7組

1 日本の伝々さんは白紙と折り鶴をメインにしたマジックを演じられました。昨年のUGM大会で1位を獲得されており、オリジナル性と技術、そして、日本情緒のあるマジックに感銘を受けました。もちろん、多くのスタンディングオベーションとなりました。これまでになかった現象であるだけでなく、不思議さが強烈です。しっとりとした味わいがヨーロッパ的で、アメリカではどうかと思っていましたが、SAMの審査員から高く評価され、15年ぶりのゴールドメダル獲得となりました。最初のゴールドメダル受賞者は1999年のGeorge Saterialで、背の高い縦長の箱時計の前で鳩出しの演技をされたマジシャンです。伝々さんは二人目となる受賞者で快挙です。

今回の大会の予選と決勝戦を含めますと私は3回見たことになりますが、繰り返し見ても見飽きません。UGM大会ではステージに近い位置より見ましたが、遠方から見ても折り鶴であることが観客に分かるのかが気になっていました。今回は最後部の席で見ましたが、十分に折り鶴であることが認識できました。折り鶴や赤封筒の部分の演技はすばらしいのですが、さらに魅力的なのが白紙だけの演技です。ブランクカードと同様な大きさの小紙片を1枚ずつ左右の手に持って、近づけるだけで大きく広げた白紙になります。また、その反対に、広げた白紙がブランクカードの大きさの小紙片となって落下してゆくのも印象的です。来年のFISMが楽しみです。

大会会場となったホテルの入口を入って直ぐのロビーに、当日のコンテスト出場者の名前入りの写真が貼り出されていました。興味深いのは、伝々さんだけが顔写真ではなく、折り鶴の写真にしていたことです。何のマジックをするのか分かりやすくしただけでなく、インパクトがあってユニークな発想だと思いました。

2 韓国のHun Leeのマジックには意表をつかれました。軽快な音楽にマッチしたカードとカードケースによるマジックで、オリジナル性と技術的なうまさがあります。残念ながら、2カ所でトラブルが発生し、減点対象となる可能性が考えられました。手が触れて捨てバックをかねたテーブルが倒れかかり、床に触れる寸前で受けとめて元へ戻しています。もう一カ所は、カードをファンに広げようとして、カード全体を床へ落としてしまい、予備のデックを使って続けています。そして、全体の演技が終わったと思った段階から、彼の演技の本領が発揮されます。音楽も演技もスピードアップした逆再生が行われたからです。その中には、2カ所のトラブル部分もキッチリと含まれていました。落としたカードが床から上昇して手元へ戻り、倒れかかって元に戻したテーブルも、床の近くで手を離すと自動的に起き上がります。観客からは大きな歓声がわき上がり、もちろん多くのスタンディングオベーションとなりました。

3 韓国のC. S. Choiは怪奇現象のマジックです。ステージが画家のアトリエのような設定で、次々に不気味な現象が起こります。目に見えない魔物が、存在をアピールするかのような現象が起こります。かぶせていた布が少しずつ動いて床に落ちたり、筆を投げ捨てたのに手に戻ったりします。そして、描きかけの絵画に大きな異変が生じて終わります。ちょっとした映画のワンシーンを見ているようで楽しめました。

4 台湾のPo Cheng Lai は赤い大きな扇子を基本にした演技です。様々なカラーチェンジ現象や他の物体にもチェンジさせています。赤と白が半々の扇子が赤と白の二つの扇子に分裂したり、赤扇子が赤シルクになり、赤ステッキになるところでは大きな拍手が起こります。そして、ラストには超ジャンボの赤扇子を取り出してかっこよく終わっていました。

5 中国のSheldon Wang は多数のカラーカードのプロダクションです。マーカーテンドー氏の各指間でのプロダクションを両手で楽々とこなし、それを繰り返しています。また、真田豊実氏のサークルファンも両手で楽々と行っています。そして、取り出すたびに、毎回、違った色に変えています。普通のファンプロダクションも同様です。カードシューティングは両手でそれぞれ真上の天井に当たるように投げ上げています。それだけでなく、次にはステージのサイドから横方向へ2枚ずつ、ステージの中央では左右方向へ3枚ずつや4枚ずつも飛ばしていました。これらをほぼ完璧に行っているだけでなく、彼の面白い点は愛嬌のある独特の民族舞踊しながら演じたことです。音楽と舞踊が癖になる面白さがあります。しかし、切れのあるかっこよさがあるだけでなく、女性のような男性の演者で、不思議な味わいのある演技でした。残念なのは、全てにおいて完成度が高く魅了されたのに、オリジナル性が少なかったことです。もちろん、スタンディングオベーションが起こりました。

6 カナダのTrevor & Lorena Wattersは男女によるコミックタッチのマジックです。特に最後のイリュージョンがコミカルで大いに受けていました。上半分が横にずれるジグザグボックスで、中に入った女性が必死で元の位置へ戻そうとする点で受けていました。女性はわずかにポッチャリ体型ですが、その点がかわいくて愛嬌がありました。

7 スイスのNatalie & Eli は二人の女性による衣装チェンジです。手袋をシルクハットの中に入れて、カラーチェンジを繰り返すことから始まり、その後は二人で32回も衣装チェンジしていました。全体が華やかで、特にラストの派手さのある衣装へのチェンジで多くのスタンディングオベーションとなりました。ピープルチョイス賞も獲得する勢いも感じさせられました。ところで気になるのは、手袋はフランスのバレリーの方法であり、衣装チェンジの多くの方法はロシアのデビッド・アンド・ダリアの方法とほぼ同じであったことです。床には10カ所ほどに黒布が用意されており、その位置で下から筒状になった黒布で身体をカバーして衣装チェンジするパターンです。もちろん、途中の数カ所では違ったパターンのチェンジもあるのですが、コンテストへの出場であれば、それらの変わった方法をもっと増やすべきだと思いました。

上記以外の印象的なコンテスト出場者

1 日本のShun Shibuya(渋谷駿)さんはマイケル・ジャクソンの音楽と、彼の切れのあるダンスにあわせてマジックを演じられました。ボール、シルクの振り出し、CDのカラーチェンジやプロダクションをジャグリング要素を加えながらかっこよく演じていました。客席から多くの声援で盛り上がり、スタンディングオベーションもありました。今回のコンテスト出場者の中で最も若く、本来のIBM大会であればジュニア部門の出場となるところです。年齢的なことには関係なく、今回のコンテストではファイナルの7組に入る勢いがありました。マジックとダンスがうまく融合し、ジャグリングの部分も失敗することなく不思議な要素も加えて盛り上げていました。しかし、ダンスの部分がうますぎて、マジック以上に目立っていました。世界レベルのコンテストにおいては、ダンスに負けない、よりパワーアップしたマジック要素が必要なのかもしれません。また、今回の出場者全体のレベルが高すぎたのも決勝戦出場を逃した要因の一つのようです。本来のIBM大会であれば、ジュニア部門1位と、ゴールドメダル獲得に向けてのファイナル6への出場は間違いなかったと思います。

2 台湾のLee Ang Hsuanは、カラーカードのファンプロダクションやカラーのジャンボカードも使い、ボールの演技も加えられていました。技術的なうまさがあり、失敗もなく、全体をうまくまとめていました。各国でのコンテストでは1位になっても不思議でない実力を持っていますが、世界規模のコンテストとなると物足りなさを感じます。6年前の韓国のアン・ハリムの出現以降、カラーカードの使用が普及し、前回のFISMのYu Ho Jinで頂点を向かえた印象があります。彼らを超えるものか、違った内容で勝負しなければFISMでは高得点が得られない可能性があります。数年前には新しかったことが、今ではあたりまえとなり、時代の変化が急ピッチであることを痛感させられます。

3 米国のThe Reed Sistersは3人姉妹で、3人とも少し違った印象の鳩出しを行い、人体交換のイリュージョンも演じられました。3人とも鳩出しはうまいのですが、それほど新鮮さは感じられませんでした。気になったのが人体交換のイリュージョンです。姉妹で入れ替わっても衣装が違うだけで、顔がよく似た姉妹ですのでインパクトが少ない印象を受けました。全体的に華やかで、マニアの間では人気のある姉妹でもあり、多くのスタンディングオベーションとなりました。しかし、審査員の評価は厳しく、ファイナルには出場できませんでした。ただし、FISM選考北アメリカ出場者には選ばれました。

4 国名は分かりませんが、Eli Portellaも女性の鳩出しの演技です。The Reed Sistersのような華やかさはありませんが、各所に新発想が加えられていました。黒い服を着て地味な衣装ですが、鏡を使ったり、ヘアードライヤーを使って女性らしさをアピールしていました。ドライヤーが鳩になったり、背中を客席に向けて腰についた羽を手に取ると同時に鳩に変えたりと新鮮さがありました。すばらしいのがクライマックスです。鳩を入れた鳥かごに布をかぶせて取り上げ、布を頭からかぶりました。その結果、つばの広い赤い羽の帽子をかぶり、手には大きな赤い羽の扇子を持った状態となりました。そして、赤帽子の広いつばの部分より、白い鳩が多数出現して大歓声となりました。

クロースアップコンテスト決勝戦に出場した7名

1 カナダのShin Limは、テーブル上で演じるカードの魔法使いのようでした。独特な音楽に合わせて、テーブル上のカードに不思議な現象が次々に起こります。デックのトップを表向けるとスペードのエースです。その上をカラの両手を近づけた後、テーブルマットの上へ両手も持ってくると、マット上に残りの3枚のエースが現れます。各エースからクイーンとキングが出現し、その間にエースを挟んでマット上へ落とすとエースが消失しています。スペードのエースの下から3枚のエースが現れ、マット上にあった3組のクイーンとキングが奇妙な消え方をします。テーブルの手前エッジで4枚のエースを重ねて、両手で表を客席に向けて持っていると、ビジュアルに消えてしまいます。 デックのトップより4枚のエースが取り出され、この4枚のバックが青色から赤色に変化し、デック全体のバックも青色から赤色に変わります。4枚のエースをテーブル上で表向きに置いていますと、カードから煙が生じ、4枚ともブランクカードとなります。表があったはずのデック全体もブランクカードとなります。そして、デックが元の状態に戻った後、カードケースに変化し、直ぐにそのカーケースも消失して、テーブル上にはマットのみが残った状態となって終わります。もちろん、多数のスタンディングオベーションとなりました。

2 韓国のSoel Parkはペンとボールと一つのカップを使ったマジックです。メモ用紙が消えてはカップの下から取り出されます。ペンとボールが入れ替わったり、不思議な現象が次々と起こり今までになかった現象に圧倒されます。もちろん、多くのスタンディングオベーションとなりました。

3 米国のAlberto Lorenzoは、昨年のIBM大会のクロースアップで1位を獲得されており、昨年と同様のダイスカップとダイスの現象です。次々とダイスが取り出され、テーブル上にダイスの塔が形成されて大いに盛り上がります。もちろん、多くのスタンディングオベーションとなりました。

4 米国のReuben Morelandは、2年前のジュニアのクロースアップで1位を獲得しています。2年前に比べて容姿が見違えるほどに成人に変化していました。アメリカ式のけん玉のようなものを使用し、ひもの先に小さな赤玉がついています。日本のけん玉がビリヤードボールの大きさとすれば、彼のけん玉はカップ・アンド・ボールのボールの大きさの玉がついています。この玉がひもの先から消えて、カップの下から出てきたり、元のひもに戻ったりします。また、けん玉の妙技も見せています。その後、ダイスとカードを使ったダイスアセンブリーが演じられました。最後には4個集まったカードの下より4個が消失し、このカードがデックとなってリボンスプレッドされます。デックが入っていたはずのカードケースから4個のダイスが出現します。このダイスによるアセンブリーは、ドイツのマーティン・アイスレの得意芸として印象が強いのですが、部分的には変えているようです。彼も多くのスタンディングオベーションとなりました。

5 米国のMichael Dardant は、がま口とナイフとフォークと帽子を使い、客とのやり取りで楽しく演じていました。スティール製のボールも使い、ラストには帽子より巨大なスティールボールも出現させています。結構、笑いをとっており、スタンディングオベーションもありました。

6 アルゼンチンのMartin Braesserは、朝に起こった奇妙な出来事を基本にしています。ティーカップとティーパックとシガレットとライターを使っています。面白い発想のマジックであるのに、気になったのが最初の数10秒間です。朝のうたた寝状態を表現したかったためか静止したままの状態でした。その点が減点対象になるのではと心配しました。

7 米国のChris Hannibalは、マーブルチョコと筒状の容器を使ったマジックです。現象が小さいだけでなく、セリフが多く、私にはよく分からないマジックでした。

コンテスト全体より

ステージコンテスト28組のうちファイナル7に残ったのは5組がアジア勢でした。北アメリカではカナダの1組だけで、開催地のアメリカが入っていません。まだまだアジアの勢いが止まりません。受賞もステージでは日本の伝々さんと韓国のHun Leeとで分け合ったといった状態です。今回のステージコンテストでは新しい試みが加わっていました。ステージ上にいろいろとまき散らす演者の場合は、ステージの床に布を敷き、仮止めのテープで止めていました。素早く撤収できるようにするためのようです。特に中国のカードシューティングの出場者は、ステージの床全体がカードで覆いつくされていましたが、一気にステージ上がきれいになり、効力を発揮していました。

クロースアップはピープルチョイスとFISM選考北アメリカチャンピオンの両方をカナダのShin Limが獲得しています。しかし、I.B.M.とS.A.M.の1位も2位も獲得していないのが奇妙に思いました。ただし、これはFISM選考の審査員と、I.B.M.とS.A.M.の審査員が別で、審査項目も大きく異なることから生じた可能性もあります。例えばI.B.M.の場合、10項目の審査項目があり、それを考慮された演技をされていないと点数が大幅に低くなりそうです。オープニングがどうであったか、エンディングがどうであったかの項目もあったように記憶しています。クロースアップのアルゼンチンの出場者のように、最初の数10秒間を何もしていなければ、この項目の点数が0になる恐れもあるわけです。その点では、FISMでの採点項目が少なく、オリジナル性や観客の反応が総合点数に大きく反映されているように感じられます。今回は日本からの出場者は伝々さんと渋谷駿さんの二人だけでしたが、二人とも大いに活躍され、今後が楽しみとなりました。

おわりに

今回はコンテストだけでなくゲストショーも充実しており、特に最終日の韓国のマジシャンだけのショーには感激し、それだけでも値打ちがありました。ディーラーショップは50店舗が出店しており、最近のI.B.M.大会の中では大いににぎわっていました。特に嬉しかったことは、書店が3店舗とオークションハウスの店も本を並べていたことです。一つの書店では驚くほどの安値で販売されており、今回も多数買い込み、その点でも充実した大会となりました。


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