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コラム



第45回 セルフワーキング・カードマジックとその原理(2010.6.23up)




はじめに

セルフワーキングは好きではありません。なかでも、ダウンアンダーは大嫌いです。このように、2004年の「掌・パーム22号」の記事の中で書きました。この考えは、今日でも基本的には変わりません。ところが、嫌いと書きつつも、セルフワーキングの作品やダウンアンダーを使った作品を多数発表してきました。また、セルフワーキングに関連した文献を出来るだけ購入しています。私の場合、セルフワーキングマジックは嫌いでも、その中で使われた原理の魅力にはまっていたからです。セルフワーキングが何故嫌いになったかの理由は後で報告します。

2010年に入って、既に2冊のセルフワーキング関連の本が発行されています。1冊は加藤英夫著「カードマジックライブラリー第5巻」です。各種のマセマティカルな原理と、その応用作品でまとめられています。その内容のすばらしさと、ボリュームに圧倒されました。2冊目は海外の本で、ロベルト・ジョビー著「カードカレッジ・ライティスト」で。1995年にドイツ語で発行されていましたが、その英訳版であり、このシリーズの3冊目となります。今回は、これらの本の内容についてと、セルフワーキングの私の思いや、多くの文献の調査により分かりましたことを報告させて頂きます。

セルフワーキング・カードマジックの問題点

セットを必要とせず、シンプルな操作だけで効果的な現象が起こるのであれば、セルフワーキングはもっと好きになっていたはずです。しかし、私が見たり読んだ多くのセルフワーキングが、それとは全く逆でした。ダラダラとした繰り返し操作が多く、時間をかけている割に、現象の弱いものがほとんどでした。しかも、セットを必要とするものも多数ありました。ダウンアンダーも15枚以上で繰り返されると、ダラダラした印象の作品となります。そして、単なるカード当てで終わっている作品が多く、インパクトも意外性もありませんでした。

パズルを解く感覚で謎を考えてもらうのは面白いかもしれません。また、バーバルマジックのように一人で操作して、不思議さを味わってもらうのには最適です。しかし、客を前にしてマジシャンが演じるものとしては問題がありすぎます。テクニックを使うマジックが苦手であったり、マジックの初心者であったとしても、受けるマジックを演じるべきです。操作に時間をかけすぎたり、現象が弱ければ実践的ではありません。また、セットを必要とする場合は、セットに費やす労力に匹敵する現象であってほしいと期待します。

結局、別な見方をすれば、問題点ばかりのセルフワーキングの状況であるからこそ、改良する余地があり、改良する楽しみが生まれたわけです。少しでも私好みの作品とするために、私も鍛えられ、マジックの改良の面白さに、より一層はまってしまいました。しかし、これも、面白い原理があればこそです。

セルフワーキング・カードマジックとは

はっきりとした規定をどのようにすべきかよく分かりません。私の考えでは、特別な技法を必要とせず、誰でもが自動的に現象が起こせるマジックといった印象があるだけです。今年に入って発行された2冊の本ですが、実を言えば、どこにもセルフワーキングの本とは書かれていません。私が勝手にセルフワーキング関連の本と紹介しただけです。加藤英夫氏の本では、マセマティカル原理を中心とした作品集として書かれています。また、ロベルト・ジョビーの本は、技法を必要としない作品の本として書かれています。このような記載の方が、内容の規定がはっきりしています。

今回、これをきっかけにセルフワーキングを歴史的な点から調べなおしました。不十分な調査ですが、20世紀の初め頃までは、セルフワーキングの名称の用語を見つけることが出来ませんでした。マジック書には、「技法を必要としないカードマジック」の項目があるだけです。

1936年には、グレン・グラバットが「エンサイクロペディア・オブ・セルフワーキング・カードトリック」の本を発行しています。ほとんどが特別なカードやデックの項目でしめています。普通のカードで技法を使わない作品も掲載されていますが、数理的原理の作品がほとんどなかったのが残念です。この本に技術を使用するマジックやニコラシステムのマジックの項目を加筆して、大々的に売り出したのが、1937年のヒューガードの「エンサイクロペディア・カードトリック」となります。

1940年には、ヒューガードとブラウエによる著名な「エキスパート・カード・テクニック」が発行されます。この中で「セルフワーキング・トリック」の項目があり、12作品が解説されていました。こちらでは、多くの作品に数理原理が使われています。しかし、奇妙なことは、5作品に技法が使われて、その中の3作品では、数理原理すら使われていなかったことです。つまり、セルフワーキングの名前が使われ始めた段階から、その用語の使用にあいまいさがあったことになります。

加藤英夫著「カードマジックライブラリー第5巻」より

2010年3月発行で、この第5巻には、第15章から20章までが解説されています。そして、全ての章がマセマティカル原理を元にした作品となっています。それぞれがすばらしいのですが、その中でも、私の印象が強かった部分を中心に報告します。

第15章 ギルブレス・プリンシプル
この原理を使った作品は、今日まで数えきれないほど発表されてきました。この章のすばらしさは、それらの作品を7分類して紹介されていたことです。この原理には幅広い使い方があり、その応用例と全体像を知る上で大いに助かります。ここでは25作品が解説されており、その内の10作品が加藤英夫氏の考案です。その中でも、すばらしいのが「伝説のグランドスラム」です。ご本人がご自身の作品の中でも最高傑作と評価され、単独商品としての販売も考えられていた作品です。原案のフランク・ガルシアの方法も解説されていますが、原案のままでは欠点が多く、私にとっては印象の薄い作品です。その欠点をなくし、パワフルな現象の作品に生まれ変わっていました。最初にデックの表全体を見せて、あらためが可能なように改良されています。それだけでなく、デックを2分割して混ぜ合わせたにもかかわらず、デックのトップから、スペードの13枚が取り出される現象を3回も繰り返す大幅な改良作品に変貌しています。頭の良い改案に気持ち良さを感じてしまいます。これだけのことが起こせるのであれば、セットを必要としても、その価値が十分過ぎるほどあるといえます。

第16章 等式プリンシプル
この章では5項目に分類されています。パート1が「オートマチックプレイスメント系」です。数枚のカードを取らせた後、その枚数目のカードを覚えてもらうプロセスでなじみがある原理です。クロック・カードトリックによく使われています。13作品の解説の中でも、「愛の告発」が最も気に入りました。加藤英夫氏の考案作品です。皮肉なことに、13作品の中で、私の嫌いなダウンアンダーを使った唯一の作品です。嫌いであっても、ここでのダウンアンダーの使い方が見事です。使用目的がこれまでとは全く違っていました。これにより、オートマチックプレイスメント固有の数理くささをなくしています。さらに、「好き、嫌い」と言いながらダウンアンダーを行うのが、このマジックの演出にマッチしていました。

パート2の「ミラスキル系」と、パート3の「ペイオフ系」は、余談やこのマジックに関連した話を面白く読ませてもらえました。特に「ペイオフ」の記載の中で、ポール・カリーの「アウト・オブ・ディス・ワールド」が、この作品の影響を受けて誕生していたことが印象的でした。

パート4の「伊藤家の食卓系」は、まず、この名称の付け方に興味が引かれました。この原理の一般的な名称がないことから、この名前を付けられたと思います。「伊藤家の食卓」の番組で、この原理を使った作品が話題となったからです。その作品については、後の項目で報告します。この原理にはかなり古い歴史があり、多数の方法が発表されています。その中でも、加藤英夫氏の本の「リターン・オブ・ザ・プロット」の発想には驚いてしまいました。これまでの考え方とは大幅に違っていたからです。今までであれば、1枚表向けて、そのカードの次の数から数え始めて10や13まで配り続けます。これを繰り返していくつかのパケットを作り、表向きカードの合計数を使うマジックです。ところが、この作品の方法では、最初にカードを表向けることなく裏向きで配り続け、特定の位置でストップして、そのカードを表向けていました。一カ所で簡単な技法を使うことになりましたが、発想のユニークさに脱帽しました。

第17章はサイクリックスタックの作品でまとめられています。デックやパケットに全体のセットが必要な作品ばかりとなります。パート2の「パワーオブソウツ系」は、二つの山から同時にカードを配り、客のカードと同色同数のカードが同時に現れる現象です。これをシンプルに行うためには、セット嫌いの私ですが、全体のセットを容認せざるを得ません。面白い原理で印象的なのは、ロイ・スコットの「クラニッシュ」を改良した加藤英夫氏の「パワード・クラニッシュ」です。原案は一カ所だけの一致であったのを、二カ所で同様の現象が起こるようにしています。興味深いことは、同様な現象を読んだことがあり、確認のため、それが解説された文献を探して読みました。1981年発行の「こいわ奇術 No.17」に解説されていました小野坂東氏の「偶然の一致にしては」です。やはり、同様の原理を使って、二カ所で一致するようになっていました。その当時も、この面白い原理に魅力を感じましたが、結局は演じることがありませんでした。デック全体のセットの問題もありますが、もう一つの問題が、他の位置でも一致する箇所があったことです。トップから最初の表向きのカードまでが奇数枚であったり、2カ所の表向きカードの間が奇数枚の場合、それぞれの中央地点で一致現象が起こってしまうからです。その当時は、この問題を解決しようとまでは考えませんでした。今回、再度この現象に巡り会ったのをきっかけに、解決策を考えることにしました。その結果、よい解決方法が見つかりました。一方のパケットの2カ所のカードを表向けた後、両方のパケットをたて方向にスプレッドして、奇数枚の中央点を演者のカードとして、カードを裏向きのまま横向きにすることにしました。客が表向けた位置のカードだけでなく、この位置のカードも一致していることが、堂々と示せるようになりました。このすぐ後で、加藤氏の本を読み続けますと、その中に解説されたニック・トロストの「10枚カードのダブルコインシデンス」も、私が加えた解決策と同じ発想を利用した作品であることが分かりました。あらためて、この本のすばらしさに感心させられました。

パート4の「カード当て系」では、デック全体をステイスタックにセットしています。トップ側からの配列とボトム側からの配列が、同色同数のカードで鏡像の状態になっています。パーフェクト・フェロウシャフルであれば、繰り返しても、鏡像状態が保たれる特性を持っています。よくシャフルしたにもかかわらず、面白いメカニズムが働いて、不思議なカード当てや少し変わったサンドイッチ現象が起こせます。弱点をあげるとすれば、デック全体のセットが必要なことと、このセットの特性を生かすためにパーフェクト・フェロウシャフルの繰り返しを使う作品が多いことです。大変な割に、その苦労が報われる作品が多いとは思えません。そのような点を考えますと、この章の中で特に魅力的な発想が、加藤英夫氏が考案されたステイスタックのための技法です。パーフェクト・フェロウシャフルを使用しなくても、デックやパケットをよくまぜた印象を与えることが出来るようになりました。

パート5の「ウエルザカードマッチ系」は、スペリングを使ったパケットで行う不思議な一致現象です。これに関する加藤英夫氏の話や歴史経過が面白く、非常に参考になります。ここに解説された2作品も面白いのですが、ロベルト・ジョビー著「カードカレッジ・ライティスト」で紹介された2作品も好きな作品です。問題はスペリングに使用するための日本語の単語です。楽しい演出が可能な日本語の単語が考え出せれば、もっとすばらしい作品になります。以上の他、面白い原理と応用作品が多数紹介されています。読み終えた時は、お腹いっぱいになりましたが、しばらくしますとお腹がすいてきます。まだまだ紹介されていない原理が多数あり、番外編として、第5巻の続編を期待しているところです。


(補足)伊藤家の食卓で使用された原理

「伊藤家の食卓」のテレビ番組については、以前の私のコラムでも触れています。この番組の中で紹介された「13の不思議」が、当時、かなりの話題となりました。この番組で、初めて、もう一回実演してほしいとの問い合わせが殺到しただけでなく、数ヶ月後には、このようなカード遊びが番組の中でシリーズ化しました。この原理は割合知られているものです。一般向きのカードマジックの本にも、よく取り上げられています。私も小中学生頃、カードマジックを見せられると、ほとんどがこの原理を使った方法でした。面白いメカニズムが働くため、私の好きな原理の一つです。しかし、こればかり見せられることが多かったために、あきてしまったのも事実です。ところが、この伊藤家の番組の方法では、全てを13の数で統一しているだけでなく、結末も違っていましたので、新鮮に感じました。最終的に手元に残ったカードの枚数と、最後に残った山のトップカードの数が一致する現象です。

今回、この方法の詳細が思い出せなくて、当時購入していた「伊藤家トランプ」に付いていた解説を読みました。奇妙なことに、思っていたほど面白さを感じないのです。全てを13の数に統一していなかったのが原因のようです。不要なカードを除く場面では、10枚を取り除いているだけです。このような方法ではなかったはずと思い、録画していた当時のビデオを探し出して見ることにしました。映像では、並べられた三つのパケットを、1、2、3、とカウントした後、手元のパケットで4から13まで数えながらテーブルへ配り、10枚を取り除いていました。解説書では、簡略化のために、最初の三つのパケットのカウントを省略していたわけです。これだけのことで、大幅に変わった印象を受けました。無理矢理にでも全てを13に統一していたことが、面白く感じていたようです。操作のシンプル化は重要ですが、演出面までシンプルにすると、面白くなくなることを痛感しました。

なお、その後の調査により、この現象の直接の元となるのは、ダイ・バーノンの "Affinity" であることが分かりました。この作品も、今回の加藤氏の本に解説されています。バーノンの作品では、各山を作る時、演者によるスピーディーな方法で行なわれていました。1988年のスティーブン・ミンチ著 "The Vernon Chronicles Vol.2" で紹介された作品です。さらに興味深いことは、1941年の「ターベルコース第1巻」の中での方法も、基本的には同様な考え方の現象であることが分かりました。この原理は、1876年の「モダンマジック」には既に解説されており、32枚のピケットデックを使った方法となっていました。四つの山を作らせ、残ったカードの枚数から、四つの山のボトムカードの合計数を当てる現象です。2008年の「カードカレッジ・ライター」に解説されたリチャード・ボルマーの作品では、バーノンの方法を改案して、面白い現象に仕上がっていました。多数の山を作り、客が選んだ四つの山のトップカードの合計数により、カードケースの中へ入れたカードの枚数を当てる現象となっています。操作方法は、バーノンのスピーディーな方法で分割して山を作っていました。

ロベルト・ジョビー著「カードカレッジ・ライト」シリーズ3部作について

2006年に「カードカレッジ・ライト」(ドイツ語版1988年)、2008年に「カードカレッジ・ライター」(ドイツ語版1992年)、2010年に「カードカレッジ・ライティスト」(ドイツ語版1995年)の3冊が英訳され発行されています。3冊共に技法を使用しないカードマジックの作品集です。

ジェイミー・イアン・スイスは最初の英訳版が発行された時、Genii誌の2007年1月号の書評コーナーで、「究極のビギナーのカードマジックブック」と紹介していました。私も同様な印象を持ちました。これらの本では、元々がシンプルな名作を、もっと効果を上げるために、一昨品ずつ細かい注意点とちょっとした演出を付け加えていました。客にシャフルさせた場合や、演者がデックにタッチせずに行った場合には、そのことを強調するために、最後の段階で必ずセリフに含めていました。デックの表を広げて、その中から客のカードを見つけ出す作品がいくつかありますが、必ずちょっとした演出を加えています。客の指紋を見て、さわったカードを探すとか、脈拍をみながら脈拍の変化で当てるといった演出です。このような丁寧な記載と細かい配慮は、ビギナーにとっては重要です。また、マニアにとっても、良い刺激となります。しかし、その反面、解説が長くなるだけでなく、くどい印象が残ります。例えば「ライト」の本の「うそ発見機」の作品では、クリスクロスフォース(カットさせた後クロス状に重ねるフォース)したカードを当てるのに、4ページを使っています。マニアにとっては、フォースしたカードの当て方の1例の演出を紹介しただけで、2ページ以内で終わってもよい解説です。同じ「ライト」の本に解説された「サーカス・カードトリック」では、8ページも使っていました。軽いタッチで笑える、息抜き感覚のマジックで、「ロイヤルロード・ツー・カードマジック」では1ページで解説していたものです。

この3冊で私が気に入ったのは、リチャード・ボルマーの改案作品が数作品ずつ掲載されていたことです。彼の改案の発想が面白く、私の好みにマッチしていました。完成度が高いのが、「カードカレッジ・ライター」の「Mr.キング・タペストリー」です。1991年のドイツの文献と、同年には米国のマジック誌「アポカリプス」にも掲載されていたものです。奇妙なことは、日本においては、1987年発行の「カードマジック入門事典」には、既に「魔法のじゅうたん」として解説されていたことです。作者名はありませんでした。私はこの作品が気に入り、1993年の私の作品集「スーパーセルフワーキング」に、現象を次のように少し変えた内容で発表しました。16枚をスプレッドすると4枚のKだけが表向いており、それをカーペット状に広げると、大きなKのイニシャルが出現します。これを客に折たたませてスプレッドしますと、4枚のQだけが表向いた状態になります。「この隠されたQは誰なのでしょうか」といった結末です。

「カードカレッジ・ライト」に解説された「マント」は、日本でアリ・ボンゴが演じて話題となったマジックの発展経過を知る上で興味深い作品でした。アリ・ボンゴの予言のカードマジックは、折たたまれた予言の紙を広げるたびに次の予言が書かれており、最後は意外な結末の予言で終わる作品です。最近では、この面白い作品が多くの人の改良により作り上げられたものであることが知られています。その改良経過の一つに、リチャード・ボルマーのこの作品が関係していたわけです。ボブ・ハマーに始まり、サイモン・アロンソン、リチャード・ボルマー、アルド・コロンビニ、アリ・ボンゴの経過をたどっているようです。ボルマーは予言の紙を折たたむアイデアを加えています。コロンビニは最後の意外な結末を加えました。リチャード・ボルマーの他のマジックについては、決して完成度が高いとは言えませんが、原理の改案部分で私に良い刺激を与えてもらえました。ボルマーは私の好みで取り上げましたが、3冊の本には、それ以外に紹介したい作品があります。各本から1作品ずつ取り上げることにしました。

1冊目の「ライト」の本からは、冒頭に解説されたタマリッツの「T.N.T.」です。デック全体に赤黒交互のセットが必要ですが、予想以上に簡単にセットが出来ます。この作品で気に入ったのは、選ばれた二人のカードを見つけ出すのが、次第に困難な状況へグレードアップしている演出です。実際にはその反対で、次第に見つけ出しやすくなっています。また、面白い点は、マジックの終了後、秘かにデックが赤と黒に分離しており、このことを次のマジックに利用出来る点です。

2冊目の「ライター」の本からは、最後に解説されたCarlhorst Meierの「ユア・フェイトフル・アワー」です。よく知られたクロック・カードトリックに、おじいさんの形見の懐中時計を使って、ちょっとしたクライマックスを加えています。新しさはありませんが、演出面で味のあるマジックに仕上がっています。

3冊目の「ライティスト」の本では、各作品に違った面白さがありますが、1作品を選ぶとすれば "Further Than Ever" です。3冊の最後を飾るのにふさわしい作品です。ただし、15枚のセットが必要なだけでなく、私の嫌いな数理的方法によるフォースが使われ、しかも、英語のスペルにより客のカードを取り出しています。本来ならば、私が取り上げているのが不思議に思える作品です。しかし、場を盛り上げるマジックとしては、この3冊の本の中で最上級の作品とも言えるでしょう。この原案は、1941年4月の"The Jinx"誌134号に掲載されたスチュアート・ジェームズの "Further Than That" です。客の1枚のカードをスペリングで取り出すだけのマジックが、それに続けて、同数の他の3枚が現れ、さらに、同マークで順番に並んだ数枚が示されます。そして、客のカードを含めたロイヤル・ストレートフラッシュが現れます。「昔はここまで。今のマジシャンはもっとすごいことが起こせます」。現象が起こるたびに同じセリフを言っている点が、このマジックの演出の面白さです。演者の力量次第で、かなり大きく盛り上げることが可能です。後で補足として、15枚のセット以外の全てをブランクカードにするアイデアも書かれていました。盛り上げることを目的にするのであれば、セットも徹底的にして、最後には、残りの全てがブランクカードになっていることを示して終わるのも面白いでしょう。

この後は、セルフワーキングの調査により分かりましたことを報告することにします。

ジェルゴンのトリックについて

27枚のカードで三つの山を作ることを繰り返し、客のカードを当てるトリックです。もしかしますと、このトリックが私のセルフワーキング嫌いの原因の一つになった可能性があります。27枚を3回も配ることを繰り返せば、カードが当たるのもあたりまえのように思います。そして、時間がかかりすぎです。このトリックの改案で、すばらしいと思ったことが一度だけありました。1969年の奇術研究53号に厚川昌男氏が「邂逅」と「透視」の2作品を発表されたことがあったからです。2作品ともすばらしい改案で、演じてみたい気にさせられました。しかし、手間のかかることには違いがありませんので、演じることにはなりませんでした。

興味深いことは、エドワード・マルローが21枚のカードを使って「21カードトリック」として改案を発表していたことです。マルロー派のマジシャンは、このトリックの各自の改案を持っていることを誇りとしているようです。しかし、マルローや他の人物の改案を読んでも似たりよったりで、印象的なものがありません。ただし、何故、27枚ではなく21枚であるのかが疑問でした。時間短縮のためかと思いましたが、それほど違いがありません。その後、歴史に興味を持つようになって、1876年のホフマンの「モダンマジック」を読んでいた時に驚きました。21枚を使ったこのトリックが解説されていたからです。マルローのこのマジックが解説された「カーディシャン」の本をよく読みますと、その中で「モダンマジック」のことに触れられていたことが判明しました。ところで、「モダンマジック」の中で技法を使用したマジックの項目では、27枚でこの原理を使っていることも分かりました。それだけでなく、最後にはトップへ来る状態にして、パームしてポケットより取り出したりもしていました。柔軟な発想や新しい発見もあり、古典を読むことの必要性を痛感しました。

「エキスパート・カード・テクニック」とセルフワーキング

この本のセルフワーキングに関する奇妙な点は既に報告しました。しかし、それだけではなく、いくつかの問題点があります。この中で解説された「26th ロケーション」ですが、作者名の記載がありません。これは、2年前の1938年のマジック誌 "Genii" 7月号に解説されたオスカー・ウェイグルの「オートマチック・ロケーション」が原案です。26枚目のキーカードを使って、デックを3分割させ、シャフルさせたトップパケットのトップカードを覚えさせて、三つのパケットを重ねあわせてカットしたにもかかわらず、客のカードを当てるマジックです。(原案ではボトムパケットのボトムカードも覚えさせていました) この作品が少し変更されて、「ロイヤルロード・トゥー・カードマジック」や多くの文献に登場することになります。しかし、原案者名の記載はないままです。

「エキスパート」や「ロイヤルロード」の本は、その後、再版を繰り返す影響力の大きい文献となります。いずれも、ヒューガードとブラウエの共著です。無断で採用し、しかも名前の記載をしなかったために、長期にわたり原案者名が知られないままでした。1991年のエルムズリーの作品集をスティーブン・ミンチが発行した時に、その改案である「シャドウド」の中で、初めて原案者名が記載されました。そして、これまでの文献で、誰も原案作品に触れなかったことが残念で、ミステリーであると書いていました。今回の「カードカレッジ・ライト」にも「フィンガープリント」のタイトルで、この原理を使った作品が解説されていますが、原案者名の記載がありませんでした。原著のドイツ語版が、1988年発行であったためでしょうか。しかし、2006年の英訳版では、スティーブン・ミンチも関わっていますので、クレジットの部分で書き加えてほしかった思いがしています。

セルフワーキングにより、客が4分割した各パケットのトップより4エースを出現させるマジックがあります。「エキスパート・カード・テクニック」ではセルフワーキングの章ではなく、4エース・アセンブリーの作品が集められたところで解説されています。奇妙なことは、アセンブリー現象ではないのに、「エース・アセンブリー」のタイトルがついていました。問題は、この作品にも作者名の記載がなかったことです。これは1年前の1939年のマジック誌「ドラゴン」に、オスカー・ウェイグルが解説したスティーブ・ベルチューの作品です。1948年の「ロイヤルロード」の本に「ポーカープレーヤー・ピクニック」のタイトルで再録されます。やはり、作者名がないままです。1950年の "Scarne on Card Tricks" では「ウェイグル・エーセス」のタイトルになっていました。正しい原案者のベルチューの名前が記載されるのは、1956年のマーティン・ガードナー著「マセマティカルマジック・アンド・ミステリー」においてです。

「エキスパート・カード・テクニック」の本は、調べれば調べるほど面白くなってくる本です。その当時の最先端のマジックやテクニックが集められているからです。しかし、その多くが無断で掲載されていました。今日では、絶対に許されることではありません。当時でも大きな問題となりました。バーノンやチャーリー・ミラーが関係した作品が多く含まれています。何故そのようになったのか、また、本全体の内容の面白さを書くだけでもかなりの分量になります。もっと徹底的に調査したいと思っている本でもあります。

カードマジック事典とセルフワーキング

1983年に高木重朗氏の編集で東京堂出版より発行され、今日でも人気のある事典です。多数の技法や作品がコンパクトに解説され、調べたい時に重宝する本です。技法を使用するマジックは、すばらしい作品がそろっています。それに比べますと、セルフワーキングに関しては、掲載しているのが疑問に思える作品が多数ありました。不思議に思い、詳しく調べますと、1976年発行のカール・ファルブス著「セルフワーキング・カードトリック」に解説された全ての72作品が、そのまま掲載されていました。何故、この本をまるごと含めてしまったのか疑問です。この本以外に、テンプル・C・パットン著「カードトリック・エニーボディー・キャン・ズー」の37作品中22作品が掲載されていました。そして、この2冊の本以外からもセルフワーキングの作品が掲載されていますが、それらは各種の本から選ばれた名作がそろっていました。

カール・ファルブスのセルフワーキングの本は、決して悪い本ではありません。2作品は私も気に入りましたし、その他の6作品もまずまずの面白さを感じました。しかし、まるごと事典に含めるのは、何か理由があったのか気になるところです。

おわりに

今回のテーマのセルフワーキングに関しては、どうしてもきびしい記載になってしまいました。操作にもう少し工夫を加えたり、演出面で面白さを加えてほしい期待が強いからです。私は不思議さの強いマジックだけでなく、インパクトや意外性のあるマジックが好きです。そういった点で、それよりも大幅にかけ離れたセルフワーキングが多かったことも嫌いになった理由の一つのようです。スピードアップや不思議さを強めるために、技法を加えることも考えています。

また、ビジュアル性も加えるために、最後の段階でフラリッシュ的要素を加えることも検討中です。もちろん、セルフワーキングで効果的な作品であれば、そのままがよいと考えています。いずれにしても、すばらしいセルフワーキングの原理が多数ありますので、それを有効に活用した作品を作り上げることが重要だと思っています。

セルフワーキングに関しては、書きたいことがありすぎて、きりがありません。2000年以降に発行された文献についても書く予定をしていましたが、かなり長くなりそうですので、次の機会にまわすことにしました。


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