6月のRRMCの例会で、輪ゴムマジックのことが話題になりました。2本の輪ゴムを使った貫通現象(クレイジーマンズ・ハンドカフのタイトルで知られています)の特別な扱い方や、ダン・ハーランの両手の間に橋渡しされた2本の輪ゴム(4本の水平な線)のマジックの特別な方法についてです。ところで、1年前の6月のRRMCでは、台湾のハンソンによる新しい現象の輪ゴムマジックの「タッチ」で盛り上がっていました。演者の手に巻き付けられた輪ゴムに、客の手をタッチさせるだけで、輪ゴムが客の手へ移行して巻き付きます。さらに、今年の春に発行されたYuji 村上氏の "Heavy Rotation" の作品集では、輪ゴムマジックが2作品解説されていました。 |
何といっても1980年代の輪ゴムマジックの火付け役はクレイジーマンズ・ハンドカフです。マイケル・アマーがこのタイトルで演じ、1989年にはこのタイトルの解説書を発行しています。また、1986年にアメリカで放映された「デビッド・カパーフィールド・チャイナスペシャル」のTVで、カパーフィールドがこの輪ゴムの貫通現象を演じられ話題となりました。日本では1992年のNHKで放映されています。 |
上記のように、マイケル・アマーの本により、かなり詳しい初期の経過が分かりました。しかし、イギリスで最初に解説された文献名の記載がありません。また、原案とターベルコースでの解説の違いや、ザローの方法との違いも分かりません。幸運にも、これらの疑問の解答となる文献が見つかりました。1988年発行のカール・ファルブス編集のマジック誌 "The Chronicles" のNo.31と32です。原案が解説されたイギリスのマジック誌名を明らかにしただけでなく、その編集者のピーター・ワーロックから許可を得て、原案の解説を再録されていました。さらに、ザローの方法も解説されていました。ザローの方法では、2本が分離する方法を31号に、その反対のリンクする方法が32号に解説されていました。 |
日本語でこのマジックが最初に解説されたのは、ターベルコース第7巻の日本語版となります。1981年にテンヨー社より発行されています。マイケル・アマーは1980年11月と1983年10月に日本でレクチャーされていますが、私が受けた2回共このマジックをレクチャーされていません。ただし、レクチャー以外で演じられていたかもしれません。海外のマジシャンが日本でこのマジックを演じるのを初めて見たのは、1984年3月のマジックランド主催「箱根クロースアップ祭」においてです。マイケル・ウエバーが少人数に分割されたレクチャーの中で演じられました。ターベルコースの解説の印象とは異なり、あざやかに演じられていました。その時の方法がどうであったのかは覚えていません。また、同年のNHKの放映の中で、カール・アンドリュースが手順化して演じられていました。これは、アメリカのノーフォークで開催されたIBM大会の放映です。1985年発行の「ニューマジック」誌 Vol.24 No.3には、カール・アンドリュースの方法を見られた武田光一氏が、ターベルコースの方法と武田氏が改良された方法を掲載されていました。改良点は、リンクした状態で両手を少し引き離す操作を加えている点と、クリス・ケナーの解説のように右中指を輪ゴムの中へ入れている点です。 |
岸本氏の方法は、一般的に知られています方法と大きな違いがあります。クレイジーマンズ・ハンドカフの現象を実現させるための基本的な要素は、親指と人差し指で引っ張っている輪ゴムに、中指を秘かに加えていることです。そして、2本の輪ゴムをこすっている間に、いつの間にか分離している現象です。ところが、岸本氏の方法は、中指を加えずに、親指と人差し指だけで行っています。そして、輪ゴムの中央部分で、お互いに引っ張ってもはずれない状態から、一気に分離させています。ビジュアルな現象と言えるでしょう。 |
ダン・ハーランは、それまでに発表された輪ゴムマジックを、1993年には「バンド・シャーク」、1995年にはラバーバンド・マジックの3巻セットを発行されています。その後、それぞれがDVD化して発行されるだけでなく、2012年には、ラバーバンド・マジックの第1巻が日本語字幕入りで発行されています。この第1巻の最初の数作品が、「クレイジーマンズ・ハンドカフ」に関連した作品を取り上げています。2番目に解説されています "Mark Fitzgerald's Back Two-Gather" を見て驚きました。山下氏が1987年に解説されていた2本の輪ゴムをリンクさせるための方法と全く同じであったからです。ザローのリンクさせる方法に比べますと、一気に現象が起こせるために、不思議でインパクトがありました。ビデオでは、その作者は Mark Fitzgerald となっていましたが、発表されている文献があるのかを調べました。その結果、1989年のダン・ハーラン編集のマジック誌 "The Minotaur" 5月号、Vol.1, No.2 に解説されていることが分かりました。山下氏の発表の方が先ですが、シンプルで実践で通用する方法を研究すると、同じ結論に達するということでしょうか。 |
この現象に関わる少し変わった作品を紹介することにします。1991年のマイケル・アマーの本に解説されている方法が、1本の輪ゴムを客の両指の人差し指に引っ掛けて、左右に引っ張った状態にしてもらう方法です。演者の右親指と人差し指にはめた輪ゴムが、客の輪ゴムを貫通します。これは、ボブ・ジャーディンがバーで使用するかき混ぜ棒を客に持たせて、輪ゴムを貫通させていたことが元になっていると報告していました。 |
パート1はこれで終わりますが、1ヶ月以内にパート2を掲載する予定です。パート2では、ダン・ハーランの代表的な二つの輪ゴムマジックを取り上げます。また、古い輪ゴムマジックである指から指へ移動する現象と、ちぎった輪ゴムの復元も取り上げます。これらの古い現象が、最近では改良されて発展していることに驚きました。それらを含めて、私にとっての意外な発見を中心に報告させて頂きます。 |