ゴムシート(デンタル・ダム)を貫通して、透明グラスに入るコイン・トリックには、大いなる驚きと感動を与えてもらえました。そして、昭和40年代、私には欠かせないトリックの一つとなっていました。その当時、かなりのゴムシートを使い果たしたように記憶しています。 |
2005年11月20日に、I B M大阪リング・大阪奇術愛好会主催による「クロースアップ・マジックの集い」が開催されました。久しぶりの開催であるだけでなく、そうそうたるメンバーが出演され、会場は熱気に包まれると共に、大いに盛り上がりました。そういった状況で、金沢から出演された山崎真孝氏も不思議で楽しい作品を演じられました。そして、その中に、ゴムシートによるコイン貫通のトリックも含まれていたのです。 |
2001年4月、私が所属していますマジック・クラブ「 R R M C」において、村上欣隆氏がこの現象のトリックを演じられました。興味深いことには、山崎氏が演じられた方法とは別の方法により、自動的にコインが貫通する現象でした。ただし、こちらの方法では、特別な仕掛けを必要としないかわりに、貫通しはじめる部分までは指を使っています。その後は指をはなして、自動的に貫通してゆきます。ゴムシート自体の弾力性の問題が大きく関係しているために、この現象が可能なようにいろいろと工夫されたようです。 |
1969年 Ibidem 34&35には、チャーリー・ブラウンによる「ダム・ユー」が解説されています。ゴムシートの上にクォーター(25セント・コイン)が乗っており、その上にニッケル(5セント)、そして、その上にダイム(10セント)が乗っています。トップのダイムを手に取って、他のコインの上を軽くたたくと、ダイムがグラスの中へ貫通して落ちます。次に指先でニッケルの上を押さえると、クォーターがグラスの中へ入ります。そして、ゴムシートの上にはニッケルだけが残ります。 |
この2001年だけは、R R M C にとって特別な年でもありました。毎回発行される通常の R R M C ニュースとは別に、「裏 R R M Cレポート」と呼ばれるものを、毎回発行していたからです。月2回、各会員が発表した内容の詳細と、少し辛口(甘口?)のコメントに、そのマジックに関する簡単な歴史や原案者名も調べて報告していました。そして、そのレポートの中で、村上氏が演じたゴムシートのコイン貫通の原案者をルーバー・フィドラーと書いたのでした。 |
かなり以前に、ルーバー・フィドラーがゴジンタ・ボックスの考案者だと知り、驚くと共に納得もしてしまいました。そして、その頃、ゴムシートのコイン貫通のトリックも彼だという話を聞いたつもりでいました。1999年2月号の Genii誌には、テンヨーの新製品についてカウフマンが書いた記事があります。そこには、ルーバー・フィドラーについても触れられており、デンタル・ダム・トリック、ゴジンタ・ボックスの考案者として紹介されていました。そこで、R R M C のレポートに考案者名を決定して書いてしまったわけです。 |
やはり、ルーバー・フィドラーが原案者であることが分かってきました。インターネットにおける Genii Forumで2003年2月に次のような質問が提出されました。「デンタル・ダム・コイン・ペネトレーションは、ルーバー・フィドラーにより発明されたと聞いていますが、このことを確定したり、その年月日を特定することが出来るのでしょうか」といった内容の質問です。これに対して、リチャード・カウフマンは、このトリックは1950年代後半に、ルーバー・フィドラーにより考案されたと述べた上で、ダベンポートがイギリスでの権利を買い取り、その時より商品として販売していると答えています。また、アメリカのいくつかのディーラーにも権利を売ったことを述べています。 |
結局、原案者がルーバー・フィドラーであることがはっきりしたわけですが、まだ、すっきりした思いにはなれません。アメリカの文献で、このトリックの原案者に関する記載が、あまりにもなさすぎるからです。それに近い状態の記載が、フィドラー自身のレクチャーノートと1999年のGenii誌だけであったからです。もっと、きっちり書かれたものが存在するはずだと思います。その可能性が高いのは、アメリカでこのトリックが出回り始めた頃の文献と思われます。そこで、もう一度、調べなおすことにしました。 |
このトリックの原案者については、最近になるまで、海外の多くのマニアにおいても知られていなかったのではないかと思います。一部のマニアか関係者だけが、知っていたといってもよいのかもしれません。このようなことは、このゴムシートのトリックだけではありません。最近になって、原案者が明らかになったり、間違って伝えられていた考案者についての訂正が書かれるようになってきています。今後も、こういったことは、出来るだけ紹介してゆきたいと思います。 |