2003年頃から、フラリッシュの世界が、大きく変わってきたように感じられます。それまでのフラリッシュの歴史を振り返ってみますと、フラリッシュ賛成派と反対派の意見の対立があったことが印象的です。 |
フラリッシュは、辞書によりますと、「華やかに〜する」、「見せびらかす」等の意味があります。様々な方法がありますが、共通しているのは、不思議な現象を見せるためのテクニックではないことです。フラリッシュはオープンでビジュアルであり、華やかさや面白さを見せてくれます。その反面、器用さを誇示するものにもなりかねません。そして、そのマジックが、手の器用さだけによりなりたっていると、客の考えを誘導させてしまう恐れもあります。多くを行いすぎますと、マジックよりも、ジャグリングの印象が強くなります。 |
2002年には、Jerry Cestkowskiが、500ページ以上の、カード・フラリッシュの百科事典を発行されています。そして、2002年の終わり頃より2003年にかけて、いくつかのカード・フラリッシュのDVDの登場となります。また、インターネットの動画により、何名かのフラリッシュの演技を見ることが出来る時代となってきました。さらに、2003年のGenii誌10月号には、フラリッシュ界の注目の兄弟Dan and Daveによる、24ページにもおよぶ特集が組まれました。 |
このSybilが、今日のブームのきっかけとなったのではないかと思っています。これまでにも、各種のトリプル・カットやマルティプル・カットが発表されてきていますが、このSybilほど心をときめかされたカットはありません。両手の指先の間で、デックが4分割されるのですが、その後、各パケットの数回の入れ替えが行われます。この入れ替えの動きが魅力的なのです。パケットの180度方向転換も加えられた動きが入ります。このSybilと、その発展形について、少し具体的に報告したいと思います。 |
2006年のFISMのグランプリとして、ステージ部門ではフランスのPilou、クロースアップ部門ではアメリカのRick Merrillが獲得されました。Rickは、2004年のI.B.M.大会においても、クロースアップの1位を獲得されています。テクニックのうまさ、楽しい演出、そして、クライマックスの意外性や盛り上げ方のうまさを感じました。その時の演技内容の一部分を、私のコラムの2004年I.B.M.大会報告において紹介していますので、参考にして頂ければと思います。 |
Brian Tudor |
私の知っている範囲では、5本のビデオ(DVD)を発行しています。1999年に"Show Off"、2001年に"Show Off 2"、2003年に"Generation X"、2004年に"Heckler"、その後、"Card Sharp"が発行されています。この5本を見ていますと、彼は、今後の進むべき方向を、模索しているのが感じられます。最初の2本はフラリッシュのみです。次の2本は、フラリッシュを取り入れた、スピーディーでビジュアルなマジックが中心です。そして、最後の5本目は、カード・ギャンブルのイカサマ・テクニックのDVDです。 |
Dan and Dave Buck |
双子の兄弟で、Buck Twinとも呼ばれています。マルティプル・カットや、フォーエース等の同数の4枚を一気に出現させてのディスプレイに、感動的なうまさがあります。操作のなめらかさでは、トップクラスです。そして、それらに関しての多数の方法を発表しています。 |
Jerry Cestkowski |
通称、フラリッシュマンと呼ばれています。ホームページのURLも、その名称が使われています。2002年に、カード・フラリッシュの百科事典を発行し、さらに、De'Voと共に、DVDの発行やフラリッシュの普及活動を行っています。2004年には、De'Voと共にビギナー用のDVD"Xtreme BeginnerZ"を発行しました。 |
De'Vo |
顔や声も年齢も分からないことばかりの、謎の人物です。今までになかった斬新な発想のフラリッシュを、次々と発表しています。バランス芸が多いのも特徴です。指先でカード・ファンをささえて、掌上で浮いているように見せたり、カード・ファンのエッジの上に、さらに、ファンを乗せてディスプレイしています。また、手背に乗せたカード・ケースから、片手だけでデックを取り出したり、手背のデックを鮮やかな方法でファンに広げています。これは必見です。これらや前記のSybilの改案は、2003年のDVD"Cradle to Crave"に解説されています。さらに、2004年には、「コブラ・コレクション」のDVDを発行しています。片手だけでコブラの頭を形作り、手背に乗せたパケットを落下させて、指先のコブラの口で、ガブリとかぶりつくフラリッシュです。 |
Capaso Casino |
いくつかのパケットに分割して、ディスプレイするカットのフラリッシュを得意としています。その中で、私の気に入っていますのは、両手ですばやく横に5分割する「ブリッジ」です。動きが面白くビジュアルで、何かのマジックに応用したくなります。残念なのは、これらのように、単に分割するだけでは、マジック的要素が少ないことです。 |
前回のコラム(2006年I.B.M.大会報告)でも報告しましたように、チャーリー・フライのジャグリングのすばらしさと面白さ、そして、マジックを演じた場合のうまさには感激させられました。そのチャーリー・フライのDVD"Eccentricks"が3巻も出ていることが分かりました。2001年、2004年、2006年に発行されています。DVDは3巻共に、クロースアップからステージのマニピュレーションまで、ギャグを交えながら、コミカルにマジックとフラリッシュ、そして、ジャグリングが演じられています。全てがすばらしいのですが、その中でも、私には印象的な、二つのジャグリング要素との組み合わせだけを紹介したいと思います。 |
2002年12月の「トイ・ボックス 6号」では、利点・欠点・注意点を数項目ずつにまとめて、説明を加えています。ここでは、その中から、注意すべき点の、特に代表的なことだけを書いておきます。フラリッシュを強調させながら見せないこと。多くやりすぎないこと。メンタル・マジックや不思議さを強調させたマジックを演じたい場合は、フラリッシュはしない方がよい。以上の3点があげられます。 |
「トイ・ボックス」の中では、フラリッシュの賛否についての結論は出していません。状況により異なることが多いからです。ここでは、プロとアマチュアとでの違いと、ダイ・バーノンとフラリッシュの関係についてのみ、報告したいと思います。 |
不器用に見せた方がよいといった極端な意見を書いていたのは、1969年のHenning Nelmsの「マジック・アンド・ショーマンシップ」です。この本自体は、フランス語やスペイン語にも翻訳され、多くのマジシャンに読まれた、影響力のある本です。そして、彼は法律家で、劇場ディレクター、作家、アマチュア・マジシャンであります。 |
今回は、最近の状況と、100年近く前の文献での考え方も含めてしまいました。最近のフラリッシュの状況や、ジャグリングとマジックのコンビネーションは、一時的な波でしょうか。あるいは、今後、さらに発展してゆく分野となるのでしょうか。興味のあるところです。また、現在の状況をみていますと、フラリッシュの賛否の問題は、過去の問題のように思えてしまいます。しかし、この考え方の対立は、根強く残っていそうです。今後の動向を、見守ってゆきたいと思います。 |