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コラム



第50回 2011年 I.B.M. ダラス大会報告(2011.7.22up)




はじめに

今年も I.B.M. 大会に参加しました。最近では、連続11回目の参加となります。6月28日から5日間、テキサス州ダラスで開催され、参加者数は700名を超えていなかったように思います。実を言えば、今年は参加をやめようと思っていました。やめようとした理由と、参加を決めた理由については、後で報告することにします。まず最初に、ステージとクロースアップのコンテストの結果報告から始めます。

今年もステージ・コンテストはアジアの勢いに圧倒されっぱなしでした。中でも韓国の勢いは特別です。次々と新しいすごい人材が登場しています。韓国の二人の出場者が1位と2位を獲得し、この二人はスタンディング・オベーションをうけていました。台湾と中国もすばらしかったのですが、オリジナルの点では韓国が一歩先を進んでいました。決勝戦の6人は、ハイレベルの戦いとなり、これを見れただけでも参加してよかったと思ってしまいました。

クロースアップ・コンテストでは、スペインの二人が活躍され、不思議で面白い味わいがありました。1位は、昨年、最も不思議なマジックをしていたのに2位にもなれなかった Shin Limが獲得しています。予想以上にコンテストが充実しており、今年も楽しめた大会となりました。

コンテスト結果報告

■ステージ・コンテスト
アダルト部門
1位 Won Keun Ha 韓国
2位 Yu Ho Jin  韓国

ジュニア部門
1位 Reuben Moreland アメリカ
2位 (正確な名前不明)
ピープル・チョイス賞 Won Keun Ha 韓国

■クロースアップ・コンテスト
アダルト部門
1位 Shin Lim カナダ
2位 Woody Aragon スペイン

ジュニア部門
1位 Reuben Moreland アメリカ
2位 (正確な名前不明)
ピープル・チョイス賞 Shin Lim カナダ

コンテスト全体の状況

クロースアップ・コンテストは18名が出場し、その中の9名が高いレベルの内容でした。決勝戦に残る6名が誰になるのかに興味がわきました。ただし、今年も、ゴールド・カップ獲得となるずばぬけた出場者がいなかったことが残念です。ゴールド・カップの獲得は、たいていの場合、多数のスタンディング・オベーションを必要としているようです。

ステージ・コンテストは19組が出場し、中でも9名の演技が高いレベルですばらしい内容でした。誰が1位になるのか、また、ゴールド・メダルが久しぶりに出るのかが、興味の対象となりました。

大会参加を決めるまでの経過

今年は7月13日より開催の S.A.M. 大会が、アメリカでの F.I.S.M. 選考をかねたコンテストとなります。そのため、多くの参加者が S.A.M. に集中し、I.B.M. 大会は参加者が少なくなると感じました。また、コンテストも盛り上がりが少なくなると思っていました。それだけでなく、最近のオイル費用の高騰により、航空運賃もかなり高くなるのではないかと予想していました。

参加を決定した理由は、私の好きな2件の書店の出店が分かったからです。この2件は品揃えが豊富で、今後の調査のために必要となる本や、予想外の面白い本に出会う可能性が高くなります。ところで、5月末に航空運賃を調べますと、予想していたよりも安いことが分かりました。数年前から航空運賃とは別に、変動制のオイル料金が加わるようになり、総費用が高くなりました。その中でも、今年は、何故か最も安い運賃になりました。円高の影響があるのかもしれません。もちろん、利用日や利用便により、6万円以上の差がありました。そして、もう一つの嬉しいことが、アメリカン航空を利用しますと、ダラスへは成田から直行便であることも分かりました。このことも、参加決定の大きな後押しとなりました。アメリカで国内便に乗り換えが必要な場合、トラブルが多いからです。国内便の出発が大幅に遅れることが多いだけでなく、欠航することもよくありました。この場合の対処がたいへんです。結局、今年は、別な点で好条件がそろった大会となりました。おまけに、コンテストがすばらしく、また、マジック書も多数買い込んで、収穫の多い大会でした。

ステージ・コンテスト出場者の報告

1位とピープル・チョイス賞を獲得した韓国の Won Keun Haは、Tシャツとハンガーを使った演技です。2個のハンガーの大きさが変化したり、2個が大きな1個に変わります。ハンガーにTシャツが、突然、出現したり、ハンガーにかけたTシャツの色や絵が変化します。また、演者の上着の下に見えているTシャツも変化します。今までになかった全く新しい現象を、明るいタッチで演じられ、スタンディング・オベーションが起こりました。一つだけ問題点をあげるとすれば、Tシャツが中心素材のため、華麗なマジックではなく、安っぽく見えてしまう点です。これが現代的と言われればそうなのかもしれません。

2位の韓国の Yu Ho Jinはカード・マニピュレーションです。既成の方法とは大幅に違った新しい現象と発想が満載です。難しそうなプロダクションも楽々とこなし、次々と起こるバックの色の変化現象も加えていました。全体をかっこ良くムーディーに演じ、最初から最後まで見とれてしまいました。首にかけていた白いスカーフを手に巻き付けると、カードに変わります。1枚のカードの両エンドを両手の指先に挟んで回転させるたびに、次々とカードの色が変わります。両手を左右に大きく広げて、両手のファン・プロダクションを行うたびに、バックの色が異なるファンが出現します。地味な現象なのに、予想外の大きな拍手と声援が起こったのが、1枚のカードの復元現象です。1枚のカードを縦方向に破って、3分の1だけを片手に持って静止しています。何をしているのかと見ていますと、徐々にカードの横幅が増えて、1枚のカードに復元させていました。音楽もこれにうまく合わせていました。最後では、1枚の白いカードが両手の間で回転を始め、両手を離しても空中で回転を続け、それを手に取ると白いスカーフになり、首にかけて終わります。拍手が鳴り止まず、1位獲得者以上のスタンディング・オベーションとなりました。

台湾の Mike Chaoもすばらしい演技でした。緑色のネクタイ(長さ15センチ程)が緑色のクシになり、それが緑色のカードになります。全体的にはカード・マニピュレーションですが、途中でクシやボールにも変わります。次々と起こる変化現象とカード・マニピュレーションがかっこ良く、見ていて気持ちよくなってきます。スタンディング・オベーションこそ起こりませんでしたが、大きな歓声がわき起こりました。本来ならば、1位を獲得してもおかしくない演技でした。

中国の Jiang Ya Pingもカード・マニピュレーションですが、力の入ったパワフルな内容でした。袖なしの革ジャンで、ロック調の音楽に合わせて、最初はエアー・ギターで始まります。カード・マニピュレーションもロック調に合わせて、メリハリをはっきりとさせてパワフルに演じていました。真田豊実氏のサークル・ファンを左右の手に軽々と出現させ、マーカー・テンドー氏の指間でのプロダクションも楽々とこなし、最後の方では、カード・シューティングで盛り上げていました。クライマックスでは巨大なカード・キャッスルを出現させ、その後方より本物のエレキギターを取り出し、演奏するポーズで終わっていました。

カードのテクニックや現象の新しさはありませんが、技術的な完成度の高さと派手さのある演出でまとめていました。彼も今回のような強敵が現れなければ、1位になる可能性もありました。

悲運なのは、決勝戦に3人もカード・マニピュレーションが重なったことです。それぞれが1位を獲得しても不思議ではない実力を持っています。特に韓国のカード・マニピュレーションは、スタンディング・オベーションの多さからも、私は1位になるものと思っていました。しかし、審査員の得点や観客のピープル・チョイスでは、それ以上のオリジナル性や明るいムードの韓国のTシャツの演技に軍配を上げたようです。

中国からの Xin Ya Feiも決勝戦に出場しています。大きな扇子のプロダクションを演じています。両手を左右に大きく伸ばして、カラに見える左右の手から大きな扇子が開いて出現します。音楽に合わせてメリハリもよく、気持ちよく感じます。クライマックスではステージ全体に、超巨大な扇子が多数広げられ、ステージが狭く感じる程です。

もう一人の決勝出場者が、ジュニア部門の Reuben Morelandです。決勝戦の6名の中で、彼だけがアメリカ人です。不器用そうに見える風貌とは逆に、ジャグリング要素満載の演技を楽々と演じていました。ビリヤードボールを使った演技ですが、普通の方法ではありません。ボールが数個入る透明の筒とボールを使います。例えば、白ボールを右手で背中から左前方へ投げると、赤ボールに変化して飛び出してきますが、それを透明筒で受け止めます。これ以外にも、ボールと筒とのコンビネーションを面白く演じていました。問題はその後のビリヤードボールです。2003年 F.I.S.M.グランプリの Norbert Ferre とほとんどソックリな演技が行われていました。どちらかといえば、ビリヤードボールを使ったジャグリングの要素が強いマジックです。ジュニアの彼に、それが出来ることに圧倒されましたが、まねはまねです。ジュニアなので採点が甘いのでしょうが、せっかくの力量をまねをせずに発揮してほしかったと思います。今後、アダルトで出場する場合の課題となるでしょう。

ところで、決勝に残る6人ですが、アダルトとジュニアの人数の枠はありません。点数が高い6人が決勝に残り、この中からゴールド・メダルとピープル・チョイス賞が決定されます。その年によっては、ジュニアが0人の年もあれば、3人の年もあります。しかし、1位と2位は、アダルトとジュニアに分けて決定されます。

決勝戦の6人以外で、すばらしい演技をしていたのが中国の女性です。

アメリカのジュニアの代わりに、彼女が決勝戦に入っておれば、6人共東洋となり、アメリカの面目がなくなるところでした。小柄な女性で、中国の変面を演じます。今までに見た中では、迫力が感じられません。小柄な女性のため演技が小さく見えたからでしょうか。または、あちらこちらで変面を見る機会が多くなったからでしょうか。その点を補うためか、客席に降りて、客の目の前で変面を演じるサービスが行われました。ところで、この後、ステージへ戻るのですが、それからがすばらしかったのです。演者と同じ大きさの人形を高い位置へ持ち上げました。演者と同様な衣装を着て仮面をつけた人形で、その両足の部分を持って、高く上げています。この両足により人形の手を操作し、人形の袖が人形の顔の前を通過するだけで変面が起こります。これが何回か繰り返されます。残念なのは、人形を操作している時の彼女は、素顔の状態になっていることです。人形の仮面と演者の仮面が入れ替わったり、両方の仮面が次々と変面する方が、クライマックスとして盛り上がり、歓声が沸くのではないかと思いました。最近の印象では、変面がかなりポピュラーになりつつあり、今後は、変面だけで世界規模のコンテストに出場しても、上位獲得は難しいのではないかと思いました。

ところで、日本からは二人が出場されています。フミオ氏とチアキ氏です。お二人とも多くのコンテストに出場経験のある熟年男性です。フミオ氏は今回の大会開催地のテキサス州に、長年住まわれていた経歴があり、得意な英語を生かしたコメディーマジックを演じました。笑いのツボを押さえており、楽しいアイデア満載で、会場が笑いで満ちていました。チアキ氏は毛羽のマジックと衣装チェンジが中心で、いつものように最後は派手に終わっていました。お二人とも奮闘されましたが、残念ながら決勝へは進めませんでした。

ステージ・コンテスト決勝戦を見て、ちょっと思ったこと

決勝戦の韓国の二人と中国の二人、そして、台湾の一人を見て、思ったことがありました。アジアの一部の出場者を見ただけで、勝手な考えを紹介するのは問題があるのかもしれません。また、アジアの各地の大会を見てきたわけでもありません。しかし、報告することにしました。

韓国の二人は、全く新しいアイデアと発想をぶつけてきています。世界での発表内容を研究された上で、新しいオリジナルを開発されているのだろうと思います。オリジナルでなければ、世界に通用しないことが叩き込まれているといった印象を受けました。

台湾の出場者の演技は、たぶん、現在流行中の発想を取り入れているものと思います。重要なポイントで使えば大きな効果を発揮しますが、多用しますと感付かれて不思議さが半減します。特にコンテストでは使いすぎに注意が必要です。これは、クロースアップでのスペインの Mancha も、同様な発想を多用していました。

中国の二人には、失礼なことを書きますが、新しい内容のマジックとはいえません。しかし、その完成度を高めて、パワーアップした内容でぶつけてきています。オリジナル性は少なくても、一般客へのアピールは、こちらの方が高い場合もありそうです。

そして、この5人に共通していることは、技術が完璧で隙がなく、音楽にもピッタリと合わせていることです。

1980年以前は、オリジナルと技術はオランダが一歩先を進んでいる印象がありました。F.I.S.M.のグランプリもオランダのフレッド・カップス、リチャード・ロス、ゲル・カパーが獲得しています。1980年代に入って、日本がオランダに取って代わった印象がありました。真田豊実氏、マーカー・テンドー氏、深井洋正氏が、世界のコンテストで大活躍されました。最近でも、ゆみさん、峯村健二氏、加藤陽氏が活躍されています。しかし、韓国がその地位に取って代わろうとしています。日本もまだまだ頑張ってほしいと思います。

クロースアップ・コンテスト出場者の主な内容

1位とピープル・チョイス賞を獲得した Shin Limはシンガポール出身で、現在はカナダに住んでいます。昨年はアメリカ在住となっていました。昨年も技術のすばらしさと不思議な演技で、決勝の6名に残っています。しかし、2位にもなれませんでした。昨年も今年も中心となる現象は、二人にサインさせたカードの、あり得ない状態での入れ替わりです。このこと以外、演じている内容は、昨年と全く異なっています。昨年の場合、あまりにも不思議すぎて、二人の客の内の一人はサクラか、それに近い方法を用いていたと思われても仕方がない状況でした。今年は、サクラでないことをはっきりさせる方法で演じていました。そのためか、不思議さの面では、昨年より少し低下し、方法の見当がつきました。しかし、演出面では昨年以上にパワーアップしており、その点が評価されたのではないかと思っています。二人のサインカードが、1枚ずつ口から現れる部分では、口から煙も吐き出されていました。この時に、不気味な効果音が流れています。彼のエキゾチックな顔や全体のムードからは、今回のような神秘的で不気味な演出がマッチしています。効果音の使い方がうまく、他の部分でもうまく活用していました。口から出したサインカードを小さな透明ビニール袋に入れています。二人目のサインカードも別のビニール袋にいれます。このサインカードが、一瞬で入れ替わります。また、元に戻した後、2枚とも袋から消失します。その後、ケースに入れたデックも消えてしまいます。

現象は分かりやすいのですが、方法では少し無理をしている点があり、改良の余地があると感じました。技術とオリジナル性と演出面で優れており、今後の活躍が楽しみです。

2位のスペインのWoody Aragonは、タマリッツを想像させるジェスチャーとスピーチを伴った演技でした。十分にシャフルしたりカットしたにもかかわらず、特定のカード名や数をスペリングしながら配ると、それに関連したカードが出現します。そして、それが繰り返されます。特に大きく盛り上がったのは、今回のゲストの一人であるマックス・メイビンの名前を言って、スペリングしながら配ると、彼の顔写真のカードが現れたときです。また、最も不思議であったのは、13枚程を使って行うカード当てです。このパケットを客へ渡し、シャフルさせ、1枚選ばさせて覚えたカードをパケットへ戻し、さらに、客にシャフルさせています。それを演者が受け取り、裏向きのファンに広げ、裏向きのままで少し混ぜた後、客のカードの数をスペリングしながら配ると、客のカードが現れました。最後の現象として、残ったデックでスペリングしながら配る操作を続けると、毎回、特定のカードが現れています。客にカットさせたりシャフルさせたことを強調しながら演じていました。

2位には異存はないのですが、クライマックスが弱い印象を受けました。また、特別なデック、特別なセットを使っている印象を与えた点で、私には不思議さがそれほど強く感じませんでした。しかし、明るく楽しい演出は、大いに評価されたと思います。タマリッツ的に無邪気で明るく演じて、技術的なことを何もしていないように見せながら、かなりの計算された発想と操作をしているものと思われます。

スペインからのもう一人の出場者がHector Manchaです。実を言えば、予選を見た段階では、彼が1位か2位になると思っていました。今回2位になったスペインの Aragon とは対照的で、パーラーマジック的に立って演じ、フランス風にエレガントでスマートです。その上、ビジュアルに不思議な現象が次々に起こるので、私には強烈な印象が残りました。

コンテストは予選と決勝戦とで、同じ内容を2回見せることになります。2回見れば、たいていの不思議現象が解明されやすくなります。私も決勝戦を見る時には、それを解明するための仮説をたてて見てしまいます。結局、仮説が当たっていただけでなく、多用していることも分かりました。しかし、その使い方やカバーの仕方がうまく、その点では感心させられました。

彼の場合、最初の現象から不思議さが強烈です。明らかにサクラではない客に、自由に1枚のカード名を言ってもらいます。デックを表向きに広げかけた時に、テーブル上に立てて置いてあったカードケースが倒れます。デックをテーブルへ置いて、なにげなく両手がカラであることを示した後、ケースを取り上げて振るとカードが入っている音がします。ケースから1枚のカードが出てきますが、それが客の指定したカードです。この後、このカードにサインをさせますが、それがケースに移動したり、デックからライジングしたり、マジシャンの帽子へ移ったりと、めまぐるしく現象が起こります。その中でも、何も持っていなかったはずの手から、急に客のサインカードが現れたときにはビックリしました。予選では、次々に起るビジュアルで不思議な現象に圧倒されっぱなしでした。しかし、謎の一部分に気付くと、それを多用しているために、不思議さがかなり減少してしまいます。それでも、実践面での使い方がうまく、将来、このマジックのレクチャーをされるのであれば、是非受けたい気持ちにさせられました。2位に入れなかったことが残念です。

アメリカのDavid Ren Jenkinsも予選では不思議な現象の連続でした。ロイ・ウォルトンの「カード・ワープ」は有名ですが、これを1枚のカードだけで演じています。細長く半分に折り曲げたカードを客の手の上へ置き、演者の指で半分を少しカバーするだけで、その面が反転します。もちろん、客にデックから1枚取らせ、仕掛けのないカードであることを証明した後で演じています。最後では、消失していた客のサインカードが、四つ折りされて、別の客の靴の中から、その客により取り出されます。かなり早い段階から、第2の客に本人の靴を脱がせ、靴の履き口が観客に見えるように胸の高さあたりで持たせていたものです。演者は靴に全く触らず、近づいた印象も与えないようにしていました。

これらの不思議な現象も、2回見ると解明することが出来ました。カードワープの現象を起こすためには、カードに重要な一つの準備が必要です。しかし、調べられたカードで、それが出来る機会があったのかが気になっていました。また、客の靴に四つ折りのサインカードを入れる機会があったのでしょうか。これらのことに注目しながら、決勝戦を見ることになりました。

これら以外にも、別の不思議な現象を繰り返し起こしていました。右手に持ったカードを左手でカバーするだけで不思議なことが起こります。これを3回も繰り返していました。最初は、カードワープに使ったカードを半分に破り、それを右手に持って左手でカバーすると、つながった1枚に復元します。このカードの表の中央にサインをさせ、左手でカバーしますと、サインの上をマジックインクが塗られたカードに変わっています。このインクは剥がすことが可能で、剥がすとサインが消えています。このカードを四つ折りにして左手でカバーしますと、完全に消え去ってしまいます。左手のカバーは、胸の高さで手の甲が客席を向く状態で行われます。現象を起こした後は、毎回、両手をなにげなく改めています。3回とも同じ方法を使っているものと思います。

アメリカのJohn Georgeは決勝戦の6人の中では正統派といった印象です。個々のマジックには工夫があり、全体をうまくまとめています。しかし、新鮮さでは物足りなく感じました。また、他のマジシャンのインパクトが強く、彼の場合、何を演じていたのか印象が薄くなってしまいました。各地の大会では、1位を獲得してもおかしくない内容です。しかし、大きな規模の大会では、演技内容や演技者にもっと引きつけられる魅力が必要であると感じました。

シャンペンが入ったグラスと、それを置くための高くて小さな台を手に持って登場します。何故このように両手に物を持った状態での登場となったのかは、すぐ後のコイン・マジックを見ていて、その秘密の部分で理由が分かりました。両手には何もないことを示し、コインを出現させると言いますが何も起こりません。リラックスした後、もう一度、同様に行うと1枚のコインが出現し、さらに、それが大きくなります。彼のメインとなるマジックは、後半で演じられるカップ・アンド・ボールです。そのクライマックスでカップから取り出される品物が、前半のマジックに伏線として登場させています。前半ではコイン・マジックだけでなく、カード・マジックも演じられています。ネジで半分に分離出来るデックを使った現象だけでなく、カードケースより特定の数が書かれた大きなビリヤードボールを取り出しています。また、銀色の卵を示し、テーブルの上へ置いたままにしています。この卵については、ギャグか何か意味のあるセリフを言っていたようです。カップ・アンド・ボールの最後で、両側のカップからは、ビリヤードボールとテーブルに置いてあったはずの銀色の卵が出現します。中央のカップからは、多数のコインが山積み状態で出現します。これらを示す時に、順次、カップは口を上にして重ねていますが、三つを重ねたカップからは、液体のシャンペンが現れて、シャンペングラスへ注いで終わります。

6人目は、ジュニア(ユース・カテゴリー)1位となったアメリカのReuben Morelandです。ステージの決勝戦の6人にも入っています。客席に向かって、小型の使い捨てカメラでシャッターを次々に押して撮影します。客に1枚のカードを選ばせてサインさせます。このカードを含めて4枚のカードを使って、ダイス・アセンブリーを演じます。コイン・アセンブリーのように四隅にダイスを置きますが、それぞれのカードはダイスの前方へ立てかけます。つまり、横向きのカードでダイスをカバーして、前方からダイスが見えないようにしています。この状態で1個ずつダイスが一カ所に集まります。次に、スローモーションで行うと言って、操作はゆっくりと行いますが、ダイスは一気に一カ所に集まります。この後、リバース・ダイス・アセンブリーも行っています。最後には、客のサインカードが消失し、カメラのフィルムを取り出した奥から客のカードが出現します。全体を陽気に楽しいムードで演じています。気になるのは、ダイス・アセンブリーがドイツのマーティン・アイスレ "Martin Eisele" とほとんど同じである点です。アイスレは2006年のFISMスエーデン大会のミクロマジック部門で1位を獲得しています。この時に演じたダイス・アセンブリー(ダイス・マトリックス)が話題となりました。普通のアセンブリーの後、リバース現象も行っています。また、4個のダイスが消失し、マット上の4枚のカードが自動的に起き上がり、その下からダイスが再現するクライマックスもついています。最初の基本となる部分は、彼のレクチャーノートに方法が解説されています。2007年には、マジックランド主催の箱根クロースアップ祭で来日され、日本語版レクチャーノートも作成されました。ジュニアであるので採点が甘いのかもしれませんが、アダルト部門であれば、もっと厳しい点数がついていたと思われます。

決勝戦の6名には入れませんでしたが、面白い予選出場者がありましたので報告します。

アメリカの若い男性ですが、立った状態でコイン・マジックを演じている途中で、上着を脱いで、黒いシャツの袖をまくり上げ、シャツをズボンの外へ出していました。シャツには前方にボタンがなく、ポケットもありません。つまり、コインを隠す部分がない状態で、3枚のコインを消失させることを宣言します。1枚ずつコインが消失し、3枚目のコインも完全に消えて、両手のどこにもコインが見当たりません。しかし、3枚のコインを客に改めさせていませんし、最後のコインの消失も見ていると見当がつく方法でした。このような客に挑戦をいどむマジックに私は興味がそそられますが、コンテストとしてはどうかと思いました。また、挑戦するのであれば、せめて、2回見たくなる不思議さでチャレンジしてほしいと思いました。彼のマジックの最後には、2匹の小鳥とウサギを取り出していましたが、1匹の鳥は客席へ飛んで行きました。マジック全体の流れとは関係なく、唐突に動物を出現させているだけです。彼のコンテストに対する意気込みは伝わってきますが、から滑りしているように思いました。それでも将来が楽しみな出場者です。

カナダからの出場者は、中年の東洋系の人物で、虫歯の患者として登場し、コメディータッチに演じました。最初に衣装チェンジして、手術を受けるような服装に変えています。糸を口の中に入れると、糸に一つの歯だけでなく、四つもついて取り出されます。口を開くと、あちこちの歯が抜けたように見えます。歯に特別な研磨機を当てると、口から火花が散り圧倒されます。口を開くと、歯がピカピカの金色に光っています。プロが演じそうな気違いじみたショーを見ている思いがしました。ショーとしては楽しめたのですが、クロースアップのコンテストとしては採点が厳しかったのかもしれません。

コンテスト以外のことで

夜のゲスト・ステージショーで大いに笑わせてもらえたのが Ed Alonzo です。下ネタも入っていますが、全てのネタで笑ってしまいます。私の席の同列の客が、巨体を前後に大きく動かして笑っていたために、イスが壊れるのではないかと心配しました。特に大笑いしていたのが、細長いバルーンを飲み込むネタです。この後、しゃべる声がピーピー声に変わります。それを排泄するために、便器に座っているポーズをとるのですが、きばる時もピーピーと音が出ます。このポーズのまま客席を向く方向に変えて、股の間の後方より、黒くなった細長いバルーンを引き出した時には、笑いが最高潮に達しました。さらに、これで動物の形を作り、前方の客に渡した時も観客は大爆笑していました。

最終日のゲストショーは、伝説となるマジックやマジシャンをテーマにしていました。スクリーンには伝説となった有名マジシャンが次々に紹介されます。その中で、日本のマジシャンではマーカー・テンドー氏の写真が映し出されると、会場の拍手が一段と高くなりました。それと同時に、私の目頭も熱くなりました。 今年の大会は例年と異なり、いくつかの新企画が加えられていました。ジュニアだけが出演のショーがあったり、少人数制の多数のレクチャーも企画されていました。本来の大会場のレクチャーを加えますと、多数のレクチャー数になります。しかし、私が最初から受ける予定をしていたのは、ダニエル・ガルシアのレクチャーだけです。1時間15分、次から次へと飽きさせずに、夜の12時をまわっているにもかかわらず、会場を出る人がほとんどありませんでした。

ディーラー会場は、例年よりも店の数が少なかったようです。しかし、会場の中央にテーブルやイスを多数置いて、マジック・セッションが自由に出来るようにしていました。また、この会場の隅の数カ所に、カーニバル会場に置いてあるような大きな娯楽ゲーム機を設置して、自由に楽しめるように工夫されていました。昨年は日本のディーラーが4件出店していましたが、今年はセオ・マジックさんだけでした。品揃えとダイスケさんのキャラクターにより、人気がありました。

今年の日本からの参加者は、大幅に少なくなると思っていましたが、予想に反して15名以上の参加となっていました。そして、今年も予想以上に楽しめて、収穫の多い大会となりました。


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