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コラム

第10回 「3本ロープ」の歴史と変化 (2003.8.2up)

「3本ロープ」を今回のテーマに選びました。これは「プロフェッサーズ・ナイトメア」とも呼ばれています。この「3本ロープ」の最初の頃の歴史とその後の変化・発展を調べましたので報告したいと思います。

2001年の末に「3本ロープ」の各種方法について可能な限り調べたことがありました。そして、一定度まとめることが出来ました。しかし、「3本ロープ」が考え出された初期の頃のことは不明な点が多く、すっきりしませんでした。その後、幸運なことに“MAGIC”誌の2002年8月号に“Before It Was a Nightmare”というタイトルで、初期の頃の歴史が書かれておリ、大いに参考となりました。さらに、2003年に入って、不明であった点を解決するための文献が数冊手に入りました。まだまだ不明な点はありますが、今の段階でのまとめの主要部分を報告させていただきます。

「3本ロープ」の基本的な現象は、長さの異なる3本のロープの両端を引っ張ると、3本共同じ長さになり、そして最後には、元の長さに戻るというものです。日本において、「3本ロープ」が解説されているものとしては、1976年の高木重朗著「ロープ奇術入門」(日本文芸社)が代表的です。この本に数作品が解説されています。なお、この本は1987年に一部分のみ内容を変更して、東京堂出版より「ロープマジック」として発行され、現在でも書店で購入することが出来ます。この本の中で最初に解説されています「3本ロープ」の作品は、「教授の悪夢」のサブタイトルが付けられた基本的な現象のものです。そして、そこには、ヘン・フェッチ(Hen Fetsch)の原案をポール・ヤングが改案し、物語はゴードンが作ったものであることが記載されていました。そこで、ヘン・フェッチの原案とはどのようなものであったのか。そして、「3本ロープ」はどのように変化・発展していったのかも興味を持って調べたくなりました。

少し調べ始めただけで、意外なことがいくつか見つかりました。初めの頃の文献では、ヘン・フェッチが原案者であると書かれているものがいくつかありましたが、最近では、Bob Carverが原案者として記載されているものが多くなっています。特に1979年のダン・ガレットのレクチャーノート“Teasers And Tricklers”(日本語版レクチャーノートは1988年にマジックランドにて発行)には、原案者がBob Carverであることを強調されているだけでなく、この作品はマジック界における最も無断借用されたマジック商品であることも述べられていました。このことについては、少し後で詳しく報告したいと思います。

次に不思議に思いましたのは、マジックの百科事典と呼ばれています「ターベルコース」には1作品も解説されていないだけでなく、“Abbott's Encyclopedia of Rope Tricks”の1〜3巻のいずれにも解説されていなかったことです。このことについてまもなくして分かりましたのは、「3本ロープ」のマジックは発表されて、まだ50年程しか経っていなかったことです。Gene Gordonのマジック・ショップより「プロフェッサーズ・ナイトメア」として商品化され発売されたのが1959年であることが分かりました。私は「3本ロープ」は100年以上も前から演じられている古典的な作品だと思っていました。結局、「ターベルコース」を調べても解説されていなかったわけです。かなり後で発行されました第6巻ですら1954年の発行であったからです。なお、ターベルの死後から12年たった1972年にハリー・ロレインにより7巻目が書かれましたが、そこにも解説されていませんでした。“Encyclopedia of Rope Tricks”に関しては、第1巻は1941年発行なため不可能でありますが、第2巻は1969年発行であり、第3巻は1980年発行であるにもかかわらず解説されていないのが不思議です。

さらにもう一つ意外なことが分かりました。「3本ロープ」という名称です。アメリカでは「プロフェッサーズ・ナイトメア」(教授の悪夢)と呼ばれていることは知っていましたが、正式には「スリー・ロープ・トリック」とでもいった名称があるものと思っていました。ところが、「3本ロープ」は日本だけで使用されている名称のようです。イギリスでは“Equally Unequal Ropes”と呼ばれることが多く、アメリカでもその名称が使用されることがあります。このことは今回初めて知ったことでした。この名称を初めて使ったのはDr.ハーラン・ターベルの可能性が高そうです1959年5月にイギリスでレクチャーを行った時に、この名称を使用して、このロープトリックもレクチャーされたようです。そして、イギリスのマジック誌“GEN”の1959年6月号と7月号にはDr.ハーラン・ターベルが紹介して有名になった“Equally Unequal Ropes”として、イギリスのマジック・ショップの商品広告が掲載されています。「プロフェッサーズ・ナイトメア」の商品販売元でありますアメリカのGene Gordonには無断で行われたことのようです。その年の“Genii”7月号のGordonのコラム“Without the Shuffle”ではこのことについての苦言を述べられています。ターベルが亡くなられた1960年6月より約1年前の出来事になります。なお、ニューヨークのマジック・ショップのルイス・タネン社の1960年度版のカタログを見ますと、「プロフェッサーズ・ナイトメア」という名称で販売されていますが、広告文はイギリスでの文面とまったく同じでDr.ハーラン・ターベルの名前のみが書かれています。このマジックがターベルの作品のように誤解してしまいそうです。

ところで、この「3本ロープ」の原案者については、最初の段階から問題があったわけです。前記しました“MAGIC”誌の8月号によりますと、1950年代中頃には、Bob Carverはこのロープ・トリックを考え出されていたようです。それは、ヘン・フェッチが1943年に商品化された“Quadropelet”と呼ばれるロープ・トリックの最初の部分からインスピレーションしたものだそうです。このトリックを彼の仲間であるBill Spoonerに教え、その人がポール・ヤングに見せたということです。ポール・ヤングは1957年?のMAESコンベンションでこのトリックも含めて演じ、賞を獲得し、1958年にディーラーであるGene Gordonへこのマジックの売り込みにきました。Gordonはヘン・フェッチのマジックの最初の部分と同じ操作があることを指摘しましたが、マジック商品としては重ならないだろうとして買うことを決めました。皮肉にも、この年にBob CarverはIBM大会のオリジナリティー・コンテストに出場して、マニピュレーション部門の2位を獲得しました。Gordonが物語を加えて「ポール・ヤングのプロフェッサーズ・ナイトメア」として売り出したのは、その翌年の1959年になります。数年後に、Gordonの元へCarverから商品化されたロープマジックは自分が考え出したものであるといった内容の手紙が届けられます。Gordonはいろいろ聞いてまわった結果、Carverを信じることにして彼の名前も明記することにしました。“MAGIC”誌にこの投稿をされたのは、Bob Carverの学生時代からの友人です。そして、この原稿の中でのGordonにかかわる部分に関しては、1980年の“Gene Gordon's Magical Legacy”の中の記述から抜粋されています。ここにはもう少しだけ詳しい内容が書かれていますが、長くなりますので割愛します。

さて、ここで気になりますのは、やはりヘン・フェッチのロープ・マジックです。最初に調べ始めた時の文献で、ダン・ガレットのレクチャーノートには、ヘン・フェッチの2本のロープ・ルーティーンにヒントを得たとありましたので、ヘン・フェッチは3本のロープを使っていなかったのかと思っていました。しかし、その後の文献で分かりましたのは、2本ロープ・ルーティーンは間違いで“Quadropelets”という4段構成のロープ・トリックであることがわかりました。これの第1段は長さの異なる3本のロープを使ってマジックが始められています。但し、セットされた状態で、後は両端を持って引っ張るだけで同じ長さにすることが出来ます。そして、3本がバラバラであることをカウントして示します。第2段は、1本を横におき、残った2本だけを使用して、タネの部分にハサミを当てて切ることにより、1本に繋がった現象となります。

結局、ヘン・フェッチの方法と比較しますと、Bob Carverの功績は長さの異なる3本のロープをセットしていない状態から始めて、同じ長さにするための方法を考え出したことと、3本ロープだけの独立した効果として完成させたことだといえます。なお、“MAGIC”誌にはCarverのセリフが書かれておリ、組織には3つのタイプの人間がいるという話から始まっています。そして、3本が同じ長さになった状態で話が終わるようになっています。つまり、Carverの方法では元の長さに戻る現象はなかったのか疑問が残ってしまいました。また、ポール・ヤングの方法は元の長さに戻していたのでしょうか。そして、もっとも大きな疑問に感じましたのは、最近では原案者をBob Carverとしている文献が多くなりましたが、ヘン・フェッチの名前をなくしてしまってよいのかということです。私は2人の名前を連名にしてもよいのではないかと思ってしまいました。

「3本ロープ」の基本現象は、最後に元の長さに戻るものとしましたが、その後、各種の変化現象が発表されました。代表的なものとして、同じ長さになった3本のロープが1本のロープになってしまうものや、途中で同じ長さの2本のロープになる現象が加わった後で、1本のロープになるものです。その他に様々の試みが発表され、それぞれに価値のある内容になっています。それらの現象を一つずつ紹介したいところですが、かなりの分量になりますので、ここでは割愛させていただきます。ただ、言えますことは、本来の基本的な現象が時代遅れになったわけではありません。基本現象のまま演じても一般客には受けますし、ストーリーや演出を工夫しますと、さらに楽しいマジックになります。また、客にも参加させて演じますと盛り上がります。ここでは、そのことについてだけ報告させていただきます。RRMCの中川修氏は長いロープを紹介する時「めっちゃ、なが〜いロープ」と言っていますが、観客である子供たちにもこのセリフを復唱させています。他の長さのロープの場合も同様な表現で面白く紹介していますが、これだけでも、会場全体が盛り上がります。

また、村上欣隆氏は同じ長さの3本のロープの状態から始めていますが、ロープを客の手の上へまとめて置き、両手によりロープが見えないようにさせます。この後で、手に持っているロープに関しての簡単な質問をいくつかしますが、最後に、ロープは何センチくらいであったかを言ってもらいます。演者はその長さを両手の間隔でメジャーがわりに示します。客に1本ずつロープを取り出させますが、1本は少し違うだけの長さで、残り2本は全く違った長さになってしまうわけです。これはKarrell Foxがテレビで実演されていたそうで、それをアレンジして演じられているとのことです。

基本的な現象をBGMにあわせて行うだけの演技で、感激させられたことがありました。深井洋正氏が演じられていました「3本ロープ」です。これは村上正洋師匠による村上流の方法だそうです。全体の動き素晴らしいのですが、特に印象的なのが、最後の元の長さに戻る部分です。スピーディーでかっこ良ささえも感じてしまいました。

「3本ロープ」も時代と共に変化しています。今回の調査により、変化の様子がよくわかる箇所がありましたので報告したいと思います。それは、ロープを同じ長さにするためのハンドリングの部分です。

3本のロープが同じ長さになるメカニズムは簡単です。特定部分の入れ替えを行うだけです。初期の頃の方法は、下に垂れ下がった3本の端を左手に持っている3本の上端に並べて入れ替えを行っていました。この下端の3本を置く位置は、1本のみ他の2本とは別な位置へ置くため違和感がありました。その後、様々の改良された方法が発表されています。しかし、いずれにしましても、わざわざ6本の端を並べること自体が私には不自然に思えてきました。また、スピーディーさを阻害するだけでなく、小さくまとまった動きのように感じてしまいました。私が若かった頃の感想です。ところが、この部分の新たな方法が開発されました。公正に3本の両端を左右の手に持って、少し両手を近づけただけで引っ張ってゆくと同じ長さに揃う方法です。1970年頃に“The Hierophant 3”の中でRoger Sylwesterの方法として発表されています。1973年の“Close-Up Cavalcade”においても再録されました。日本では、高木重朗氏が行っている方法として1984年の「不思議9号」に解説され、1987年の高木重朗著「ロープマジック」にも再録されました。ところで、この方法がベストなのかと言えば、そうとも言えません。ロープを各指の間に挟んで演じますので、そのことを好まない方もおられるでしょう。上品に見せたい場合には、向いていないといった方が良いからです。

さらに、別の素晴らしい方法も開発されました。長と短のロープを1本ずつ同じ手に取り上げた時に片手だけで秘かに入れ替えを行う方法です。その後、3本目である中の長さのロープも加えれば、後は下端部の3本を他手で取り上げて、ゆっくり左右に引っ張るだけです。この方法はKarrell FoxやJose De La Torreが発表しています。実際にはいつ頃から演じられていたのかはわかりませんが、1976年のKarrell Fox “Clever Like a Fox”と1975年のJose De La Torre “Magicana of Havana”に解説されています。なお、ダロー(Daryl)は1987年に彼のロープの手順を写真だけで解説したものを発行しましたが、その中での「プロフェッサーズ・ナイトメア」の部分のロープの入れ替えは、Karrell Foxの方法を改良して使用しています。Foxの方法では、後で長ロープを短ロープの上へ重ねていましたが、ダローは短ロープを後で重ねることにより、入れ替えがスムーズで楽に行えるようにしています。この手順は1989年のダローのレクチャー・ビデオや数年前に発売されたダローの3巻セットのロープ・ビデオの3巻目でも見ることが出来ます。

ところで、ダローが行っていましたロープの入れ替えですが、全く同じ操作が1972年6月の「ふしぎなあ〜と14号」の中で友美けん氏がすでに発表されていました。但し、「3本ロープ」そのものに使うというよりも、少し違った現象のために使用されていました。

その後の変化としまして、最近では片手で3本を持っている状態のままで入れ替えを行う方法が発表されるようになりました。1999年9月号の“Genii”において、Guy Hollingworthの方法として解説された中で使用されたものです。さらに、2001年の「モダクラ7号」では、庄司敬仁氏が3本持ったままでの入れ替えを、より楽に行える方法を発表されました。

なお、この報告をほぼまとめ上げました頃に、深井洋正氏にお話を伺う機会がありました。そこで驚かされましたのは、村上流の「3本ロープ」も片手で3本持った状態で入れ替えを行っているということです。上記の方法とは違ったハンドリングで行われていますが、いつ頃より行われていたのかはわかりません。かなり以前からであろうと思われます。

おわりに

今回の調査の前には、「3本ロープ」ばかりを集めた本が出版されていてもおかしくないと思っていましたが、見つけることが出来ませんでした。それどころか、海外で2作品以上解説されている文献は、1冊しか見つけることが出来ませんでした。それは、イギリスの“GEN”誌に掲載されたロープ・マジックをまとめた本です。もっと複数の作品を解説されている文献があるのかもしれませんが、私が見過ごしているだけなのかもわかりません。

もう一つ意外な発見がありました。思っていた以上に日本人が様々な工夫や発想を発表されていたことです。独創的な現象だけでなく、上記の報告に触れました友美氏や村上氏のように、基本のテクニックの変化・発展にかかわる部分で、いち早く考え出されていたことは驚くばかりです。

この「3本ロープ」については、まだまとめ足りない部分を残してしまいました。これからも資料を集めながら、何年か先には再度まとまった形で報告できるようにしたいと思っています。


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