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コラム



第52回 「エキスパート・アット・ザ・カードテーブル」の著者の正体の最新状況(2011.12.16up)




はじめに

2011年9月号のGenii 誌を読んで驚きました。20世紀のクロースアップ・マジック界における最大の謎の一つを取り上げていたからです。1902年に発行された "Expert at the Card Table"(以下、エキスパートの本と記載)の謎の著者の正体を取り上げた特集号となっていました。エキスパートの本は、20世紀を代表するクロースアップ・マジシャンのダイ・バーノンが、最も大きな影響を受けた本であり、カードマジックのバイブルとまで言われています。この偉大な功績を残した本の著者が、誰であるのかが謎のままでした。本での著者名は S.W.Erdnase(以下、アードネスとも記載)となっていますが、そのような名前の人物は存在していません。また、奇妙なことに、最近まで我々がアードネスと思っていた人物のことではなく、Wilbur Edgerton Sanders(以下、W.E.Sanders、 または 、サンダースとも記載)がアードネスとして報告されていました。1990年代からは、アードネスの正体が、プロのイカサマ・カードギャンブラーの Milton Franklin Andrews(以下、M.F.アンドリュースと記載)で確定したような状態になっていました。彼はエキスパートの本を発行した3年後に、殺人犯として警官に追いつめられ、最終的には自殺した人物です。それが、どのような経過で、別の人物のサンダースに変わったのでしょうか。また、サンダースとは、どのような人物でしょうか。幸いにも、アードネスが誰であるのかの謎の追求の各種資料がそろっています。よい機会ですので、全体を見直してまとめることにしました。また、エキスパートの本の内容についても、徹底的に調べ直しました。プロのイカサマギャンブラーが書いた本ではなく、鉱山技師で作家のサンダースが書いた本として読みますと、いくつかの納得出来る点がありました。全てを報告しますと、かなり長くなりますので、要点と私の興味ある点を中心に報告させて頂きます。

Expert at the Card Table の本について

1902年に発行された、カードのイカサマギャンブル技法と、マジックのカード技法を中心に解説した本です。最後の部分では、14作品のマジックも解説されています。日本語版は1989年に浜野明千宏氏が翻訳され、「プロがあかすカードマジック・テクニック」として東京堂出版より発行されています。数年前にも再販されていますので、まだ手に入る本です。問題は100年以上も前の本であり、イラストはあるのですが、読み始めると難解な印象があることです。しかし、初心者には難解でも、一定の経験と技術が向上して読み直すと、その度に、新たな発見のある本です。奇妙な点は、アードネスの人物名や著者名が、この本以外には存在していないことです。また、この本が発行された1902年以前や以降に、この著者らしき人物が、全く見当たらなかったことも謎でした。このエキスパートの本の全体的な内容については、また後で報告することにします。

W.E.Sanders の名前が浮上した経過

エキスパートの本から著者をプロファイリングすると、どのような人物像が浮かび上がってくるのかを調べたのが David Alexander(以下、アレキサンダーと記載)です。彼はスタートレックの中心的制作者の一人であった人物です。彼の調査結果は、1999年のロサンゼルスのマジックの歴史の大会で報告されました。その報告内容は、2000年の Genii 誌1月号に発表されています。エキスパートの本から、その著者をプロファイリングした結果と、友人にも同様にプロファイリングしてもらった結果から、、共通した項目を取り出しました。アードネスは論理的で分析能力のある著者で、文章や編集の能力から、エキスパートの本以外にも本を発行している可能性が考えられました。使用単語から、ラテン語やドイツ語、フランス語を学んだ可能性が高く、大学を卒業している学歴も想像出来ました。そして、アードネスといった特殊な名前をつけたのは、アナグラムである可能性が高いことも意見が一致しました。

まず、逆転させた E.S.Andrews の名前で、1900年頃の発行著書をコンピューターで調査しましたが、全くヒットしませんでした。そこで、この名前にとらわれず、E.S.Andrews 以外で9文字のアルファベットで可能なアナグラムの人物名で調べました。その結果、幸運にも、W.E.Sanders が1907年に "Mine Timbering" の本を発行していることが分かりました。Mine は鉱山で、Timbering は建築用材や坑道の支柱の意味があります。彼について調査した結果、エキスパートの本のイラストレーターから得ていた情報の年齢と身長がほぼ一致し、また、プロファイリングしたように大学卒で、ラテン語やドイツ語にフランス語を学んでいたことも一致しました。鉱山技師の関係から、分析的で論理的な思考を持っているものと考えられます。そして、鉱山の採掘場付近では、必ずといってもよいほど、賭博場が開設されていたものと思われます。また、父親についてですが、モンタナの有力者として、モンタナが1889年11月に41番目の合衆国に編入した後、1890年には選挙で議員に選出されています。身内にイカサマギャンブルの本を書いた人物がいることは、スキャンダルになりかねません。それでなくても、父親の名前がW.F.Sandersで、著者とはEとFの違いだけであり、実名を著者名にした場合、父親が書いた本と間違われかねません。そうでなくても、身内が書いた本であることが推察されます。そして、著者自身も、本人が書いた本であることが知られてしまうと、気楽にカードギャンブルが楽しめなくなります。

S.W.Erdnase を著者名にした巧妙な策略

ここでの記載は、アレキサンダーの報告を元にしていますが、分かりやすくするために、私の脚色も少し加えていますのでご了承下さい。W.E.Sanders は父親や家柄の関係で、著者であることが絶対にばれてはいけない状態にあったわけです。しかし、後でも報告しますが、エキスパートの本から受ける印象は、緻密さと巧妙さです。また、彼の日記から、文字遊びに興味があったことが分かっています。そのような著者の考えであれば、著者名も、自分の名前の9文字を元にして、アナグラムにこだわったことが推察出来ます。また、本当の名前がばれない自信もあったと思います。

アナグラムでは、まず、自分の名前を逆転させる発想が思い浮かびます。しかし、逆転して一般的ではない名前となった場合、逆転のアナグラムに気付かれて、本当の名前がばれてしまうことになります。彼の場合、何があっても実名がばれてはいけないわけです。Olram Subtlety の Olram が Marlo を逆転させた名前であることがばれても、何の支障もありませんが、それとは大きく異なるわけです。W.E.Sanders を逆転させると srednasew となります。まず、目についたのが red と nase だと思います。red は英語で赤、nase はドイツ語で鼻です。赤鼻は英語ではよい意味ではありません。彼はドイツ語を学んでいますので、二つの単語をドイツ語で統一することも考えたと思われます。red の文字を入れ替えて erd にしますと、ドイツ語では地球を表す接頭語になることに気付いたはずです。つまり、アードネス"erdnase" とは、ドイツ語で「地球の鼻」となります。彼の職業が鉱山技師であり、地球の鼻とは、山や鉱山を連想させる名前となります。e と r を入れ替えて serdnasew にしますと、最後にある w が邪魔になります。w を前方へ移動させて、名前の最初を W.S. か S.W. のどちらかにする必要があります。この場合に、S.W.Erdnase にした方が、それを逆転した場合に E.S.Andrews になることに気付きます。つまり、自分の名前ではなく、アンドリュースの名前へミスリードすることが出来るわけです。事実がこの通りであったとしますと、長年にわたり、彼の策略に、はまってしまっていたわけです。

本のタイトルが二つあることの巧妙な策略

エキスパートの本のタイトルページのタイトルに「アンドリュースは技巧(ごまかし)」のメッセージが入っていたことには驚いてしまいました。このことを報告していたのもアレキサンダーです。これはすごい発見ですが、細部で少し違った見解を私は持っていますので、その点も含めて報告させて頂きます。

エキスパートの本の表紙のタイトルは "Expert at the Card Table" となっています。ところが、最初の頃のエキスパートの本では、表紙を開いて現れるタイトルページに、何故か表紙と同じタイトルが書かれていません。"Artifice Ruse And Subterfuge at the Card Table" と記載されています。1行目にはArtifice(技巧、工夫、ごまかし)の1単語のみで、2行目に Ruse(計略、策略)and Subterfuge(口実、言い逃れ、ごまかし)、3行目が非常に小さい文字で目立たないように at the だけがあり、4行目には Card Table と書かれていました。その後の再販では、いつのまにか、このタイトルページが削除された本がほとんどとなります。何故、著者は別のタイトルをつける必要があったのでしょうか。また、このことの何が「アンドリュースは技巧(ごまかし)」となるのか、疑問をもたれると思います。アンドリュースの発音から、And Ruse が思い浮かんだと推察されています。タイトルの単語から小さい文字の at the を削除して、Card Table を一つの固まりとします。そして、逆転させると、" Card Table Subterfuge And Ruse Artifice" となります。後半が「アンドリュースは技巧(ごまかし)」となるわけです。以上がアレキサンダーの考えですが、私は少しだけ異なります。

上記の発見では、本当の著者名がアンドリュースであると受け取る考えも出来ます。私の考えでは、2行目の Ruse And Subterfuge はニュアンスが異なるものの、同様な単語の繰り返しで、なくてもよいように思います。無理に加えられた印象があります。この部分だけを逆転させますと、ごまかし(言い逃れ)アンドリュースとなります。いずれにしましても、このような長いタイトルにしたことや、策略やごまかしの意味のある同様な三つの単語を並べていることが不自然で奇妙でした。

タイトルページの下半分にある長い文章の巧妙な仕掛け

タイトルページには、もう一つの重要な秘密が隠されていました。タイトルと著者名の下に、逆ピラミッド(正確には逆台形)状に9行もある長い文章があります。これも、初期の本だけに書かれていたものでした。この9行に少し操作を加えるだけで、縦の一列に、本当の著者名であるWESANDERS の文字が並ぶことが分かりました。文章の内容は、ギャンブラーやマジシャンによる技法の全体を解説していることや、M.D. Smith による100以上のイラストが描かれていることが書かれています。2011年の Genii 誌10月号の Richard Kaufman の記事で、この9行の各配列をずらすと、縦に WESANDERS が一列に並ぶことが紹介されていました。2011年8月20日の Genii Forum で Carlo Morpurgo が報告していたものです。

この逆ピラミッドをずらした状態を見たときは、無理矢理こじつけた印象で、面白くても意味のないものと思いました。Kaufmanも困難性を指摘しつつ紹介した記事になっていました。Genii Forum でも Richard Hatch は、ずらして文字を作るだけであれば、下の7行をずらせば Andrews を縦に並べることが出来ることを報告しています。ただし、2行目にはSやFがなく、E.S.やM.F.Andrews にすることが出来ません。別のアンドリュースとなります。さらに、大幅にずらす必要があり、実際的ではありません。

その後、私が気になり出したのは、逆ピラミッドをわざわざ9行で構成させていることや、下の4行では、DERSがほぼ縦に並んだ状態になっていたことです。また、W.E.Sanders が著者であれば、計算された細工をしている可能性があると考えました。もしも、ずらし方に一定の法則性があって縦に並ぶのであれば、誰もが納得出来ると思いました。そして、いろいろな考えを試す中で、奇妙なことに気がつきました。1行目の文字数が44で2行目が35、3行目が38で4行目が29となっていました。2行目の文字数が少なく、わざわざ、文字の間隔を広くしているのに対して、幅が狭いはずの3行目の方が文字数が多くなっていました。そうであるにも関わらず、2行目の最後の CONJURER の単語の後方5文字を途中で切り離し、3行目のトップへ移していました。そこで、これを2行目の最後に戻しますと、面白いことが分かりました。これが全ての謎を解くきっかけとなりました。

1行目のWは、前から15文字目で、後ろから30文字目となります。2行目のEと、3行目のSも後ろから30文字目となります。そこで、この三つの行を右端でそろえることにします。ただし、右端の「、」や「 - 」は1文字に含めておりません。3行目のSは、前から3文字目でもあります。4行目のAと、5行目のNも前から3文字目です。そこで、これらの3行を3行目の左端にそろえます。6行目のDは、前から15文字目ですので、一行目の左端とそろえます。7、8、9行目は、6行目の左端より2文字ずつ右へずらした状態にしています。以上で、WESANDERS が縦一列にそろいます。逆ピラミッドから、2~5行目が右へずれて、6~9行目が左へずれた図形となります。この図が、何かを表しているのではないかと考えました。カードギャンブルか鉱山で使用する道具かとも思いました。しかし、この図をひっくり返した時には、ビックリしてしまいました。スフィンクスの形になっていることが分かったからです。9行のピラミッドに対してのスフィンクス。そして、スフィンクスといえば謎との関わりが大きいものです。ここまで考えていたのかと感心してしまいました。ところで、エキスパートの本の発行は、1902年の2月末か3月頃です。同年の3月より有名なマジック月刊誌「スフィンクス」が発行されることになります。このことと何か関わりがあるのでしょうか。なお、このコラムの最後に、補足として、9行の逆ピラミッドとスフィンクスを掲載しましたので参考にして下さい。本来の本のままでなく、CONJURER の位置を変更しています。

著者は一人か複数か

著者の複数説は、かなり多くの研究家により信じられていました。プロのギャンブラーがマジックの技術や作品を解説するとは思えなかったからです。また、前半のカード・ギャンブルの技法の考え方と、後半のマジックの部分では、少し違った印象がありました。ギャンブルの技法では、動作の一貫性や気づかれないことを強調しています。それに対して、後半のマジックの部分では、そのことよりも、セリフや現象面を重視しているからかもしれません。プロのギャンブラーが、マジックのセリフや面白くする工夫を考えているイメージがわいてきません。不釣り合いです。さらに、重要なもう一つの理由があります。本の文章が、複数のWeを使って、我々の考えといった表現で統一していたことです。

これらのことに対して、W.E. Sanders がアードネスであった場合、それぞれの説明が付けやすくなります。サンダースは、プロのギャンブラーではなく、プロのマジシャンでもありません。それぞれを研究して両方を解説していても不自然ではありません。ギャンブル技法とマジックとは大きな違いがあり、別の発想が必要として、はっきりと分けているのも論理的と思えてきます。そして、文中のWeに対しては、アレキサンダーが面白い考えを発表しています。Weとは、W.E. Sanders の最初の2文字を使っていると考えました。Weは Sanders自身を意味し、自分の考えをWeを使って表現していたと考えられます。そして、著者が複数であるかのようにミスリードしていたことになります。私も納得しかけた考えですが、Ourを使っている部分も割合とあり、全ての面では賛同出来ませんでした。しかし、自分の名前の最初が、WEであることには、以前から興味を持っていたはずです。そして、エキスパートの本では、WeだけではなくOurも使って、複数で統一しようとした可能性も考えられます。タイトルページの記載で、巧妙な策を仕掛けた著者であれば、本文でも、それぐらいの策略はやりかねないと思ってしまいました。

S.W.E.シフトの名前とその成立経過

アレキサンダーの報告で、さらに興味深い点がS.W.E.シフトです。これは、S.W. Erdnase のイニシャルであるのと同時に、本当の名前のW.E. Sanders のイニシャルのW.E.S.を入れ替えただけのものでもあるわけです。エキスパートの本では、このシフトをイニシャル入りの名前にしたのは、大物が現れたからではなく、単に名前をつけただけと謙遜しています。しかし、もっとも自慢したい技法であったはずです。そこで、自分の本当の名前に関連した技法名にしたのではないかと思ってしまいました。

S.W.E.シフトは、ロンジチューディナルシフトと同じで、デックの向きを横向きに変えて、素早く出来るようにしたと書かれています。そして、ロンジチューディナルシフトは、トランスフォーメイションの第2の方法から影響を受けたと私は考えています。この第2の方法は、1897年のRoterbergの本に初めて解説されています。この最初の状態から比べますと、S.W.E.シフトは大幅に変化しており、著者自身にとって印象深いものだったと思います。そして、特定の目的で行うシフトとしては完璧に近いと、自信を持った書き方をしています。確かにその通りで、デックのほとんどの部分が見えているにもかかわらず、完璧に近い状態でシフトが行われます。何かした印象はありますが、下半分が上半分の上へ移ったことがほとんど気づきません。1983年発行のビデオ" Dai Vernon's Revelations Vol.12 "でSteve FreemanがS.W.E.シフトの実演と解説をしています。これを見た時には、このようなすごいシフトが存在していたのかと驚きました。このビデオは各巻が69ドルで、現在のように円高ではなかった時代の話です。これを直ちに習得され、我々に披露されたのが宮中桂煥氏です。ビデオではなく、目の前で見た時の強烈さを忘れることが出来ません。

アードネスが M.F.アンドリュースとされてしまうまでの経過

アードネスとは誰なのでしょうか。そのような疑問が早い時期からあり、ダイ・バーノンもその疑問を持っている一人でした。その頃より、アードネスは本当の名前ではなく、逆にした E.S.Andrews であるといった説が知られるようになります。エキスパートの本の第2版の発行者である Frederick J.Drake に著者のことを尋ねた時に、はっきりとは答えずに、著者名はアナグラムだろうと言ったことが元になっているようです。なお、初版の発行者は著者となっていました。

1946年にマーチン・ガードナーは、エキスパートの本のイラストを描いた M.D.Smith がシカゴに在住していることが分かり、面会することになります。彼との面談の結果、40年以上も前のことで、ほとんど記憶に残っていないことを前提に話されました。アードネスと会って、多数のスケッチをしたのは、冬のシカゴの寒いホテルの部屋であったようです。アードネスの身長は168センチ以下で高くなく、年齢は40才前後に見えたそうです。当時の彼は31才で、自分と比べての年齢のようです。穏やかな印象で、英語の話し方も普通であったようです。1947年にシカゴで開催された S.A.M. の大会に M.D.Smith を招いて、バーノンや多くのマジシャンと交流しました。その時にガードナーは、ウォルター・ギブソンから、アードネスを知っている人物の存在を知らされます。ガードナーはその人物と面会し、アードネスが M.F.アンドリュースであることが分かります。彼について調べる中で、殺人犯として、1905年に自殺していたことが判明します。

1984年にダイ・バーノンの "Revelations" の本が発行されます。エキスパートの本の各技法や作品に、バーノンのコメントが書き加えられた本です。この本を編集したのが Persi Diaconis で、イントロダクションの中で 、ガードナーがM.F.アンドリュースをアードネスであるとしていることを記載しています。しかし、それは、状況証拠だけであり、バーノンも、それを信任していないことが書き加えられていました。また、ギャンブルとマジックの部分は別の人物による著者の複数説があることにも触れています。

そして、重要な年が1991年です。3冊のアードネスに関する本が発行されているからです。その中でも、その後に大きな影響を与えた本が "The Man Who Was Erdnase" です。400ページ以上ある本で、その著者は、Bert Whaley、Martin Gerdner、Jeff Busby です。中心的な著者は Whaley のようで、M.F.アンドリュースについての詳細な調査報告がされています。そして、著者は複数で、技法関連はアンドリュース、マジックの部分は Jim Harte としています。なお、アンドリュースが書き残している手紙の文面からは、著者としての文才がないとして、William J.Hilliar が本の編集を担当した可能性についても記載されています。同年に発行された2冊目の本が、Darwin Ortiz 著 "The Annotated Erdnase" です。84年のバーノンの本よりも、もっと多数のコメントを加えた本です。この本の最後には、マーチン・ガードナーにより、アードネスが誰であるのかの記事が掲載されています。M.F.アンドリュースであると決定するまでの経過と、残された問題点について記載されています。

これらの本が発行された1991年以降、アードネスが M.F.アンドリュースで確定したかのようになりました。1995年には、Dover社よりエキスパートの本が安い価格で発行されます。この Dover社版にはガードナーの序文が追加され、アードネスが M.F.アンドリュースであることにも触れられています。この本が広く普及し、M.F.アンドリュースの名前が多くの読者に知られるようになりました。日本の各マジック書や、日本の Wikipedia でのアードネスについても、現在でも、M.F.アンドリュースの名前とその人物についてが記載されているだけです。

M.F.アンドリュースが否定され、サンダースに変わった経過

1991年には3冊のアードネス関連の本が発行されたと報告しました。2冊は上記で紹介しましたが、3冊目が Thomas Sawyer 著 "S.W.Erdnase Another View" です。アードネスを M.F.アンドリュースで確定するのは問題があるとして、1991年発行の上記の2冊の本を再検討して、自分の考えも含めた本です。この本は1997年に加筆され再販されています。そして、大きな転換点が1999年のロサンゼルスのマジックの歴史大会です。イラストを描いたスミス氏との手紙の内容やその頃の経過を、マーチン・ガードナーがまとめた "The Gardner ー Smith Correspondence" が発行されます。この発行を担当したのが、マジック書専門店の H&R社の Richard Hatch で、この原稿を読んだ Hatch は、M.F.アンドリュースがアードネスでない確信を強めます。そして、それを否定する理由と彼以外の可能性がある二人のアンドリュースについて大会で報告しています。その一人は 、法律家のJames DeWitt Andrews で、Jamesの前3文字とDeWittを削除しますと、ES Andrewsとなります。二人目は、鉄道会社員の Edwin Sumner Andrews です。彼の報告は、1999年12月号のMAGIC誌に掲載されています。さらに、アレキサンダーも M.F.アンドリュース説を否定し、この歴史大会で W.E.Sanders説を発表しました。

そもそも、 M.F.アンドリュースは、イラストを描いたスミス氏が指摘している身長と一致しません。 M.F.アンドリュースは180センチ以上もあり高すぎます。それだけでも大きな特徴といえます。また、年齢も一致しません。イラストを描いた1901年末当時、 M.F.アンドリュースは29才か30才でしたので、スミス氏とほぼ同年齢となります。それを、40才程に見間違えるわけがありません。そして、 M.F.アンドリュースの作文能力の低さからでも一致しません。元々、私が奇妙に思っていたのは、 M.F.アンドリュースではアナグラムになっていません。逆にして Andrews が一致しているだけで、EとSのことは無視してもよいのかと思っていました。あまりにも一致しない要素が多すぎます。結局、1999年の大会で、 M.F.アンドリュースだけでなく、もっと可能性がある人物探しの方向へ転換したものと思われます。W.E.Sanders説や、Richard Hatch が指摘した人物の説が有力な可能性として加わりました。しかし、今後は、より確実性の高い証拠を探し出すことが重要となりました。

2007年末頃には、Wesley James による7巻セットのエキスパートの本のDVDが発行されます。彼も James Andrews がアードネスであると報告していますが、上記の James とは別かもしれません。また、2008年には、Allan Ackerman による11巻セットのDVDも発行されました。第1巻では、 M.F.アンドリュースをアードネスとして俳優を使った短いドラマを見せていました。しかし、8~10巻では、リチャード・ハッチのインタビューで、 M.F.アンドリュースを否定する立場の報告がされています。

Genii Forum のアードネスに関わる投稿では、多数の書き込みがあり、それが現在でも継続しています。特に最初の頃(2003年2月末)のリチャード・ハッチとアレキサンダーの長文の応酬には圧倒されます。アードネスに関する部分だけで一冊の本が出来るほどです。2010年12月に、残念ながらアレキサンダー氏が死亡されます。しかし、2011年に入って、彼の意思を引き継ぐような形で Marty Demarest が Genii誌9月号に発表することになります。W.E.Sanders 本人や家族について、詳細に調べた内容を報告しています。

2011年10月に英語版 Wikipedia で確認しますと、アードネスの候補として4人の名前と簡単な紹介がされていました。この4人は、M.F.Andrews、W.E.Sanders、E.S.Andrews、L'Homme Masque です。なお、4人目の Masque は、タマリッツが指摘した人物で面白い発想ですが、可能性が少ないように思います。1900年頃、最先端を進んでいたスライハンド・マジシャンで、ギャンブルが好きです。素顔がばれないように、ステージではマスクを付けていたようです。問題は、スペイン語とフランス語は堪能ですが、英語は流暢ではありません。英語の本の製作上の困難や、イラストを依頼したスミス氏との会話時には、英語の不得意さが大きな特徴点となったはずです。 以上のことより、最近まで M.F.アンドリュース説が主流でしたが、2011年よりW.E.Sanders 説が主流になる勢いを感じます。今後の動向を見守りたいと思います。

2011年 Genii誌9月号の W.E.Sanders についての報告記事から

20ページにわたる長い報告ですので、その中でも、私の興味が強い点だけを報告させて頂きます。W.E.Sanders は1861年生まれで、1935年に死亡しています。2才の時に家族と共に米国北西部のモンタナへ移り住みます。14才での日記には、自分の名前を使った文字遊びをしていた形跡があります。家庭でラテン語、ドイツ語、フランス語の個人指導を受けています。17才で、東海岸の名門のアカデミーに通いますが、ラテン語を含む語学の厳しい学院のようです。1879年夏には、ギリシャ語やラテン語とドイツ語の語学スクールに通っています。これらの語学の教育についてはアレキサンダーの報告から抜粋しました。1881年から鉱山技師となるためにコロンビア大学へ通い、85年に卒業しています。20才頃の日記には、"MUTUS DEDIT NOMEN COCIS"が書かれていました。これは、その頃のマジック書(モダンマジック やその他)に解説されていた4X5に20枚のカードを配列して、2枚ずつ覚えた数名の客のカードを次々に当てるマジックです。最初の3文字がラテン語にある単語ですが、4文字目は意味不明です。なお、彼の兄弟は、ハーバード大学を卒業し、モンタナで突出した法律家となります。

1895年までは各地の鉱山での仕事が中心でしたが、95年からは鉱山技師の知識と経験を元にした作家業が加わります。なお、95年には、父親がモンタナ州の法律や規則を制作するにあたり、法律家の兄弟と共に彼も協力していることが報告されています。

1896年では、彼が山へ出発するための供給リストに、半ダースのデックを含めていたことが分かりました。カードゲームに使用するためか、練習用かは分かりません。ところで、モンタナの Butte(当時はラスベガスのような町)には上級のカードゲームクラブがあり、一流のプロギャンブラーや上流階層の客が訪れていた中で、サンダースもよく訪れていたことが報告されています。それに比べると、鉱山でのカードゲームでは、程度の低いイカサマが行われていたものと思います。そうであるにも関わらず、カモがあわれな餌食になっているのをサンダースは見てきたはずです。エキスパートの本の最初のPrefase(序文)では、この本を書いた三つの理由が紹介されています。一つは、無知で不用心なカモに警告するため。二つ目は、熟練者にはイカサマの技巧の大学院コースを授けるため。そして、三つ目として、この本が売れればお金が入ると書かれています。しかし、それが真実かどうかは分かりません。本が発行された年の秋には、サンダースが購入していた鉱山の一つより金銀が採掘され、大きな収入を得ることになります。それだけでなく、成功者として、大きな鉱山の調査と監督を引き受けることにもなります。さらに、1907年には、初めての彼の著者名による本が発行されることになります。ところで、エキスパートの本の発行当初は2ドルの価格(現在では40ドルの価値)で、著者の発行となっていました。しかし、1年後には、シカゴの Drake社に発行を譲り、1ドルで販売されるようになっています。本の販売に関わっておれなくなったのかもしれません。

もう一つの興味ある点が、エキスパートの本のイラストを制作したり、本の印刷をしたのはシカゴですが、モンタナからは大きく離れていたことです。何故、1901年から02年にかけての冬の間、シカゴにいたのかの理由が説明されていました。この期間、父親が最新のX線治療のためシカゴに滞在していたことと、同行していた母親がインフルエンザにかかったことが書かれています。そのため、シカゴ周辺から離れられない状態であったようです。以上のように、サンダース家の詳しい内容が分かったのは、モンタナ州におけるファーストファミリーの一つであったからです。

エキスパートの本の内容の特徴

これまでは、エキスパートの本をプロのイカサマギャンブラーが書いた本として読んでいました。そのために、プロの世界ではそのようなものだと、一方的に受け入れるしかないと思っていました。しかし、アードネスが W.E.Sanders としますと、大きく状況が変わります。プロのギャンブラーでもマジシャンでもないからです。そのことを前提にしてエキスパートの本を読み返しますと、納得出来る記載が次々と見つかりました。そして、新しい発見もありました。特に、彼の語学的才能と用語のこだわり、鉱山技師への大学に進んだ理工学的才能、そして、政界の父親や法律家の兄弟とは別の道を目差した独自性と開拓者精神の点からも面白い発見がありました。ここで各作品や技法のコメントを書きますと、かなりのボリュームになります。それだけで1冊の本が出来そうです。そこで、ここでは、全体的な特徴と、特に興味があった部分だけを限定して報告させて頂きます。

まず第1番目は、私がエキスパートの本を購入して最初に感じた印象は、技法名が特殊であったことです。フォールス・シャフルではなくブラインドシャフル、パスではなくシフト、カラーチェンジではなくトランスフォーメイション、グライドではなくスライドとなっていました。ギャンブルの世界では、そのような用語を使うものだと思っていました。また、マジック用語では、1900年頃はそのような用語を使っているものだと思っていました。しかし、エキスパート以前の本を調べますと、両方の用語ともに既に存在しており、著者の用語へのこだわりから、上記の技法名が採用されたものだと推察しました。各技法に最も適切な用語を使いたい気持ちが強かったのだと思います。私も、色が変わることがない場合もあるのに、カラーチェンジの用語は問題があると思いながら使っています。また、面白い記載がバックパームの部分です。この名前は間違った用語ではないかと指摘しています。パームとは手のひらのことで、手背にパームする用語が、彼には受け入れられなかったのではないかと思います。なお、ブラインドシャフルについては、ブラインド(欺く)がイカサマギャンブルの隠語として以前からありましたが、ブラインドシャフルやブラインドカットの用語はアードネスが最初のようです。

2番目の特徴点が数学的才能です。ブラインドシャフルの繰り返しにより、上部のバラバラの位置にある必要とする数枚のカードをボトムやトップへ集めています。また、その反対に、トップやボトムへ集めた数枚のカードを、特定の位置へ配置させています。普通のオーバーハンドシャフルと同様に行い、どのように繰り返せば最短で目的を果たせるかは、数学的センスが必要です。これらは著者の考案で、本の最初に記載されていますが、イカサマの技術を大学院なみへ向上させたい思いで解説されているようです。

そして、驚いたのが、マジック作品の中でのエイト・キング・システムの応用です。このシステムは、かなり以前から多数の本に解説されていますが、マジックへの使用は単純な応用でした。エキスパートの本により、初めて、客が指定した枚数目のカード名を当てたり、客の指定カードがトップから何枚目にあるのかを当てる方法が解説されました。ボトムカードのグリンプスを必要としますが、数学的センスがなければ考案されなかった発想です。本の最後には、14作品のマジックが解説されていますが、セルフワーキング・マジックの "The Row of Ten Cards" も含まれていたのは意外でした。これは現在でも、マニアに対しても通用する作品です。著者が数理的マジックも好きであったことが分かります。1984年のバーノンの "Revelations" の本では、マジック作品部門で、セルフワーキングのこの作品だけがバーノンの改案を紹介されていたのも意外でした。

3番目の特徴は、カードのイカサマやカードマジックの全体像を紹介するために、それらに関する本をよく調査されていることです。私もエキスパートの本以前のマジックやイカサマギャンブルの本を読みました。その結果、多数の本の影響を受け、それぞれの内容を取り入れていることが分かりました。大きく影響を受けている本として、イカサマギャンブル関係では、1894年の J.N.Maskelyne 著 "Sharps and Flats"、マジックでは、1897年の A.Roterberg 著 "New Era Card Tricks"、1889年の Hoffmann 著 "Tricks With Cards"、1885年の Sachs 著 "Sleight of Hand" の第2版です。上記以外にも多数の本から取り入れている部分がありましたが、それらの書名を記載しますと長くなりますので、ここでは割愛します。このように、多数の本を読んで研究されていることは、プロのイカサマギャンブラーではイメージがあいません。

4番目の特徴として、独自性や開拓者精神を持った本の印象があることです。既成の方法にこだわらず、新たな方法を開発し、改良出来ることは改良している点です。カード.ギャンブルの技法では、ブラインドシャフルを使ったカルやストックのシステムを開発しています。特別な操作をしている場合でも、普通のオーバーハンドシャフルと変わらないように行うことを強調しています。また、シャフル時のデックの保持の仕方も、著者独自の改良点です。そして、ボトムパームの方法も新たに考案し、実践での使用に重視していました。

このブラインドシャフルとボトムパームの使用は、マジックの部門でも重視して取り入れています。両者の連携を解説しているだけでなく、マジック作品では、それぞれ個別に取り入れています。ブラインドシャフルは4作品に加えられ、フォールスシャフルやコントロールとして使われています。また、トラベリングカード(カード.アップ.スリーブ)では、本来、右手のトップパームだけであったものを、左手のボトムパームも使い、右そで上部からの取り出しも加えて、バラエティーのある現象に改良しています。これらは、元になる本では使われていなかったことです。これらの点からも、マジックとギャンブル部門は別人の考案ではなく、一人の著者によるものであることが推察出来ます。

さらに、著者がこだわりを持って研究開発した技法がシフト関連です。実際面での使用は少ないとしながらも、実践で使用出来る新しい発想のシフトの開発には、力を注いだいたことがよく分かります。これら以外にも、著者の独自性が多くの部分で発揮されていますが、それらについては、ここでは割愛させて頂きます。

5番目の特徴として、著者が考案したり改案したシステムや技法には、アードネスの名前を含めた名称にしているか、解説の中で著者の考案や改案であることを明記していました。後者の場合、WeやOurを使って、複数の著者による考案のように記載していたのも特徴的です。彼の考案となっていない場合は、他の本からの採用であることがほぼ確認出来ました。なお、マジック作品の章では、その冒頭で、各作品の名称とストーリーは、著者によるものであることが記載されています。ただし、各作品の方法では、何らかの改良が加えられていましたが、それには一つ一つ著者の改良と書いていませんでした。それでも、全体的にはキッチリされている著者ですが、何故か、技法や作品の元になる文献名や考案者名の記載がされていません。しかし、このことに関しては、この頃のマジック書のほとんどがクレジットしていませんでしたので、仕方がないようです。

最後に、面白い発見がありましたので、そのことを紹介して終わりたいと思います。マジック作品の章では、セリフを重視するとして、数作品でストーリー性を持たせています。その中で、"Divining Rod" (占い棒)のタイトルの作品があります。この本の著者を W.E.Sanders として読み返した時に、この作品を読んでビックリしました。彼の職業に関連したストーリーとしていたからです。地下にある鉱脈を探し当てる棒をメインにしたストーリーにしていました。現象はテーブルに広げたカードにナイフを突き立てるカードスタッビングで、マリニが演じたことでも有名なマジックです。本当の著者名が W.E.Sanders であることが暴露されない自信があるからこそ、このような大胆な行為に出たのでしょうか。

おわりに

今回の調査により、アードネスは W.E.Sanders と確定しても良さそうな印象を持ちました。彼がアードネスである可能性を感じられる報告ばかりで、否定する要素がありませんでした。少なくとも、否定要素の多い M.F.アンドリュースよりは、はるかに可能性が高いと思いました。しかし、決定的な証拠が見つかっていません。エキスパートの本以前の彼の日記やノートに、Erdnase と書かれてあれば決定的な証拠となります。また、マジックを得意としていた目撃証言や、マジック書やイカサマギャンブル書を読んでいたことが分かれば、重要な証拠となります。 今後に期待しているところです。

また、エキスパートの本の内容については、全体的な特徴を私の印象だけで報告しました。個々の技法や作品について、もっと多くのことを報告したかったのですが、かなりのボリュームになります。別の機会がある時に、それらについて報告させて頂きます。読めば読むほど、エキスパートの本の奥の深さが分かってきます。さらに、調査と研究を続けて充実させたいと思っています。

【補足】逆ピラミッドとスフィンクス

ピラミッドは本来の本のままではなく、3行目のトップにあった JURER を2行目の CON の後に移行させています。

■Pyramid and Sphinx

  EMBRACING THE WHOLE CALENDAR OF SLIGHTS THAT
    ARE EMPLOYED BY THE GAMBLER AND CONJURER
        DESCRIBING WITH DETAIL AND ILLUS-
         TRATION EVERY KNOWN EXPEDIENT,
          MANOEUVER AND STRATEGEM OF
           THE EXPERT CARD HANDLER,
            WITH OVER ONE HUNDRED
              DRAWINGS FROM LIFE
                BY M.D. SMITH


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      ARE EMPLOYED BY THE GAMBLER AND CONJURER
              DESCRIBING WITH DETAIL AND ILLUS-
              TRATION EVERY KNOWN EXPEDIENT,
              MANOEUVER AND STRATEGEM OF
  THE EXPERT CARD HANDLER,
    WITH OVER ONE HUNDRED
      DRAWINGS FROM LIFE
        BY M.D. SMITH


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