レナート・グリーンのスナップディールは驚きの技法です。このディールではカードをテーブルへ配るたびに次々とカードを消すことができます。これには天海パームではなくラテラルパームが使われています。しかし、この元になるベンザイスコップ "Benzais Cop"(J. B. Kard Kop)では天海パームが使われていました。これは1962年にハリー・ロレインにより発表されたものですが、その後のマルローの報告によりますと、ベンザイスコップはパーシ・ダイアコニスの考案でベンザイスに見せたものであったそうです。
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天海パームと比較されるものにリアパームがあります。それはクラシックパームの状態から、そのまま後方へ移動させたタイプのパームとなります。天海パームは手掌に対して90度近い角度があり、それまでになかった全く新しいタイプのパームといえます。かなり後になって発表されたラテラルパームも手掌に対し90度近い角度があります。しかし、親指は使わず、中指や薬指を使って保持している点で大きく異なります。
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スナップディールは配る時のスナップ音と多数のカードを消すことが出来るすばらしい方法です。そのためにラテラルパームが有効的に使われています。この方法だけの小冊子がトム・ストーンの解説により発行されていますが、クレジットする上で重要なベンザイスコップのことにほとんど触れていないのは問題に感じています。ベンザイスコップはスナップディールの操作とよく似ており、配る時のスナップ音がないことと、1枚だけの保持が中心です。その保持に天海パームが使われていました。ベンザイスコップを使った作品が最初に解説されるのは、1962年のハリー・ロレイン著「クロースアップ・カードマジック」ですが、この解説にも問題がありました。J. B. Kard Kopと名付けていますが、人物名のジョン・ベンザイスの名前がないだけでなく、その中で使われている天海パームの名前もありません。作品名を「ロレイン・チャレンジ」として、自分の名前だけが記載されているのにはあきれます。この解説では、配っている途中で、特定の位置の客のカードだけは配ったように見せているだけで、天海パームで保持することになります。その後も配り続け、ストップをかけられたカードといっしょに配っています。
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天海パームが最初に登場する文献は、戦時中のハワイで制作されたビル・ムラタ著 "Tenkai's Manipulative Card Routine" です。天海のオリジナルのステージのカード・マニピュレーションの本です。この最後に、1枚のカードを示して手がカラと思わせた後に、もう1枚取り出すところで使われています。この本では特別なサムパーム "peculiar thumb palm" と書かれています。興味深いことは、このパームに注目したのが、二人のクロースアップマジックの巨匠です。ダイ・バーノンとエドワード・マルローでした。
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1957年のバーノンブックで天海パームの名前が一躍有名になりますが、同年にはマルローが2冊の小冊子を発行しています。「サイドスティール」と "The Tabled Palm” です。いずれも親指の位置が左外コーナーから左サイド中央に変えられています。さらに、右外コーナーを親指に近い手掌に当てていた状態から、小指の延長線上の手掌に変わっています。これはこれで利用価値の高いポジションです。「サイドスティール」の冊子ではマルローパームポジションやマルローポジションと名付けています。これは天海パームと異なると書かれています。
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マルロー自身は天海パームを無視しているのではないようです。その後の文献を読みますと、天海パームを使った方がよい作品では天海パームと書いています。また、どちらでもよい場合には、天海パームまたはマルローポジションを使用と書かれていることもありました。しかし、多くの場合はマルローポジション(アングルパーム)を使っており、天海パームとは違うものだとの考えは固守していたようです。
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天海パームについて調べ始めた時に、アドバイスをして頂いたのが大阪の研究家の田中貞光氏です。天海パームに関係するベンザイスコップの話をされたのも田中氏です。これは私も大いに勉強になりました。また、手の小さい日本人にとって、クラシックパームだけでなく天海パームを研究することの有益性にもふれられました。手の大きいアメリカ人はクラシックパームは日本人より楽に行えます。日本人がブリッジサイズをパームするのと同じ感覚だと思います。手の小さいマリニーはリアパームを使っていたとの話ですが、手が大きくない天海氏だからこそ天海パームを生み出したのでしょうか。そして、スクリプト・マヌーヴァ社からバーノンDVDの日本語字幕版が発行されていますが、その第3巻の終わりから第4巻の最初にかけて天海パームの話をしているのも参考になるとのことでした。さっそくDVDを見ますと、本には書かれていなかったその後のバーノンの方法も紹介されていました。また、第4巻の最初には、バーノンが天海パームを使ったスイッチを天海氏に見せて驚かせた時の方法を解説されていました。
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