私の頭にガツン!と一撃を加えたマジシャン、それが、アレックス・エルムズリー"Alex Elmsley"です。これは一度だけではありません。何度もです。つまり、何作品もです。そして、今回、もっとも強い衝撃を受けてしまいました。エルムズリーが亡くなられたからです。2006年1月8日、76才でした。 |
エルムズリーを紹介しています記事の多くには、彼が考案した代表的なものとして、エルムズリー・カウントとフェロウ・シャフルの数理原理、そして、次の四つのカード・マジックをあげています。「ビトウィーン・ユア・パーム」、「ダイヤモンド・カット・ダイヤモンド」、「ポイント・オブ・デパーチャ」、「1002番目のエーセス」です。上記以外では、意外な結末で面白い発想の「カップ・アンド・ボール」や、究極のパケット・トリックともいえる「ダズル」、そして、商品となった"Fate's Date Book"を加えている記事もあります。 |
私は、本来、セルフワーキング・マジックが好きではありませんでした。というよりも、大嫌いであったと言った方がよいかもしれません。このことは、2004年の「パーム 22号」にも書かせて頂きました。特にダウン・アンダーは、その代表といえるものです。どうして、このような時間のかかる儀式のようなことをする必要があるのか、不思議で仕方ありませんでした。初心者用に、パズル的なものを代用しているのかと思わざるをえませんでした。こんなのを見せられると、マジックと聞くだけで、見るのを拒否する人が増えるのではないかと危惧してしまいます。 |
エルムズリーは多数の作品を発表されています。そして、そのほとんどが、完成度の高い作品です。多くのマジシャンにより改案されていますが、たいていの場合、改案になっているとはいえません。たいした改案でなかったり、改悪になっている場合もあります。それほどに、エルムズリーの作品は、よく考えられているのです。 |
毎年春には、箱根において、マジックランド主催のクロースアップの大会が開催されています。1997年4月、この大会のゲストとして、エルムズリーが来日されました。本人の演技を見て、思っていた以上のうまさと不思議さをあじわいました。そして、予想外の印象に残ったことがあります。各指の間にカードを出現させるマニピュレーションを演じられたことです。マーカー・テンドー氏が演じられている現象に近いものです。ただし、増やす方法が違っていることと、片手だけでは3枚までしか増やすことが出来ません。4枚目だけは、他手で出現させて、残った指の間にはさませています。これをエルムズリーは、楽しそうに演じられていました。 |
エルムズリーは、2回もマジックとのかかわりから離れていました。しかも、その空白期間は、かなりの長期にわたります。エルムズリーの最初の登場期間は、1949年(20才)〜1959年(30才)までで、各種のマジック誌に、次々とオリジナル作品を発表されています。彼の代表的作品のほとんどは、この期間に発表されたものです。 |
1991年に"The Collect Works of Alex Elmsley Vol.1"が発行され、94年にはVol.2が発行されています。どちらも、著者はスティーブン・ミンチで、400ページを超える厚い本になっています。 |
1997年にビデオ4巻、そして、同じ内容で、2003年にDVD4巻が発売されています。各マジックについて書きたいところですが、かなりの量になりますので、印象に残った点だけの報告とさせて頂きます。 |
ビデオには、1950年代のエルムズリーの代表的カード・マジックが4作品とも実演されています。この4作品は、多くの人により、様々な改案が発表されています。しかし、上記でも触れましたが、本当の意味で改案となっているのは少ないといってもよいでしょう。ところで、ビデオでエルムズリーが演じている方法は、本と比べますと少しずつ違いがみられます。そして、それらが私にとっては、納得のゆく改案となっています。「さすがは、エルムズリー!」と言いたくなります。 |
1996年には、コンピューターを使ったマジックとして「マウス・マジック」が発売されています。作品集としては、1996年のラスベガスでのレクチャー・ノートに8作品、そして、1998年度版"Come A Little Closer"には3作品の新作マジックが発表されています。その他、イギリスのマジック誌やアメリカのGenii誌にも、時々、作品が掲載されています。最近のGenii誌では、2005年8月号に「四次元カード」のタイトルで、ビジュアルな小品が解説されており、2006年2月号には、「コスキー・スイッチの改案」が発表されていたところでした。 |
ダイ・バーノンは98才で亡くなりましたが、エルムズリーは、まだ、76才です。そして、まだまだ、新たな作品を発表している最中でした。その点が悔やまれます。しかし、これまでに多くのすばらしい作品を、我々の為に残されました。そして、何度も繰り返しますが、ほれぼれするメカニズムの原理を残して頂きました。今後、これを大いに活用して、すばらしい作品を作る決意を新たにしたところです。 |