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コラム



第57回 輪ゴムマジックの意外な歴史と発展 パート2(2012.10.5up)

はじめに

前回のパート1では、クレイジーマンズ・ハンドカフを中心に取り上げました。そこで、今回のパート2では、それ以外の輪ゴムマジックを中心に報告します。まず、ダン・ハーラン考案の両手に橋渡しした輪ゴムの4本の平行線を使ったマジックから始めます。これには、現象の異なる2種類のマジックがあります。その後、古典的な指から指へ移動する輪ゴムと、ちぎった輪ゴムが復元するマジックの歴史と経過を報告します。しかし、その前に、私と輪ゴムマジックとの関わりから報告させて頂きます。

私と輪ゴムマジック

私が輪ゴムマジックで初めて面白いと思ったのは、福井哲也氏の「輪ゴムの色変り」です。大阪奇術愛好会が1979年に発行された "The Svengali No.17" に解説されています。全くの新しい発想で、一般客だけでなく、マニア相手にも通用する輪ゴムマジックに感動しました。その後の印象的な作品が、この後で報告しますダン・ハーランの「トラベリング・キャッシュ」です。1987年の箱根クロースアップ祭でマイケル・ウエバーが演じられました。その時の強烈な印象が目に焼き付いています。1993年には、ダン・ハーランがビデオ「バンド・シャーク」を発行され、多数の輪ゴムマジックに圧倒されます。しかし、それだけで満腹してしまったためか、その後、輪ゴムマジックに興味を持たなくなってしまいます。ダン・ハーランの3巻セットの輪ゴムマジックのビデオや、Joe Rindfleisch の輪ゴムマジックのDVDも手に入れましたが、資料として持っているだけでした。

それでも、昔から唯一演じ続けている輪ゴムマジックがあります。ハリー・ロレインの "Snap!" です。ちぎった輪ゴムが復元する現象です。即席で演じる場合に、輪ゴム1本があれば気楽に行えて効果も大きいマジックです。輪ゴムマジックに関しては、この1作品だけで満足していました。

再度、輪ゴムマジックに興味を持つきっかけとなるのが、2009年発行の野島伸幸氏のDVD "Impression 4thstage" です。箱根クロースアップ祭でも、それらの輪ゴムマジックを実演されました。知っているはずの現象が、ちょっと違っていたので、不思議さを強く感じてしまいました。また、2011年の台湾のハンソンの「タッチ」では、新しい現象に驚かされました。そして、今回のRRMCメンバーからの疑問が出されたことにより、よい機会ですので、歴史経過を調べてみることにしました。

ダン・ハーランの新発想の輪ゴムマジック パート1

2本の輪ゴムを両手の指に引っ掛けて左右に引っ張ると、4本の平行な線が出来ます。細長く折った紙幣の中央部分を、トップの輪ゴムに引っ掛けますと、紙幣が2段目の輪ゴムへ移ります。さらに、3段目、4段目と移り、輪ゴムや他にもあやしい点がないことを示して終わります。これには、ダン・ハーランの「トラベリング・キャッシュ」のタイトルがつけられています。ダン・ハーランが編集に加わっているマジック誌 "The Minotaur" の1988年11月発行のトップページに解説されていました。これは、第1号の前の発行で、無料配布されたもののようです。これが最初の発表と思っていました。他に発表したしたことも何も書かれていなかったからです。

ところで、奇妙なことは、ミスターマジシャンの根元タケシ氏の発行の「奇術傑作選 14」(アラカルト4)には、別のタイトルの作品が解説されており、それが最初とされていました。同じダン・ハーランの作品ですが、クリップを使っており、「アップ・アンド・ダウン・ザ・ラダー」のタイトルが付けられています。紙幣のかわりにクリップが使われているだけで、他は全く同じです。残念ながら、文献名の記載がありません。数年前に、このマジックの調査で、その文献を探したことがありましたが、見つけることが出来ない状態で調査を打ち切りました。このマジックと私との出会いは、1987年3月です。マジックランド主催「箱根クロースアップマジック祭」で、マイケル・ウエーバーが演じていました。87年9月の高木重朗氏のレクチャーでも、このマジックを紹介されていました。フロタ・マサトシ氏の場合は、1987年のFISMにおいて、オランダのマーコニックよりこのマジックを教わったことを報告されています。1988年9月の「ザ・ニューマジック」誌に「ジャンプするシール」として、その時の状況と作品を解説されていました。マーコニックのオリジナルではありませんが、原案者を聞き忘れたとのことでした。結局、1987年には、世界的にもマニアの間で一気に広まっていたようです。これらのことからも、1988年以前には、クリップを使った解説がある可能性の確信を持って再調査しました。1980年代中頃のマジック誌を徹底的に調べることにしました。その結果、IBMの機関誌「リンキングリング」の1986年12月号に解説されていることが分かりました。もちろん、ダン・ハーランの「アップ・アンド・ダウン・ザ・ラダー」のタイトルが付けられたクリップ使用の作品でした。

ダン・ハーラン以外の人物による関連作品と沢浩氏の「シソミド」

ダン・ハーランは下段へ移行させる物品に、クリップや紙幣を使って発表されました。その後、他の人物による作品がいくつか発表されています。1995年のダン・ハーランの3巻セットのビデオの3巻目には、グレッグ・ウイルソンによる「タイムゾーン」が解説されています。下段へ移行させる物品として腕時計が使われているだけでなく、この腕時計による、ちょっとした演出が加えられていました。2005年発行の Joe Rindfleisch の輪ゴムマジックのDVDでは、3本の輪ゴムを使って、6本の平行線を作って演じていました。しかし、最も面白いと思った改案は、1993年にマジックランドより商品化されて発表された沢浩氏の「シソミド」です。タイコード(ひもネクタイ)にも使用できるデザイン性のある伸びるコードと、タイコードの飾りとして使える長さ4センチ程の金属製の音符型飾りを使います。コードをループにして、特別な方法で両手の間に4本の平行線を作ります。トップのラインに音符を付けてもらい、「シ」と言います。次に「ソ」と言うと上から2段目へ移行します。同様に行って、「ミ」と「ド」と言うたびに下段へ移行します。輪ゴムのマジックと違って、パーティーのような多人数でも演じることが出来るしゃれたマジックになっています。

Yuji 村上氏とディーン・ディル

上記のマジックの関連作品で、もう一つの興味深い現象が、6月のRRMCで質問に出されたものと関係しています。それは、4本の平行線のトップに引っ掛けた物体が4段目まで下降し、その後、続けてトップまで戻る現象です。RRMCのメンバーの一人が、その考案者が誰かを知りたかったようです。Yuji 村上氏によりますと、ディーン・ディルが行っていたとのことですが、彼の考案であるのか分からないと解答されました。その1ヶ月後のRRMCの例会で、村上氏にディーン・ディルが行っていた方法を見せて頂きました。それと同時に、意外な事実が明らかになりました。ディーン・ディルが来日した時に、村上氏の独創的な輪ゴムマジックを彼に見せました。そうしますと、彼が大いに気に入り、上記の上下に往復する方法を教えるので、村上氏の作品を教わりたいとのことでした。この村上氏の作品が、その後、許可を与えて、ダン・ハーランの3巻セットの輪ゴムマジックのビデオの3巻目で解説されることになります。そのタイトルが "Yuji Murakami's Jump Switch" です。興味深いことは、それまでの村上氏は、Yuji 村上の名前を使ってはいなかったことです。このビデオで、間違った名前が使われていたことから、その後、この名前をマジシャン名に採用して使用されるようになったそうです。なお、上下に往復する方法が解説されたものは、まだ、見つけることが出来ていません。

村上氏の独創的な作品とは、人差し指と中指にはめた輪ゴムを薬指と小指へ移動させるマジックのクライマックスになる現象です。移動が困難なように見せるために、色違いの別の輪ゴムを4本の指先近くに絡ませる方法を使っています。本来の移動現象の後、この輪ゴムと指先に絡ませた色違いの輪ゴムが入れ替わってしまいます。不可能性の強いクライマックスです。意外なことは、この作品が「掌パーム」やその他の本で既に解説されていると思っていましたが、現在のところ、ダン・ハーランのDVD(第3巻)でしか方法を知ることが出来ません。私のマジックノートによりますと、1991年2月のRRMCでこの作品を演じられていました。

ダン・ハーランの新発想の輪ゴムマジック、パート2

ダン・ハーランが考案した輪ゴムマジックで、二つ目の話題作が「リンキング・ラバーバンド」です。前記の作品のように、両手の間に4本の平行線を作ってから開始しています。中央の2本のラインがX状にクロスしたり、元に戻る現象です。この最初の発表は、何故か、ダン・ハーランのオリジナルの解説ではありません。ミッチ・ウイリアムズの操作と手順、そして、マイケル・アマーが実際に行っている方法を紹介しています。後者は、客の指で中央の2本をつまませる演出を加えた解説で、これもダン・ハーランのアイデアとのことです。これらは、1989年発行の「マジカルアート・ジャーナル」Vol.2 の4、5、6合併号に解説されています。ダン・ハーラン自身の方法は、1993年発行のビデオ「バンド・シャーク」と、90年代に発行された彼のレクチャーノートに解説されています。いずれも、タイトルのトップに "Impromptu" が付けられています。彼が考案した最初の方法では満足できず、簡易化が出来たので発表されたのでしょうか。

リンキング・ラバーバンドに関しては、多くのマジシャンが改良作品を発表されています。今回、それぞれの違いが何であるのかを調べました。まず、登場するのがクリス・ケナーの改案です。マイケル・ウエバーに見せてビックリさせたことを報告しています。原案の原理を知っているマニアほど、驚きが大きいと思います。中央の2本をクロスさせた後、下側の輪ゴムを両指からはずして、上側の輪ゴムの中央でリンクしてぶら下がった状態にすることが出来るからです。本来の方法では、そのようなことは不可能で、中央の2本をクロスさせたり、元に戻すだけでした。彼の作品は、スティーブ・ビーム編集によるマジック誌「トラップドア」に発表され、それが、1990年発行の彼の輪ゴムマジックの小冊子に再録されます。さらに、1992年発行のクリス・ケナー作品集「アウト・オブ・コントロール」にも再録されています。しかし、この時には、大小の大きさの異なる輪ゴムを使っており、下側を大きな輪ゴムにして、ぶら下がる現象にしていました。ところで、クリス・ケナーの方法では、原案と大きな操作上の違いがあります。上側の輪ゴムで、ハリー・ロレインの "Snap!" に使う操作を取り入れたことです。それにより、この現象が可能となりました。1991年発行のマイケル・ウエバー著 "Life Savers" にも、クリス・ケナーとほぼ同様の方法が解説されています。また、1991年の「アポカリプス」誌6月号には、同様な操作をもっとシンプルにした Stan Hersch の方法が発表されていました。

これらに対して、原案の改案は簡易になり、分かりやすい解説のものが中心となります。その代表といえるのが、1993年発行の「マジックハウス 3号」に解説された二川滋夫氏の方法です。両手で同時に同じ操作を行っていますので、イラストを見ているだけで楽に理解できます。このことは、それまでの解説と比べて大きな違いと言えます。1994年のアルド・コロンビニの解説も、イラストで分かりやすくなっています。"The Close-Up Magic of Aldo Colombini" に発表されています。コロンビニも二川氏も、現象に追加されたアイデアがあります。上側の輪ゴムから一方の手をはなして、片手だけでつまんで、下側の輪ゴムとリンクしている状態を見せています。これは、クリス・ケナーの現象のように、下側の輪ゴムがぶら下がっているものとは逆転させた光景に近いものとなっています。コロンビニはクライマックスとして、さらに、面白い要素を加えられていました。1995年の Joe Rindfleisch の輪ゴムマジック作品集 "ELASTRIX Vol.2" には、2作品が解説され、新しい発想が取り入れられています。"The Jo-Dan Link" は、上記のように、上側の輪ゴムを片手でつまんで、下側の輪ゴムとリンクしているのを証明した状態から、そのまま何の抵抗感もなく分離させていました。"Remote Link" では、客の両手を使い、輪ゴムを両手の間で橋渡しさせた状態から開始していました。演者の手をそこへ加えることにより、中央の2本がクロスしたり元へ戻る現象です。客が持っている輪ゴムで現象が起こせるのがすばらしい点です。

古典的名作 ジャンピング・ラバーバンドの新展開

人差し指と中指にはめた輪ゴムが、薬指と小指へ飛び移るマジックは、古典的名作です。子どもには受けるのですが、残念ながら、大人向きとは言えません。種を知っているか、または、何故そうなるのかの見当がつくからでしょうか。スタンリー・コリンズが原案者で、1911年のイギリスのマジック誌 "The Magician Monthly" に初めて解説されました。その後、さまざまな改良が加わります。代表的なものは、色違いの2本の輪ゴムを使って、2本ずつ別の指にかけますが、お互いの輪ゴムが一気に入れ替わる現象です。これは、1921年に発表されています。また、別の輪ゴムを4本の指先に絡めて、その内側にある輪ゴムが抜け出しにくい印象を与える方法も、よく取り入れられています。これは、1926年(27年)発行の「ターベル・システム」に解説されていました。これが、1941年発行の「ターベルコース第1巻」に再録されます。話が外れますが、第1巻の中で作者名のある作品は、「ターベルコース」のために新たに加えられたものですが、それ以外は「ターベル・システム」の原稿とイラストが使用されています。

この分野のマジックで、予想外のクライマックスを作り上げられたのが、上記にも報告しましたYuji 村上氏の作品です。さらに、最近になって、このマジックで感銘を受けたのが、野島伸幸氏のDVD "Impression 4thstage" での方法です。「ターベルコース第1巻」を参考にしたと説明されていますので、さっそく、本の内容を確認しました。輪ゴムを2重巻きにして、メリハリのある動きにしていることや、片手だけで行う方法も解説されているのには驚きました。私は知っていることが書かれているものと思い、読み飛ばしていたようです。これは有名なマジシャンのオキトに見せてもらったとのことです。野島氏は、それだけでなく、本来であれば指を伸ばす必要がある部分を、ほとんど、指を握ったままで行えるように改良されていました。これだけでも、私の知っている方法と違っていて不思議です。さらに、私を悩ませるクライマックスがついていたのには驚きました。別の輪ゴムを4本の指先に絡ませた状態で、本来の現象を行った後、輪ゴムがその手から脱出して他方の手の指へ飛び移ります。マニアの場合、手から輪ゴムを脱出させるのが不可能であることを知っていますので、強い不思議さが生じると思います。

このマジックを別の分野に生かすことを提案されたのが、イリュージョニストのケビン・スペンサーです。2002年のIBM大会で、「治療に使えるマジック」としてレクチャーされました。マヒで動かすのが困難になった指を、1本の輪ゴムを使って、このマジックの現象が起こせるように動きを誘導していました。興味を持って動かすことに集中しやすくなり、治療に役立つといった内容のようでした。予想していた内容とは違って、この輪ゴムマジックだけのレクチャーで、1時間もかけていたのには驚かされました。しかし、指の機能回復訓練として、この輪ゴムマジックを使うのは、すばらしい発想の試みとは思いました。

ちぎった輪ゴム復元の新展開

私が演じている輪ゴムマジックが、ハリー・ロレインの "Snap!" だけであることは既に報告しました。1969年の "Hex" にハリー・ロレインの作品として掲載され、1971年のハリー・ロレイン著 "Reputation Makers" に再録されています。後者には、改案時の話が加えられていました。友人であるWalt Rollinsがレクチャーで行っていたものを、ロレインはテーブルの上で即席にセットが行えるように改良しています。Rollinsの作品が、何かに解説されていないかを探しましたが、見つかりませんでした。1972年のフロタ・マサトシ編集「ニューマジック」誌Vol.11, No.8 に「天海の輪ゴム切り」が解説されています。1964年頃の天海氏の作品だそうです。客にも輪ゴムを渡して、演者と同じようにちぎらせ、演者の輪ゴムは復元するのに、客のはちぎれたままといった現象です。もちろん、セットアップは古いタイプの方法を使っていました。天海氏は誰から影響を受けたのかは書かれていませんでした。1990年の "The Amazing Miracles of Shigeo Takagi" には、高木重朗氏の改案が解説されています。一度、輪ゴムを2本の指に巻き付けた状態で示し、その後、取り外してちぎる操作を行っています。1992年には、東京堂出版より日本語訳版が発行されています。

1995年に Joe Rindfleisch が、このマジックを大きく飛躍させて発表します。セットアップの操作が全く違う方法で行われ、復元がすばやくループ状となり、ビジュアル度が増します。小さな動きの中で行っていたセットアップを、輪ゴムを左右に大きく引っ張ったままで行えるように改良しています。1995年発行の Joe Rindfleisch の輪ゴムマジック作品集 "ELASTRIX Vol.2" に "!panS" のタイトルで発表されました。本の紹介の中でダン・ハーランは、"!panS" が一番のお気に入りであることを報告しています。そして、同年発行のダン・ハーランの輪ゴムマジック3巻セットの2巻目のビデオに、この作品を含めていました。変わったタイトルが付いていると思っていましたが、これは、ハリー・ロレインの "Snap!" を逆にしたものだと気がつきました。現象は同じでも方法は全く違うのですが、ハリー・ロレインに敬意を表したものだと思います。Joe Rindfleisch はハリー・ロレイン編集の「アポカリプス」誌に、それまでに多数の作品を掲載されています。カードやコインが中心で、一つだけ掲載された輪ゴムマジックがこの作品です。1995年5月号に "Snap Variation" のタイトルが付けられています。解説を書いたハリー・ロレインは、自分のマジックが原案であることを紹介しつつ、Joe Rindfleisch のこの作品をすばらしい改案とほめています。タイトルも "!panS" とはせずに、自分の作品のバリエーションとしている点がハリー・ロレインらしいと思います。

その後の面白い発想が、本当にちぎった輪ゴムの両端を結んで、その輪ゴムが復元する現象です。客に輪ゴムがちぎられ、これでも元通りになるのかとチャレンジされた場合に使えます。1995年のダン・ハーランのビデオの2巻目には、1作品が解説されていますが、基本的な発想の作品です。両端を結ぶときにすり替えています。それに比べますと、2009年の Joe Rindfleisch の「ジャンパー」のDVDは、かなり進化した作品です。結び目が外れたり元に戻ったりを繰り返し、最後には輪ゴムが復元して客に渡せます。数回の結び目が外れるたびに、輪ゴムが復元したように見えますので、いつの間にすり替えたのか分からないのも巧妙な発想です。

もう一つ、これまでの復元させる方法とは全く違った発想の作品が登場します。それが、Joe Rindfleisch の2005年のDVDと2009年の「ジャンパー」の両方ともに解説されています。これを最初に見た時は、間違いなくちぎったとしか見えませんでした。輪ゴムがたるんだままで、二重になっている部分がないのに、ちぎられ、それが復元します。以上の他、2005年の Joe Rindfleisch のDVDには、いくつかの復元の作品が解説されています。それぞれのアイデアは面白いのですが、準備が必要なものが多く、私好みとはいえませんでした。実践で使用するとなりますと限定され、好みも分かれますが、私がお勧めしたいのが野島伸幸氏の「レストア・バンド」です。2009年の彼のDVD "Impression 4thstage" に解説されています。最初の準備段階がすばらしいだけでなく、復元ではYuji 村上氏の助言によるアイデアも加えられており、完成度の高い作品となっていました。

ハリー・ロレインの "Snap!" は彼の作品とすべきか

なぜ、このようなことを調べる必要があるのか、不思議に思われるかもしれません。現在でも、その作品で特徴的なちぎるための準備の操作は、ハリー・ロレインのものとされています。それに異議を唱えるきっかけを作ったのはマーチン・ガードナーです。そして、それをそのまま受けとめて報告されたのがジョン・ラッカーバウマーです。彼はエド・マルローの多数の作品を紹介されただけでなく、1990年頃の彼は、間違った原案者となっているマジックに対して、それを正す活動を精力的に行っていました。1991年11月号のGenii誌には、ラッカーバウマーの "Convincing Snap!" が解説されています。その中で、ちぎった輪ゴム復元の歴史に触れています。1978年発行のマーチン・ガードナー著 "Encyclopedia of Impromptu Magic" の輪ゴムマジックのコーナーで、ハリー・ロレインのセットアップと同じ方法が解説されていることを報告しています。ガードナーの本では、それをインドのKuda Buxの方法とされていました。Buxは顔全体に布を巻き付けて透視するのが有名で、1981年に死亡しています。ラッカーバウマーの説明では、ガードナーの "Encyclopedia" の本は "Hugard's Magic Monthly" 誌の1951年から1958年まで連載されたガードナーの同タイトルのコーナーを再録したものとしています。そのことから、ラッカーバウマーはこのマジックも、その時に解説されていたものと思われたのかもしれません。そうであれば、Buxが原案者の可能性が高くなります。しかし、このマジックに関しては、そこには解説されておらず、78年のガードナーの本に新たに書き加えられたものであることが分かりました。イラストも全く違った人物ににより描かれたものです。ロレインの "Snap!" と同じセットアップのイラストとなっていますが、その方法でBuxから何年頃に教わったと書かれてあれば、混乱させずにすんだはずです。しかし、具体的な説明が全くないことが問題でした。前記しました1990年の高木重朗氏の本でもこのマジックの部分で、著者であるリチャード・カウフマンは、インドの方法を1978年のマーチン・ガードナーの本で知ることが出来ることのみ紹介していました。その後の興味深いことは、1993年に "Martin Gardner Presents"の本が発行され、輪ゴムと指輪のマジックで "Snap!" の操作を取り入れた解説があったことです。この本は東京堂出版から日本語訳され「マーチン・ガードナー・マジックの全て」のタイトルで2巻に分けて発行されています。その1巻目の本にこのマジックが解説されています。この操作のクレジットをどのようにされているのかに興味が集中しました。ハリー・ロレインにより1960年代に "Snap!" としてポピュラーとなり、"Reputation Makers" にも記載されていると紹介されていました。インドやKuda Buxの名前は書かれていませんでした。結局、このセットアップは、ハリー・ロレイン考案のものとしてもよさそうです。

前回の輪ゴムマジック・パート1への追記

前回のコラムで、山下裕司氏の輪ゴムの分裂と、ダン・ハーランのビデオでの方法との関係について報告しました。その後、パート2の記事の作成時に、もう一度、可能な限り再調査しました。その中で分かったことがあります。1991年1月号の「アポカリプス」誌に解説されたSammy Riningtonによる方法が、山下氏の方法とほぼ同じ内容でした。これを見たダン・ハーランが、少し違った方法で同じ現象が起こせるように考えて、ビデオに解説されたのではないかと思います。Riningtonはスエーデン在住のイギリス人で、「アポカリプス」編集者のハリー・ロレインが、彼の演じているのを見て気に入り、教わったそうです。彼独自で考案されたのか、誰かから情報を得て工夫されたのかよく分かりません。1980年代後半以降は、日本と世界とのマジックの交流が、よりいっそう盛んになっていましたので、山下氏のマジックが伝わっていた可能性も捨てきれません。

もう一つの作品でも追記したいことが出来ました。十字状にした2本の輪ゴムが1本になるマジックについてです。高木重朗氏が昔からフランスで知られていたと書かれていましたが、そのことは、1971年発行のハリー・ロレイン著 "Reputation Makers" からの情報であることが分かりました。"Snap!" の輪ゴムマジックの後で、十字状にするマジックの解説がありました。その前書きで、1900年頃のフランスの文献に解説されていると書かれていました。

おわりに

2回にわたり輪ゴムマジックの代表的な現象だけを取り上げましたが、これら以外の別の現象もいろいろとあります。カラーチェンジ現象や違ったタイプの貫通現象、そして、輪ゴムと指輪やデックを併用した作品等です。特にデックを使った作品に関しては、かなりの作品数があり、一つの分野として取り上げるべきと思っています。

今回の調査により、予想以上に発展していることが分かりました。そして、それには、日本人も大いに関わりを持っていることが興味深く感じました。特に関西の山下氏や岸本氏や村上氏が、1980年代より興味を持たれて、独自の輪ゴムマジックを考案されていたことを再認識しました。最近では、野島氏や台湾のハンソン氏の柔軟な発想が印象的で、今後も活躍を期待しているところです。


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