カニバルカードとは、特定のカードをカニバル(人喰い人種)の設定にして、それらの間に挟まれたカードが、次々に食べられて消失するマジックです。サンドイッチカードの消失現象だけでは、不思議さはあっても物足りなさが残ります。しかし、カニバルのストーリーにより、面白さが加わっています。さらに、その中で使用されているギャグ的操作やセリフが、マジック全体を楽しく盛り上げています。
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カニバルとは人喰い人種のことをさしていますが、未開地(例えばアマゾン川流域)の部族を想定して演じると面白くなります。凶暴性のあるカードとして、剣を持った絵札の K(キング)や J(ジャック)をカニバルとして使います。また、その餌食となるのが、多くの場合、宣教師(ミショナリー)です。客のカードや特定のカードを宣教師として、カニバルカードの間にはさみ、食べられて消失してしまいます。餌食となるのは探検隊であってもよいと思うのですが、ストーリーに使われることは少ししかありませんでした。日本ではなじみの少ない話ですが、海外では宗教上、宣教師が犠牲となった話がよく知られていたようです。特にアフリカ大陸からの報告が多数あったことが報告されています。しかし、今日では、アフリカをはじめ多くの地域が変貌をとげ、カニバルのイメージがなくなりつつあります。現在において、このイメージに当てはめることが出来る地域は、南アメリカのアマゾン川流域となるのではないかと考えています。この地域も、実際には大きく変貌している可能性が高いのですが、私のイメージでは昔のままです。川にピラニアが生息していることが、カニバルの印象を強めているのかもしれません。
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ここでは、転換点となります重要な役割を持った作品だけを取り上げて、内容の概要を紹介することにします。「トイ・ボックス10号」では、ほぼ全ての作品を取り上げていますので参考にして下さい。
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1972年と73年にカール・ファルブスは、リン・シールスのカニバルカードを3作品発表します。しかし、原案のカニバルカードとは大きく異なる作品です。原案がこれに近い現象のように勘違いさせられます。これらは、リン・シールスが昔に演じていた情報をカール・ファルブスが得て発表したものです。2作品は、2枚の赤 J に挟まれた客のカードが消失し、デック中央の黒 J の間から出現します。残りの一作品は、2枚の赤 J の間に挟まれた黒 J が消失し、デックの中央で表向きに再現します。カニバルカードの演出があるわけではなく、2枚の J の間のカードが消失することだけがカニバルカードとの関連部分です。カール・ファルブスが勝手にカニバルカードのタイトルを付け、無理やり関連づけたとしか思えません。リン・シールスのカニバルカードが2枚の J を使っていたので、そのことに執着しすぎたようです。
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1.マイケル・アマー |
カニバルカードの作品が多数発表されましたが、そのほとんどにリン・シールスが原案者であることを記載しています。しかし、不思議なことに、その内容に関してまで言及している解説者がほとんどありません。原案の概要だけでも知ろうとしましたが、お手上げ状態でした。原案について触れている場合でも、ギャフカードを使ったパケットマジックであることぐらいです。現象だけでも原案の内容が紹介されてもよいと思うのですが、不思議でしかたありません。
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原案の現象を知った時にはビックリしてしまいました。思っていた以上の驚きの現象であったからです。カードが消失したり復活したりするだけでなく、切手や輪ゴムや小封筒も食べて消すことが出来ます。しかし、それとは反対に、演じる気にはなれない作品です。パケットによるセルフワーキングマジックであることも意外でした。同じ操作を繰り返して一つの現象が起こります。それだけでなく、それと同じ操作を延々と繰り返して、次々と別の現象を起こしていました。2枚の J と数枚のブランクカードだけが使われているように見せています。この現象に興味を持ったマジシャンやマニアは、別の操作方法に作り替えたいと思うのが当然です。その後に登場します数々の作品には、これと同じ原理を使ったものが一つもありませんでした。奇妙なことは、それらを解説した文献には、原案の内容について、ほとんど触れていなかったことです。現象ぐらいは記載してもよいと思うのですが、不思議でしかたありませんでした。たぶん、原案の商品を持っていなかったり、内容を知らないからのようです。この商品はほとんどの店で取り扱っていなかったのではないでしょうか。実演したからといって、売れるようには思えません。発売当時に、マジック誌の広告を見て、郵送で手に入れたマニアぐらいしか、持っている可能性がなさそうです。そのような理由で、発売して数年後には忘れられた存在で、原案を知っているマニアが少なかったと考えています。
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マット・コリン(71年)、ウェズリー・ジェームズ(76年)、ピーター・バイロー(76年)の3名が、ほとんど同じ操作方法の作品を発表しています。これが、世界的に大きな反響を呼ぶポピュラーなカニバルカードとなります。そして、ウェズリー・ジェームズが、この方法は自分が最初であると主張しています。このことの調査結果を、まず最初に報告します。
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最初にチューイングムーブを使った解説は、71年のマット・コリンの作品に登場します。この時は、バイローのチューイングムーブと書かれていました。これ以外でバイローの名前が書かれていたのは、76年のバイローのカニバルカードと81年の Racherbaumer のカニバルカードぐらいです。3作品とも、Racherbaumer が解説を書いています。76年にウェズリー・ジェームズの作品が解説された時に、このムーブは原案のリン・シールスの時から使われていたと反論しています。それ以降、誰の名前も書かれない傾向となりました。ところで、今回、リン・シールスの原案の解説書を読んだところ、チューイングムーブは使われていませんでした。ウェズリー・ジェームズが間違っていたことが分かりました。
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今回の調査により、多数の作品を読みました。その結果、一般客に演じる場合、私の選択では、ポピュラーとなったチューイングムーブやアスカニオ・スプレッドを使う作品か、それに、Apex Ace が加えられた作品で十分だと思いました。今回の調査により、予想外のことがいくつか分かり、調べるのが楽しくなりました。チューイングムーブのカードの差し込み方が変化していたり、アスカニオ・スプレッドがカニバルダンスとして使われていたりしたことには驚きました。
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